| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Dクラス、トラブルが起きる。

閲覧履歴 利用規約 FAQ 取扱説明書
ホーム
推薦一覧
マイページ
小説検索
ランキング
捜索掲示板
ログイン中
目次 小説情報 縦書き しおりを挟む お気に入り済み 評価 感想 ここすき 誤字 ゆかり 閲覧設定 固定
ようこそボンゴレⅩ世。実力至上主義の教室へ   作:コーラを愛する弁当屋さん

<< 前の話
目 次
次の話 >>
14 / 77
Dクラス、トラブルが起きる。

 

「おいおい! あれは正当防衛だっつうの! あっちが俺に殴りかかってきたから、反撃しただけだぞ!」

 

 須藤君が茶柱先生に食ってかかる。

 

(須藤君、また煽られて我慢できなくなっちゃったのか……)

 

 憤慨する須藤君を茶柱先生がなだめる。

 

「落ち着け、須藤。まだお前が悪いと決まったわけじゃない。だからPPの振り込みが保留になっているんだ。お前の処遇次第で、CとDのCPが変わって来るからな」

「まだ決まったわけじゃねぇって……じゃあ、いつ決まるんすか?」

「2日後の放課後に、CクラスとDクラスの数名で、生徒会の立ち合いの元に話し合いをする事になっている」

「は、話し合い?」

 

 須藤君の絞り出したような声に、茶柱先生が頷いて見せる。

 

「そうだ。Cクラスは訴え出た3名に加え、生徒がもう1人と担任教師が出てくるとの事。なので、こちらも5名で参加する。私と須藤は決まりだ。後3名、須藤の弁護する奴をクラス内で決めておけ」

 

 そう言った茶柱先生は教室から出て行った。

 

 しばらくの沈黙の後、軽井沢さんと佐藤さんが須藤君を睨みつけた。

 

「……須藤、あんた何やってくれてんのよ!」

「そうよ! せっかくCPが増えたのに、また0になっちゃうかもしれないなんて!」

「はぁっ!? だから俺は正当防衛をしただけだっての!」

「本当に? 須藤って普段から喧嘩っ早いし、信じられないし!」

「……なんだとぉ!?」

 

 女子2名と須藤君の言い合いに発展してしまいそうになるが、クラスのリーダーポジションである平田君と桔梗ちゃんが止めに入った。

 

「落ち着きなよ、3人共!」

「そうだよ。須藤君が悪いって決まったわけじゃないし……」

「……本当にそうかしら?」

 

 平田君と桔梗ちゃんのフォローに、水をさす人が現れる。……堀北さんだ。

 

「……どう言う意味?」

「簡単よ。たとえ正当防衛だったとしても、暴力を振るってしまった事実は変えられないわ。今回Cクラスが訴え出たのは、須藤君からの暴力。正当防衛を証明できたとしても、須藤君は悪くない……と証明するのは難しいんじゃないかしら?」

『……』

 

 堀北さんの言葉に全員が黙り込む。

 

 確かに堀北さんの言う通りだ。争点が暴力を振るった事であり、須藤君が手を出したのは事実な訳だから、須藤君を無実にするのは難しい。

 

 もしできるとするのならば、Cクラスが須藤君にわざと殴られた事を完璧に証明するしかない。

 

 ……そんなことができるのかな?

 

「……ちっ!」

 

 思わず俺も弱気になっていると、須藤君は舌打ちして教室から出て行ってしまった……

 

「須藤君!」

 

 慌てて俺も追いかけるが、「これから授業なのに……また評価下がんじゃない」という呟きがちらほらと聞こえていた。

 

 

 —— 中庭 ——

 

 須藤君は中庭のベンチに座って項垂れていた。

 

「須藤君!」

「……ツナ」

 

 声をかけると、一瞬だけ顔を上げたがすぐにまた俯いてしまった。

 

 仕方なく、俺は須藤君の隣に腰掛けることにした。

 

「……」

「……」

 

 お互いに無言でいると、須藤君から声をかけてくれた。

 

「……ツナ、すまねぇ。お前につまんねぇ喧嘩はすんな、って言われてたのによ」

「……何があったか、聞かせてくれないかな」

 

 そして、須藤君は昨日の事件について話し始めた。

 

 昨日の部活終わり、一昨日絡まれた3人の内の龍園君を除く2人に加えて、石崎というCクラスの生徒に絡まれたそうだ。

 

 須藤君は無視して帰ろうとしたが、無理やりに特別棟に連れて行かれたらしい。そして、特別棟で3人に暴行されかけて、正当防衛で相手に暴行をしたとの事。

 

「……あっちから暴行しようとしてきたんだね?」

「ああ、それがな……」

「どうしたの?」

 

 須藤君は一瞬言い淀んだが、ゆっくりと話し始めた。

 

「最初は一昨日みたいに煽ってきたんだよ。でもツナにも言われてたし、俺はなんとか無視しようとしたんだ。だけど、あいつらはそれが気に食わなかったのか、今度は2人が俺を抑えて、残りの石崎が俺の事を殴ろうとしてきたんだよ。それも俺の腕と足だけを狙ってだ」

「! 腕と足を狙って!?」 

 

 須藤君がコクリと頷く。

 

「……石崎以外の2人、小宮と近藤って言うんだけどよ。あいつらもバスケ部なんだ。日頃から俺の練習を邪魔したりしてきてたし、俺がレギュラーになったことが許せないんじゃねぇかな」

「……それが理由で、こんな事を?」

「わかんねぇけどな……でもよ、俺の体にしがみついて動けなくしようとしてた小宮と近藤がよ、小さい声でこう言ったんだよ。『……しばらくバスケができねぇ体にしてやるよ』……ってな」

「っ!」

 

 須藤君の言葉を聞いて、俺は無言で立ち上がった。

 

 急に立ち上がった俺を見て、須藤君が心配そうな顔になっている。

 

「……ツナ?」

「……安心して、須藤君。俺が……俺が絶対、君の無実を証明してみせる」

「! ツナ……」

 

 須藤君に顔を見せる事無く、俺は話を続ける。

 

「教室に帰ろう。とりあえず、授業には出ておいた方がいいよ」

「……おう、行くか」

 

 それ以降、俺達は会話をする事もなく、視線を合わせる事もしなかった。

 

 だって顔を見られていたら……激怒している俺の顔を見られてしまうから。

 

(Cクラスの奴ら、許せない。絶対に無実を証明してやる!)

 

 

 —— その日の昼休み ——

 

 昼休み。

 俺は綾小路君、堀北さん、桔梗ちゃんに昼ごはんを一緒に食べようと持ちかけた。

 

 いつもは嫌がる堀北さんも、なぜか俺の顔を見てすんなりと了承してくれた。

 

「ツナ君が昼ごはんに誘ってくれるのは初めてだね〜っ♪」

「うん、皆集まってくれてありがとう。実は、皆にお願いがあるんだ」

「……須藤の件か?」

 

 綾小路君の質問に頷いて返事をする。

 

「俺は須藤君の無実を信じて、その証拠を探そうと思う。それを皆にも手伝ってほしい」

「うん! もちろんだよっ」

「……俺も構わないぞ」

「……」

 

 桔梗ちゃんと綾小路君はすぐに受け入れてくれたけど、堀北さんは決めかねているようだ。

 

「堀北さん。この事件に屈したら、Dクラスは窮地に陥ると思わない?」

「……そうね、それはありえるわ」

「でしょ? わざと須藤君に殴らせたのなら、もし須藤君が退学にでもなれば、CクラスはもっとDクラスを狙ってくると思うんだ。だから、これを解決する事はDクラスの為にもなるはず。……どう?」

 

 堀北さんはため息を一つ吐き、渋々頷いてくれた。

 

「はぁ……わかったわ。退学者が出ると評価が下がる危険性もあるものね」

「本当? ありがとう!」

 

 こうして、俺は須藤君を助けるべく調査チームを結成した。

 

「あ、須藤君達は誘わないの?」

「須藤君本人が聞き込みとかしたら、脅して証言させたとか言われかねないからさ」

「そっか、確かにそうかもね!」

 

 池君も誘おうかと思ったけど、そうすると山内君も誘わないといけなくなる。正直、山内君に関する不信感はまだ拭い切れていなかった。普通に会話とかはするけど、大事な作戦に参加してもらうほど信用ができなかった。

 

「じゃあ、とりあえずは聞き込みをしまくろう! 部活後の事件だから、運動部の人達が目撃してる可能性が高いかもしれない」

「そうだな。まずは運動部から当たっていくか」

 

 そして放課後になると、俺達は運動部の人達に聞き込みをしまくった。

 しかし、2時間程聞き込みをしても、何の成果も得られなかった。

 

 —— 2時間後、カフェ ——

 

 2時間も聞き込みを続けた俺達は、一休みする為にカフェにやってきていた。

 

「……何の進展もなかったわね」

「うん……わざわざ学校を巻き込んで起こした騒動だし、Cクラスにも勝算があるとは思ってたけど……まさかここまで目撃者がいないとは」

「う〜ん。他クラスの子に達にもメールで聞いてみたんだけど、目撃者は見つからないね」

「……はぁ」

 

 皆で落ち込んでいると、誰かから声をかけられた。

 

「あっ! 櫛田さん、沢田君もだ! 何で落ち込んでるの?」

「あ、一之瀬さん!」

「あ〜、実はさ……」

 

 声をかけてきたのは一之瀬さんだった。

 一之瀬さんもクラスメイト何人かと一緒にお茶をしに来たようだ。

 

 俺は須藤君の事件について調査している事を話した。

 

「ふ〜ん、そうなんだ。事件の事はBクラスも聞いてたけど、私達の中に事件の事を詳しく知ってる子はいなかったよ。だから、きっとBクラスにも目撃者はいないだろうね。……神崎君はどう思う?」

「……そうだな。一応クラス全員参加のチャットで聞いてみるか」

 

 神崎君と呼ばれたイケメン君が、学生証端末を操作し始める。どうやらチャットで聞き込みをしてくれているようだ。

 

 しかし、綾小路君がBクラスの協力に反対しようとする。

 

「……待て。簡単に他クラスに頼むのは……」

「大丈夫だよ! 悪いようにはしないから! それに、沢田君には借りがあるし。これくらいは喜んで協力するって♪」

「ありがとう、一之瀬さん。……綾小路君、一之瀬さんの事は信用してもいいと思うよ?」

「……わかった。沢田がそう言うならかまわないさ」

 

 綾小路君が受け入れてくれたので、神崎君は再度、学生証端末を操作し始めた。

 

 

 数分後、神崎君が学生証端末を確認すると、すでに全員から返信があったようだ。

 

「……残念、やはり目撃者はいないらしい」

「そっか……」

「だが、情報を一つ手に入れたぞ」

「え、情報?」

 

 俺がそう聞くと、神崎君がその情報について話してくれた。

 

「須藤を訴えた内の1人、石崎についてだ」

「石崎君についての情報?」

「ああ。石崎は中学の時から札付きの悪だったらしい。しかも不良グループの頭をやっていたらしく、本当はトップでふんぞりかえってるような奴だそうだ」

「……そうなんだ。あ、でも今のCクラスではトップになれてないよね?」

「そうだな。Cクラスのトップは龍園だ。龍園は暴力でクラスメイト達を支配していて、今の石崎は龍園の雑用係って感じだしな」

「そっか……ありがとう! 貴重な情報だったよ」

「……気にするな。俺達のリーダーの決めた事だ」

 

 そう言い終えると、神崎君は座っていた席へと戻って行った。

 

「あっ、ごめんね。彼少し口下手なの! じゃあ私も戻るから。またねっ!」

「うんっ♪  またね〜」

「助かったよ」

 

 一之瀬さんは笑顔で手を振りながら席に戻って行った。

 

「……ねぇ」

「ん? どうしたの?」

 

 一之瀬さん達がいなくなった途端、堀北さんが口を開いた。

 

「私、少し気になってる人がいるのよ」

「気になってる人?」

「ええ、沢田君が須藤君を追いかけている時なんだけど。平田君と櫛田さんの発案で、クラスメイト内で目撃した人がいないかって話になったのよ」

「うん」

「それでその時、ほとんどの人が櫛田さん達に注目していたのに、1人だけ目を伏せていた人がいるの」

「え! 誰!?」

 

 堀北さんの発言に、桔梗ちゃんが驚いて反応した。

 

「……堀北、佐倉の事か?」

「! 気付いてたのね。そう、佐倉さんの事よ」

 

 綾小路君も気付いていたらしい。

 

 確か佐倉さんは、物静かでいつも1人で行動している子で、須藤君の隣の席だったはずだ。

 

「その佐倉さんが何か知ってるかもって事?」

「ええ。このまま闇雲に調べるより、可能性がある方を調べた方が効率的だわ」

「わかった! 私連絡先知ってるから、電話して聞いてみるね!」

 

 さすがは桔梗ちゃん。佐倉さんの連絡先もゲットしていたらしい。

 

 学生証端末で電話をかける桔梗ちゃんだが、一向に出る気配がない。

 

「……出てくれないみたい。明日、直接聞いてみようよ」

「そうだね。そうしようか」

「……じゃあ、今日はもうお開きか」

「そうね……私はもう帰るわ」

 

 お開きモードになると、堀北さんと綾小路君はスタスタと帰って行ってしまった。

 

「……私達も、帰ろっか?」

「うん、そうだね」

 

 今日やれる事はやり尽くしたっぽいので、俺と桔梗ちゃんもマンションへ帰る事にした。

 

 

 —— 翌日、昼休み ——

 

 昼休み、俺と桔梗ちゃんはどこかに行こうとする佐倉さんを呼び止めた。

 

「あ、佐倉さん! ちょっと待って!」

「! ……な、なんですか?」

 

 廊下を歩いていた佐倉さんは、桔梗ちゃんに声をかけられてビクビクしながら振り向いた。

 

「ごめんね、呼び止めちゃって。実は佐倉さんに聞きたい事があるの」

「……聞きたいこと、ですか?」

「うん。あのね、昨日の須藤君の事件の事なんだけど……」

「っ! ……わ、私は何も知りませんっ!」

「あっ! ちょっと待って!」

 

 走って逃げようとする佐倉さんの腕を桔梗ちゃんが掴む。

 

「……っ!」

「あっ!」

 

 しかし、勢い余って佐倉さんは転んでしまった。その時に、佐倉さんが持っていたデジカメが大きな音を立てて廊下の地面に叩きつけられてしまう。

 

「あっ!」

 

 佐倉さんが慌てて拾い、電源ボタンを押してみるが、一向に電源が入らない。

 

「嘘……壊れた」

「ご、ごめん。私が腕を掴んじゃったから」

「……いえ、私の不注意ですから。修理にだせば……あっ」

 

 修理に出すと言った途端、佐倉さんが微かに震え始める。

 

(どうしたのだろうか……)

 

「佐倉さん? 大丈夫? 修理代はもちろん私が出すよ?」

「い、いえ。ポイントはあるんですけど……」

「……?」

「その……これを買ったお店の店員さんがその……苦手でして」

「店員さんが苦手?」

「は、はい……あの人の目線……なんか気持ち悪くて。修理に出すのが怖いなと」

 

 佐倉さんは手を組んで震え始めた。

 

(……1人で行くのは怖いってことか)

 

「佐倉さん。じゃあ俺達も付き合うよ」

「……え?」

「修理に出しに行くのなら。俺達もついていくよ」

「あっ、そうだね! そしたら佐倉さんも少しは安心でしょう?」

「……い、いいんですか?」

 

 佐倉さんは遠慮がちに俺達の顔を見上げる。

 

「もちろん! 今日の放課後にでも行ってみようよ」

「うんっ♪ 佐倉さんは、放課後大丈夫?」

「……はい。よろしくお願いします」

 

 こうして、俺と桔梗ちゃんは佐倉さんと一緒に放課後に家電量販店に向かう事になった。

 

 

 —— 放課後、家電量販店 ——

 

 放課後、俺達は家電量販店にやってきた。

 

「佐倉さん、保証書持ってる?」

「え? ええ……」

「そっか」

「?」

 

 そんな会話をしつつ、俺達はサービスカウンターへと向かう。

 

 サービスカウンターには、30代くらいの男性店員が立っていた。

 

「いらっしゃいませ〜」

「!」

 

 お客への挨拶をした男性店員は、佐倉さんに視線を向ける。

 

(……確実にじろじろ見てるな。佐倉さんが言っていたのはこの店員だな)

 

 その証拠に、佐倉さんはまたも手を組んで震えている。

 

 佐倉さんは何とかサービスカウンターにカメラを保証書と一緒に差し出した。

 店員さんはカメラの状態を確認すると、なぜかカウンターに置かれた展示用カメラをチラッと見た。

 

(なんか、あのカメラ……本物のカメラのような気がする)

 

 そして、再度カメラを確認しながらぶつぶつと呟き出した。

 

「ああ〜、これは電源関係だなぁ。あ。でも保証書があるから、無料で新しい物と交換できますよ!」

 

 そう言うと、なぜかニタニタしながら一枚の紙を取り出した。

 

「ではこちらに、お名前と住所。そして……電話番号を記載してもらえますかぁ?」

「ひっ!」

 

 男性店員の言い方が嫌だったのか、佐倉さんは小さく悲鳴を上げる。

 

「……ほらぁ! 早く書いてください?」

「……は、はい……え?」

 

 佐倉さんが震えた手でペンを取ろうとするが、すでに俺が記入をし始めているので取るペンがなかった。

 

「……沢田君?」

 

 俺が記入している事に、なぜか男性店員が文句をツケ始めた。

 

「ち、ちょっと! このカメラはその女の子のだろう!? だったらその子に書いて貰わないと困るヨォ!?」

「いえ、メーカー保証がありますので、購入日も購入店舗もきちんと証明されてます。……問題はないですよね?」

「……くっ、まぁいいでしょう」

 

 書類を書き終えた俺は、気になっていた展示用カメラに手を伸ばした。

 すると、男性店員は慌てて展示用カメラをカウンターの中へ移してしまった。

 

「て、展示用のカメラには触れないでくださいよ!」

「……すみません」

 

 その後、俺達はさっさと家電量販店を後にしたのだった。

 

 

 

 —— 敷地内、カフェ ——

 

 家電量販店を出た俺達は、テラス風のカフェに来ていた。

 

「あの……今日はありがとうございました」

「いいよいいよ! 元々私の所為だったわけだし」

「気にしなくていいよ」

「はい……」

 

 まだ申し訳無さそうな佐倉さんに、桔梗ちゃんが話しかけた。

 

「佐倉さん、私達同級生なんだしタメ口で話していいんだよ?」

「あ、そういえばずっと敬語だよね」

「……わ、わかった。頑張ってみる、ね……」

「あはは、無理はしなくていいからね。……あ、ごめん。私ちょっとお手洗いに」

 

 桔梗ちゃんがお手洗いに行ったので、俺と佐倉さんの2人きりになった。

 

「……」

「……」

「……あ、あの」

 

 しばらく無言が続くかと思えば、佐倉さんの方から話しかけてくれた。

 俺から話かけてあげれば良かったなぁ……

 

「どうしたの?」

「さ、沢田君は、どうして修理依頼書に、私の代わりに記入してくれたの?」

「ああ、佐倉さんがあの店員さんをすごく怖がってたから。そんな相手に住所を教えたくないだろうと思ってさ。あ、法律の事は前に綾小路君に聞いた事があったんだよ」

「……そっか。あ、ありがとう」

 

 再び沈黙が訪れるが、佐倉さんがチラチラとこちらを気にしているのが分かった。

 

 今度は俺から話しかける事にしよう。

 

「佐倉さん」

「っ! は、はいっ!」

「何か、言いたい事がありそうな顔をしてるけど……どうかした?」

「! ……」

 

 俺にそう言われた佐倉さんは、モジモジしながら話を始めた。

 

「沢田君は……どうするのが正しいと思う?」

「……正しい?」

「うん……本当の事を言わなかったら、後悔するとは思うんだ。……だけど、私なんかが言った所で誰も信じてくれないかもって思ったら……怖くなっちゃって」

 

 佐倉さんの体がまた震え出した。

 

「……佐倉さん」

 

 俺は微笑みながら、なるべく恐怖心を与えないように佐倉さんに近づいた。

 

「! 沢田……君?」

「ありがとう。須藤君の為に勇気を出そうとしてくれて。本当に嬉しいよ」

「……うん」

「でもさ、須藤君の為だって事は一度忘れてみなよ」

 

 俺の発言がまさかの発言だったのか、佐倉さんは驚いた表情で目を見開いた。

 

「えっ? ど、どうして?」

「誰かの為じゃ無く、自分の為に証言をしてほしいんだ」

「……自分の為に?」

「うん。自分が後悔しない為に。証言する理由はそれだけでいいよ。須藤君の為に頑張るのは俺が引き受けるから。佐倉さんはそこまで考えなくていい。……そう考えたら、少しは気楽になるんじゃない?」

「う、うん……でも」

 

 佐倉さんは少しは気が楽になったようだが、まだ決心が出来ない様子。

 

「……自分の発言が信じてもらえないのが怖い?」

「……うん」

「大丈夫。俺はどんな事になっても、佐倉さんの見たモノを信じるよ! たとえ誰も信じなくても、俺だけはずっと君の味方で居続ける。約束する!」

「……沢田君」

「俺の事を、信じてみてくれない?」

「……わかった」

 

 佐倉さんは、目に涙を溜めながらそう言って微笑んでくれた。

 初めて見た佐倉さんの微笑みは、なんだか心が暖かくなるものだった。

 

「お待たせ〜、そろそろいい時間だし、今日は解散にしようか?」

 

 佐倉さんと微笑みあっていると、桔梗ちゃんがお手洗いから帰ってきた。

 

「おかえり、そうだね。そろそろ暗くなってきちゃうし」

「う、うん。わかった」

 

 佐倉さんは急いで目をこすりながら立ち上がった。

 

「じゃあ、今日はこれで解散っ♪  2人ともまた明日ね!」

「うん、また明日」

「また明日……」

 

 佐倉さんは俺達にペコリと頭を下げると、マンションに向かって帰って行った。

 

「……俺達も帰ろうか」

「うん♪ あ、ツナ君!」

「ん、何?」

「この後、ツナ君の家に行ってもいい?」

「うん。……え?」

 

 そして、そのまま俺は桔梗ちゃんと一緒にマンションに帰ることになった……



読んでいただきありがとうございます♪

今日はもう1話投稿すると思います!
<< 前の話
目 次
次の話 >>



 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧