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母親の髪型を

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第一章

                母親の髪型を
 柴田公佳は母の幾重の短いショートヘアが好きでなかった、それでいつもこんなことを言っていた。
「伸ばせばいいのに」
「お母さんも昔は伸ばしてたわよ」
 母はいつもこう返した。
「けれどね」
「今はなのね」
「こっちの方が楽だからね」
 アーモンド形の吊り目で小さなピンクの唇に高い鼻とすっきりした頬を持つ自分そっくりの娘に言った。母は黒のショートヘヤで娘は母と同じ色の髪の毛を後ろで束ねている。二人共一六〇位で均整の取れたスタイルである。
「それでよ」
「切ってるのね」
「そうよ、あんたも大人になればわかるわ」
「短い方がいいって?」
「そのことがね」
「長い方がいいわよ」
 公佳は自分の好みから言った。
「やっぱりね」
「そう思うわよね、けれどね」
「それでもなの」
「そう、大人になればね」
 この時中学生の娘に言うのだった。
「わかるわ」
「そうかしら」
「絶対にね」
 娘に言うのだった、だが娘は。
 本当にそうか甚だ疑問だった、そのうえで髪の毛を長くしたまま高校に進学し大学を経て就職してだった。
 結婚してからも共働きだったが。
「忙しいわ」
「子供出来ると特にでしょ」
「ええ、もうね」
 夫の英雄サラリーマンをしている彼と共に里帰りをしてだった、二人の間に生まれた息子の中也を抱きつつ母に答えた。
「毎日が戦場みたいよ」
「今はお仕事産休取ってるわね」
「その産休の間でもね」
「育児がね」
「大変よ。旦那も働きながら手伝ってくれるけれど」
 それでもというのだ。
「やっぱりね」
「メインはあんたね」
「母親がね。この子お風呂に入れて」
 抱いている息子、夫そっくりで整った顔立ちの彼を見つつ言った。頭の形を見ると帽子が似合いそうである。
「その時に私もだけれど」
「身体洗って髪の毛を洗うけれどでしょ」
「もうその暇も惜しい位よ」
 そこまで忙しいというのだ。
「髪の毛を拭いて乾かすのもね」
「大変ね」
「ええ、時間がないわ」
「それでよ」
 ここで母は娘に言った。 
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