| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第3部
ルザミ
  ナギの夢

 思いがけずナギの母親であるフィオナさんに出会ってしまったが、次の目的地であるジパングの場所もわかり、さらにオーブに関する情報も得ることが出来た。
 そしてさらに彼女のご厚意で、彼女の家に一泊することになり、フィオナさんが島の人を呼びに行っている間に、私たち四人は部屋の片付けと掃除をすることになった。
 掃除をしてから小一時間ほどで、フィオナさんちのリビングは、先ほどとはうって変わって広々とした部屋になった。
「さすがにこれなら文句は言わないだろ」
 半ばなげやりな口調でユウリが呟く。あまりこういうことをするのに慣れていないのか、対して動いてないはずなのに随分と疲れた顔をしている。
 部屋を見渡してみると、本は全て本棚へと戻され、床にはチリ一つ落ちておらず、窓や壁はピカピカに磨かれていた。
「皆すごいね!! こんなに部屋がきれいになるなんて思わなかったよ」
「あたしも、ミオちんの掃除に対する情熱がこんなにすごいとは思わなかったよ」
「え? そう?」
 床に突っ伏した状態で意外なことを言ったのはシーラである。
「別に特別情熱を注いだ訳じゃなかったけど……」
「いーや、お前は将来口うるさい姑になりそうな気がする」
「は? ナギまでなに言ってるの?」
 皆の反応が微妙にずれている気がするけど、まあいいか。
 そんなこんなでへとへとになりながらフィオナさんの帰りを待っていると、玄関の扉が開いた。
「ただいま。とりあえず今来れる者を連れてきたよ」
 フィオナさんとともにやってきたのは五人の老若男女だった。フィオナさんと同年代の女性が二人、20代前後くらいの浅黒い肌の男性、50代くらいの強面の男性に、白髪で小柄な初老の男性。皆それぞれ手に食べ物や飲み物などを持参していた。
「ねえねえ、もしかしてそれってお酒!?」
 目ざとくシーラが見つけたのは、女性の一人が手にしている液体の入った瓶だ。女性が持つには随分と大きくて重そうだが、当の彼女は平然とそれを持っている。
「ああ。自家製の特製果実酒さ。かわいらしいお嬢ちゃん、あんたも行ける口かい?」
 手でお酒を飲む仕草を見せながら、女性はシーラに問う。シーラは「もちろん!!」と即答し、すぐに彼女たちと意気投合したのは言うまでもない。
「フィオナさんちの息子さんは、どちらだい?」
 初老の男性が、ナギとユウリを見回しながら尋ねる。すると隣にいた50代の男性があきれた顔で答えた。
「いや、どう見てもそっちの銀髪の方だろ。フィオナさんとそっくりだ」
「確かに。けど目の色は、ゴーシュとおんなじだな。あいつの黄昏みてえな色はこの島じゃあ見たことがねえ」
「……っ」
 島の男性たちに注目されたナギは、柄にもなく恥ずかしそうに視線を泳がせている。けれど心なしか嬉しそうなのは気のせいではないだろう。
 べしっ。
「おいバカザル。とっとと自己紹介したらどうだ?」
 ナギの後頭部を平手で叩きながら、不機嫌そうな顔で嫌みを言うユウリ。
「うるせえ! お前に言われたくねーよ!」
 ユウリに促され、いつものようにナギはケンカ腰で反応する。その様子を、フィオナさんは一瞬吃驚しながらも、微笑ましそうに眺めていた。
 そんな中、一番若い島の男性が、さっきから無言でナギの方をじっと見つめている。流石のナギもそれに気づいていたのか、躊躇いつつもその人に声をかけた。
「あの、何かオレに用?」
「あ、いや、その、なんか不思議な感じがしてね」
 何のことかわからないナギは、それでも何か言いたげにナギを見ている彼に戸惑いを隠せずにいる。それに気づいたフィオナさんが立ち上がり、男性のそばまでやって来た。
「ナギ。この人は昔ゴーシュが助けた子供だ」
「えっ!?」
 海賊だったゴーシュさんは、海でおぼれた子供を助け、そのまま帰らぬ人となったと聞いた。その子供がこの男性だという。
 男性は決まり悪そうに、自分から名乗り始めた。
「初めまして、おれはパトル。小さいころ、君のお父さんに助けてもらったんだ」
 よく通る声で話すパトルさんに対しナギは、
「別にオレには関係ないし……」
 そうぶっきらぼうに答えるしかなかった。
「いや、改めて礼を言わせてくれ。あのとき君のお父さんに気が付いてもらえなかったら、おれはこの世にいなかったんだ。それに、おれのせいでゴーシュさんは……」
「パトル! その言い方はやめなって言っただろう?」
 ぴしゃりとフィオナさんがそう言うと、パトルさんは慌てて口を噤んだ。
「まったく、ゴーシュはそんなこと気にする性格じゃないんだよ。ナギも、あんまりこの子を責めないでくれないか? なにしろこの子が溺れたのはまだ言葉もろくに話せないほど幼かったんだ」
 パトルさんをかばうフィオナさんを見て何を思ったのかはわからないが、ナギはどこか他人事のように彼らを見返した。
「オレにはそんな権利ないよ。何しろ今まで親父の存在すら知らなかったからな」
 そう答えるナギに対し、パトルさんはハッとした顔をした。
「……そうか。君も、いろいろと苦労をしてきたんだね」
 そう言うとパトルさんは、自分が手にしている液体入りの瓶をナギに差し出した。
「よかったら、一緒に酌み交わさないか? 島に数年ぶりのお客さんが来たって聞いて、家からとっておきの酒を持ってきたんだ」
「え、でもオレ、あんまり酒飲んだことないけど」
「ナギちん! パトルさんがせっかくそう言ってるんだから、ここはお言葉に甘えようよ!」
 二人の間に割って入ってきたのは、シーラだった。
「お前……、自分が飲みたいだけだろ……」
 呆れたようにシーラを見返すと、ナギはパトルさんに頭を下げた。
「悪い、連れが余計なこと言って」
 そう言いながらも、ナギはどこかほっとしたようにシーラの頭をポンと叩いた。
「いいよ、皆で飲もう。そこのお二人も、良かったら」
 すると今度はパトルさんたちは私とユウリの方を見た。私はちらりとユウリの方を見たが、どうやらユウリも判断に迷っているのか私に視線を返す。
「えーと、ありがとうございます、ならぜひご一緒させてください!」
 ここは深く考えるよりすぐに決断した方が良い。それに、珍しくユウリが私に判断を求めているのを感じたので、私は半ば勢いで了承してしまった。
 だけど結果的には、なんとなく島の人たちと打ち解けるようになったので、私の判断は間違ってなかったと思いたい。
 その後も次から次へと見知らぬ人がやってきて、気づけば部屋には15人ほどの人たちがひしめきあっていた。その中にはフィオナさんのことを教えてくれた男性もいて、お互い気づいた瞬間挨拶を交わした。
 ナギとユウリは男同士ということもあり、パトルさんや他の若い男の人たち数人と話をしながらお酒を飲んでいる。ユウリは渋々付き合っているという感じだが、ナギはすっかりパトルさんたちと意気投合したようだ。
 一方私とシーラはフィオナさんを初めとした女性陣とおしゃべりを楽しんでいる。と言ってもシーラは早々に酒瓶に手を出し、今や彼女のテーブルの前には何本もの瓶が並んでいる。
 意外なことにフィオナさんや他の女性たちも皆、シーラに負けず劣らず酒豪らしい。未だに一滴もお酒を飲めない私にとっては少し羨ましいが、皆と一緒におしゃべりをするだけでも楽しかった。
「おーい、ここで宴会やってるって聞いたけど、まだやってるかい?」
 夜の帳が下りてしばらく経った頃。一人の男性が、一匹の大きな生魚を担いでフィオナさんの家にやってきた。
「おや、ヴォルグさん。その魚はなんだい?」
 ヴォルグと呼ばれた男性は、すっかり大所帯となった部屋の真ん中のテーブルに、持ってきた魚をどんと勢いよく置いた。
「いやあ、宴会が始まってるって聞いたからよ、急いで釣り上げて来たぜ」
 がっはっはと豪快に笑うヴォルグさんは、身体中日焼けしており、鍛え上げた筋肉には無数の傷があった。
「やだよヴォルさん。食べるなら捌いてから来てよ」
「おお、それもそうだな」
 一人の島の女性が軽口を言うと、ヴォルグさんはテーブルに雑に置かれた魚を取り上げてキッチンへと向かった。
「やっぱり魚は新鮮な方が良いと思ってな。ところで、客人てのはどこにいるんだ?」
 十数人がひしめき合うこの部屋では、すぐに全員を把握するには時間がかかった。ヴォルグさんは辺りを見回すと、一番近くにいた私に目を留める。
「あ、あの、初めまして、ミオです」
「ああ、よろしく! オレはヴォルグだ」
 私より一回りくらい年上に見えるヴォルグさんは、人懐っこい笑顔を見せた。なんとなく話しやすい雰囲気だからか、二言三言話すうちに、彼との会話は思いの外盛り上がった。
「へえ、そんなに若いのに、魔王を退治する旅をしてるのか。大したもんだ」
「でも、私なんかレベルもまだまだだし、ユウリに助けてもらってばっかりですから。それに弟と一緒に旅をしたときも、情けない姿ばっかり見せちゃうし」
「弟がいるのか?」
 突然、ヴォルグさんは私の顔をじっと見つめた。しばらく考え込んでいたが、やがてはっと何かに気づいたような表情を見せた。
「そうか、どこかで見たことある顔だと思ったら、この前とある大陸で出会った少年に顔が似ているんだ」
「え!?」
「確かにその子、ルカ君に似てるかもしれねえっすね」
 ヴォルグさんの言葉に、ナギと話していた男性の一人までもが、私の顔を覗き込んで何かを思い出したようにうなずいた。
「関係ない話なら気にしないでいいんだが、二か月ほど前、おれと島の仲間数人で漁に出たときに、嵐にあって遭難してしまったんだ。もうだめかと思ったが、数日後、運良くどこかの海岸に漂着した。そこで一人の少年と老人に出会ったんだが……」
「そ、それって……」
「少年はルカと言った。君と同じ黒髪で、目鼻立ちもとても似ていたんだ。もしかして、身内かな?」
「そ、そうです! ルカは私の弟です!」
 思わず大声でそう断言すると、ヴォルグさんだけでなく、周りの人たちも一斉にこちらに注目した。衆目にさらされ、私は顔から火が出るくらい熱くなった。
 ルカが言っていたルザミから来た漂流者とは、ヴォルグさんのことだったのだ。
「どーしたの? ミオちん」
 赤ら顔のシーラがきょとんとした顔で尋ねるので、私は今の話をシーラに伝えた。
「えっ!? じゃあその人が、るーくんのお店を作ったの!?」
「ああ。ついでに船が停泊できるように港も作っておいたんだ」
 そういえば、店だけでなくちゃんとした港もあった気がする。
「確かヴォルグさんたちって、漁をしてたんですよね? 家も建てられるんですか?」
 ヴォルグさんは苦笑しながらうなずいた。
「ここは小さな島だからな。漁だけでなく、生きていくためには何でも自分でやらないといけないんだ。島の男どもなら大体の力仕事は任される」
「女は女で、男には出来ない仕事があるけどね」
 フィオナさんの隣の女性が次いで言う。
「そうだったんですね。弟のためにありがとうございました」
「いや、礼を言うのはこっちの方さ。彼らがあそこにいなかったら、おれたちは見知らぬ土地での垂れ死んでた。彼らは命の恩人だよ。聞けば、彼らはあそこに町を作る計画を立てているそうじゃないか。だからせめてもの恩返しとして、町作りに協力したんだよ」
 そういう経緯があったんだ。ヴォルグさんたちにとっても、ルカたちにとっても助けられることになったのならそれはそれでよかった。
「あの町はいずれ、沢山の商人や冒険者が訪れるようにするとルカは言っていました。もしあの場所を覚えていたら、また彼に会って頂いてもいいですか? きっとヴォルグさんたちが来たら、やる気を出すと思います」
「もちろん! 彼らの作る町がどうなっていくか、おれたちも楽しみにしてるしな」
 私が彼らにルカの町に行くよう勧めたのは、それだけではない。出来るだけ多くの人に訪れれば、その分町は活気づくと思ったからだ。逆にルザミの人たちにとっても、他国の商人や冒険者と接する機会があれば、この島にももっと人が集まるかもしれない。
「ミオちん、なかなか宣伝上手だね♪」
 隣にいたシーラがこっそりと耳打ちをする。シーラに誉められるとなんだかこそばゆい感じがするが悪い気はしない。
 結局この夜、ルザミでは十数年振りにたくさんの人の声が響き渡った。カザーブでも似たような感じだったが、狭い島の中ではすぐに私たちのことは知れ渡る。そして皆それぞれ食べ物や飲み物、お酒を持ちより、大宴会となるのだ。
 私はこの宴を楽しむと同時に、故郷に似た懐かしさを感じたのだった。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧