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友の死

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第二章

「そなた達のことはな、だからな」
「刑部殿をですか」
「これからな」
「その様にします」
「ではな」 
 こう彼に告げてだった。
 康政に任せた、康政はすぐにだった。
 自害し介錯の後で埋められたが見付けられ首実検を終えた刑部即ち大谷吉継の首と会った、吉継の首は病で腐っていたが。
 その首を見てだ、康政は言った。
「ご健闘聞いておりますぞ」
「実に手強かったぞ」
 見守る家康が言ってきた。
「刑部はな」
「そうですな」
「兵は少なかったが」 
 それでもというのだ。
「采配も勇もな」
「どちらもですか」
「天晴であった、誰よりも勇んで戦い」 
 関ケ原でそうしてというのだ。
「見事に戦っておった」
「そうでしたか」
「三河武士にもじゃ」
 家康が率いその手足をなってこれまで共に戦ってきた彼等天下にその武辺を知られた彼等にもというのだ、当然康政もそこにいる。
「後れを取らなかった」
「まことにでござる」
 家康を傍で護る大久保彦左衛門も言ってきた、小柄であるが精悍である。
「大谷殿の戦いぶりはでござる」
「見事であられたか」
「それがしも危うかったです」
 自慢の槍を手にして話した。
「大谷殿の軍勢と戦い」
「お主程の武辺の者がか」
「そうでありました」
「そうか、これだけの病であられても」  
 病で顔が崩れている彼のその顔を見て述べた。
「全くか」
「おそらく目もまともに見えていなかったであろう」
 家康もその顔を見て話した。
「この崩れ方ではな」
「腐ってきているので」
「業病でな、馬にも乗ってなかったしな」
 馬に乗るのが大将だがだ。
「輿に乗っておってな」
「戦っておられましたか」
「そうであった」
「馬に乗るのが好きな方でしたが」
「もう馬に乗れるまでだ」
 そこまでというのだ。
「病に蝕まれていたのじゃな」
「そうですな」 
 康政もそれはと応えた。
「そうでないとです」
「馬に乗っておったな」
「そうでした、しかし」
「それでもな」
 馬に乗れぬまでに病に蝕まれてもというのだ。
「しかも碌に目も見えぬ」
「そこまでであっても」
「見事にじゃ」
「戦われたのですな」
「そうであったわ」
「そうでしたか、悔いはないでしょう」
 康政はここまで聞いて述べた。
「もう」
「そう言うか」
「はい、では」
「弔うこともか」
「そしてよいでしょうか」
「任せると言った」
 家康は微笑んで答えた。
「武士に二言はないな」
「そう言って頂けますか」
「左様、ではな」
「それがしが弔わせて頂きます」
 康政は家康の心遣いに感謝した、そうしてだった。
 首実検の後で自身の家臣達と共に吉継を弔うことにした、その時にだ。
 家康がいたのを見て言った。
「殿、これは」
「ただおるだけだ」
 家康は康政に微笑んで答えた。
「気にするでない」
「そうですか」
「うむ、しかしな」
 弔われる吉継の首を見て言うのだった。
「この病でな」
「戦われるとは」
「わしも驚いた、刑部殿の病はな」
「誰もが知っていました」
「常に頭巾を被っておられたからな」
 病を人に見せぬ為にだ、彼は病を得てから常にそうしていたのだ。 
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