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特別試験、2日目。

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ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

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2日目は1話で書き切ろうと思ったら……また1万字超えました……

特別試験、2日目。

 

 —— 2日目、朝。Dクラス拠点 ——

 

「……んぅ。……ふわぁぁぁ〜」

 

 2日目の朝、俺は男子用のテント内で目覚めた。

 深夜に抜け出してOtto talenti と会合していたから、睡眠時間は少し短くなっているけど体調に変化はなかった。

 

「……すぅ、すぅ」

「ぐぉ〜」

 

 俺以外の男子は、皆まだ眠っている。

 寝ぼけ眼で腕時計を確認すると、時刻は朝の6時だった。

 

(……早く起きちゃったなぁ。獄寺君もまだ寝てるし、もう一眠りする……あれ?)

 

 他の男子達を見回してみると、1人だけ姿が見えない人がいた。

 ……綾小路君だ。

 

(……綾小路君、朝早くに1人で一体どこに? トイレか?)

 

 ——もぞもぞ。

 

 綾小路君がいない事に一抹の不安を覚えていると、急に誰かが起き上がった。

 

「……はぁ。……あれ? 沢田君、おはよう」

「あ、平田君。おはよう」

 

 起きたのは平田君だった。疲れが取れていないのか、少し疲弊した顔になっている。

 

「ごめん、起こしちゃった?」

「いや。寝る前にいろんな考え事してたから、眠りが浅かっただけだよ。沢田君は眠れた?」

「うん。まぁ、熟睡ではないけどね」

 

 俺の小言に平田君は笑って同意する。

 

「ははは、まぁテントにはマットもないからね。地面で寝てるのと大差ないよ」

 

 その通りだ。テントで寝てはいるが、枕やマットはないし、テントの素材は暑さ対策でメッシュ。地面との間にメッシュしかないんだから寝心地は良くなかった。

 

 平田君も腰が痛そうにしている。

 

「俺、もう起きるよ。川に顔を洗いに行こうかな」

「あ、僕も行くよ」

 

 平田君と共に、他の男子達を起こさないようにテントを抜け出す。

 

「……あ、平田と沢田じゃないか。おはよう」

「綾小路君、おはよう。……トイレ?」

「……まぁな」

 

 テントから出てすぐ、テントに向かって歩いてきていた綾小路君とばったり会った。

 

「俺達、顔を洗いに川に行くんだ。綾小路君もどう?」

「……そうだな、もう一回寝る気にもならんし」

 

 という事で、綾小路君も一緒に川に行く事になった。

 

 〜 川 〜

 

 Dクラスの拠点沿いにあるこの川は、Dクラスの占有スポットで他のクラスは使用できない。

 

 そしてこの川の水は上流から流れ来るおかげか温度が上がりにくい。

 冷たい水を占有できたのはすごくラッキーだな。

 

「……ぷはぁ、気持ちがいいね」

「うん。さっぱりするよ」

 

 川の水で顔を洗い、喉を潤す。

 一心地着くと、平田君が真剣な顔で話しかけてきた。

 

「……あのさ、伊吹さんの事なんだけど」

「! どうしたの?」

「何か問題発生か?」

 

 綾小路君の言葉に首を振って否定する平田君。

 

「いや、トラブルではないよ。昨日伊吹さんを受け入れる事になった後にね、軽井沢さん達から注意を受けたんだ」

「……なんて?」

「伊吹さんを受け入れるのはかまわないけど、Dクラスのリーダーが伊吹さんに知られない様に何か対策をして方がいいってさ」

 

 なるほど、軽井沢さん達の言う通りだ。

 俺もその事を今日平田君に相談しようと思っていた。

 

「……対策って何するんだ?」

「うん。占有をし直す際に、リーダーをランダムの何名かで囲んで見えない様にしようと思ってる」

「なるほど、それなら他のクラスの奴らにこっそり見られても安心だな」

 

 綾小路君が平田君の考えに同意した。

 もちろん俺も同意だ。

 

「……堀北さんにもその話した?」

「うん。昨日の内にしてあるよ」

 

 昨日クラスメイト全員で話し合い、Dクラスのリーダーは堀北さんに決まっている。

 これは伊吹さんがDクラスの拠点に来る前に決めた事だから、まだ伊吹さんには知られていないはずだ。

 

「……これ以上ポイントを減らしたくはないからね」

「……そうだね」

 

 高円寺君のリタイアと、備品の購入ですでに100ポイント近くを消費している。

 

「平田の考えでは試験終了時に120ポイントを残せる予定だったよな」

「うん。ポイントで全員分の飲み水と栄養食のセットを買って、そのくらい残せる計算だったんだけどね」

 

 高円寺君のリタイアで、残りの使えるポイントが50ポイントしかなくなってしまったのだ。

 

 クラス全員分の飲み水と食事を購入するとして、一番安く済むのが飲み水と栄養食のセットだ。

 

 このセットをクラスで購入した場合、1日に2食として20ポイントかかる。それが6日間で120ポイントになる。

 

 飲み水は川があるので買わなくてもいいのだが、どうしても抵抗感がある人もいるのでいくつかは購入することになる。しかし、あと何食分かを木の実や川魚で補えば、合計120ポイントを合計70〜80ポイントくらいの支出に抑えられる計算だったのだ。

 

 しかし、高円寺君のリタイアにより、目標の120ポイントを残すにはポイントを支出を50ポイントに抑えなければならない。平田君はさすがにそれは厳しいと考えているのだろう。

 

「……まぁ、クラスで団結してなんとかするしかないな」

「そうだね。皆に相談しながらうまくやっていかないとだよね」

 

 平田君はふっきれたように笑い、俺達はテントの方へと戻った。

 

 

 

 —— Dクラス拠点、朝8時 ——

 

 朝8時になると、全員が起きてテントから出てきた。

 

 平田君の提案で先ずは朝食を食べる事になった。

 食事はそれぞれで好きにする事になり、俺は獄寺君とクロームと食べる事にした。

 

 綾小路君と堀北さんはそれぞれ1人で食べている。

 

「……ボス、昨日の会合の後、伊吹のナップザックを調べた」

「! そっか。何かあった?」

「うん……基本的な荷物は同じなんだけど、デジカメが1つ入っていた」

「デジカメ?」

「そう。……データは何も入ってなかったけどね」

 

 デジカメもポイントで購入できる備品の1つだ。

 クロームのその言葉に、獄寺君が顔をしかめる。

 

「……クラスから追い出されてんのに、そんなものを持ってこれんのか?」

「確かに、そうだよね」

 

 昨日思った通り、伊吹さんは何らかの策略でDクラスの拠点近くにいた可能性が高いな……

 

「……クローム、引き続き見張りをお願い」

「……うん」

 

 朝食を終えた俺は、堀北さんに声をかける事にした。

 

「堀北さん、一緒に他のクラスの偵察に行かない?」

「偵察?」

「うん。今日は特にすることもないし、他のクラスのリーダーの手がかりを掴めるかもしれないよ」

「……そうね、行きましょう」

 

 堀北さんと共に森に入って行こうとすると、綾小路君が話しかけてきた。

 

「……2人でどこに行くんだ?」

「! 綾小路君……」

「他クラスの偵察に行くのよ。……あなたも来る?」

「……そうだな、俺も行こう」

 

 堀北さんの誘いを受けて、綾小路君も一緒に行く事になった。

 綾小路君が動いたのを見て、獄寺君が慌てて駆け寄ってくる。

 

「じ、10代目! どこかに行くんすか!? 俺も一緒に行きたいです!」

「……2人とも、獄寺君も一緒でいいかな?」

「私はかまわないわ」

「……俺もだ」

 

 綾小路君の見張りを頼んであるから、獄寺君もついてくる事にしたのだろう。

 なんとなく怪しんでいるような気もするが、綾小路君も獄寺君の同行を許してくれてよかった。

 

「……でも、他クラスの拠点なんて分かるの?」

 

 堀北さんの最もな質問。俺は昨晩に拠点の場所を聞き出してあるので、適当にさまようフリをして2人をそこまで連れて行こうと思っていた。

 

 ……が、俺が答える前に綾小路君が口を開いた。

 

「Bクラスなら、この近くにある井戸が設置されたスポットを拠点にしているらしいぞ」

「!」

「……情報集取が早いのね」

「昨日の夕方、焚き火用の予備の木材を探しに出てたろ? その時にBクラスの神崎と会ったんだ。その時にお互いの拠点の場所を教え合った」

 

 綾小路君のその発言に、堀北さんが顔をしかめる。

 

「なっ……不用意にこちらの拠点を教えたの?」

「……距離的にも近いし、いずれバレる。それなら情報を開示して、Bクラスとの友好関係を守った方がいいと思ったんだ。それに、Bクラスとは協力しあえるかもしれない」

「……そうね。リーダー指名の際に、お互いに指名はしないって事にできたら大きなアドバンテージになるわ」

 

 堀北さんが納得した事で、俺達4人はBクラスの拠点へと向かった。

 

 —— 井戸のスポット、Bクラス拠点 ——

 

 Bクラスの拠点はDクラスとほとんど同じ感じだった。テントやトイレ、シャワーなんかを追加で購入し、果物や魚を釣ってポイントを節約している様に見える。

 

 大きな違いといえば、全体的に楽しそうにしている所だろうか。

 

「あ、沢田君と堀北さんと綾小路君!あ、あともう1人は姉妹校の人だよね」

 

 俺達がBクラス拠点に近づくと、一之瀬さんが声をかけてきた。

 

「うん、獄寺君って言うんだ」

「獄寺君かぁ……山本君と同じで日本人なんだね!」

「……おお」

 

 フレンドリーな一ノ瀬さんにも威圧的な態度の獄寺君。

 なんか出会った頃の山本との関係を思い出すなぁ……

 

「今日は他クラスの偵察に来てるの。Bクラスは堅実な方法を取っているのね」

「うん! 必要なものだけ買って、節約できるところは節約する。Dクラスもそんな感じ?」

「ええ。概ね同じね。Dクラスは統率が取れてないから、Bクラスの様にこんな和気藹々とはしてないわ」

 

 自虐発言をする堀北さん。そういえば、須藤君の事件の時に「BクラスはDクラスの上位互換ね」って言ってたっけ?

 

「私達は仲良しだからね〜。あ、でもDクラスとはクラスぐるみで仲良くしたいかな?」

「! ええ。私は今回も協力関係になりたいと思っているわ」

「うんうん♪ お互いにリーダー指名はしないって事にしようね!」

 

 簡単に協力しあう事が約束された。一ノ瀬さんも堀北さんと同じ事を考えていたのだろう。

 

 2人の会話を聞いていると、俺の斜め後ろに山本が立っている事に気づく。

 

「……(ちょい、ちょい)」

「!」

 

 俺は皆には見えないように、指を曲げて山本に合図を送る。

 

「……あ、ツナと獄寺じゃん?」

「あ! 山本ぉ!」

「……あ? なんだ山本かよ」

 

 さすがは山本。俺の合図を理解して、俺と獄寺君が堀北さんと綾小路君から離れるチャンスを作ってくれた。

 

 2人が一ノ瀬さんと話している間に、俺には山本と獄寺君に伝えておきたい事があった。

 

(獄寺君、今からビアンカに通信を繋いで。で、偵察が終わるまでずっと繋ぎっぱなしにしておいて)

(わかりました!)

(山本、ビアンカに獄寺君からの通信を切らないように伝えて)

(わかったぜ)

(で、聞こえてくる人の声や喋り方の癖をなんとか覚えてほしいとも伝えてくれ)

(! わかった。すぐに伝えとく)

 

 山本は俺の指示を受けて、すぐに動いてくれた。それを見て俺達も2人の元に戻る。

 ちょうど話の区切りがついていたようだ。

 

「じゃあ、他のクラスの拠点を探しましょう」

「……昨日、俺と沢田はAクラスの拠点であろう場所は見つけた。だから先にCクラスを探したいな」

 

 綾小路君のその発言を聞いて、一ノ瀬さんが会話に加わってきた。

 

「あ、Cクラスなら上陸した浜辺にいるよ」

「! そう、ありがとう一ノ瀬さん」

「ううん! じゃあまたね♪」

 

 そう言いながら、一ノ瀬さんはBクラスの女子達のいる方へと歩いて行った。

 

 一ノ瀬さんを見送った後、俺達はCクラスのいる浜辺へと向かった。

 

 

 

 —— 浜辺、Cクラス拠点? ——

 

 浜辺について真っ先に目に飛び込んできたのは、ビーチパラソルやビーチチェア。水上スキーにビーチバレーを楽しむCクラスの生徒。そして、もくもくと煙を上げながら行われているバーベキュー大会だった。

 

「……信じられないわね」

「……そうだな」

「……」

「……」

 

 Cクラスの様子に驚いていると、Cクラスの男子が声をかけてきた。

 

「あ、あの。龍園さんがお呼びです……」

「! そう」

「……行くのか?」

「ええ。呼ばれているんだし、この光景の真意を確かめたいもの」

 

 その男子に案内されて向かった先で、1人の男子がビーチチェアに座っていた。

 横には小さなテーブルもあり、焼かれた肉や野菜、飲み物が置かれている。

 

 そして、その男子の座っているチェアの肘掛けには無線機が置かれていた。

 

(須藤君を煽ってたヤツらの1人だな。こいつが龍園君か)

 

 俺達に気づいたのか、龍園君が口を開く。

 

「……こそこそ嗅ぎまわってるのはお前だったか。俺に何か用か?」

 

 威圧的な龍園君に対し堀北さんは毅然とした態度で返した。

 

「随分と羽振りが良いわね。相当豪遊しているようだけど」  

「見ての通りだ。俺達は夏のバカンスって奴を楽しんでるのさ」

「……それがどういうことだかわかっているの? ルールそのものを理解していないんじゃないかと思ったわ……」

 

 龍園君は堀北さんの嫌味を気にせずに返答する。

 

「ルールなら理解しているさ。その上でこの選択をしているんだよ」

「……無能なリーダーだと、クラスメイト達は苦労するわね」

「はっ、苦労? うちのクラスの奴らを見てみろよ、全員バカンスを満喫しているだろ?」

「全員? あなたの横の3人は全然満喫してない様だけれど?」

 

 そう言って、堀北さんは龍園君の横で待機している3人を指さした。

 その3人とは、石崎君・小宮君・近藤君のことだ。

 須藤君に冤罪を着せようとした張本人達だな。

 

「こいつらは、こないだ勝手な行動を取ったからなぁ。罰として2学期が始まるまで俺の召使いをさせてんだよ」

 

 そう言うと、龍園君は堀北さんを睨んだ。

 

「……こいつらは、お前のせいでこんな目に遭ってるってわけだな」

「……自業自得よ」

 

 罪悪感を煽ろうとしたのか、龍園君がそんな事を言ってきたが堀北さんは華麗にスルーした。

 

「ねぇ、こんなに豪遊して、ポイントは残っているの?」

「あ? 残っているわけねぇだろ」

「え? もしかして……すでに300ポイント使い切ったというの?」

「そうだ。……それがどうかしたか?」

「信じられない……バカなの? それであと5日間どう過ごすのよ」

「そんなの知らねぇよ。俺は今楽しければそれでいいのさ。お前達みたいに、300ぽっちのポイントを節約する為に、わざわざ食量を探して汗をかくとかやってられるか。俺からすればお前達の方がよっぽどバカに見えるぜ」

「バカな上に愚か者なのね……」

「はっ、これが俺のやり方だ。文句言う奴は追い出す。それだけの事だ」

「! ……伊吹さんをDクラスで匿っているわ。しかも怪我までしていた。もしかして……あなたのやり方に反発したから追い出したの?」

「そうだが? 支配者の命令に逆らう手下はいらねぇ。だから制裁を加えて追い出したのさ」

「……この試験のルール上、ポイントはマイナスになることはない。だから誰かがいなくなっても影響は出ないってことね」

 

 その言葉に龍園君がニヤリと笑う。

 

「そうだ。よくわかってんじゃねぇかよ鈴音ぇ。……よかったら俺と遊んで行くか? 専用のテントくらい用意するぜ?」

 

 そんな事を言う龍園君に、堀北さんは軽蔑の眼差しを向ける。

 

「……絶対お断りよ。あと、どこで聞いたのか知らないけど、人の名前を軽々しく口にしないでもらえる?」

「はっ、お前はこいつらの作戦を台無しにした張本人だからなぁ。調べて当然だろう?」

 

 龍園君が立ち上がって石崎君達の頭をポンポンと叩く。

 

「……私だけじゃないわよ。他にも2人……」

「お前の横にいる冴えない男2人の事か? そいつらは問題外だ。鈴音の腰巾着と猿のパシリだろ? 警戒する必要は微塵もねぇよ」

「!」

 

 今の発言で獄寺君が暴走しそうになったが、素早く獄寺君の腕を掴んで止めさせる。

 

(……落ち着いて、獄寺君)

(……すみません、10代目)

 

 堀北さんがため息をついて後ろに振り返った。

 

「はぁ、もう行きましょう。ここにいても不愉快になるだけだわ」

「……ああ」

「うん」

 

 こうして、俺達は砂浜を去って森の中に戻った。

 

 森の中を歩きながら、Cクラスについて堀北さんがぼやき始める。

 

「まったく……論外ね、Cクラスは。自分から試験を放棄するなんて」

 

 Cクラス、というか龍園君は本気で試験を諦めているわけではないはずだ。

 無線機がその証拠になる。

 

 砂浜でずっとバカンスを満喫するのに、無線機なんて必要ないからだ。

 なのに持っていると言うことは、誰かと連絡を取り合う必要があるに違いない。

 

 堀北さんの小言を聞きながら頭の中を整理していると、今度は綾小路君が口を開いた。

 

「全く、これから5日間どう過ごすつもりなのかしら」

「……龍園は、最初から1週間をこの島で過ごす気がないんだ」

『!』

 

 綾小路君の言葉に、全員が驚いて綾小路君の顔を見た。

 当の綾小路君は淡々と話を進めていく。

 

「元々300ポイントで1週間豪遊することはできない。だけど、2日間なら最高に楽しいバカンスが送れるはずだ」

「……問題はその後よ。残りの5日間をどうするのかって話なのよ?」

「簡単だ。高円寺と同じ様に、仮病でリタイアすればいいんだ」

『!』

「船に戻ればあと5日間、豪華客船で楽しいバカンスを送れるだろう?」

「……そういう事ね。本当に最初からこの試験を放棄していたなんて」

「この試験において、1週間の過ごし方は自由だからな。龍園の考え方も正解の一つなんだろう」

 

 淡々と語る綾小路君だが、その全てが昨日カルメンから聞いた話と一致している。

 一度Cクラスの様子を見ただけでその結論を導き出せるなんて……綾小路君はやっぱり頭がいいんだ。

 

 俺が仲間や超直感の力で導きだす答えを、綾小路君は1人でも導き出せるのか?

 薄々感じてはいたけど、綾小路君はきっとすごい高い能力を持っているんだ。

 

 でも、目立ちたくはないから表舞台には立たない。

 そんな彼にとって、自分から動こうとする俺はありがたい存在だったのかもしれない。

 

 そして試験の初日、この試験での勝負を挑まれた時に綾小路君はこう言っていた……

 

『俺はこの試験で確かめたい。俺とお前、どちらのやり方が良い結果を生み出すのかをな』

 

『俺は前から疑問だったんだよ。お前の他人の事を第一に考えて行動する所がな。目的を果たしたいのなら、自分の事を第一に考えるべきだ』

 

『俺は、お前の考え方が理解できないんだよ。いや、理解したくないのかもな』

 

 この言葉から考えるに、きっと今までの全ての問題において、綾小路君は俺の考えた解決策を俺より先に思いついていたんじゃないだろうか。

 

 そして導きたい結果は同じなのに、そこに至るまでに俺が選んだ過程が自分が選ぶものと真逆だったんじゃないか?

 

 だから俺の考え方を理解できないし、理解したくもないんじゃないだろうか。

 

 ……そうなってくると、俺がこの試験で勝つ為の作戦を立てたとしても、いずれ綾小路君も同じ作戦を思いつく可能性が高い。

 

 Dクラスを勝たせた上で、綾小路君にも勝つ為には、もっと別のアプローチが必要になる。

 それも、綾小路君では実行できない。俺だからこそできるアプローチだ。

 

(情報が揃って作戦を立案する時は、それを念頭において考えないといけないな)

 

 歩きながら1人で考えこんでいたら、いつの間にかAクラスの拠点に到着したようだ。

 

 

 —— Aクラス、拠点。 洞窟入り口 ——

 

「……ここがAクラスの拠点ね」

「ああ。やっぱり初日に見た場所だったな、沢田」

「うん。あ、入り口に立ってるの、その時の2人じゃない?

「! ……だな。葛城と弥彦とか言う奴らか」

 

 洞窟の入り口で、葛城君と弥彦君が何やら会話をしている。

 

「……行きましょう」

 

 堀北さんに続いて、全員で洞窟の入り口に向かって歩いていく。

 

「! なんだお前らは!」

 

 まぁ当然、入る前に止められてしまった。

 

「洞窟の中を見てみたいだけよ」

「だめだ、ここはAクラスの占有スポットだぞ!」

「見るだけよ、それくらいならルール違反ではないでしょう?」

「ちっ、葛城さん。こいつしつこいですよ!」

 

 一歩も引かない堀北さんに、弥彦君が葛城君に助けを求める。

 

「ふん、入りたければ入ればいい。ただ……」

「……!」

 

 葛城君が口を開くと、森の方から木の棒を持った男子生徒が何人か出てきた。

 

「各クラス、1か所のスポットを占有し、それを最終日まで守り通す、その暗黙の了解を破るのならば……戦争になるぞ」

「……他クラスに対する暴力行為はルール違反よ」

「心配ない。教師陣が見回りをしていないのは確認済みだ。明確な証拠がなければ俺達がやったという証明にはならん」

 

 獄寺君が拳をポキポキとならし始めたので、俺は手で制した。

 

「……わかったわ。ここは引くしかないようね」

「それがいい。お互いに無駄な争いは避けるべきだからな」

 

 結局、俺達はAクラスの拠点を調べる事はできず、拠点に帰る事になってしまった……

 

 —— Dクラス、拠点。夕方 ——

 

 拠点に戻る頃には、もう夕方になっていた。

 夕飯を食べながら、また獄寺君とクロームと小声で話をする。

 

「……ボス、伊吹はずっと拠点にいたよ」

「そっか……獄寺君、ビアンカから連絡はあった?」

「はい、今日の会話に出てきた人物なら、いつでも模倣可能だそうです」

「わかった。……あ、Cクラスはそろそろリタイアする時間だよね。レオナルドとカルメンに連絡を取りたいな」

「分かりました。なんと伝えるんですか?」

「……Otto talenti のメンバーは、リタイアしたらどうなるの?」

 

 俺のこの質問にはクロームが答えてくれた。

 

「……姉妹校の生徒は今、表マフィアランドにいるよ。だから表マフィアランドに戻されるんじゃないかな」

「そっか……じゃあリタイアするフリをして、森のどこかに潜伏するように伝えてくれる? 詳しくは夜の会合で話すからって」

「了解です。すぐに伝えます!」

 

 そう言うと、獄寺君はトイレへと向かって行った。

 こっそり連絡するのにトイレはうってつけだよね。

 

 やがて夜になり、皆が眠りに着く頃。

 俺達3人はこっそりとテントを抜け出した……

 

 

 —— 3日目、深夜2時。森のどこか ——

 

 昨日に同じで、森のとある場所に集まった俺とOtto talenti のメンバー達。

 

 全員が揃った後、獄寺君が俺に向かって跪いた。

 それに倣い、他の7名も跪いていく。

 

「……10代目。Otto talenti の全員があなたの前に集合致しました」

 

 そう言うと、獄寺君は立ち上がり再び口を開く。

 

「Otto talenti 第一席、獄寺隼人です」

「……え? 今日もそれをやるの?」

「あ、いらないっすか? 様式美かと……」

「いいよ。もう皆の事覚えた……」

「……」

 

 話を進めようとすると、カルメンが泣きそうな顔でこちらを見ている事に気がついた。

 

 (……もしかして、あの挨拶をもう一回やりたいのか?)

 

「……やっぱり今日もしてもらえる?」

「分かりました! じゃあ二席からだ!」

 

 そうして、再び8名全員に名乗らせた。

 

「むふぅぅ〜♪」

 

 今日は噛まずに言えたカルメン。すごい満足気に笑っている。

 

「……じゃあ、今日の会合を始めようか」

『はいっ!』

 

 俺が会合の開始を宣言すると、全員が真剣な顔になる。

 やっぱり切り替えの早い人達である。

 

「まず、各クラスの動きは?」

「Aクラスは、島中のスポットを占有に動きました。今日だけで10箇所は新たなスポットを占有したと思います」

「Bクラスは昨日と同じだ。快適に暮らせるように拠点作りと食糧調達を頑張ったぜ」

「Cクラスは、予定通りに夕方にリタイアしました。ただし、龍園だけはリタイアせずに残っています」

 

 ……Aクラスはスポット占有を積極的にしているのか。

 そして、Cクラス。やっぱり全員でのリタイアはしなかった。

 きっと最終的には勝つつもりなんだろう。

 

 

「わかった。次は今日の進捗の確認だ。まずはドナートとアルロ。無線機の通信傍受は出来る様になった?」

「ええ。ついでに腕時計から無線機に通信するもできる様になりましたよ」

「おお。すごいね、ドナート」

 

 ドナートに賛辞を送ると、アルロがぴょんぴょん跳ねてアピールをしてくる。

 

「ボス、ボス! 私も頑張ったんだよ!?」

「ああ、うん。ありがとうね、アルロ。助かったよ」

「えへへ〜♪」

 

 褒めてあげると、アルロは嬉しそうに照れた。

 

「次にビアンカ。Aクラスの葛城君と、Cクラスの龍園君の声の模倣はできるんだよね?」

「もちろんですわ、ボス」

 

 俺の質問にビアンカは笑顔で頷いた。

 あの短い時間でそんな事ができるなんて、すごい才能だよなぁ。

 

「よし、じゃあ明日の行動だけど……ビアンカ」

「はい」

「明日、早い時間にドナートと接触して。そしてカスタムした腕時計を使って、Aクラスの葛城君に龍園君の声で通信をかけてほしい」

「分かりましたわ。どんな内容がよろしいでしょうか?」

「Aクラスの拠点から少し距離のある森のどこかに呼び出してほしいんだ。少し問題が起きたとか理由をつけてね」

 

 龍園君が無線機を持っているのは確認した。きっと葛城君と龍園君は無線機でやりとりをしているはずだ。

 だから、無線機に通信が来ても不審には思わないだろう。

 

「承知しました」

「よろしくね。そして、ドナートとアルロ。2人には嘘の呼び出しで葛城君がいなくなったら、葛城君のナップザックを調べて、初日に葛城君が持っていたという紙を見つけだしてもらいたい。で、その内容を獄寺君に報告してほしいんだ」

「了解です、ボス」

「わかった!」

 

 ドナートは紳士的に、アルロは元気よく引き受けてくれた。

 

「レオナルドはどこか高い所から島を見渡して、龍園君の潜伏先を見つけてほしい。できる?」

「もちろんですよ、ボス。私の視力ならば、遠目から見てもその人物が誰かは把握できますから」

「さすがだねぇ。よろしく」

 

 レオナルドは今日も自信満々の様だ。

 

「カルメン、君はAクラスの拠点に潜入する方法を考えてほしい」

「……洞窟に潜入ですか?」

「うん。入り口からでもどこからでもいいから、Aクラスの人達に気づかれずに洞窟に入り込む方法を見つけてほしいんだ」

「……御意。ボスの御心のままに」

 

 どうやらカルメンは、指示を受ける時には忍びモードに入るらしい。

 

「山本」

「おう」

「山本は水と食べ物を、潜伏しているレオナルドとカルメンに届けてあげてほしい。難しい時は俺も手伝うから」

「分かった。クラスの分を探す時にこっそり持っていくぜ」

「お願い、レオナルドとカルメンは届けてほしい場所を山本に連絡してあげてくれる?」

「了解ですよ、ボス」

「……承知っ」

 

 これで潜伏する2人の食糧も大丈夫だろう。俺達も手伝えるしね。

 

「獄寺君とクロームは、引き続き伊吹さんと綾小路君の見張りをお願い」

「了解です!」

「……わかった」

「よし、じゃあ皆、明日もよろしくね!」

『はいっ!』

 

 そして俺達は、暗闇の中それぞれの拠点へと帰ったのだった……



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