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私の 辛かった気持ちもわかってよー

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2-3

 冬休みになって直ぐに、私は厨房に入った。朝5時に健也さんが来るというので、その前にと思って、床を掃除していた。

「あぁー 山葵 床を掃くのは仕事終わりだけなんだ ほこりが立つからね」

「あっ ごめんなさい 余計なことしてしまってー」

「いゃ これから気をつければ・・ それより 謝る時は、ごめんなさいっていうより すみませんだよ なんとなくナ そういう雰囲気なんだよ」

「はい すみません ですネ」

「えーと カウンターを拭いてから、奥に折箱の箱があるので、そこから32組取り出して、そこのキッチンペーパーにアルコールを湿らせて、中を拭いて並べてください。木グスとかが紛れないようチェックして 2列にすれば並ぶと思います 終わったら、シートを被せておくこと それから、中に入れるカップも96ケ同じように拭いて、これは重ねておいて大丈夫です」

「はい カウンターは濡れ布巾をしぼったのでいいの?」

「いいの? じゃぁなくて いいのですか だよ 俺と二人だけの時は、それでもいいけど 親方の前では タメ口はだめだよ 山葵は新米なんだからネ」

「ウッ きびしいー」と、言ったら、お尻をベシッとやられた。何すんねん セクハラやんかー。だけど、健也さんの厳しい顔を見たら、何にも言い返せなかった。

 そして、親方が6時頃、入って来て「おはようございます」と、二人揃って言ったのだけど「あぁ」と言ったきり・・・私の方も見ようともしなかったのだ。完全に無視されているみたい。

 それが終わると野菜とか使い終えた鍋とかをずーと洗っていたのだ。その洗い方にも時々、健也さんに注意されながら・・「ここが洗い足らない」「もっとやさしくしないと傷がつく」とか、返事が「はぁーい」とキリッとした返事でなかったから、また、お尻をベシッと・・・。だめだこりゃ 明日から、厚めのスパッツを穿かなきゃーと思っていた。

 その日はクリスマスイブでお昼も夜もカウンターのお客様は入っていないから、仕出しのお料理の盛り付けを終えて、配達専門のバイトの人を送り出して、後は明日の仕込みとおせち料理の段取りをするというので、早い目にまかないをとることになった。お母さんも盛り付けの時手伝いに来ていたけど、お父さんと一緒に家のほうに消えていった。私には、何の声も掛けないで・・・。だから、私、健也さんと一緒にお店の奥でまかないを食べることになってしまった。

「どうですか? 辛くないですか? 辛かったら言ってくださいネ」と、仕事中とは違って、声も優しかった。

「大丈夫です 言葉づかいは気を遣うけどナァ・・ 遣います」

「あはっはー いいですよ 二人だけの時は でも、仕事は、親方からも、どんどん厳しくしろって言われましたから」

「そうなのー ウチ 耐えるから、厳しくても大丈夫です」

 鯛の切り身の端っこを焼いて、おだしをかけたものに、里芋の煮崩れをしたものとお漬物だけの食事だったけど、おいしかったし、健也さんとも久々に話すことが出来て、楽しかったのだ。

 そして、その後は、冷たい水の中でかずのこの皮むきをして、きんかんの種取りを命じられた。爪楊枝で頭の部分から丁寧にほじくり出す作業なのだ。そして、都度、先っぽが折れてないか確認しろって言われていたのだ。

 その日は、夕方5時に仕事を終えて、それから掃除をして家に戻ったのは6時近くだった。

「お疲れ様 今朝も早かったんでしょ? あんまり 無理しないでも・・」

「いいの 出来るとこまでヤル お父さんにも、ああ言った手前 意地があるから」

「そう 着替えたら、お父様の突き出し ご用意してくださる? もうお風呂から出てらっしゃる頃だから」

「はい! ちりめん山椒と柴漬けですね」と、私は着替えに2階に上がってきたが、自分でも言葉遣いが変になっているので、おかしくて笑ってしまった。

 着替えて降りて行くと、まだ、お父さんは出てなかったので、小鉢にちりめんと柴漬けを用意していると

「桔梗が、クリスマスパーティーをするんで晩ご飯は要らないと言っていたから、私達も晩ご飯にして良いかしら 山葵ちゃん お風呂入りたい?」

「いいよ ご飯 あっ 先で・・いいです! 桔梗 出て行ったのかぁー 帰り 遅くならないといいネ」

 お父さんがお風呂から出てきて、席について、私は冷えたグラスとビールを持って行ったけど、お酌するのはお母さんの役目なのだ。そして、グビーッと飲んだ後

「山葵は友達とクリスマスしないのか?」

「はい ウチら みんな 受験生やからー まだまだ皆 必死よー・・・ なんです ウチ 推薦で行かせてもらったからネ ありがとうございます」

「家の中では普段どおりに話していいぞ まぁ それは 山葵の望みだからナ ウチの家は昔からクリスマスってなものやってないから・・初めてで、桔梗も楽しんでくるんだろう」

「お父さんは・・ 桔梗に甘いんだからー 知らないよー 変な男に遊ばれてもー」

「桔梗も そんなバカじゃぁ無いだろう」

 お父さん、桔梗はそのバカの境目みたいなのよ と、私は心の中で叫んでいた。そんなことより、もっと私に何か掛ける言葉あるでしょー 一生懸命やったのにー 親方ぁー 
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