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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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AXZ編
  第159話:精神世界での攻防

 奏達を残し、エンゲージウィザードリングを用いてウィズ・ガルド・透の3人は颯人の精神世界……アンダーワールドへと入った。

 初めて入るアンダーワールドに、ガルドと透は一時状況も忘れて周囲の景色を見渡した。

「ここは……ウィズ? 勢いで来てしまったが、ここは一体……?」
「言ってしまえばここは颯人の精神世界だ。高い魔力の素質を持つ者の中で形成される」
「精神世界……」

 改めて見渡すと、世界全てが薄っすらと光を放っているような、まるで夢の中に居る様な感覚に陥る。現実味の薄いこの景色、なるほど精神世界と言うのも確かなのだろう。

 ガルドと同様に周囲を見渡していた透は、視線の先に2人の子供の姿を見つけた。まだ小学生くらいの男の子と女の子が2人。男の子は女の子の前で、何やら手品を披露しているようだ。
 その2人の子供に、透は颯人と奏の面影を見た。

「?」
「あぁ、アンダーワールドとは魔力保持者の印象に残った記憶から構築されるからな。天羽 奏を手品で楽しませる、それもまた颯人にとっては大切な思い出の一つなんだろう」

 何だか微笑ましい話だ。子供の頃から仲が良かった2人が、今でも互いを想い合う。揺らぐことのない絆を持つ2人に、透は今の自分とクリスを比べて少し寂しくなった。

「そんな事よりも、だ。今はレギオンの奴を急いで探せ。話を聞く限りだと奴は――――」

 ウィズが手分けしてレギオンファントムを探そうとしたその時、少し離れた所から何かを破壊するような音が聞こえてきた。この平和な光景に似つかわしくない音に、3人は弾かれるようにそちらを見た。

 そこでは、レギオンファントムがハルメギドをしっちゃかめっちゃかに振り回して、物も景色も関係なく破壊しているところだった。奴が薙刀を振り回す度に、禍々しい光を放つ亀裂が走り世界が壊れていくのが分かる。

 その光景にウィズが焦りの声を上げた。

「マズイッ!? これ以上奴に好き勝手させるなッ!」
〈コネクト、ナーウ〉

 ウィズはハーメルケインを取り出して、レギオンファントムの前に躍り出ると振り下ろされたハルメギドを受け止めた。レギオンファントムの力は相当強いのか、攻撃を受け止めたウィズは押し返す事が出来ず逆に押さえつけられつつあった。

「ぐ、くぅ……!?」
「俺の快楽を邪魔するな……!」

 ウィズの相手をするのは煩わしいと言わんばかりに、レギオンファントムはハルメギドを力任せに薙ぎ払った。踏ん張りが負けたウィズはその薙ぎ払いにより吹き飛ばされ、近くの木に叩き付けられる。木に叩き付けられたウィズは、痛む体に鞭打ちハーメルケインを杖代わりにして立ち上がった。

「ぐぬ……く……!」

 体勢を立て直したウィズは、ハーメルケインを構え直して再度レギオンファントムに斬りかかった。今度は勢いに任せる事はせず、冷静に相手の動きを見て的確に攻撃を受け流し反撃をお見舞いする。木に叩き付けられた一撃に、逆に頭が冷えたのかウィズはレギオンファントムと一進一退の攻防を繰り広げた。

 だが不思議な事にウィズは魔法を使って戦おうとしない。傍から見ていると明らかに何度か魔法を使えるタイミングがあったにもかかわらず、彼はお得意のエクスプロージョンの魔法を使おうとはしなかった。あれを使えばレギオンファントムだろうと木端微塵に出来るだろうに。

「何故ウィズは他の魔法を使わない?」
〔もしかして、ここで威力の高い魔法を使うとアンダーワールドに悪影響が出るからでは?〕
「ッ! そうか、ここは世界そのものがハヤトの一部。迂闊な攻撃は逆にアイツを苦しめる事になるのか」

 それならばウィズが通常攻撃に拘る理由も理解できる。あんな大火力の魔法をバカスカ使えば、このアンダーワールド自体が吹き飛んでしまいかねない。アンダーワールドと言う単語自体初めて聞いた2人だったが、ここには居る前の颯人の苦しむ姿を考えればこの世界が壊れた時颯人がどうなるかは想像に難くない。

 そうと分かれば暢気に観戦などしている場合ではない。ウィズは今、全力で戦えないのだから、その分自分達が手助けせねばとガルドと透も戦いに加わった。

「おいそこのファントムッ!」
「む?」

 ウィズから注意を逸らす為ガルドが声を上げると、レギオンファントムが首だけをそちらへと向けた。その時点で透は既にレギオンファントムに接近しており、振り向いた次の瞬間には彼の振るうカリヴァイオリンが奴の表皮を傷付けた。

「ぐっ!」
「ハッ!」
「ぬぅっ!?」

 透の一撃はレギオンファントムの比較的柔らかい部分を的確に切り裂いた。その一撃で怯んだ瞬間、ウィズのハーメルケインが相手の胸を突き後退させる。そこに更にダメ押しと言わんばかりにガルドのマイティガンランスが振り下ろされる。

「オォォッ!」

 透の一撃から続くウィズの攻撃で体勢が崩れた今、レギオンファントムにガルドの攻撃を防ぐ余裕は無い。振り下ろされた一撃は、レギオンファントムがハルメギドを構えるよりも前にその身を両断する勢いで切り裂いた。

「ぐぉっ!?」

 3人の魔法使いの連携攻撃に、レギオンファントムもダメージを受けたのか数歩後ろに下がる。だが切られた部分を押さえていた手が退けられると、そこには思っていたほどの傷はついていなかった。どうやらギリギリのところで後ろに下がり致命傷だけは避けていたらしい。存外目の良い奴だ。

 まだ余裕を残しているのならと、ガルドはそのまま勢いに乗ってレギオンファントムに対して攻撃を続けた。縦横無尽に振り回される槍が、迎え撃つべく振るわれる薙刀とぶつかり合う。

 長物同士による攻防、その最中ガルドはレギオンファントムの狙いを問い詰めた。

「貴様ッ! 何故ハヤトの精神の中に入り込んだッ! 貴様の目的は何だッ!」

 どうも時々聞こえてくる会話から察するに、コイツは純粋にワイズマンの命令に従っていると言う訳では無さそうだった。フロンティア事変において、メデューサが堕ちたファントムは尚もワイズマンに対して忠誠を誓っていたように見えた。だがコイツからは忠誠心とかそういうのが感じられない。あれよりももっと好き勝手に、欲望に忠実に動いているように見えてならなかった。

 その読みは当たっていたようで、レギオンファントムはガルドと鍔競り合いをしながら自分の行動の理由を話し始めた。

「簡単な話だ。この美しい心……それを滅茶苦茶に壊す事こそが、最高にエキサイティング! それだけだ!」
「くっ!」

 高まったテンションがそのまま力に還元されたのか、レギオンファントムの一撃にガルドは攻撃を受け止めきれず後退を余儀なくされた。

 そのまま後退した彼は、息を整えて体勢を立て直しつつ目の前のファントムのあまりの邪悪さに息を呑んだ。コイツは、己の欲望の為に他人の心を、思い出を壊そうとしている。ジェネシスはワイズマンの野望の為に無関係な人々を次々と手に掛けているが、それとは違う方向性でこいつは邪悪に過ぎた。

 確かにウェル博士など、これまで敵対してきた者の中には己の野望の為に多くの人々の命を奪おうとする者も居た。しかしこいつは、刹那の快楽の為だけに他人を踏み躙ろうとしている。

――コイツは、危険すぎるッ! 何が何でもこの場で始末しなければ……!――

 事ここに至り、ガルドもレギオンファントムの危険性・邪悪さを理解した。ウィズがあそこまで慌てた理由も理解できる。ここでコイツを倒しておかなければ、颯人だけでなくもっと多くの人々に犠牲が出る。
 もしセレナが巻き込まれたらと思うと、想像しただけで彼は胃袋が縮む様な気持ちになった。

「奴の危険性は理解できたな、2人共」
「あぁ、よく分かったよ」

 後退したガルドの両隣りにウィズと透が並び立つ。

 レギオンファントムの前に立ち塞がる3人の魔法使い。普通であれば、この状況になったら尻尾を巻いて逃げ出すものだが奴は違った。頭が狂っているのか、逃げると言う発想に至らずそのまま3人を同時に相手取って戦おうとした。

 しかしここで思わぬ乱入者が現れた。周囲に響き渡る咆哮と共に、白銀の体を持つドラゴンが飛来しレギオンファントムにブレスを吐いたのだ。

「ぐっ!?」
「あれは!?」
「颯人のドラゴンだ」

 ドラゴンはレギオンファントムの周囲を飛び回りながら、時に尾で薙ぎ払い時に接近して爪で切り裂こうとした。空中を自在に動き回るドラゴンの前には流石に苦戦は免れないのか、レギオンファントムも攻めあぐねた様子を見せる。
 その隙に3人は接近すると、息を合わせた連携攻撃で挑みかかった。

 ガルドが大振りな一撃で注意を引き、透が死角から接近して攻撃し怯ませ、そしてウィズが強烈な一撃を叩き込む。ただでさえ多勢に無勢なレギオンファントムは、ドラゴンの加勢もあって流石に劣勢に立たされていた。

「これで終わらせる」

 ウィズがレギオンファントムにトドメを差そうとしたその時、何を思ったのか奴は明後日の方向に向けハルメギドを投擲した。何のつもりだとウィズが疑問を抱いたその時、周囲にドラゴンの悲痛な叫び声が響き渡った。

「ッ!? 何ッ!」
「ウィズッ! ドラゴンがッ!?」

 見ると空中を飛ぶドラゴンの胸に、レギオンファントムが投擲したハルメギドが深々と突き刺さっていた。胸を貫かれたドラゴンはそのまま力無く落下し、その瞬間ウィズはレギオンファントムへのトドメも忘れて倒れたドラゴンに駆け寄った。

「おいっ!?」

 力無く倒れたドラゴンは、胸に突き刺さったハルメギドが痛むのか小さく呻くだけで反応を示さない。このままでは危険だと、ウィズはドラゴンに突き刺さったハルメギドを引き抜き魔力を流し込んだ。このドラゴンは颯人の魔力の源。これが失われれば、もう颯人はウィザードとして戦えなくなる。どれだけならまだしも、魔力を失った事で二度と目覚めない深い眠りに落ちてしまうかもしれなかった。

 それを防ぐ為、ウィズはレギオンファントムそっちのけでドラゴンの治療の当たった。だがそれは言い換えればレギオンファントムを完全にフリーにする事。その隙を奴が見逃す筈がなかった。

「ぐはぁっ!?」
「ッ!?」

 背後から響くガルドの悲鳴。振り返るとそこでは、ウィズの意識が逸れていた間にハルメギドを回収したレギオンファントムによりガルドと透が叩き伏せられている光景が目に入った。そして魔法使い2人を叩きのめしたレギオンファントムは、標的をウィズとドラゴンに定め向かってきた。

「くっ!」

 ドラゴンの治療を諦め、迎え撃とうと立ち上がるウィズ。だが彼が身構える前に接近したレギオンファントムは薙刀を振るって彼を吹き飛ばしてしまった。

「うぉっ!?」

 ドラゴンからウィズが大きく引き離される。邪魔者を排除したレギオンファントムは、動けないドラゴンを見下ろすとトドメを差そうとハルメギドを振り上げる。

 ウィズが止めようと手を伸ばすも、刃は無情にもドラゴンに振り下ろされ――――――




 刹那、間に割って入った槍により阻まれた。

「ん!?」
「あれは……!」

 横合いから突き出された槍により邪魔された事で、レギオンファントムがその下手人を睨む。
 そこに居たのは…………

「颯人の中から…………出て行けぇぇぇぇッ!!」

 そう叫んだのは、ウィザードギアに身を包んだ奏であった。先程颯人の身を案じて寄り添っていた彼女は、彼が苦しむ姿に居ても立ってもいられずウィズ達の後を追ってアンダーワールドへと入り込んだのだ。
 そして間一髪、ドラゴンの窮地を救った彼女はそのままレギオンファントムを押し出し、激昂と共に光に包まれレギオンファントム共々その場から消えてしまった。

「カナデッ!?」
「外だ! 我々も出るぞ!」

 奏が何処へ消えたのかにすぐ気付いたウィズは、ガルド達と共にアンダーワールドから外に出た。

 そこでは一足先に外に出ていた奏が、レギオンファントムを追い詰めているのが見えた。

「このぉぉぉっ!」
「くぅっ! 何と言う激しい攻撃! そしてそれ以上に美しい! その一途な心、実にエキサイティング! お前も是非壊してやりたいところだが……」

 見渡せば周囲には奏の他にも響や翼といった装者、そしてアンダーワールドから出てきたウィズ達も居る。流石にこの数を相手にするのは、レギオンファントムでも厳しいものがあるのか奏の攻撃を防ぐとそのまま大きく引き下がった。

「今日はここまでにしておこう。何一つ壊せなかったのは残念だが、楽しみは後に取っておくとしようか」
「待てッ!」
「ではさらばだ」

 止める間もなく、レギオンファントムはその場から姿を消した。後を追おうとした奏だったが、颯人の事を放っておく事も出来ずその足は直ぐに止まる。
 代わりにウィズがレギオンファントムの後を追った。

「奴は私が負う。颯人の事は任せたぞ」

 そう言うとウィズは姿を消したレギオンファントムの後を追ってその場から姿を消した。残された奏は
ギアを解除すると急いで倒れた颯人に駆け寄った。

「颯人ッ!」

 依然倒れたまま起き上がらない颯人だったが、その様子は先程に比べて穏やかだった。心の中で暴れるレギオンファントムが居なくなったからだろう。顔には汗を浮かべているが、呼吸は落ち着いていた。
 その様子に奏も一先ずほっと胸を撫で下ろした。

「颯人……」

 その後颯人は駆け付けた救助隊により回収され本部の医務室へと運び込まれた。そこでアルドからの検査を受けた結果、大分消耗しているがそれでも命に別状はないと言う診断を下された。

「じゃあ、颯人は大丈夫なんだな?」
「えぇ。一時はどうなる事かと思いましたが、魔力も失われる事は無く済みそうです。あなたのお陰ですよ、奏さん」

 アルドの言葉で、奏は漸く自分がこの力で颯人を守れたことを実感した。それを誇らしく思うと同時に、彼が助かった安心感に体から力が抜けその場に崩れ落ちそうになるのを翼と響が支えた。

「おっとと! 奏、大丈夫?」
「あ、あぁ……。ははは、何か……ホッとしたら力抜けちゃって……」
「でも本当にびっくりしましたよ。いきなり奏さんまで颯人さんの中に入っちゃうんですから」
「よく考え付いたよな」

 眠り続ける颯人の傍で談笑する奏達。普段のアルドであれば病室では静かにしろと追い出すところであるが、今回ばかりは目を瞑ってやった。それだけ今回颯人の身に降りかかった出来事は危なかったのだ。

 奏達の話し声を聞きながら、アルドは診察の結果にもう一度目を通す。結果に異状はない。肉体的には勿論、錬金術を用いて体の内側、精神部分も隈なくチェックした。だから大丈夫、何の問題も無い。

 無い筈なのだが……何故だろう、胸騒ぎがする。奥歯にものが挟まったような、気持ちの悪い感覚に苛まれていた。

――後でウィズにも相談しておきましょう――

 アルドはそう心の中で呟くと、流石にそろそろ静かにさせようと奏達の方に体を向けるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第159話でした。

アンダーワールドでの戦いって、守る方からすれば非常に戦い辛いフィールドだと思います。原作ウィザードでも、ゲートのアンダーワールドで暴れるファントムを倒そうとした戦いの最中に暴れるドラゴンでアンダーワールドに傷がつく描写とかありましたし。

前回まではパッとした活躍の出来なかった奏ですが、その分の遅れを取り戻す様に今回は頑張りました。ドラゴンの窮地を救うだけでなくレギオンファントムをアンダーワールドから追い出すと大活躍。これらも颯人を想う愛がなせる業ですね。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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