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体育祭当日⑦ 〜死ぬ気の結末〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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今回で最終競技まで描きます!
なのでかなり長めですが、よろしくお願いします!

体育祭当日⑦ 〜死ぬ気の結末〜

 

「……」

(モグモグモグ)

「……」

(パクパク)

 

 昼休みが終わるまであと2分という頃。

 俺は佐倉と美雨が作ってくれた弁当を死ぬ気でかきこんでいた。

 

「ど。どうかな、おいしいといいんだけど……」

「……もう死んでもいいほどおいしい(もぐもぐ)」

「そ、そっかよかった〜///」

「ツナ君、私のお弁当は?」

「こっちも死ぬほどおいしいぞ(ぱくぱく)」

「えへへ、ありがとう」

 

 佐倉のお弁当は可愛らしい女の子って感じのお弁当で味も抜群。

 美雨の弁当はおしゃれな洋風って感じで、こっちも抜群に美味い。

 

 あまりに美味しすぎて時間ギリギリまで食べるのが辞められなかった。 

 

 3分の2を食べ終えた俺は、残りは後で食べる事にして、片付けをし始めた。

 

 すると、見覚えのある男子生徒がDクラステントに入って来た。

 

「沢田綱吉君ってDクラスだよね? ここにいるかい?」

 

 そう言って俺を呼んだのは……

 

「あ、南雲先輩♪」

「やぁ桔梗ちゃん。沢田君っているかナ?」

「あ、はい。ツナ君〜、お客さんだよ〜」

 

 生徒会副会長、2年Aクラスの南雲雅だった。生徒会長に負けず劣らずの優秀者で、次期生徒会長に内定しているとかいないとか、そういう噂を聞いた事がある。

 

「……沢田です。何の御用でしょうか」

「君が沢田君かぁ。いやね、最優秀生徒争いに君が入っていたから、どんな子なんだろうと思って見に来たのサ」

 

 桔梗のそばに行きながらそう言うと、南雲は俺の全身をジロジロと観察してから笑った。

 

「なるほど、確かに大物そうな雰囲気が漂っているねぇ。いや〜俺は嬉しいんだよ。堀北先輩、そして俺に続く新人が現れてくれて。沢田君、ぜひとも仲良くしてほしいな」

 

 南雲は俺に手を差し出した。どうやら握手を求められたらしい。

 

(……なんだ? この男、何か危険が気配を感じるが……)

 

 しかし、ここで拒否したら心証が悪いだろう。そう思った俺は握手に応じる事にした。

 

「同じ組で先輩だからって遠慮しなくていい、俺達は最優秀生徒を巡るライバルだからな。全力で向かって来てくれてかまわないよ?」

「はい、そのつもりです」

「! ……いいねぇ、その闘志溢れる眼差し。俺は君の事が気に入ったよ沢田君。あ、君はリレーには出るのかい?」

「はい」

「順番は?」

「アンカーです」

「! それはなによりだ。最終競技の最後の勝負で俺達はぶつかれるわけだね。その時を楽しみにしているよ」

 

 そう言うと、満足したのか南雲はDクラスのテントから出て行った。

 

「……桔梗」

「ん? なぁに?」

「南雲……先輩はどんな人だ?」

「先輩? ん〜、生徒会副会長で、サッカー部のエース。女子からも大人気を誇る二年生のトップって感じかな?」

「……そうか」

 

 これが俺と南雲雅の出会いだった。

 

 そして、ついに昼休みが終わり、体育祭の後半戦がスタートする。

 

 

 —— 推薦競技① 借り物競走 ——

 

 

 午後のチャイムが鳴り響き、ついに体育祭の後半戦がスタートした。

 後半戦一発目は借り物競走だ。

 

 借り物競争は、各クラスから6人ずつ。クラス1人ずつが走ることになっており、学年毎に4人1組で6レース行われる。

 

 Dクラスからは俺、須藤、池、桔梗、小野寺、前園が出場する。そして俺は第1レースに出る事になっている。ちなみに俺と同じ組には見知った人物はいなかった。

 

(まずは俺が先陣をきるんだ)

 

 神経を集中させてスタート地点に着くと、審判から追加説明があった。

 

 借り物の中には高い難易度のものもある。

 難しい場合は引き直しを希望することも出来るが、引き直し前に30秒のインターバルが生じる。

 ただし、高難易度の借り物は得られるポイントも多くなる。

 

 ……との事らしい。

 

 説明が終わると、ついに第1レースが始まった。

 

 ——パアン!

 

 スターターピストルの発砲音が鳴り響き、4名の選手が全員飛び出した。

 

 借り物のくじが入れられた箱までは普通の徒競走だ。

 

 1位で箱のある場所にたどり着いた俺は、箱に中に手を入れて紙を一枚取り出した。

 

 俺の引いた借り物は……

 

『明るい髪色の可愛い子2名を連れてくる。

 ただし、選んだ生徒が背負うなどして連れてくる事。

 借り物役の2名に自力で歩かせてはいけない』

 

 ……これがおそらく難易度の高い借り物だな。歩かせてはいけない以上、普通なら2回は往復する前提のお題だ。

 

 普通ならチェンジするだろうが、今の俺なら大丈夫だろう。

 

 俺は紙を持ったままにDクラスのテントへと急いだ。

 

 そして、テントに着くなり2人のクラスメイトに声をかけた。

 

「佐倉、軽井沢、ちょっと来てくれ!」

「え? 私?」

「は、はい!」

 

 2人は急いでテントから出て来てくれた。

 

「ツっ君に付いて行けばいいの?」

「わ、私だと足が遅いから……」

「大丈夫だ。俺に考えがある」

「え? それはどんな……えっ!? は、はわわわわ///」

「ちょっ!?」

 

 俺は佐倉を抱き抱えた。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。

 

 そして、呆気に取られている軽井沢に向けて背中を向けながら屈み込んだ。

 

「軽井沢、俺の首に腕を回して背中に乗ってくれ」

「えっ!?」

「佐倉を抱えている腕の肘らへんに足をかけていい。そうすれば楽につかまっていれるだろう」

「わ、わかった」

 

 俺の言う通りに、軽井沢は俺の首元に腕を回して背中に乗っかった。

 

「よし、じゃあ行くぞ。2人共不快かもしれないが、しばらく我慢していてくれ」

「は、はいぃぃ〜///」

「う、うん!」

 

 そして、俺は立ち上がってからゴールに向けて全力疾走し始める。もちろん、佐倉と軽井沢に負担がかからないようにしながらだ。

 

 結果見事に、他の3人がまだ借り物を探している最中にゴール地点にたどり着いた。

 

 佐倉と軽井沢を離し、待機している審判にお題の紙を見せる。

 

 審判は紙を見てから2人の髪色を確認すると、「OKです」と言った。

 これで俺の1位が確定した。

 

 これでまずは1勝だな。

 

 それから2人とテントに帰る最中、軽井沢からお題について質問をされた。

 

「ねぇツっ君? お題はなんだったの?」

「ん? ああ、『明るい髪色の可愛い子2人』だ」

『ふえっ!?』

「? 2人共、どうした?」

 

 いきなり足を止めた2人を心配すると、なんだか顔が赤くなっている。

 

「大丈夫か? 具合でも悪いのか?」

「う、ううん、そんな事にゃいよ?」

「す、少し暑いかな〜って///」

「……それならいいが、何かあったらすぐに言うんだぞ?」

 

(はわわわ……か、可愛い子〜///)」

(い、今のは反則よ! それと、私の方をお姫様抱っこしてほしかったんですけど!)

 

 テントに戻ってからは他の皆の応援に励んだ。

 

 池がラッキーお題に当たったらしく、他の3名が陸上部だったのに1位を取ってくれた。

 

 他のメンバーも頑張ってくれて、1位か2位を全員が取ってくれたようだ。

 

 

 

 —— 推薦競技② 四方綱引き ——

 

 次の競技は四方綱引き。その名の通り、4方向から同時に綱を引っ張り合う競技だ。

 勝負方法は、縄の交差部分に付けられた白旗を自陣入れたクラスから抜けていく勝ち抜き戦。

 

 普通の綱引きと違い、力だけではなく駆け引きなどの頭脳も必要になってくる。

 

 Dクラスから出場するのは、俺・綾小路・須藤・平田の4人だ。

 

 準備をしながら、綾小路達が話しかけて来た。

 

「……沢田、どういう作戦で行くんだ?」

「前半の綱引きみてぇにいきなり綱を離されるかもしれねぇぞ」

「いや、その心配はない。あと作戦も必要ない」

『え?』

 

 俺の言葉の意味が分からなかったのか、平田が口を開いた。

 

「沢田君、どういう意味だい?」

「まず、四方綱引きでは綱を離すなど自殺行為だ。1クラスが綱を離したところで、他の2クラスから引っ張られているからそこまで抵抗力は変わらないからな」

「……それは沢田の言う通りだな。だが、作戦が必要ないとはどういう事だ? 四方綱引きには戦力も必要だと思うが」

「……まあな。だが、今回に限ってはいらない」

 

 俺の言葉を、3人は困惑しながら聞いてくれているようだ。

 

「ど、どうしてだよ?」

「ただ力一杯綱を引け。それだけで勝てる」

「はぁ!? まじでか!?」

「沢田君、本当にそう思うのかい?」

 

 須藤と平田は俺の言う事が信じきれないようだが、綾小路は俺の言いたい事を理解してくれたようだ。

 

「なるほどな。先手必勝か」

「そうだ」

「先手必勝?」

「どういう事だよ!」

 

 俺は先手必勝の意味を説明し始めた。

 

「勝負が開始したら、すぐに正面のクラスを引き込むつもりで全力で綱を引くんだ」

「それでどうなんだ?」

「こういう戦力が必要な競技は、だいたいのチームが最初は敵の出方を伺うんだよ」

「……おそらく、この四方綱引きでもそうなるだろう。他クラスのメンバーを見れば分かる」

「え?」

 

 平田達が他クラスを見てみると、Aクラスには葛城、Bクラスには神崎という慎重な奴らがそろっている。

 

「Cクラスはアルベルトを筆頭にガタイのいい奴らばっかりだが、俺と須藤が全力で引けばそう簡単には引きずられやしない。だから、一番力の乗りやすい正面のクラスの方向に狙いを定めて全力で引くんだ。そうすれば相手の裏をかけるだろう」

「なるほど……いいアイデアだね」

「ツナがそう言うなら、俺は信じるぜ!」

 

 これでDクラスの作戦は決まった。

 

 —— ピー!

 

 ちょうど四方綱引きが始まるようだ。俺達は四方綱引き専用のフィールドに入り、綱を掴む。正面はCクラスの陣地のようだ。

 

 そして、審判がスターターピストルを鳴らすと同時に、全力で正面方向の綱を引っ張り始めた。

 

 ——パアン!

 

「よっしゃあ! 行くぜぇ!」

「なっ!?」

「おい、全力で引け!」

 

 俺の読み通り、そんなすぐに全力での引き合いが始まるとは思っていなかったのだろう。

 他の3クラスはワンテンポ遅れて全力で引き始める。

 

 だが、そのワンテンポが命取りだ。Dクラスには須藤と俺がいるからな。

 

「くっそお! こいつらこんなに力強かったか!?」

「何でアルベルトがいてこんなに引きずられんだよ!」

「……Unbilly Babo」

 

 そして、あっけなく中央の白旗はDクラスの陣地へと到達した。

 

「Dクラス、1位勝ち抜け!」

 

 審判のその宣言を受け、俺達はハイタッチをしあった。

 

「よっしゃあ!」

「沢田君、やったね!」

「ああ、俺達の勝ちだ」

「……これで2勝、だな」

 

 こうして俺達は、借り物競走に続いて四方綱引きでも1位をとる事が出来た。

 

 

 —— 推薦競技③ 男女二人三脚 ——

 

 3つ目の推薦競技は男女二人三脚。前半戦の二人三脚と同じだが、ペアを男女で組まないといけない競技だ。

 

 Dクラスからは、俺・堀北ペアと綾小路・桔梗ペア。そして須藤・小野寺ペアの3チームが出場する事になっている。

 

 俺と堀北は最初のグループだ。

 

 スタート地点で堀北の足と自分の足を紐で結んでいると、龍園に話しかけられた。

 隣の女子は確か……堀北と接触しなかった方の陸上部の女子だ。

 

「よぉ、鈴音。それにパシリ」

「……何か用かしら?」

 

 堀北は心底嫌そうに龍園にそう返した。

 そんな堀北に龍園はニヤニヤと笑う。

 

「くくく、そう邪険にすんなよ。俺はただお前を心配してるだけだぜ?」

「心配? 賠償金に土下座まで要求しておいて、よくそんな事が言えるわね」

「それはそれ。これはこれだ。お前も捻挫してんだろ? それなのによく出場しようと思ったな? あ、あれか? 棄権するポイントがねぇのか?」

「……余計なお世話よ。私は出たいから出る。ただそれだけ」

「おいおい、怪我人が出しゃばるとペアが苦労するぜ? なぁパシリ」

 

 龍園が俺に同意を求めて来た。ちょうど紐を結び終えた俺は、堀北の腰らへんを掴んで少しだけ持ち上げた。足が若干浮かんでいるが、ぎりぎり二人三脚に見えるくらいに。

 

 そして、俺は龍園に返事をする。

 

「……心配ない。俺が堀北をカバーして走るからな。堀北は隣に居てくれるだけでいいんだ」

「……沢田君」

「ほぉ……だがそんな状態で満足に走れんのか? 女子1人抱えて走るのは結構きついぜ?」

「それも心配ない。1位を取るのは俺達だからな」

 

 嫌味を言っているのに俺が全く表情を変えないのが面白くないのか、龍園は隣の女子の耳元で何かを耳打ちし始めた。

 

(え? で、でも、そんなあからさまな……)

(いいからやれ。安心しろ。お前にも分前をやるからよ)

(……は、はい)

 

 何を言っているかは聞こえないが、大体想像はつく。大方俺達を妨害しろとでも言っているんだろう。

 

 だから俺は……龍園に1つ忠告をしておく事にした。

 

「……おい、龍園」

「……あ? 何呼び捨てにしてんだパシリ」

 

 龍園は俺の事を睨みつけるが、俺は構わず続けた。

 

「これから先、俺達を妨害しようなんて思わない方がいいぞ」

「……あ? 何言ってんだてめぇ」

「妨害はやめておけと言ってるんだ。自分達がピンチに陥るだけだからな」

「……言ってろよ、アホパシリ」

 

 そして、俺達はスタートラインに立った。

 Aクラスから順番に横に並ぶから、俺達の隣はCクラスの龍園のペアだ。

 

(……足、引っ掛けるつもりか?)

 

 スタートを待つ間、龍園達がどんな妨害をしようとしているかを直感した俺は、抱えている堀北に小声で話しかけた。

 

「……堀北」

「どうしたの?」

「最初から飛ばすから、しっかりと掴まっていてくれ」

「! わかったわ」

 

 堀北は俺の腰に回している手に力を込める。

 よし、これで大丈夫だろう。

 

 そして、ついに男女二人三脚がスタートする!

 

 —— パアン!

 

 スターターピストルの発砲音が鳴り響き、4クラス全てが一歩目を踏みだした。そして、二歩目を踏み出そうとした瞬間、龍園達が目を見開いた。

 

「……は?」

「う、後ろに飛んだ?」

 

 あまりの驚きに、二歩目を踏み出すのが遅れた龍園達。Cクラスはスタート早々に最下位に落ちてしまったのだ。

 

 なぜ龍園達が驚いたのか。それは、一歩目を踏み出した俺達がそのまま片足で後ろにジャンプをしたからだ。

 

 ジャンプしながらチラッと隣を見ると、おそらく俺の二歩目になるはずだった地点に龍園のペアの子の片足が置かれていた。

 

(やはりか)

 

 そう、龍園は二歩目で俺と自身のペアの足を絡ませて事故を起こさせようとしたわけだ。

 

 俺はそれを回避するために、一度後ろにジャンプ。そして着地してすぐに走り始めた。

 

 ジャンプして距離を稼いでいないから、これは反則にはならない。

 

「くそが!」

 

 後ろの方から龍園の恨み節が聞こえてくる。

 先に1位でゴールした俺は、最下位でゴールした龍園の顔を見ながら口を開いた。

 

「……だから言っただろう。自分達がピンチになるだけだってな」

「! く、クソ野郎……」

 

 煽られて更にきつく俺を睨む龍園だが、俺は気にも止めずにテントへと帰った。

 

 堀北が歩かなくていい様に紐で結んだままに。

 

(……堀北を狙った罰だ。少しは他人の気持ちを理解しろ)

 

 そして、俺達がテントに帰ってる中、綾小路・桔梗ペアが準備を始めていた……

 

 

 —— 男女二人三脚 綾小路side ——

 

「……沢田達、1位取ったな」

「ね〜♪ さすがだよね〜」

 

 櫛田にお互いの足を紐で結んでもらっていると、沢田が1位でゴールした。

 

(沢田も頑張っているな。……さて、俺は俺で頑張らせてもらおう)

 

「ふんふん〜♪ ……よしっ!」

 

 楽しそうに鼻歌を歌いながら紐を結んでいた櫛田が立ち上がる。

 そのタイミングで、俺は櫛田にとある話を切り出した。

 

「なぁ……櫛田」

「ん? なあに?」

「……お前だよな。Dクラスの参加表を、故意にCクラスに流した裏切者は」

 

 櫛田が一瞬動きを止める。だが、すぐにいつもの笑顔に戻った。

 

「……やだな〜綾小路君ってば。いきなりなあに? 冗談にしては酷すぎるよ?」

「……俺は見たんだよ。最終決定時に平田が黒板に書いた、参加表の一覧をお前が写真に収めているのを」

「え〜。あれは忘れないために記録しただ〜けっ。自分の順番を忘れたら大変だもん」

「いや、漏洩を防ぐために、記録を残すなら手書きのメモだけ。そう取り決めてただろ」

「え? そうだった? あ〜、ごめんね? 忘れちゃってたみたい」  

 

 ここまで櫛田は笑顔のまま反論してきているが、その奥には黒い感情が見え隠れしている。

 

「え? それだけで私を疑っているの?」

「いや、確信してる。そうでもない限り、堀北や沢田だけが集中的に妨害される事はないはずだ」

「うーん。でもさ? 仮にDクラスの参加表が漏れていたんだとしてもCクラスがそんなに都合よく動ける確証はないよね?」

「……まぁそうだな」  

 

 今回Cクラスが狙い撃ちしているのはDクラスじゃない。沢田と堀北の個人だ。

 だから普通に見ている分にはCクラスの思い通りに事が運んでいるようには見えないんだ。

 

「ねぇ、綾小路君。もしもクラスの情報を漏らした犯人が私だったとしてもさ、写真の撮影を根拠とするならその時点で参加表が漏れることは分かってたってことでしょ? なのに、どうして後で参加表を書き換えなかったの? 後で新しい参加表を提出すればよかったのに。そうすれば裏切りも無意味になったんだよ?」

「それこそ無意味だな。裏切者がDクラスの生徒ならどうとでもできる」

「? どう言う事かな?」

「クラスに内緒で参加表を書き換えて、そのまま黙って新しい参加表を提出したとする。しかし、Dクラスの生徒ならそれをいつでも確認、閲覧することが出来る。茶柱先生に参加表を見せて欲しいといえば見られるからな」  

 

 事前に確認を取っているが、所属クラスの参加表の確認は可能だった。 つまり、裏で対策しようとしても、何度も参加表を確認すれば最新の参加表が見られるわけだ。  

 

「でも〜、本当の参加表をギリギリまで隠して、期限内ギリギリに提出していれば、後からそれを見た人がいても弄れないよ? やっぱり未然に防げたはずだよね」

「……それなら参加表からの情報漏洩ではないかもな」

「あ〜、でもそんな事を勝手にしたら、クラスメイトが混乱しちゃうからダメだね」  

 

 櫛田の言う通りだ。参加表の漏洩を防ぐ為には、最初から手を打っておく必要がある。

 

 例えば裏切り者が現れる可能性を考え、偽物もまぜた複数の参加表を作っておけばいい。そうして、どれを提出しても問題ないように準備しておくわけだ。これならば完璧な対策を練られる心配はないからな。

 

 そして、それをどうしてしなかったのかだが、それは沢田が櫛田の身を案じたからだ。

 

 裏切りが失敗したら、櫛田が龍園に何かされると思ったんだろうな。

 

 つまり、最初から沢田は妨害を受けた上で勝つつもりだったって事だ。

 

「言いたい事は分かったけど、私は裏切り者じゃないよ?」

「そうか。なら後で茶柱先生に確認してみよう。参加表を提出した後に確認しに来た生徒がいなかったかどうか。もしも1人だけいたのなら、そいつが裏切り者で確定だな」

「…………」

 

 ここまで笑顔を崩さなかった櫛田から、ついに笑顔が消えた。

 これはもう、無言の肯定と取っていいだろう。

 

 だが、すぐに櫛田は笑い始める。

 

 それはいつもと違う、前に俺と沢田が偶然に見てしまった時の櫛田を彷彿とさせる笑顔。

 ……つまり、地が出て来たと言う事だ。

 

「……ふふふっ。やっぱり只者じゃないんだね〜、綾小路君って」

「……」

「バレちゃったら仕方ないね。そうだよ、私が参加表をCクラスに漏らしたんだよ」

「認めるんだな?」

「うん。茶柱先生に聞かれたら誤魔化せないし。どうせ時間の問題だからね。それに綾小路君なら真実を話したとしても暴露されない確信があるもんね。……忘れたわけじゃないよね? 綾小路君が私の胸に触れた事。もしもあれが表に出れば……大変なことになるよ?」

 

 なるほど、櫛田が裏切り者だと誰かに話せば、俺の指紋が付いた制服を学校に提出すると言いたいのか。

 

……完全な脅しだな。

 

「安心しろ。俺はお前を裏切り者だと告発する気はない。だから代わりに教えてくれ。干支試験の辰グループの結果、あれも櫛田が龍園に自分が優待者であることを周りに教えさせたからだよな? そして、その見返りを龍園に求めたんだろ?」

「見返り? 私が何をしようとしたか知ってるの?」

「ああ。……堀北だろ?」

「!……あはは、本当に綾小路君は知ってるんだね」

 

 櫛田は困ったように笑っている。

 

「まあな。ただ、どうして櫛田がDクラスを裏切るのか。その明確な理由は分からない」

「私が堀北鈴音を退学させたがっている、その理由かな?」

「そうだ。堀北にそこまで執着する理由だけは、どうしても分からなかったからな」

 

 櫛田の本性を知ったあの日から、櫛田が堀北をよく思っていないのは知っていた。

 だが、そこまで毛嫌いする理由は謎のままだ。

 

「悪いけど、私は堀北さんを退学させる。これだけは何を言われたって変わらないよ」

「……そのせいで、Dクラスが窮地に陥ってもか?」

「そうだね。私は今のDクラスで上がりたいとは思わない。堀北さんを退学させる事、それだけが今一番大事な事だもん。あ、だけど勘違いしないでね。堀北さんがいなくなったら、その時からは全力でAクラスを目指していくよ。……ツナ君と一緒にね♪」

 

 ……やはり俺では櫛田を止められないか。強い意志と明確な目標があるから、必要ならどんな奴とも手を組むのだろう。

 

 櫛田を止められるのは……やっぱり沢田しかいないんだろうな。

 

(というか……こいつは本性を出しても沢田にだけは好意的だが、その理由は何だ?)

 

「あ! でもね、今の会話で1つだけ考えが変わったよ。それもたった今! ……それはね、綾小路君も私が退学させたい人リストに入ったってこと♪ 私は2人を排除してから、ツナ君と一緒にAクラスを目指すよ」  

 

 そう言う櫛田は、いつものように輝かしい笑顔だった。自分の勝利を全く疑っていなさそうな自信に満ちている。

 

「龍園が裏切ってくる可能性もあるんじゃないか?」

「私もバカじゃないよ。簡単に証拠を残すような真似はしてない。龍園君は平気で人を陥れるし嘘も吐く。まぁ裏切られるかどうかは賭けだね」

「そうか……なぁ櫛田」

「ん?」

「お前、沢田の事は信用しているんだな」

「……まあね♪ ツナ君はね、やっと見つけた私の 『騎士ナイト様』だもん♪」

「……騎士ナイト様?」

「そう! 絶対に私を見捨てない騎士様! あ、でも詳しくは教えてあ〜げない♪ どうせ綾小路君も退学していくし〜?」

「……そうか」

「うんっ! あ、私達の出番だよ〜」

 

 そして俺達は、男女二人三脚へと挑んだ。

 

 櫛田も手を抜いたりする事もなく、俺達は2位という結果だった。

 

 

 ——  推薦競技④ 全学年合同1,200mリレー ——

 

 —— ツナside ——

 

 ついに最終競技、全学年合同1,200mリレーが始まった。

 

 グラウンドのトラック1周分が丁度1,200mある。

 つまり、1周毎にバトンタッチしていくわけだ。

 

 Dクラスは、須藤・平田・小野寺・前園・桔梗・俺の順で走る事になっている。

 

 本当は堀北が5番手だったのだが、怪我のために桔梗と交代になった。

 

「よっしゃ、行くぜ〜!」

 

 まずは一番手の須藤から。

 

 —— パアン!

 

 スターターピストルの発砲音が鳴り響き、全クラスの第1走者がスタートした。

 

「しゃああ!」

 

 流石は須藤だ。先輩達を抑えてトップで爆走している。

 

「よしっ!」

「行けぇ、健!」

 

 2位とは10mくらいの差が開いていて、その事にDクラステントから歓声が上がっている。

 

「平田!」

「うん!」

 

 そして、須藤から2番手の平田にバトンが渡った。

 

「きゃ〜! 平田君〜♡」

 

 さすがは平田だ。真っ黄色な声援は勿論、須藤が取ってくれた1位をキープしてくれている。

 

「小野寺さん!」

「はいよっ!」

 

 トップをキープしたまま、平田から3番手の小野寺にバトンが渡った。

 

(キツくなるのはこれからか……)

 

 3番手の小野寺もかなり足が早いのだが、他の3番手がほぼ陸上部の男子というアンラッキーだった。

 

 頑張ってくれていたのだが徐々にリードは失われて、4番手の前園に渡る時には3年Aクラスに1位を奪われてしまった。

 

「前園さん!」

「うんっ!」

 

 小野寺から4番手の前園にバトンが渡った。現在の順位は2位だ。

 

 4番手はハプニングが起きた。1位の3年Aクラスが途中で転びかけ、その隙に2年Aクラスが1位に躍り出た。

 

 前園は2人に抜かれて4位になったが、最後まで懸命に走り抜き5番手の桔梗へとバトンが渡る。

 

「櫛田ちゃん!」

「まかせてっ!」

 

 5番手が走り始めたので、アンカーの生徒達が続々とスタート地点へと入っていく。

 

「……沢田」

「! 生徒会長」

 

 スタート地点に入ると、3年Aクラスのアンカー、堀北学が話しかけて来た。

 

「1年Dクラスを観察していたが、前半戦までは救いようのないクラスだと思っていた。だが、後半戦に入ってからはそれが感じられない。……何があった」

「……Dクラスが変わったのは、あなたの妹が頑張ってくれたからですよ」

「……そうか」

 

 そう言う生徒会長は、少しだけ嬉しそうな気がした。

 

「いやあ〜、これも運命ですかね〜」

「! ……南雲か」

 

 その時、南雲副会長が会話に加わって来た。

 

(そういえば、この人もアンカーだったな)

 

「ふふふふ……」

 

 南雲副会長はとても嬉しそうに俺達に近づいてきた。

 

「いや〜、今年の最優秀生徒候補がここに揃ってるなんて。これはテンション上がりますよね〜先輩?」

「……そうだな」

「これまでの結果を見るに、俺達の評価はほぼ同じ。おそらく、このリレーで1位になった者が最優秀生徒賞を取れるはずだ。沢田君、それを理解しているか?」

「もちろん」

「それならいい。あ、でもこの感じだと今年は俺の勝ちになりそうっすね。俺のクラスは1位、先輩のクラスは2位。沢田君のDクラスに至っては5位だ」

 

 5位と言われてトラックを見てみると、桔梗が1人に抜かれて5位になっていた。

 

 そして、視線を南雲副会長に戻すと、南雲副会長は生徒会長にくってかかっていた。

 

「総合点でも俺のクラスが勝ちそうですし、ついに新たな時代の幕開けが来たんですよ」

「……本当に変えるつもりか? この学校を」

「もちろん。今までの生徒会では面白みが無さすぎる。伝統を守ることに固執し過ぎたんですよ。ロクに退学者もでない甘いルールしか作らないし。だから、俺が新しいルールを作るんです。究極の実力主義の学校に変える為に……ネ」

 

 そう言い終えると、南雲副会長は俺に視線を移した。そして俺に近寄って来ると肩を組んできた。

 

「フレッシュな逸材も入って来たことですし、ここから俺の覇道が始まるんですよ」

「……そういう事は、俺に勝ってから言うんだな」

 

 明らかに生徒会長を煽っている南雲副会長だが、生徒会長は全く気にしてない様子だ。

 

「……そうですね。まずはこのリレーで勝たせてもらいますよ。沢田君、君もなるべく高順位になれるように頑張れよ!」

 

 俺にウインクをすると、南雲副会長は自分の場所に戻っていった。

 

「……あの、生徒会長」

「……話は後だ、沢田。もうバトンが回って来るぞ」

「……はい」

 

 トラックでは、5番手達がスタート地点に迫って来ていた。

 

 まず最初に2年Aクラスがアンカーに回った。

 

「お先です、先輩! 沢田君も!」

 

 南雲副会長がスタートすると、すぐに3年Aクラスの5番手がやって来た。

 

「会長!」

「ああ、ご苦労だった」

「……? あ、あの?」

 

 バトンを渡した3年Aクラスの5番手。

 だが、なぜか困惑した様子で捌ける事なく立ち尽くしている。

 

「……何だ?」

「走らないんですか?」

「ああ。まだ、な」

 

 5番手の先輩が困惑するのも無理はない。

 なぜなら、バトンを受け取った生徒会長が一向に走り出さないからだ。

 

 そしてそのまま俺をじっと見ているから、どうして走らないのかを俺から聞いてみる事にした。

 

「……走らないんですか?」

「ふん、せっかくのお前との勝負だ。同時にスタートしないと意味はない」

 

 そう返すと、生徒会長はメガネをクイッと動かした。

 

「……そうですね。せっかくの勝負ですからね」

「ああ。……今回はコンディションも万全だろうな?」

「もちろん。絶対に俺が勝ちますよ」

「ふふ……そうか。俺はもちろん本気で走る、お前も本気で走れよ」

「いえ、俺は本気では走りません」

「……何?」

「その代わり……〝死ぬ気〟で走りますから」

「!」

 

 俺の言葉に一瞬驚く生徒会長。しかし、すぐに楽しそうな顔で笑った。

 

「ふふふ……おもしろい。楽しみだ」

「ええ。……さぁ、始まりますよ」

 

 俺がバトンを受け取る体制に入ると、桔梗がスタート地点に到達した所だった。

 

「ツナ君っ!」

「まかせろ!」

 

 そして……俺がバトンを受け取ったと同時に。

 俺達の勝負が始まった!

 

「うおお!? 速すぎるだろ!?」

「何あの1年生! 生徒会長に勝ってんじゃん!?」

 

 走り出したと同時に歓声がグラウンド中で湧き上がる。

 

 一応俺が前を走っているが、俺と生徒会長の差は僅かに2mだ。

 

(……激モードとはいえ、死ぬ気状態の俺について来るなんて……この男とてつもないな)

 

 俺と生徒会長は猛スピードでトラックを走り抜け、まずは4位の走者を追い抜きにかかる。

 

「はああ!?」

「沢田いけ〜!」

「ツナ君頑張れー!」

 

 追い抜かれたアンカーの驚愕の叫びに混じり、クラスメイト達からの応援の声も聞こえて来た。

 

 そして、500mくらい走った頃には3位の走者に追いついていた。

 

「はぁ、はぁ……速すぎでしょ……」

 

 3位の走者は……男女二人三脚で龍園と組んでいたCクラスの女子だった。

 

 その表情は疲れ果てていて、今にも倒れてしまいそうだ。

 

 そして、もうその女子を抜こうと言う時。……何か嫌な予感がした。

 

(あの顔……ただ疲れてるだけではないんじゃないか?)

 

 チラッと横目に見てみると、その女子は地面に足を取られたのか、転びそうになっていた。

 

(! このままじゃ顔面から倒れる!)

 

 そう感じた瞬間、俺は無意識の内に後ろに回り、倒れそうになった女子を支えていた。

 

「……え?」

 

 その女子は倒れなかった事に戸惑ってるらしく、周りをキョロキョロと見回した。

 

(……先に行ってるぞ)

 

 俺は走るのを止めて止まってしまっている為、生徒会長は1人で走り続けていく。

 

「しゃあ! 抜き返したぜ!」

「バカが! わざわざ止まるなんてよ!」

 

 そして、俺がCクラスの女子を支えている隙に、後ろを走っていた先程抜いた人達に抜き返されてしまった。

 

「何やってんだよ!」

「早く走れよ!」

 

 グラウンドからは今までと違う歓声が湧き上っている。

 

 この歓声は俺への非難だろうか。

 

 ……いや、そんな事は関係ない。俺は俺が正しいと思った事をしただけだ。

 

 それに……まだ負けるとは決まってないからな!

 

 支えていた女子の体制を立て直させて、一声かけておく。

 

「……もう1人で立てるな?」

「え? ええ……」

「そうか。じゃあ俺はもう行くからな」

 

 女子にそう言い残し、俺は再度フルスロットルで爆走を開始した。

 

 2人に抜かれたので、現在の順位は5位だ。

 

(……よし、捉えた!)

 

 100m程走れば、先程抜かれた2人を射程距離に捉える事が出来た。

 

「くそ! またかよ!?」

「止まってたくせに、何でもうここまで来てんだよ!」

 

 またも驚愕の叫び声を背中に浴びながら、先程抜かれ返された2人を再び抜き返し、俺は3位まで上り詰めた。

 

 これで後は生徒会長と南雲副会長を抜くだけだ。

 先頭に目を向けてみれば、先頭では2人が競り合っていた。

 

 お互いに抜いたり抜かれたりを繰り返しながらゴールへと進んでいる。

 

 俺と2人との差は400mといった所か?

 ……大丈夫だ! 間に合うさ! 死ぬ気で追いつくんだ!

 

 フルスロットルのまま、先頭の2人に追いつくべく走り続ける。

 ……しかしなかなか差が縮まらない。

 

(……くそ! 2人も相当足が速い!)

 

 確実に差は縮まっているが、残りの距離が少ない。

 このままでは追いつく前に2人がゴールしてしまう!

 

 ゴールまで後300m程……

 

 ゴールされる前に追いつくには、さらにスピードを上げるしかない。

 だが、現在でもフルスロットルで走っているわけで……

 

(こうなったらハイパーにアップグレードするしか……いや、それはダメだ! それ以外の方法を考えるんだ!)

 

 死ぬ気の炎をこんな場で晒す事はできない。

 

 そして、自分の身勝手な行動で勝ちを逃してしまった、そんな事になっては仲間達に顔向けもできない。

 

(……今できるとすれば、死ぬ気の臨界点突破のブラッシュアップくらいか)

 

 現在の死ぬ気の臨界点突破は、体内の死ぬ気の炎エネルギーの流れをコントロールして全身を満遍なく巡るようにしている状態だ。

 

 体内のエネルギーの流れを図に起こすとしたら、ゆるやかな円になるだろう。

 

 だから、全体的に死ぬ気の力が加わりやすいわけだ。

 

 しかし、これ以上のパワーアップを望むならもっとエネルギーの使い方を変えないといけないだろう。

 

 しかし、そんな事をすればさらに臨界点を超える事になり、気力の消耗も倍になる。

 

 ……だが、そんな事は関係ない!

 

 俺は負けるわけにはいかないんだ!

 リボーンの課題をクリアする為にも、俺を信じて力を貸してくれた仲間達の為にも!

 

 もっと死ぬ気で走れ!

 例え体がボロボロになっても!

 

 本当の死ぬ気とは〝迷わない事〟〝悔いない事〟そして〝自分を信じる事〟

 

 迷うな! 

 悔いるな! 

 自分の力を信じろ!

 

 俺なら必ず追い抜ける!

 だからもっと死ぬ気になれ!

 

「うおおおおっ!」

 

 ——沢田……

 

(!?)

 

 その時、頭の中にいくつかの映像が浮かび上がってきた。

 

(これは、また皆の心の声か?)

 

 浮かび上がっているのは、すでに走り終えた走者とテントから応援してくれているクラスメイト達の姿だ。

 

 親友である須藤は、拳を握りしめながら俺の事を見守っている。 

 

(……ツナ、頼む!)

(……ああ、分かってるさ須藤)

 

 そして平田。平田は神に祈るように両手を合わせている。

 

(沢田君……頑張れ!)

(もちろんだ平田。俺は必ず勝つよ)

 

 5番手だった桔梗。桔梗は1人に抜かれた事を気にしているのか、不安そうに俺の姿を目で追いかけている。

 

(ツナ君……)

(そんな不安そうな顔をするな桔梗。俺を信じてニコニコしていてくれ)

 

 テントで応援してくれている相棒、綾小路はじっと俺の姿を目に捉え続けている。

 

(……沢田。勝てよ)

(相棒……もちろんだ。必ず勝つさ)

 

 弁当を用意してくれていた佐倉と美雨。2人は心配そうに俺の事を見つめている。

 

(沢田君……頑張って)

(ツナ君……信じてるよ!)

(佐倉、美雨。安心しろ。君達の弁当で、俺は元気一杯だからな)

 

 テントの前では、軽井沢が俺へと声援を送り続けている。

 

(ツっ君……信じてるわ!)

(ありがとう軽井沢。その信頼が俺の最大の味方だ)

 

 そして最後に……椅子に座っていた少女が立ち上がり、足を引きずりながらテントの正面へと向かった。

 

「堀北さん? 無理して歩かないほうが……」

「いえ、大丈夫よ」

 

 それはちょうど俺がDクラスのテント前を通る時だった。

 

 テントの正面まで来た少女は、俺の姿を捉えると深く息を吸い込み、……声を張り上げた。

 

「お願い……勝って! 綱吉君!」

「!」

 

 その少女……堀北鈴音の全力の声援は、はっきりと俺の耳に届いた。

 

「……フッ」 

 

 パートナーになって初めての堀北からの願い事に、俺は思わず笑みがこぼれた。

 

(……ああ、もちろんだ。君からの初めての願い事、必ず叶えて見せる)

 

「……まかせろ! 鈴音!」

 

 覚醒したように目を見開き、そう叫んだ瞬間、俺は爆発的にスピードを上げて走り出した!

 

『うおおお! また速くなりやがったぞぉ!』

 

 それに呼応するように周囲の歓声も大きくなっていくが、俺の周りでは風切り音がほぼ全てをかき消していた。

 

 ——加速。

 

 ——加速。

 

 ——また加速。

 

 どんどんとスピードが上がっていく。

 

 この現象は、鈴音の声援のおかげで直感した事で引き起こされている。

 

 〝死ぬ気の臨界点突破〟で全身を円を描くように巡らせていた死ぬ気の炎エネルギーを、ギュッと引き締めるイメージ。

 

 全身の筋肉を覆うようにコントロールする。そうする事で、身体強化に特化した激スーパー死ぬ気モードに変化するわけだ。

 

(……死ぬ気の臨界点突破、physical enchantフィジカル・エンチャント!)

 

「うおおおおお!」

『!』

 

 ゴールまで残り250m程度を残して、ついに俺は先頭の2名に追いついた!

 

 ちらりと後ろを見て、俺が追いついた事に気付いた2人は笑った。

 

(ふっ、そうでなくてはな)

(ひゅ〜! 想像以上だよ沢田君!)

 

 ゴールまであと200m。ついに2人に並んだ!

 

「まじか!? あの状況からトップに並びやがった!?」

「最優秀生徒候補が全員揃い踏みだ!」

 

 3人が並んだ所で、歓声もさらに強く大きくなっていく。

 

 一度は並んだ俺達だが、すぐに1位を奪い合う三つ巴のラストアタックが始まった。

 

 抜いて、抜かれて、また抜いて。

 

 それを繰り返しながら走り続け、ゴールまであと100mになった。

 

「会長! 勝ってください!」

「堀北く〜ん! 頑張れ〜!」

 

「南雲副会長! あと少しです!」

「南雲く〜ん! 負けないで〜」

 

「ツナぁ! 行けぇぇぇぇ!」

「沢田君! 頑張って!」

「沢田! 勝てぇ!」

 

 ——3人それぞれにクラスメイトからの今日最高の声援が届けられる。

 しかし誰もその声援には答えない。3人が見ているのはゴールにあるゴールテープのみだ。

 

(勝つ! 必ず勝つ!)

 

 正直、ここまで追い上げるのに気力をほとんど使い果たしているし、体力もほぼ空っぽだ。

 

 初めての自力でのハイパー化、初めての死ぬ気の臨界点突破、そして最後に気力の大量消費。これらが重なって、俺はすでに満身創痍だった。

 

 ……だがそんな事は関係ない!

 

 気力が切れたなら、代わりに生命力を使えばいい!

 

 体力が尽きたなら、寿命を削って体を動かせばいい!

 

 死ぬ気の炎エネルギーが足りないなら、体内に残ってるエネルギーに変えられるもの全てを、エネルギーにしてしまえばいい!

 

 たとえゴールした瞬間に死んだって、そうするだけの意味がある!

 

 仲間達と一緒に勝利を掴む、その為なら自分の全てを犠牲にしよう!

 

 だから……もっと速く走れ! 沢田綱吉!

 

 全てを勝つ為のエネルギーに変えながら、ゴールまで残り50mという所で、俺はついに2人より前に出る事に成功した。

 

「うおおおおおっ!」

「くっ!」

「嘘だろ!」

 

 後はゴールまで走り切るだけだ! 

 死ぬ気で走れ! 

 ゴールテープを切る、その瞬間まで!

 

「うおおおおおっ!」

 

(……死ぬ気で、1位を取る!)

 

 

 

 ……そして。

 

 

 ——パアン!

 

 1人目のゴールを知らせる発砲音が鳴り響いた。

 そして、審判が着順を発表する。

 

「1位、1年Dクラス! 2位、3年Aクラス! 3位、2年Aクラス!」

『わああああああっ!』

 

 先頭3人がゴールすると、グラウンドは歓喜に包まれた。

 俺は無事に1位を取る事が出来たようだ。

 

(はぁ、はぁ……流石にもう。何も残ってないか)

 

 ゴールテープを切ったその瞬間、激スーパー死ぬ気モードも解けてしまっていた。

 

「やったあぁぁ♪」

「すげぇよ! すげぇよ沢田ぁ!」

「よっしゃああ!」

 

 テントの方から皆の喜びの声が聞こえて来る。

 俺も手を振って返そうとした、その時。

 

「……沢田」

「! 生徒会長?」

 

 生徒会長が俺に手を差し出して来た。

 

(……握手しようって事かな?)

 

 俺も手を差し出して、生徒会長と握手を交わした。

 

「今日は最高の勝負だった。久しぶりに熱くなったぞ」

「! ……えへへ、俺の方こそ本気で勝負してもら……え、て……」

 

 ——ストン。

 

「! 沢田!?」

 

 ——ツナは、話をしてる最中に意識を失って、そのまま生徒会長の方へ倒れ込んでしまった。

 

 そして、その事に気付いたリレー走者のクラスメイト達が2人の元へ駆け寄って来た。

 テントで応援していたクラスメイト達も同様だ。

 

「ツナ!」

「沢田君!」

「ツナ君!」

「ツっ君!?」

 

 最後に、足を引きずりながら堀北がやって来た。

 

「沢田君!」

「……」

「……! 兄さん?」

 

 堀北が来た事に気付いた生徒会長は、ツナを優しく地面に寝そベらせた。

 

「鈴音、俺は養護教諭を呼んでくる。お前達は沢田の様子を見ててやれ」

「! は、はい!」

 

 そして生徒会長が養護教諭を呼びに向かうと、クラスメイト達はツナの周りを取り囲んだ。

 

「沢田君、気絶してるのかな?」

「だ、大丈夫なのか?」

 

 口々にツナの事を心配する声が上がる中、堀北は1人でツナの頭が置かれた場所の真上で正座になった。

 

 そして、ツナの頭を優しく持ち上げて、自分の膝上に乗せた。

 

「! 堀北さん? だ、大胆だねぇ〜」

「なっ! こ、これは違うわ。その……き、今日のMVPを地面に寝かせるわけにはいかないでしょう?」

「え〜? でもさっき、ツナ君の事を応援する時に〝綱吉君〟って呼んでなかったぁ?」

「あ、あれも不可抗力よ! 先頭に追いつけそうだったのと、周りが興奮してたからそれにあてられただけで……」

「あ〜はいはい! そう言う事にしといてあげる♪」

 

 自分の珍しい行動を指摘されて、堀北は恥ずかしい気持ちになるが、それでもツナの頭を膝から下ろしはしなかった。

 

「じゃあ〜、私は右手を握っててあげよ! その方がツナ君も安心するかも♪」

「あ! じ、じゃあ私は左手を!」

 

 堀北にあてられたのか、櫛田は右手を両手で包み込むように握り出した。

 そして、なんと軽井沢まで左手を握りだしたのだ。

 

(……き、桔梗ちゃん?)

(……軽井沢さん、彼氏の前で他の男子の手を握っていいの?)

 

 2人の行為に思う事がある者もいるようだが、ツナの頑張りは誰もが理解しているので、さすがにこの場でどうこう言う人物はいなかった。

 

「……ん?」

 

 その時、堀北がある事に気づく。

 

「……これ、寝息かしら?」

「……どれどれ」

 

 堀北の気づいた事が何なのかを確認するべく、近くにいた綾小路がツナの口元に耳を近づけた。

 

 すると……

 

「すぅ〜、すぅ〜」

「……完全に寝てるな」

 

 確かにツナは小さく寝息を立てていた。

 

 すると、須藤が呆れたように口を開いた。

 

「おいおいまじか? さっきまであんなすごい走りしてて、しかも1位でゴールしたのに、そんなすぐに寝れるか? 普通アドレナリン出まくって、興奮して喜びまくんだろ!」

「……それも出来ないくらい疲れたんじゃないか?」

 

 綾小路のその言葉で、気持ちよさそうに眠っているツナの顔を全員が見つめ始めた。

 

 そしてその時……

 

「……ぷっw」

『?』

 

 いきなり噴き出した池。そんな池にクラスメイト全員の視線が集中する。

 

「……ん? あ、いや! 違うんだよ! 沢田をバカにしたわけじゃないんだ!」

 

 全員から視線を向けられて軽蔑されていると勘違いしたのか、池は慌てて弁解を始める。

 

「実は俺、イトコに年の離れた男の子がいてさ! たまにそいつにあったら遊んでやってんだけど、子供って加減しねぇから全力で遊ぶじゃん? だから午前中で体力使い果たして、昼飯前にいきなり寝ちゃう事がよくあるんだよ。で、その時のいとこの寝顔と今の沢田の寝顔がそっくりだったから、つい笑っちゃったんだ」

「……なるほどね」

 

 池の話を聞いて、再び全員の視線がツナの寝顔に向けられる。

 そして、更に数名が笑い始めた。

 

「うふふっ、確かに子供みたいな寝顔かも! ツナ君も体力とか使いきっちゃったんだろうね♪」

 

 櫛田のその言葉を肯定するように、綾小路がポツリと呟く。

 

「だなぁ。ぶっ倒れるくらいまで頑張ったんだろうな。……Dクラスの為に」

「ふふふっ♪ 本当にすごいね〜ツナ君は。あ。でも〜、さっきまでは何か凛々しくてカッコいい感じだったのに、いきなりそんな可愛らしい顔になるのは反則だぞ〜♪」

 

 そう言いながら、櫛田はツナの右側のほっぺをツンツンと優しくつついた。

 

 ——ポツリ。

 

 その時、ツナの額に頭上から一粒の水滴がこぼれ落ちた。

 

「! 堀北?」

「……ごめんなさい、汗が落ちてしまったわ」

 

 須藤に心配される堀北だが、ハンカチを取り出してツナの顔を拭った。 

 

「私達の……いえ。Dクラスの為に、あなたは全力で戦ってくれたのね。本当にすごいわ。……ありがとう、綱吉君」

 

 そう言いながら、堀北は優しくツナの髪を撫でるのであった……

 



読んでいただきありがとうございます♪
次回は体育祭の後、放課後のお話です!
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