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イベリス

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第百八話 残暑が終わりその六

「だから梅酒を飲みたいならな」
「梅酒飲んで」
「ウイスキーが駄目ならな」
「飲まなくていいのね」
「坂口安吾は無理して飲んでな」
「麻薬もやって」
「お子さんが生まれてな」
 そうしてというのだ。
「生活をあらためたみたいだけれど息子さんがまだ小さいのにな」
「お亡くなりになったのね」
「脳卒中だったか」
 五十一歳の時のことだった、ご子息はまだ三歳だった。
「それで急死したんだ」
「それまでの生活が祟ったのかしら」
「そうだろうな、絶対に身体に悪かったからな」
「無理して飲んで麻薬もやってで」
「身体もな」
 それこそというのだ。
「結構長い間そうした生活だったからな」
「ボロボロになってたのね」
「そうかもな、それで息子さんがまだ小さいのに」
 一家三人で仲良く並んで座っている写真もある、この時の安吾の顔は完全に優しい父親の顔になっていた。
「急にだったんだ」
「残念よね」
「ああ、そんな風にもなりかねないからな」
「お酒は無理して飲まないことね」
「楽しんで飲んだら薬になってな」
 酒はというのだ。
「無理して飲むとな」
「毒になるのね」
「そうなるんだ、あと溺れてもな」 
 酒にというのだ。
「毒になるんだ」
「あくまで楽しんで飲むことね」
「そういうことだ」
「それが大事なのね」
「ああ、お酒は楽しんで飲むんだ」
「それが絶対のことね」
「そうだ、覚えておくんだぞ」
 父はそのウイスキーを飲みつつ話した、彼は楽しんで飲んでいることを自分でも自覚していた。そのうえで飲んでいた。
「お酒のこうしたことはな」
「何か高校に入ってよく言われるけれど」
「お酒を飲む様になってな」
「そうなったけれど」
「飲む様になったからな」
 それ故にとだ、父は答えた。
「だからな」
「言われて」
「覚えておくんだ、ただ外じゃ目立つなよ」
「お酒を飲むことは」
「家の中だからいいんだ」
 おおっぴらに飲めるというのだ。
「あくまでな」
「私まだ未成年だしね」
「だからな」 
「お外だとね」
「目立つなよ」
「くれぐれも」
「ああ、そしてな」
 そのうえでというのだ。
「厄介なことにならない様にな」
「気を付けるわ」
 咲も約束した。
「お姉ちゃんと一緒にいてもね」
「逆に愛ちゃんが一緒だとな」
「安心なの」
「お父さんも最近そう思えてきた」
「いや、お母さんもわかってきたわ」
 母も言って来た、母は今は飲んでいない。冷たい麦茶を飲んでそのうえで喉の渇きを癒しているのだ。
「愛ちゃんはしっかりしてるわ」
「そうだな」
「最近派手になって何なのって思ってたら」
「それはファッションだけだったな」
「中身はね」
 これはというのだ。 
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