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これが創り物の世界でも、僕らは久遠を願うのです

作者:久遠-kuon-
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6

「…ふう、大体書き終わったかな」

 一枚の紙から、百ページ強の本へ生まれかわったページを見ながら、僕はほっと息を吐いた。
 ずっと書き続けていたものだから、さすがに疲れてしまった。軽く伸びをしてみる。

 あとは、後回しにしていた備考の部分。
 この項目に書く内容は本当に自由だ。キャラクターや世界によって、テンプレートに書き込めない情報が出てきたら、全てこの備考の部分に書かれる。テンプレート自体、後から見返した時に見やすいようにとか、記入漏れがないようにある程度型があるだけで、必ずそれに沿って書かないといけないものでもないから。
 元代理は、彼についてどのくらい細かく記述をしたのだろうか。

「...いや。もしかして…」

 細かく。そう考えてずっと試行を重ねてきた。
 きっと彼は元代理か作者のお気に入りで、細かい設定まで作り込まれている。だから、もっと細かいニュアンスの部分までキャラクターを指定しないと、再現は不可能だと考えていた。
 だけど、面倒くさがりな元代理が細かく設定を指定するのか?ということを、ずっと疑問に思っていたのだ。他のキャラクターは書かれていてもせいぜい三行で、書かれていないキャラクターもいるくらいなのに。

 一度、細かさにこだわることはやめよう。そして、今まで一度も試したことがない記述を試してみよう。答えはそこにあるかもしれない。
 …でも、それが難しいんだけどなあ。

「備考って…本当に、便利な言葉だよなあ」

 思わず笑いが溢れた。
 だが、最初のうちは考えうる設定を全てリストアップして、それを順に試行していた。だから、そのリストにない設定を絞り出して試せばいいのだが、何かあるだろうか…

 …今までに、「流石にないだろう」と思って試さなかったものを一つ思い出した。

「…彼も、管理者だった可能性」

 管理者になれば、管理者としての役割を与えられるため、その前後で行動に違和感が出るものだ。うまく繕っていたとしても、僕はもう事情を知っているからその違和感にも気付けるだろう。
 でも、特に違和感は感じなかった。急に行動や言動が変わることもなかった。だから、この可能性は排除していたが、この際試してみよう。

 一言だけ、備考に書き加える。

『設定上、管理者に任命する。ただし、権限は持たない』

 管理者に任命する必要はないため、この書き方をしてみる。これなら『実際に管理者権限があるわけではないけれど、自分を管理者として認識する』という状態を生み出すことができるだろう。管理者を創る際には他の管理者の承認も必要だが、この書き方なら必要ない。
 ページの記述は終了。世界を創り出そう。

「…運行を、始めてくれ」

ーガコン。

 周囲が闇に包まれる。
 これで目が覚めた頃には、辺りには研究室の風景が広がっているだろう。

 …そのはずだったのに。僕は何を間違えた?

「やあやあ!こんにちは…ん?こんばんは?おはようございます?…なんか格好つかなかった!てへっ!」

 ヘラヘラとしていて、おちゃらけた声。驚いて目を開けると、視界いっぱいに満面の笑みを浮かべる女の顔が広がっている。
 ぼんやりとした白い目。生気を感じない真っ白な肌。光を吸い込んでしまう黒い髪と、黒い制服。笑っているはずなのに、全く楽しそうな雰囲気を感じない。

「”セイ”」
「よすよーっす、フィーくんや。励んでるね!」

 元代理、セイ。
 どこかへ去っていったはずなのに。世界のことはいつもと同じように記述したはずなのに。

 なんでこいつがここにいる?なんで世界は生成されなかった…?
 
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