ロンドン郊外の英国魔導学院【完結】
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妖精の存在と壁の崩壊
どうして?こんな……。どうして……?誰かが何かをするにしてもこの状態というのはあまりにも酷過ぎるのではないだろうか?まるで廃墟のようにあちこちに破壊の痕が残っているのだ。それによく見回すとところどころに見慣れない道具のようなものが置かれていたりする。学院長に何かがあったのかしら?学院長の部屋に行ってみれば何か情報を得られるかもしれないと考えて部屋に向かったもののそこは空っぽだった。そして机の上に一通の手紙が残されていることにも気づいたのだ。
私は急いで手紙を手に取った。封筒の中には学院長が書き残したと思われる文章があった。それを読むにつれ身体が冷たくなっていくような感じを覚える。そして最後に記されていた名前を見て驚愕するのである。
そこにははっきりと『エドワード』と記されており、その名前を頭の中で反すうさせる。そんなことあるわけがないという想いに駆られるのだ。だけど、そうだとしか思えない状況なのであるから信じない方が無理というものだろう。しかし信じられなくて私は呆然として立ち尽くしてしまうしかなかった。
私はふらついた足元を立て直し、その場にしゃがみ込んで両手を膝に置いて顔を埋めた。一体、なぜ、どうして?いったい何があったというのだろう……?しばらくそのままの状態で動けずじまいでいたが、やがて意を決して立ち上がったところで、誰かが部屋に入ってくる気配がしたので振り向くと、それはアスタ-だったのである。彼もまた同じようにショックを受けているらしくひどく落ち込んでいるように見えた。そんな様子を目の当たりにして思わず私は聞いてしまった。
「一体、何が起こっているのですか?」「わからないわ」アスターが答える。「ただ一つ言えることはこの有様の原因はきっとあいつよ。それだけは確かなようね」アスターの言葉に驚いて目を見張る。あいつ?あいつとはエドワードのことなのか?「エドワードさんがどうして学院を襲ったりしているんですか?」と聞いてみたものの、返事はないようだ。「とにかく一度学院に急ぎましょう。話はそれからよ」
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***
僕は目の前に立っている彼女の姿を見ながら考えていた。彼女がこうしてまたここに戻ってきた。彼女は僕にとってかけがえのない存在であり愛しい恋人だ。だから僕はこうしてまた彼女と再会できたことは嬉しくもあり安堵できる出来事ではあったのだけど、それと同時に彼女に対して複雑な感情を抱くこともあった。彼女が戻って来たということはつまり、エドガーが再びこの世界に戻ってくるということでもなるからである。だけど僕にそれを止める術などなかったし、止めてはいけないのだということだけはわかった。僕は彼女が無事であればそれでいいんだと自分に言い聞かせていた。そうして僕は彼女から目が離せなくなってしまったのだけれど。
僕の視線を受けて、リディは僕の方を見上げるようにして微笑む。
「心配かけてごめんなさい」彼女が僕を思って謝罪してくれることに喜びを感じるのに、同時に胸が痛むのはなぜだろうか?それは僕自身わかっていることだったけれど認めたくなかったことなのだと思う。彼女が無事に戻ってきたのならそれで構わないのだと納得してしまおうと思っていたけれど、そううまくいくものではないのだと理解させられてしまったからだ。僕は自分がどうしたいのかわからなくなってしまっていた。彼女と過ごした時間は間違いなく幸せだったのに今はもうそれも遠く感じられるようになっていた。それがとても辛くて、苦しい。いっそこのまま二人きりになって逃げ出せればどんなに楽になるだろうと何度も考えたものだけれどそれはできなかった。リディを悲しませることはできないし僕自身の願いでもあったから。
僕たちの様子を窺っている連中に目を向けながら、僕は彼女をそっと抱き寄せ、自分の方に引き寄せると、僕の心を占める苦悩や葛藤を知ってもらわないままでもいいからこのままリディがここにいる幸せを感じていられたらと切に願った。リディ、君がいないと僕はどうすればいいのか本当にわからなかったんだよ。君のことが好きすぎて君を失うことを恐れるようになった。そして君のことを縛りつけようとまでしているんだよ。
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