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体育祭当日③ 〜パートナーと相棒〜

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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体育祭当日③ 〜パートナーと相棒〜

 

「……」

(くそ! 龍園君め!)

 

 障害物競走で怪我をしてしまった堀北さん。

 

 龍園君の余りの暴挙に怒りを覚えずにはいられないが、まずは堀北さんの怪我の経緯を確かめるのが先決だ。

 

 

「……堀北さん。倒れた時の事なんだけど、その少し前からチラチラ後ろを気にしてたよね? もしかして、相手の女子から名前を呼ばれなかった?」

「! ええ、そうなのよ。何度も何度も名前を呼ばれるからつい後ろに意識が向いてしまって……その影響でスピードが落ちたのね、相手の女子に追いつかれたと思ったらそのままぶつかってきたのよ」

「……なるほど。俺も名前を呼ばれたよ。あと、網潜りの時には足を掴まれて妨害された」

「……という事は、やっぱり事故じゃないのね」

「そうだね。まず間違いなくわざとだと思う」

「……わざとぶつかって怪我をさせるだなんて」

「そういうやり方を選ぶしかないんだろうね。普通にやったら勝てないとでも思ってるんだよ」

 

 気づいてはいただろうが、言葉にして確認して悔しさがこみ上げてきたのだろう。堀北さんは唇を噛み締めている。

 

 一方で、俺も皮肉めいた事を言ってしまっていた。自分で思っているよりも怒りが溜まっているのかもしれない。

 

「状況は最悪ね、まだ午前の部も終わっていないのに」

「……堀北さん。この後の競技はどうする?」

「もちろん参加するわ。できる事は全部やり遂げたいもの」

「そっか」

 

 怪我が心配ではあったが、堀北さんの意思は硬いようだ。

 

「でも無理はしないでね。きつかったら勝敗には拘らないで。参加するだけでもポイントは入るんだから」

「……ええ、分かったわ」

 

 悔しさを滲ませながらも、堀北さんは自分の現状も考えて俺のお願いを受け入れた。

 

(……とにかく、今は龍園君の事よりも赤組とDクラスの得点を第一に考えないと)

 

 龍園君への怒りを腹の奥底に押し隠し、俺は次の競技の準備を始める。

 

 

 —— 第6種目「二人三脚」 ——

 

 次の種目は男女別の二人三脚。

 

 二人三脚は、ペアの片足を紐で繋いで一緒に走る競技だ。

 お互いの息をどれだけ合わせられるかが勝敗の鍵を握る。

 

「行くぞ寛治! おらあああっ!」

「うわああっ!」  

 

 最初のグループであるの須藤君と池君ペア。

 

 走り出してすぐに池から悲鳴が上がるが、それもそのはずだ。

 

 須藤君がやっているのは、池君を片手で抱え上げる様にして持ち上げ、そのまま力任せの爆走だ。

 

 ある意味、究極の二人三脚というべきか。ギリギリ二人三脚に見えるので、学校側からも注意はされないらしい。

 

(あのやり方……使えそうだな)

 

 午後にある男女混合二人三脚。須藤君のやり方がその時に役に立つのではないかと思った俺は、頭の片隅に今見た光景を残しておく事にした。

 

 俺の2つ前のグループが準備を始めたので、俺達も準備を開始する。

 

 俺のペアは綾小路君。同じグループを見る限り、龍園君やさっきのCクラスのやつらもいないようだ。

 

 片足に紐を結びながら、綾小路君が俺に話しかけてくれた。

 

「……沢田、落ち着いているか?」

「え?」

「堀北の件で怒りが溜まっているとは思うが、競技中は冷静にな。お前が怒りでペースを乱せば、それこそ龍園の思う壺だ」

 

 俺が怒りを我慢している事に気づいていたのか、綾小路君は俺にそう言ってくれた。

 

(やっぱり綾小路君は頼りになる。俺が暴走しないように気にかけてくれているんだ)

 

「ありがとう、綾小路君。おかげで冷静になれたよ」

「気にするな。俺はお前のサポートをするって決めている。だからこれはサポーターとして当然の行動だ。パートナーの堀北程には役に立てないけどな」

 

 ……サポーターかぁ。俺の中ではもう、綾小路君はサポーターとかそういう枠には収まらない存在なんだよな。

 

「綾小路君をサポーターにしてたらもったいないよ!」

「? 急にどうした?」

「俺の中の綾小路君はね、もっと大事な存在になってるんだ。堀北さんはパートナーだけど、綾小路君は〜そうだなぁ……〝相棒〟かな?」

 

 最初に仲間になってくれた堀北さんと綾小路君。俺にとっては特別な友達だ。だから堀北さんがパートナーなら、綾小路君もそれぐらいの存在になる。

 

 一緒にAクラスを目指す事を決めた堀北さんは『パートナー』

 

 隣に立って目の前の課題に挑んでくれる綾小路君は『相棒』

 

 そう呼ぶのが一番しっくりくると思った。

 

「……」

 

 俺の相棒発言を聞いた綾小路君は、紐を結ぶ体勢のままで固まってしまっている。

 やがて動き出すと、ゆっくりと口を開いた。

 

「お前……」

「ん?」

「本当に、よくそんな恥ずかしい事を普通に言えるよな」

「ええ? 別に嫌じゃないでしよ?」

「……まぁ、嫌じゃないけどな」

 

 照れ隠しなのか、綾小路君は紐を結び終えると無言になった。

 

「次のグループ!」

「……出番だな」

「うん」

「沢田、全力で走れよ。俺も頑張ってついていく」

「うん、もちろんだよ!」

 

 そして、俺達はスタート地点についた。

 

(行くよ! 相棒!)

 

 ——パアン!

 

 スターターピストルの発砲音が鳴り響き、俺は全力で走り始める。

 

 不思議な事に、掛け声を一切出さずとも完璧に息ぴったりな走りをする事ができた。

 

 これも綾小路君が俺に合わせるように頑張ってくれているからだ。

 ならば、俺がするべきは全力で走る事のみ。

 

 ゴールまで全力疾走で走り続けた結果、2位に大差をつけて1位を取る事ができた。

 

 その後。女子の二人三脚では、堀北さんと小野寺さんのペアが健闘したものの、やはり足の怪我が酷いらしく最下位でのゴールとなってしまった。

 

 練習で頑張っていた分、堀北さんと小野寺さんは悔しそうにテントに戻ってくる。

 

「……ごめんなさい、小野寺さん。練習にも沢山付き合ってくれたのに」

「いいよいいよ! 怪我ならしょうがないもん!」

「……そう言ってくれると救われるわ」

 

 最初こそ険悪だった2人だが、練習を重ねる事にいいペアになっていた分、この結果は辛いだろうな……

 

(……ごめんね2人とも。男女別の競技の時の事を考えれていなかった俺のミスだ。絶対に守るって決めていたのに……)

 

 自分の考えの無さを嘆きながらも、次の競技について考えを巡らせる。

 

 反省は後でたっぷりしよう。だから今は競技に全力投球だ!

 

 

 ——  第7種目「騎馬戦」 ——

 

 

 次の競技は男女別の騎馬戦だ。

 

 騎馬戦は時間制限方式だった。3分間の間に倒した敵の騎馬と、残った仲間の騎馬数に応じて点数が入る仕組みになっている。

 

 騎馬1つにつき、倒すと50点を得る事が出来る。そして、クラス毎に1つだけ大将の騎手がいて、その騎手の騎馬は倒したら100点を獲得できる。ちなみに、大将の騎馬が生き残っていればその組が100点を獲得できる。

 

 この騎馬戦における「倒す」の定義は、相手のハチマキを奪う事を意味している。騎馬を倒してもその騎馬は失格になるが、この場合は点数を得る事はできない。

 

 頑張れば400〜500点を得ることも不可能じゃないボーナス競技だ。

 

 Dクラスの大将は平田君。その騎馬役に俺、須藤君、綾小路君のチームだ。先頭を須藤君、両翼を俺と綾小路君が担う。

 

「じゃあ作戦通りに行こう」

「ああ! 龍園のカスはデザートにとっておくか。まずは他のザコどもから消す!」

 

 平田君の作戦とは、ポイントよりも生き残りを重視して、ハチマキを取るよりも須藤君のタックルで騎馬を崩していくというもの。

 

 ハチマキを奪いに行くよりも、この方が安全だという事でこの作戦に決まった。

 

「よし! 行くぞお前ら! ……あ!?」

 

 雄叫びを上げながら進撃しようとした矢先、俺達の騎馬の周りを4組の騎馬が囲んできた。

 

「何だよこれ! 狙い撃ちかよ!?」

「……どうする?」

「と、とにかく作戦通り、隙をついて一組だけでも崩そう! そうすれば逃げる隙ができるはずだよ!」

 

 騎手である平田君の指示に従い、須藤君は囲んできた4組の騎馬を観察する。

 

「よし! あの騎馬なら崩せんだろ! 行くぞツナ、綾小路!」

「うん!」

 

 4組の中で一番非力そうな組にタックルを仕掛ける須藤君。

 

「うらあぁっ!」

「ぐっ!」

 

 見事に1組を崩し、そこから抜け出そうとした瞬間……黒くて大きな壁が立ちはだかった。

 

「WAIT.BOYS」

 

 Cクラスのアルベルト君。そして近藤君と小宮君だ。3人の上には龍園君が鎮座している。

 

「くそ、龍園かよ!」

「おい猿。お前今逃げようとしたか? もしかして、アルベルトが怖いのか?」

「ああ!?」

 

 明らかに挑発している龍園君と。まんまとそれに乗っかる須藤君。

 まんま同じ状況で、1学期のあの事件を思い出してしまうよ。

 

「怖いわけねぇだろ!」 

「ほう、ならタイマンでもしてみるか?」

「いいぜ? 俺達が瞬殺してやるよ! 堀北を怪我させた恨みだ!」

「証拠もないくせに、勝手に俺達のせいとか決めつけんなよ」

「うっせぇ!」

「おー、おー。やけに強気だな。いいぜ? 俺を倒すことが出来たら、お前達に土下座でも何でもしてやるよ」

「決まりだ! 今の言葉を忘れんなよ龍園!」

「待ってよ! そのやり方は良くないよ須藤君!」

「平田君の言う通りだよ! 落ち着くんだ!」

 

 須藤君と龍園君だけでどんどん話が進んでいく。それを平田君と俺で止めようとするが、煽られて暴走し始めた須藤君は止まらない。

 

「うっせぇよ平田。いいから俺に従っとけ!」

「ククク、かかってこいや須藤」

「ぜってぇ堀北に土下座させてやる!」

 

 そのまま、俺達と龍園君の一騎討ちが始まる……なんて事はなく。

 

 暴走して龍園君の騎馬に突っ込んでいく須藤君と、それに引っ張られる俺達の隙ついて、囲んでいた4組の内の1つの騎手が平田君のハチマキを奪った。

 

「なっ!?」

「ククク……バカが。誰が好き好んで1対1なんてするかよ。これでそっちの大将は沈んだなぁ」

「龍園! てめえ約束破りやがって!」

「約束なんてしてねぇよ。勝手にお前が盛り上がっただけだろ?」

「ふっざけんな!」

「敗者は黙れって去れよ。Dクラス大将の首は俺達がもらっておくわ」

 

 そう言って笑いながら、囲んでいた騎馬達をバらけさせると龍園君達も離れて行った。

 

「……くそが!」

「うわぁ!」

「平田君!」

 

 須藤君がいきなり後ろに回していた両手を崩した事で、危うく平田君が地面に激突しかけたが、俺と綾小路君でなんとか支えたので落ちずに済んだ。

 

「ちょっ! 須藤君、危ないじゃないか!」

「うっせぇ! 平田のせいで負けたんだ! その罰だ!」

 

 そう言うと、須藤君はまだ競技中だというのにテントへと戻って行ってしまった。

 

(須藤君……すごい荒れようだな。相当気合入れてたんだな)

 

 男子騎馬戦が終わり俺達がテントに戻ると、女子騎馬戦が始まっていた。

 

 予想はしていたが、俺達の時と同じく、堀北さんを大将騎手とする騎馬に4組もの騎馬が一斉攻撃を仕掛けてきた。

 

 堀北さんも頑張って抵抗してはいたが、力負けしてハチマキを奪われてしまった。

 

 これで、Dクラスは男女別共に100点を失った事になる。

 

「くそっ! 龍園の野郎、また堀北を狙い撃ちにしやがって! ボコボコにしてやる!」  

 

 そう言いながら、鬼の形相で須藤君が白組のテントへと歩き始める。そして、そんな須藤君の前に平田君が立ちはだかった。俺も平田君に続いて須藤君を止めに動く。

 

「須藤君の気持ちも分かるよ。でも、少し冷静になる必要があるんじゃない? 君が龍園くんに暴力を振るったって現状は変わらないよ」

「そうだよ須藤君! 暴力を振るった事が学校にバレたらどうなるか、俺達は身に染みて分かってるじゃないか!」  

 

 俺達の説得も意味なく、須藤君は俺達を押しのけてしまう。

 

「うるせぇんだよ!悪いのは龍園だろ! 反則ばっかりじゃねぇか!」

「確かにそうだけど、反則の証明は難しいんじゃないかな」

「実際に妨害を受けてる俺でも、証拠がないから学校側に証明は難しいよ !」 

「何言ってんだよツナ! お前だってムカついてるだろ!? ブチギレてぇだろ!?」

「むかついてるし、ブチギレたいよ! でもそんなことしたら相手の思う壺なんだって!」

 

 証拠なしで訴えたとしても勝ち目はない。その事も須藤君ならよく分かっているはずだ。もしもそんな状態で暴力を振るえば、100%須藤君の負けになる。

 

 しかし、これだけ言っても須藤君は止まらない。

 

「っていうかよ、この体育祭じゃ俺がリーダーだろ!? だったらお前らが従えよ! 一緒に龍園に詰め寄るんだよ!」

「確かに、この体育祭に限って言えば間違いなく君がリーダーだよ。でも周りを見てみて。今君がやろうとしてることに肯定的な人がいるかい?」  

 

 平田君にそう言われて、須藤君は周りを見渡した。

 

 皆怪訝な眼差しを須藤君に向けていて、その中には肯定的な目はほとんどないだろう。

 

 皆の視線の意味を理解したのか、須藤君はワナワナと震え始める。

 

「俺は、クラスのために必死になってんだぞ……」  

 

 その時、そんな須藤君に意見を述べる人が現れた。

 ……幸村君だ。

 

「クラスの為か。……本当にそうか? 今のお前は1学期と同じ失敗に自分から向かっているだけじゃないか? クラスの為を思うならもっと別のやり方があるだろう」

「昔の話をむしかえしてんじゃねぇ! あの時の恨みも込みで龍園のカスに報復すんだよ!」

「それはクラスの為にならないよ! 須藤くん、僕達は本当に君を頼りにしているんだ。だからこそ、もっと大局的に状況を見て考えて欲しい。そして沢田君と共にクラスを引っ張ってほしいんだ」

 

 幸村君の意見に平田君も賛同の意を示した。

 

「……うるせぇよ!」

「君ならできるよ、須藤君! だから……」

「うるせぇって言ってんだよ!」

「!」

 

 須藤君がいきなり拳を振り上げた事に反応し、俺は平田君を後ろに庇った。そして、迫り来る須藤君の拳を受け止める。

 

 ——ガッ!

 

「! ……何止めてんだよ、ツナ」

 

 自分のパンチが止められた事がショックなのか、須藤君は俺を睨みつける。

 

 拳を受けた音と須藤君の雄叫びのせいか、茶柱先生がテントの方にやってきた。

 

「……何事だ?」

 

 茶柱先生は、須藤君の拳を受け止めている俺を見ると、何かを悟ったようにため息を吐いた。

 

「はぁ……喧嘩か?」

「あ、いえ。気合を入れようとですね」

 

 俺が苦しいごまかしをしようとするも、須藤君は茶柱先生にも喧嘩腰を崩さない。

 

「……だったら何だよ」

「揉め事を起こすのは看過できん。須藤も沢田も、今は互いに距離を取れ。再発防止の為の措置だ」

 

 そう言うと、茶柱先生は元いた場所に戻って行った。

 

「ちっ! やってられねぇよ!」

 

 須藤君は頭に巻いたハチマキを外し、地面に投げつける。そしてそのまま俺達に背中を向けてしまう。

 

「俺は一抜けするぜ。勝手にボロ負けしてろよ雑魚共。体育祭なんてクソ食らえだわ」

 

 そう言うと、須藤君はどこかに走って行ってしまった……

 

「……須藤君」

「あ、ツナ君!」

 

 その時、丁度騎馬戦から女子陣が帰ってきた。

 場の雰囲気を察したのか、桔梗ちゃんが心配そうに俺達に近寄ってくる。

 

「何かあったの?」

「須藤君が、体育祭から抜けるって言ってどこかに行っちゃったんだ」

「ええ? そうなの?」

「うん……」

「あと1つ、午前の種目残ってるのに〜」

 

 困ったように首を傾げながらテントに戻る桔梗ちゃん。

 確かに、あと「200m走」が残っている。

 

 桔梗ちゃんが離れた後、軽井沢さんが話しかけてきた。

 

「ねえ、ツっ君。ヤバイんじゃない?」

「うん……って、え? ツっ君!? 何でツっ君!?」

 

 いきなりのツっ君呼び。

 今までにそんな呼び方をしてきたのは、母さんと未来の京子ちゃんだけだ。

 

「なんでって……平田君の事も洋介君って呼ぶようになったし、あんたも下の名前で呼ぼうと思っただけよ?」

「だったら綱吉君では?」

「ううん、ツっ君って呼ぶ。……嫌なの?」

 

 別にいやじゃない。驚いちゃっただけだしね。

 

「いや、嫌じゃないけど」

「じゃあ決定ね! ……で、須藤がいなくなっちゃったらやばくない?」

「やばいよ。勝つ可能性がかなり下がっちゃうし」

「やっぱりそうよね……てかそもそも! ツッ君と堀北さん、何か嫌がらせされてない? 騎馬戦とか障害物競走とかさ、あれは誰がどうみても何かされてたって分かると思うんだけど」

「ははは、だよね。うん、Cクラスから嫌がらせを受けてるんだよ」

 

 そのおかげで、堀北さんは足を痛めてしまう羽目になったんだ。

 

「だよね? というかさ、完全に2人だけを狙い撃ちしてない?」

「そうだね。俺達、体育祭前に龍園君から次はお前達を潰すって宣言されてるし」

「ええ!? それなのに、対策しなかったの?」

「ごめん。その、なんというか……しようと思ったんだけど、できない理由があってさ」

「……ふ〜ん」

 

 理由を言わない俺の顔をジロジロ見る軽井沢さん。

 

 根掘り葉掘り聞かれるかと思ったけど、案外すんなり諦めてくれた。

 

「ま、言えないならいいや。ツッ君にも事情があるんだろうしね」

「ありがとう。言える時が来たら言うよ」

「うん、それを待ってるわ。……でも私達、このままじゃボロ負けよね」

「そうだね……でも、そうならないように頑張るつもりだよ」

「! ふふっ、その言葉が聞けて良かったわ」

 

 俺が諦めていない事が分かったからか、軽井沢さんは微笑んだ。

 

 そうか、軽井沢さんは俺が嫌がらせに潰されてないか心配してくれたんだね。

 

「うん。大丈夫、俺は諦めないから」

「分かってるわ。ツッ君の事、信じてるから」

 

 そう言って話を締めると、軽井沢さんもテントに戻って行った。

 

「……」

 

 それから、俺は次の競技の準備をするべく動きながら、これからどうするかを考えた。

 

 現状、白組が優位で赤組は負けている。さらに学年別順位でもDクラスは最下位だろう。

 

 俺が立てていた目標は、赤組が勝つ事と『最優秀生徒賞』を取る事。かと言って、学年別で最下位になってもいいわけじゃない。せっかくクラスでがんばってきたんだし、Dクラスの皆の為にも1位を取りたい。

 

 つまり、俺は午後の部で3つの事をやらないといけない。

 

 1つ、赤組を勝たせる。

 2つ、最優秀生徒賞を取る

 3つ、学年別でも上位を目指す。

 

 その為には何が必要か。それを知る為には数学が得意な人に力を借りなければいけない。そしてちょうどいい事に、次の競技で俺と同じグループになるメンバーは数学が得意なのだ。

 

 

 —— 第8種目「200m走」 ——

 

 午前の部、最後の種目は200m走。ルールは100m走と同じだ。

 俺は最初に走るグループに入っていて、同じグループには幸村君がいる。

 

 幸村君は、運動は苦手だが勉強は得意で、テストでは5位以内には必ずランクインしている。そして、一番得意なのは数学だそうだ。

 

 今回のグループのCクラスも足が早い奴らで、名前を後ろから何度も呼ばれたが無視してゴールまで走り抜けた。

 

 これで200m走も1位。今までの全個人競技で1位か2位をとっているので、最優秀賞生徒賞の争いには参加できているはずだ。

 

 テントに帰りながら、俺は幸村君に話しかけた。

 

「幸村君」

「なんだ?」

「今、赤組は白組に負けてるでしょ?」

「そうだな」

「赤組が勝つには、午後の部でどんな結果を出す必要があると思う?」

「ん、そうだな……」

 

 幸村君は考え始める。現在のポイントと、午後の推薦競技で得られるポイントを比べてみて、勝つ為にはどんな結果が必要なのかを考えてくれているのだろう。

 

「……そうだな。赤組が勝つのはそれほど難しくはない」

「本当?」

「ああ、午後からの4つの推薦競技の内3つを、3学年のどのクラスでも赤組が1位を取れればいい」

「なるほど」

 

 (なら、俺が4つとも1位を取れれば問題ないな)

 

「じゃあさ、Dクラスが学年別で最下位にならないようにするには?」

「……」

 

 再び考え出す幸村君だが、今度は険しい顔になっていた。

 

「……それはかなり厳しいな」

「どういう事?」

「Dクラスが最下位を脱却するには、4つの推薦種目でDクラスが1位を取る事が絶対条件だ。つまり、全学年合同のリレーでも1位を取らないといけない」」

「うん」

「だが、あくまでこれは現時点での各クラスの獲得点数を予想して出した答えだ。もし達成したとしても、実際の点数と大きな開きがあったら、それでも最下位を抜け出せない可能性もある」

「……なるほど。わかったよ、ありがとう幸村君」

 

 前提として、4つの推薦競技で1位を取ることは必須条件。でも、もしかしたらそれでも最下位を抜け出せない可能性もあると。

 

 ……もしもそうなったとしても、挑戦してみて損する事はない。少なくとも前提条件をクリアしないと話にならないんだ。ダメで元々の精神でやってみよう。

 

 赤組を勝たせて、学年最下位を回避し、最優秀生徒賞を取る。これが俺のベストな結果だ。

 

 これを現実にするには……まず間違いなく死ぬ気モードにならないとだめだろう。競技中にCクラスからの妨害を受けてもいいようにする為にもだ。

 

 一度も成功したことはないけど、それでもやってみせる!

 

 そして、推薦競技は個人競技じゃないから協力してくれる人達が必要だ。須藤君を初めとする、俺と一緒に推薦競技に参加するクラスメイト達の協力が。

 

 その為にも、午後の部が始まる前に須藤君を呼び戻さないといけない。だが今俺が言っても須藤君の心は動かないだろう。須藤君を説得するには……パートナーの力を借りる必要がある。

 

(よし。堀北さんを保健室に連れて行って、その後に須藤君の所に連れて行こう。そこで堀北さんとは別行動だ)

 

 これからの方針を決めた俺は、テントに戻ってきた堀北さんに話しかけようとした。……が、そこでスピーカーから放送が流れ始めた。

 

『これより、1時間の休憩時間となります。生徒達は、1時間後までにテントに戻るようにお願いします。また、ここまでの途中結果における各組の点数と、最優秀生徒の候補者が3名いるので、その生徒を発表します。皆さん、電光掲示板にご注目下さいませ』

 

 放送の言う通りに電光掲示板に目を向けると、表示されている内容が更新された。

 

 

 現在の点数

 

 赤組3,200点 白組3,400点

 

 最優秀生徒候補者

 

 3年Aクラス 堀北学

 2年Aクラス 南雲雅

 1年Dクラス 沢田綱吉

 

「おおっ! 沢田すげ〜な!」

「まじかよ! 最優秀生徒候補かよ!」

 

 電光掲示板を見た池君と山内君が騒ぎ始める。

 

(よかった……最優秀生徒になれる可能性はまだ残ってたみたいだ)

 

 正直少し心配だったからホッとした。

 

 安心したところで、俺は早速行動に移った。

 

「堀北さん、保健室で怪我の具合を見てもらおうよ」

「……そうね。先生の診断を仰ぎたいわ」

「よし、じゃあほら。乗って?」

「は?」

 

 堀北さんの前で背中を向けてしゃがみ込む。堀北さんはポカンした顔になっていた。

 

「あの、どうしておんぶしようとしてるの?」

「え? 歩くのもきついだろうなと思ってさ」

「それはそうだけれど……」

 

 堀北さんは少し顔を赤らめている。……やっぱりおんぶは恥ずかしいか?

 

 でも時間があんまりないから、移動に時間をかけていられない。だから悪いけど、堀北さんには我慢をお願いした。

 

「恥ずかしいかもだけど、なんとか耐えてくれないかな。Dクラスが勝つ為にも」

「! ……わかったわ」

 

 Dクラスの為という言葉が背中を押したのか、堀北さんは恥ずかしそうに俺の背中に乗っかった。

 

「よっと!」

「……よ、よろしく///」

「まかせて、早速保健室に行こうか!」

 

 そして、俺は堀北さんをおんぶしながら保健室へと向かった。

 

 「……」

 

 ——ツナ達が保健室に向かう姿を、櫛田桔梗は冷たい目で見つめていた。

 

「……そこは、私のいるべき場所なんだよ? 本当、あなたって邪魔だよね〜。ねっ、堀北さん♪」

 

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