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溜息の時計

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第一章

                溜息の時計
 バーで飲んでいてだ。
 サラリーマンをしている斎藤譲は一緒に飲んでいる職場の同僚であり交際相手でもある田中奈央にふと言われた。
「ねえ、あの人だけれど」
「あの人?」
「あちらの席のね」
 奈央は譲に自分達がいる二人用の席から少し離れた二人用の席にいる波がかった黒い腰まである髪に膝までのタイトスカートと奇麗な赤のブラウスを着た二十代後半と思われる女性を見て話した。切れ長の長い睫毛の目に紅の唇で面長の白い顔で鼻が高い。顔には彫もある。
「物凄い奇麗な人よね」
「女優さんかな」
 譲もその女性を見て言った、譲は卵型の顔で黒髪を短くしている。ドングリの様な目で口は小さく耳は大きい。背は一七〇位で痩せている。スーツ姿である。
「あの人は」
「そんな感じよね」
 奈央も言った、黒い髪の毛を肩の長さで切り揃えていてアーモンド形の黒目がちの二重の目と色白のやや面長の顔に丸めの鼻を持っている。背は一五〇位でラフなズボン姿だ。
「見たら」
「ああ、滅茶苦茶美人だな」
「大阪もね」
 奈央は今自分達がいる街のことも話した。
「撮影でよくね」
「女優さん来るしな」
「芸能事務所もあるしね」
「ローカル番組もあるしな」
「結構タレントさんも来るけれど」
 それでもというのだ。
「そうした人かしら」
「まあ吉本はないな」
 関西の芸能事務所といえばここであるがというのだ。
「あそこは」
「吉本はお笑いだからね」
「何て言ってもな」
「あそこはないわね」
「そうだよな、どう見てもお笑いって風じゃないから」
「あの人はな、しかし見れば見る程」
 譲はその人を見つつさらに言った。
「本当にな」
「美人さんね」
「本当にな」
 梅田のバーの中で話した。
「譲君が浮気しないか心配な位よ」
「いや、あの人一六五はあるから」
 譲はその美人の背を見て話した。
「ちょっとな」
「そういえば譲君背の高い人は」
「タイプじゃないからね、美人よりも可愛い系だしそもそも浮気はね」
「しないわよね」
「だからね」
 そうした性分でもないというのだ。
「僕はあの人でもね」
「美人さんだなでなのね」
「終わりだよ」
「そうなのね」
「そうだよ、しかしあの人」
 ここでまただった、譲はその美人をあらためて見て奈央に話した。
「何かやけに溜息つくね」
「そうね、どうしたのかしら」
「あっ、またね」
 一緒にマティーニを飲みつつ話した。
「あの人溜息出したよ」
「一人肘をついてね」
「何かよくないことがあったのかな」
「そうかもね、誰か待ってるとか」
「そうかな」
「まあ兎に角溜息多いわね」
「そうだよね、何か」
 譲は美女が矢鱈と溜息を出すので言った。
「本人さん気付いていないかもだけれどね」
「それでもなの」
「一定の間隔で」
 それでというのだ。
「出してるね」
「そうね、また出したわよ」
「何か」
 譲は美女を見ながら奈央に話した。 
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