| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

白VS黒

「痛たた……」

「大丈夫か? カルラ」

 試合後、私は一度保健室へ行ってきました。最後の鈴さんの一撃を左腕で受け、更にはその至近距離での爆発。折れてはいませんでしたが簡易検査でひびが入っているかもしれないとのこと。
 それなのに私は無理を言ってアリーナの生徒専用の応援席にいます。何せ次の試合のカードは……

一回戦Aブロック第二試合
織斑 一夏&シャルル・デュノア ペア 対 ラウラ・ボーデヴィッヒ&岸原 理子 ペア

 これを見逃したら後悔してしまいますからね。
 岸原さんはクラスメイトですが、どうやら組める人がいなかったみたいです。ISは予想通り『ラファール・リヴァイブ』を使用っと。

「大丈夫ですよこのくらい」

「すまん、あの段階で鈴かセシリアは落としている予定だったのに」

「作戦は作戦、実戦は実戦です。作戦通りいけば最もいいですがそうは行かないのが実戦ですよ。対応し切れなかった私たち二人のミスです」

「し、しかしだな……」

「箒さん?」

 ニコニコ

「う……いや、しかし……」

「箒さん?」

 ニコニコニコニコ

「うう……」

「ほ・う・き・さ・ん?」

 ニコニコニコニコニコニコニコニコ

「うううう………つ、次やる機会があれば負けないように頑張ろうな」

「はい、頑張りましょう」


『それでは、始めてください』


 箒さんにそう答えたとき、スピーカーから試合開始の声が聞こえました。

 開幕早々、一夏さんが仕掛けた。フェイントも何も無い一直線、最短の距離を『瞬時加速』によって一気に駆け抜ける。それを見たボーデヴィッヒさんが右手を突き出した。

「AICか……」

 箒さんの言うとおり、猛スピードで突っ込んだ一夏さんの動きがある位置でピタリと止まる。そして『シュヴァルツェア・レーゲン』の大口径レールカノンが一夏さんをほぼ零距離で捉えた。
 その一夏さんの真後ろから頭を飛び越えるように現れたのは『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』を纏ったデュノアさん。六一口径アサルトカノン『ガルム』の炸裂弾をボーデヴィッヒさんに浴びせ掛けます。
 デュノアさんの射撃によってレールカノンの射線がずれて砲弾がアリーナのシールドに当たり爆発した。
 更に撃ち込んでくるデュノアさんに押されてボーデヴィッヒさんが急後退し、それを許さないようにデュノアさんが左手にアサルトライフルをオープンする。

「やはり早いな」

「ええ、私よりも更に」

 箒さんの声に頷く。武器を量子化してから次を展開するまではどんな慣れた人でも1秒近くかかります。それをデュノアさんはほとんどラグ無しでやっている。それは即ちどんな戦闘状況でも対応できるということ。長期戦に圧倒的アドバンテージを誇り、常に相手に有利な武装で戦えるということですね。
 そのデュノアさんが一瞬動きを止め、先ほどまでいた位置に銃弾が叩き込まれた。
 銃弾の飛んできたほうを見ると岸原さんが狙撃ライフルを展開してアリーナのかなり後方に陣取っていました。前衛は完全にボーデヴィッヒさんに任せて自分は援護に回ると、そういうことでしょう。
 それ以前にボーデヴィッヒさんが岸原さんなんていないように扱っているからかもしれません。

「なんだ? どうなっている」

 専用機のない箒さんは銃弾を追えないので私に尋ねてきました。

「岸原さんが狙撃ライフルで援護しました」

 簡潔に伝えて状況を逐一記録します。
 岸原さんはクラスで3番目、学年で上位10人に入る狙撃手。上位5人は専用機持ちなので実質TOP5の使い手です。
 撃つ回数は多くないけど確実に当たるタイミングで、もしくは邪魔になるタイミングで狙撃しています。
 一夏さんとデュノアさんは何度かそのままボーデヴィッヒさんに立ち向かっていましたが、あるタイミングでデュノアさんが離脱して岸原さんに向かって動き出しました。
 なるほど、先に岸原さんを倒そうという考えですね。
 ボーデヴィッヒさんの思考上相方を助けると言う考えは無いでしょうから、確実に2対1に持ち込もうと言う魂胆でしょう。

 流石にこれには岸原さんも援護するわけには行かず、狙撃ライフルを量子化してアサルトライフルと近接ブレードを展開、デュノアさんを迎撃します。しかし岸原さんの狙撃以外の成績は中の中から上と言うところ。流石にデュノアさんが相手だと分が悪すぎますね。

 しかしその間は一夏さんが一人でボーデヴィッヒさんを抑えなければ行けないということ。

 一夏さんがボーデヴィッヒさんに肉薄する。遠距離攻撃手段が無い一夏さんは一度距離を取られるとレールカノンとワイヤーブレードの餌食になってしまう。それが分かっているのか、両手のプラスマ刃とワイヤーブレードの波状攻撃を受けつつも距離を離すという愚策は取らない。
 右手のプラズマ刃は『雪片弐型』で、左手はプラズマ刃ではなくボーデヴィッヒさんの腕自体を払いのけることで防ぎ、ワイヤーブレードは避けるのと両足をうまく使って弾き返しています。
 と言っても足ではそんなに弾き返せるものではありません。足のスラスターは姿勢制御でも重要な位置を担っていて、つまり足で弾き返せばそれだけ隙が出来てしまう。
 
 その時、一夏さんたちのいる位置と違う位置が爆発、二つのISが躍り出る。ネイビーグリーンの『ラファール・リヴァイヴ』と鮮やかなオレンジの『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。追われているのは当然、『ラファール・リヴァイヴ』で、まともに反撃も出来ず、防戦一方に見えます。
 とにかく武装の切り替えが早い。更には近接、射撃、防御に全く溜めという行為がデュノアさんには無い。攻守に入る動作はあるけどその予備動作、準備というものが無い。つまり武器を切り替えた瞬間にはその武装で攻撃を仕掛けてきている。
 しかも距離も絶妙です。相手が諦め切れない位置に陣取って、常に相手の先を取る。
 つまりジャンケンで言えばデュノアさんは手を出した瞬間、その手を変えることが出来る。それならば普通の……ましてやIS学園に入って数ヶ月の人がそれに勝てるわけが無い。デュノアさんに勝つには最低でも二つ同時に行えなければならないから。

 これ……機体が第三世代でも余程上手く立ち回らないと負けますね。

「一夏!」

 箒さんの叫びで視線を戻すと、AICに再び捉えられた一夏さんがいました。その瞬間『シュヴァルツェア・レーゲン』から6つのワイヤーブレードが射出されて、動きの止まった『白式』を切り刻む。
 装甲の3分の1近くを吹き飛ばされ、更にあの状況ではシールドエネルギーもかなり削られたでしょう。

 もう一回食らえば落ちる。そのくらいアリーナ席からでも分かります。

 それでも『シュヴァルツェア・レーゲン』の攻撃は終わらず、右手をワイヤーブレードで拘束するとそのまま捻りながら地面へと叩きつけた。

「一夏! くっそぉ!」

 箒さんが観客席からアリーナへと飛び出そうする。

「箒さん落ち着いて!」

 慌てて腰にしがみ付いて引き止める。というよりここからじゃシールドがあって入れないんですってば!

「しかしあれはやりすぎだ!」

「私たちが喚いたところで変わりません! 今は一夏さんたちを信じましょう!」

「くぅ……!」

 箒さんが悔しそうに俯くと共に再びその場に座った時、アリーナが沸いた。見るとボーデヴィッヒさんが一夏さんを踏みつけて動けないようにしています。
 その状態でレールカノンを向ける。

 避けられない様にしてから叩き込むつもりですか!?

「あ……」

 箒さんの声が聞こえる。アリーナの誰もがここで終わりと思った。

 思っていた。


ガァン!


 次の瞬間にはデュノアさんがボーデヴィッヒさんに構えた盾で体当たりを食らわして弾き飛ばした。

「ほ……」

「よかった……」

 私と箒さんがほぼ同時にそう言う。あれ? 岸原さんは?

 確認すると既にシールドエネルギーが切れたのでしょう。アリーナの端には各部の装甲を剥ぎ取られて行動不能になり、膝をついている『ラファール・リヴァイブ』がいました。

 あの短時間でカスタム機とは言え同世代を打ち負かすなんて……

 デュノアさんはそのまま弾切れになったのかアサルトライフルは投げ捨てて、右手にショットガン、左手にマシンガンを展開してそのまま戦闘に移行していく。流れとしては一夏さんがワイヤーブレードを掻い潜り攻撃を仕掛け、デュノアさんがその援護。

 その二人の猛攻を受けてもボーデヴィッヒさんは眼帯を取ることなく受け流し、更に苛烈な攻撃を仕掛けている。ここまでして眼帯を取らないという事はやっぱり何か理由が……

 そう考えたときにアリーナが文字通り揺れた。観客の歓声が一瞬だけ全ての音を消し去ります。

「『零落白夜』……」

 一夏さん、一気に勝負をかけるつもりですね。さて、ボーデヴィッヒさんのAICをどうするのか……
 ボーデヴィッヒさんが右腕を伸ばしてAICを発動させた……と、一夏さんがAICによってではなく、自身で急制動をかけて止まる。
 と思ったら急加速でその場から転進することでAICを避けた!

「上手い!」

 それを鬱陶しく思ったのかAICに加えてワイヤーブレードが加わった。流石に避けきれず、当たりそうになったワイヤーブレードが飛来した弾丸によって弾き飛ばされる。

 デュノアさんが牽制と一夏さんの防御を同時に行いながらアリーナの上空を飛翔しています。
 一瞬デュノアさんに気を取られたボーデヴィッヒさんを見て一夏さんが一気に間合いを詰めた。

 そしてその剣先は足元から正面、正眼の構えに。なるほど、腕の軌道を読まれないための突きですか。
 それでもそれは……

 再度AICによって一夏さんが動きを止められた。そう、腕にこだわらず本体を止めてしまえば同じこと。

 ま、そこまで考えての突撃でしょうけどね。

 AICの発動で止まったボーデヴィッヒさんに向けていつの間に接近していたのか、デュノアさんが零距離でのショットガンの6連射を叩き込みました。

 流石の第三世代型でもあの距離で無事でいられるはずがありません。左肩のレールカノンが耐えられずに赤い炎と共に爆散する。

 その隙を逃さずAICから解放された一夏さんが迫る。決まっ……

 あれ?

 『零落白夜』のエネルギー刃が小さく……ってまさかエネルギー切れ!?
 あれだけペース配分の練習していて何で本番でミスするんですかもう!

 そしてその隙をボーデヴィッヒさんが逃すはずもなく、動きの止まった一夏さんの懐に向けて漆黒の影が飛び込んでいく。

 そして漆黒の影からの煌き、プラズマ刃が一夏さんの『白式』に襲い掛かった。
 『零落白夜』が切れたということはシールドエネルギーは限界ギリギリ。つまりどんな攻撃でも受けたらその時点で負けが決まる。
 一夏さんはただの近接ブレードに戻った『雪片弐型』でその手刀をはじき続けます。

 デュノアさんが援護に入ろうとしたところにもワイヤーブレードで牽制されて近づくことができない。

 そしてそのデュノアさんに一瞬気を取られたのか、一夏さんの動きが僅かに鈍りました。
 戦いの最中の集中の乱れは自身の破滅を意味します。その一瞬でボーデヴィッヒさんの左腕は確実に一夏さんを捉えていた。

 そのプラズマ刃が当たった瞬間、一夏さんが『白式』と共に地面に落下していく。
 あれ? シールドエネルギーってまだ……

「いち……か……」

 隣の箒さんが信じられないという声を上げるのを聞いた。アリーナの客席にも一気に沈黙が訪れます。

 皆さん忘れてるようですね。今回のトーナメントは2対2です。
 アリーナにはまだその名の通り『疾風(ラファール)』が残ってるんですよ?

 デュノアさんが一気にボーデヴィッヒさんとの距離を詰め……あの速度は!?

「まさか『瞬時加速』!? そんな……先週まで使えなかったのに」

 この戦いで覚えたとでも言うんですか!?
 器用過ぎですよもう……

 デュノアさんの動きに流石にボーデヴィッヒさんも取り乱したように見えましたが、すかさず右手を出してAICを発動させようというのは流石です。

 ですが……忘れてはいけないんですって。今回は2対2なんですよ、ボーデヴィッヒさん。

ドン!

 どこからか聞こえた銃声と共にボーデヴィッヒさんの体が揺らぐ。銃声の元には……地面へと落下したはずの一夏さん。
 いえ、地面には落下したんですけどね。シールドエネルギーが切れて無かっただけ。と言っても本当にギリギリでしょう。
 そしてあの時デュノアさんの弾切れと思っていたアサルトライフルは残弾あり。そしてこの展開まで見込んでのクローズではなく投げ捨てるという先見の明。同型スペックなら間違いなくデュノアさんは1年生最強を誇れるでしょう。

 そしてデュノアさんは懐に。第3世代に通じる第2世代の最強であり最凶兵器と言ったらあれしかないですね。

 六九口径パイルバンカー、『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』……通称『盾殺し(シールド・ピアース)』。
 予想通り、デュノアさんの左腕の盾の内部がはじけ飛ぶ。パイルバンカーとリボルバーが姿を現し、その先端を『シュヴァルツァ・レーゲン』の腹部へと叩き込んだ!

 その単純さから相手にばれやすく決まることは少ないですが、威力は第二世代型では他の追随を許さない。そしてそれは第3世代の『シュヴァルツァ・レーゲン』でさえも、零距離からの一撃でアリーナの壁まで一気に吹き飛ばします。

 さらにデュノアさんはボーデヴィッヒさんが立て直す前に『瞬時加速』で肉薄し、もう一度、さらにもう一度と叩き込む。
 リボルバー機構が可能とする連続発射。決まれば相手のシールドエネルギーをほぼ削りきれますが、近づかなければ命中することはほぼないというハイリスクハイリターンな武装。

 いくらISが防いでくれるとは言っても衝撃全てを防いでくれる訳ではありません。衝撃を殺し切れずにボーデヴィッヒさんの体が傾いた。
 更にそれでは留まらずISにも紫電が走り、強制解除の兆しが見え始めます。

「勝ッ……!」

 私たちがそう思った。その場にいる誰もがデュノアさんの勝利を疑いませんでした。

「あああああああああっ!!!」

 その思いがアリーナに響き渡る叫び声で掻き消された。その声の主はボーデヴィッヒさんから発せられたもの。
 『シュヴァルツェア・レーゲン』から激しい電撃が放たれすぐそばにいたデュノアさんが弾き飛ばされます。

「い、一体何……が……」

「あ、あれは……まさか……」


 箒さんが上げかけた声を引っ込める。そして私はその光景から目をそらすことは出来ない。
 一度……一度だけ資料の映像で見たことがある……あれは………でもあれは……!

「『VT……システム』!」

 それでも現実は変わらない。『シュヴァルツェア・レーゲン』はどんどんその姿を変えていきます。
 最早変えていくなんて生易しい表現ではなく、変異。アメーバのような微生物が姿を変えるように、子供が粘土で作った作品を崩し、作り直すかのようにボーデヴィッヒさんを中に取り込み、黒い球体へと姿を変えていく。

 『シュヴァルツェア・レーゲン』は既にその原型を留めておらず、球体が脈動しながら地面へと降りていき……そしてそれが地面についた瞬間に、ものすごいスピードで何かの形を作り始めた。

 作られたのは黒いISに似た何か。

 何かは分からない。
 人間的な体とISらしきもの、頭部にはフルフェイス型のバイザーが赤い光を放っている。しかし他は黒一色である。簡単に言えばものすごい簡単なプラモデルの素組み。それが一番分かりやすい。
 そしてその右手には刀に近い近接ブレードを持っている。

「カルラ、あれを知ってるのか?」

 箒さんの言葉が聞こえる。聞こえるだけ……声が出ない……

「カルラ? おい、どうした! 顔が真っ青だぞ!?」

 そうですか……今私は真っ青です……か……

 意識が遠のく……


 次に視界が歪む……


 意識が闇に落ちる……


「カルラ! おいカルラ!」


 箒さんの声が遠ざかり…………消えた…… 
 

 
後書き
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます。  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧