| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法科高校の劣等生の魔法でISキャラ+etcをおちょくる話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二百七十六話

少女は歩いていた。

少女はじっと正面を見据えていた。

少女が、左右の薬指にはめた指輪を重ねた。

「ダブルバウンド。キャスト」

リムアリーシャが指輪と血印を使い、魔法障壁を展開する。

左手の薬指には奇跡の発動体である指輪型CAD。

右の薬指には奇跡の増幅器であるフォールドリング。

右手の甲には、敬愛する想い人の真名。

「ひれふしなさい。カンヘリアの名のもとに」

歩兵と思考戦車で組まれた方陣の中心。

砂の大地を踏みしめながら、少女が告げた。

それが合図だった。

味方の銃弾が敵に飛び込んでゆく。

正確に、精密に、敵の命を刈り取ってゆく。

敵の銃弾が全て返ってゆく。

撃ったものに、返ってゆく。

数人撃ち殺した後、キルスコアが停滞し始める。

敵も、どういうわけか正確に撃ち返してくるという事に気づいたのだろう。

撃っては即座に身を隠すようになった。

だだっ広い砂漠だが、起伏が皆無な訳では無い。

岩や、小さな砂丘があるのだ。

そこを障害物として撃ってくる。

リムアリーシャ側もダブルバウンドを展開し、思考戦車とオートマトンを前面に押し出した方陣を組んでいる。

「リム。辛かったらいつでもやめていいんだからね」

銃を前方に構えつつ、フィグネリアが娘に声をかけた。

「だいじょうぶです。お母さん」

リムアリーシャが、現状を打開する魔法を呼び出す。

「お兄さん。力をかしてください」

手の甲に刻まれた力ある記号が、熱を帯びたような気がした。

「フォノンメーザー!」

リムアリーシャの真上十数メートルの位置から放たれた、量子化した音波。

砂丘や岩もろとも、敵を薙いだ。

莫大な熱量をもって、敵を絶命せしめた。

「お疲れ様。リム」

「ダブルバウンドはこのままですすみます。たぶん、残りの4個集団と戦ってももつはずです」

「ありがとう。お前は自慢の娘だよ」














リムアリーシャの方陣から数キロ離れた場所。

そこでも銃撃戦が行われていた。

思考戦車とオートマトンとエネルギーバリアでつくった鉄壁のバリケード。

その内側にいる屈強な男たちが引き金を引いては身を隠す。

「エレンちゃん大丈夫ですかね」

「心配するな。俺の娘で若の弟子だぞ。なんなら今こうしてる俺達より安全だよ」

ここにエレオノーラはいない。

「わかっちゃいるんですけど、どうも魔法ってのはねぇ」

「無駄口より指を動かせ指をぉ」

3方向から向けられる銃弾。

鉄壁のバリケードといえど、包囲された状況では絶望的だ。

いつかは弾が切れる。

普通なら。

唐突に、右翼からの銃撃が止む。

しばらくすると、右翼の敵を表すグリットが減り始め、遂には全て消えてしまった。

『だいいちもくひょークリア』

「まだ行けそうか?」

『ぜんぜんよゆう!おとーさんたちは?』

「まぁ、持つだろう。これくらいなら」

『早めにおわらせるね!』

そう言ってエレオノーラが通信を切った。

その数十秒後、月明かりに照らされた前方の敵陣でおおきな砂埃が舞う。

『だいにもくひょークリア! のこりも急ぐね!』












「やっぱあんまよくないってこれ…」

一夏が眼下の惨状を見て頭を抱える。

「俺か?俺が悪いのか?血印の悪影響か?」

鏖殺。

圧倒的な力による殲滅。まさに巨像がアリを踏み潰すがごとき圧倒。

箒と円香に銃弾は効かない。

まず強力な干渉装甲がある。

魔法師なら皆誰もが無意識に展開する障壁だ。

それに加えて意識的な障壁。

いま二人が張っているのは単純な対物障壁だ。

仮にこの2つを抜いたとて、鋼気功によって強化された肉体が阻む。

逆に箒と円香の一撃は防ぐことができない。

頑強かつ魔法をよく増幅・伝達するサイコEカーボン製のカタナ・ブレイド。

その刀身にかけられた魔法は”圧切”。

エッジに展開された斥力フィールドによって、事象干渉力を切れ味に転化する魔法だ。

この二人の事象干渉力であれば、この地球上に存在する物質で斬れない物はないだろう。

そんな防御不可の一刀が確かな技術によって振り下ろされる。

包囲殲滅もできない。

フレンドリファイア覚悟のクロスファイアも、踏み込み一つ、居合一閃で突破される。

数人がかりで近接戦を仕掛けても、ナイフは通らない。

組み付いても膂力で薙がれ、蹴りの一撃が肉体を貫く。

そうして、音が消えた。

「終わったぞ。一夏」

「終わったよ。お兄ちゃん」

「ああ。お疲れ様。これでのこり3集団だな」

一夏が二人が飛んでくるのを待つが一向に地面を蹴らない。

「どうした箒?円香?」

箒に声をかけるが、一夏の声に反応しない。

円香は箒と一夏の間で視線を彷徨わせる。

「具合が悪いのか?」

と一夏はそうでないと知っていて聞いた。

箒から伝わってくる感情は昂り。

プシオンの輝きも明るい。

徐ろに、箒がムーバルスーツを量子化した。

砂漠に顕になる箒の裸体。

「クュルルルルルォォォォォォォォォン!!」

「は?」

遠吠えをあげ、その身を獣に変えてゆく。

髪が黄金色に染まり、4本の尻尾が伸びる。

鼻が伸び、地に伏せる。

全身に尾と同じ色の毛皮をまとう。

たかだか数秒で骨格から何から何まで変えてしまった。

箒が、箒だった獣が地面を踏みしめる。

もふっ、と円香を尻尾で巻取り。

ぽすん、と背に載せた。

だっ、とかけだした。

「ずいぶん、昂ぶってるみたいだな箒のやつ」

見た感じ大丈夫そうだな、と一夏は箒の後を追った。

次の目標集団めがけて駆ける箒。

数分で次の目標集団まで迫り、蹂躙を始める。

月明かりに照らされ、黄金に輝きながら。

防御するまでもなく、銃弾は当たらない。

アサルトライフルも、サブマシンガンも、拳銃も、駆けて跳ねる箒とその上にまたがった円香を捉えられない。

箒の牙が、爪が。

円香の刀が、魔法が。

敵を切り裂き貫く。

一夏が援護する間もなく、敵は殲滅された。

「クュルルル……」

徐ろに、箒が敵の一人に噛み付いた。

既に息絶えた、生暖かい死体の頸を。

「箒?」

ばき、ぐしゃり、ごきん。

”ごくん”。

「よせ箒!」

一夏が急降下し、箒の首に掴みかかる。

短い手で、太い首を抑える。

締めることはしないけれど、制止するに十分な力で。

「吐け!」

「グルルルルルゥ」

箒が何故止める?と講義する。

『私は、お前と一緒になりたい。お前が人を喰う存在なら、私も人を喰う存在でありたい』

再び敵兵の死体に喰らいつこうとする箒の首を抑える。

「落ち着け。それはお前の、人としての本心か? 獣の本能に流されていまいか?」

『どちらも。だ』

「そうか」

一夏はどうすればいいかわからず、手を緩めた。

「一度、人の姿に戻ってくれ」

箒が再び尻尾で円香を巻取り、背中から下ろす。

「寒いな」

箒がムーバルスーツを量子展開した。

黒いスーツ、差し色の銀、金色の髪と尾。

血に濡れた、口元。

「どうだ?意識ははっきりしているか?」

「ああ。問題無い」

「さっきの、お前の食人衝動はまだあるか?」

「落ち着いたが、なくなってはいないな」

「…………美味かったか?」

「嫌いな味ではないな」

「そっかぁー」

一夏は天を仰ぎ、空に浮かぶ月を見上げる。

「まどかー」

「なに?お兄ちゃん?」

「お前はこうなってくれるなよ。俺や箒みたいには」

円香が一夏の口元を見て、応えた。

三日月のように歪んだ口元を。

歓びを押し込めきれぬ顔を。

「そう言う割には、お兄ちゃん嬉しそうだよ?」

「ああ。歓しいよ。悔しいことに。恋人が人外に至ったことが。俺を追ってきてくれたことが
悲しいほどに、嬉しいよ」











side in

本日の収穫。

レイヴ用”燃料”11人。

ロリsと箒の殺人経験。

それと、箒がヒトとヒト以上の間の壁を突破した。

嬉しくもあり、悲しくもある。

少し前からヒトの粋から逸脱しつつあったが、今回の事は契機となっただろう。

でも、それでも喜びのほうが勝ってしまう。

「なぁ箒。これをどう思う?」

セルピニシア地下のレイヴプラント。

病室のように並べられたベッド。

その上に横たわる、11人の”燃料”たち。

「きっと、これはおぞましい事なのだろうと思う。
人間の魂を燃料に変える禁忌なのだと思う。
でも、倒した敵をただ殺すだけじゃなく、なにかしらの方法で糧にできるのだと思えば」

箒はそこで一瞬止まり、言葉を選んでいた。

「それは自然の食物連鎖と変わらないのかもしれない」

「獣の論理だな」

と、そこで俺と箒をまとめて抱きしめる影。

「それは真理だよ。生き物としての」

束さんが、いつになく優しい声色で続ける。

「生産性なく無為に殺す戦争の方がよっぽど悪だよ。
だからいっくんも箒ちゃんも間違ってない。
愚かな人類より、君たちはより高次に在るんだよ。
誇っていいんだよ。人を超えた事を」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧