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池のほとりの

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第二章

「私をです」
「妻に迎えてもらうのね」
「その様にしてもらいます」
「では歌垣に」
「出させてもらいます」
「わかったわ、では一緒にね」
「参りましょう」
 こう話してだった。
 嬢子もまた歌垣に出た、二人はそれぞれの両親と共に出たがそこでだった。
 お互いに会った、それぞれ普段から着ている神主と巫女の服であった故にこのことからもお互いのことがわかった。
 それでだ、郎の方から言った。
「貴女が安是の」
「貴方が寒田の」
 嬢子も言った。
「そうなのですね」
「はい」
 郎は正直に答えた。
「そうです」
「私もです」
 嬢子も正直に答えた。
「そちらから来ました」
「そうですか、ではこれから」
「歌を詠み合いますか」
「そうしましょう」
「おお、これは」
 二人の親達は忽ち惹かれ合うものを見せた彼等を見て話した。
「いいな」
「そうですね、早速ですから」
「では我等はここから離れよう」
「後はこの二人に任せて」
 気を利かせて場を後に歌垣に出ている者達と楽しく過ごしに向かった、そしてだった。
 郎と嬢子は二人で歌を詠み合って楽しい時を過ごした、そうして歌垣が終わる時に共に名残惜しそうに言い合った。
「終わったので」
「はい、仕方ないですね」
「ではまた」
「お会いしましょう」
 名残惜しく分かれた、そしてだった。
 二人は毎日欠かさず会い歌を詠み合う様になった、それでだった。
 ある日郎は親達に言ったのだった。
「もう一刻も待てません」
「あの娘とか」
「一緒になりたいのね」
「はい、宜しいでしょうか」
 こう言うのだった。
「ですから」
「まあ待て、気持ちはわかるが」
「物事には順序があるわ」
 両親は息子の気持ちを受け取ったうえで冷静に答えた。
「あちらの返事も聞いて」
「そして式を挙げるにしてもだ」
「一つ一つ順序があるから」
「落ち着け、いいな」
「では」
「うむ、まずはだ」
「あちらの返事を聞くことよ」
 こう言って息子を止めてだった。
 嬢子の両親に事情を話すと二人もこう答えた。
「実はこちらもです」
「娘がご子息とどうしてもとです」
「そう言っていまして」
「社を出て行きかねない程です」
 こう言うのだった、それではとなってだ。
 お互いの親達はそれならとなって話を進めることにした、そうしてだった。
 二人は結婚することになった、その段取りを進める中で。
 寒田と安是の丁度中間の場所にだった。
 何時の間にか二本の松の木が生えていた、それを見てだった。
 人々は首を傾げさせた、そのうえで話した。 
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