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北海道でも何処にでもいない

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第一章

                北海道でも何処にでもいない
 今年の社員旅行は北海道と決まった、すると。
 静岡愛乃、一五〇位の背で黒めがちの細い吊り目で赤い厚めの唇で色白の肌に黒髪をボブにしている彼女は怖そうに言った。
「北海道はあまり」
「嫌か?」
「だって熊出るでしょ」
 同期の愛知貴裕長身で面長の顔に小さな目と薄い唇を持つ黒髪をショートにした彼に言った。
「だからね」
「熊って羆か」
「ええ、こっちの熊はツキノワグマで」 
 それでというのだ。
「小さくて比較的大人しいでしょ」
「いや、熊は熊だぞ」
 愛知はそこは断った。
「だから迂闊に近寄るとな」
「危ないのね」
「そうだからな」
 このことを断るのだった。
「ツキノワグマでもな」
「けれど羆はもっとじゃない」
 愛知は眉を顰めさせて反論した。
「羆嵐だってあったし」
「三毛別のか?」
「あのお話子供の頃本で読んで」
 そうしてというのだ。
「私もう羆が怖くて」
「あの事件か」
「あんたも知ってるでしょ」
「有名だからな」 
 それでとだ、愛知も答えた。
「俺だって知ってるよ」
「だからね」
「北海道には行きたくないか」
「羆いるからね」
「あのな、俺達行くのは函館とか札幌でな」 
 そうした街でというのだ。
「小樽、あと日本ハムの試合観に行くからな」
「札幌ドームから移転した」
「あのドームは行かないしな」 
「東広島の方にも行くのね」
「ああ、街に行くからな」
 北海道のというのだ。
「そんなな」
「羆は出ないのね」
「流石に街に羆は出ないぞ」
 静岡はこのことは言い切った。
「ど真ん中にな」
「それは何処でもよね」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「安心してな」
「北海道行けばいいのね」
「若し出たら俺が北海道での旅費とか全部出してやる」
 愛知はこうまで言った。
「だからな」
「安心してなのね」
「北海道行っていいさ」
「あんたが旅費とか全部出すなら」
 そこまで言うならだった、静岡も。
 行こうと決意した、そして社員旅行に参加したが。
 帰ってからだ、静岡は愛知に職場の休憩の時に言った。
「いや、本当にね」
「羆出なかっただろ」
「海の幸とジンギスカン鍋は出たけれどね」
「そうだよ、そもそもな」
 愛知はさらに言った。
「羆って絶滅が心配されてるんだぞ」
「そうなの?」
「乱獲やら環境破壊やらでな」 
 こうしたことによってというのだ。 
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