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伝説のバイク

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第二章

「今じゃすっかりだよ」
「そんなのですか」
「お年寄りになって」
「それでなんですね」
「高校を出てラーメン屋に入ってゾクも辞めてな」
 そうしてというのだ。
「息子や孫も出来て一家でだよ」
「ラーメン屋やってますか」
「そうさ、それであんた達あれだろ」
 その男長野が神奈川達に笑って話した。
「俺の持っていたバイク見たいんだな」
「出来れば俺がです」
 神奈川は長野に強い声で答えた。
「そのバイクを」
「昼は忙しいからな、一段落してからでいいか?」
「はい、じゃあその間は」
 せっかくラーメン屋に来たのだ、それでだった。
 神奈川はメンバー達と一緒に見せの席に着いた、そうしてそこでラーメンを注文して食べた。その後でだった。
 長野に店を出てその敷地の外れにある倉庫に案内された、店は彼がいない間息子さんや店員さん達に任された。
 倉庫のガレージを開けるとそこにはだった。
 神奈川達が古いと言う型のバイクがあった、デザインもそうで他の性能もだった。
 彼等が乗っているバイクとは比べものにならなかった、長野は彼等にそのバイクを見せつつ笑って話した。
「古いだろ」
「昭和のバイクですか」
「ああ、今乗ってもな」
 長野はそのバイクを見て唖然となっている神奈川に笑って話した。
「古いし部品だってな」
「ないですか」
「昭和のバイクだからな、俺ももうな」
「乗ってないですか」
「今じゃ骨董品だよ」
 神奈川にこうも言った。
「車にばかり乗ってな」
「このバイクはですか」
「乗ってないさ、思い出のバイクでずっと整備して奇麗にしていてもな」 
 見れば汚れ一つない。
「それでもな」
「もう乗っていないですか」
「今のバイクと比べたらスピードも小回りも悪いさ」
 そのどちらもというのだ。
「操縦のしやすさもな」
「昭和のバイクで」
「こんなのあんた達は乗れないだろ」
「とても」
 神奈川も他のメンバーもだった、誰もが。
 こう思って言った、それで長野は言うのだった。
「昭和と令和じゃ違うさ」
「暴走族のバイクもですね」
「そうさ、伝説って言われてもな」
 それでもというのだ。
「時代は違うんだ」
「それなら全く違いますか」
「ああ、伝説ってやつに美化されてもな」
 それでもというのだ。
「時代は変わるんだ、俺はもう爺でな」
「バイクもですね」
「ロートルさ、そんなものだよ」
 こう神奈川に言うのだった。
「世の中ってのはな」
「そういうことですね」
「ああ、それでこのバイクをどうしたいんだい?」
「何も」  
 今の神奈川の返事はこうだった。
「見せてくれて有り難うございます」
「そうだな、じゃあな」
「それならですね」
「ラーメンの感想聞こうか、俺のラーメンどうだった?」
 神奈川達の返事は一つだった、美味いというものだった。
 長野はその感想を聞いて満足してガレージを閉めた、そのうえでまた来てくれよと言った。そして神奈川達は時々川崎まで行ってだった。
 長野の店に入ってラーメンを食べた、かつての伝説のヘッドのラーメンは実に美味いものであった。


伝説のバイク   完


                  2023・6・19 
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