ロンドン郊外の英国魔導学院【完結】
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アスターの謎めいた出現
「そうだな。学院長から連絡があった。妖精が学院中に悪戯をして回ってると。しかもその被害に遭ってるのは俺たち生徒だけじゃないらしい。教師たちまで何人も行方不明になっているって噂だ」
「えっ、それ本当!?」
「学院長が調べている最中だから確かなことは言えないが、学院の教師たちが消えたということは間違いないだろう。俺もここ数日は授業に出ていないからよくわからないが、学院長が不在にしていることも多いらしくてな。俺も学院に行くつもりだが、正直何が起こるかわからなくて怖いから行くかどうか悩んでるところだ。だからしばらく休学して家で様子をみようかと思ってる。エドガーもそうだろ?リディアも。学院には行かない方がいいと思うぞ。今は」
「ああ、そうだね。リディアもそれで構わないかな?」
エドガーは俺の方を向いて訊ねる。「もちろんだ。俺も休むつもりだし」
「それならよかった。リディがいなくなったら僕はまた一人になってしまうからね」
「おい、エドガー。そんな縁起でもないことを言うな」
「はは、すまない。でも本当のことだから」エドガーはそう笑うと席を立った。そして俺の側に来るとそっと手を握ってきた。
「ねえ、やっぱり君は僕のそばから離れないでくれよ。ずっとここにいてほしいんだ」
エドガーは俺の瞳を見つめたままゆっくりと顔を近づけてくる。
「ちょ、待てよ。食事の途中だろ?それにここは家じゃない」
「そうだけど。でも」
「そういうことはまた後で」
「うん、わかった。じゃあ後で」
エドガーは俺の手を離すと微笑んだ。そして自分の椅子に戻ると、また食事をはじめた。俺も食べないとな。食欲はないが無理やり口に押し込んでいく。しかしアスターが言った通り、この学院全体が危険な状態に置かれているというのは事実のようだ。そしてハルシオンとアスターの姉貴分である女性が姿を消したことも。一体何が起こってるのか。俺はその答えを知っている。だけどそれをエドガーに伝えるわけにはいかない。なぜなら俺はエドガーに嘘をつくことになるからだ。
「リディ、今日の予定は?」
「俺は一日寝てる。エドガーもそうしろよ。まだ顔色が悪いぜ」
そう答えるとエドガーは苦笑いを浮かべた。「わかった。そうするよ。リディは何か欲しいものはないのかい?」
「そうだな。強いて言えばプリンかアイスが食べたいな」
「うん、買ってくるよ。他には?」
「特にない」
「そう……」
エドガーは残念そうな表情になった。「なんだ、俺が欲しがるものを買ってきてくれるんじゃないのか?」
「いや、だって君が喜ぶものがわからなかったから」
「そうなのか?」
「うん。それに、こういうときこそ君の好きな甘いもので元気づけるべきだと思うんだよ。違うかな?」「まあ、違わないけど」
「だろ?なら、それで決まりだ。すぐに戻るから」
エドガーが出かけた後、俺はベッドに横になって天井を見ながら考えていた。
俺はこれからどうすればいいのか。どうするのが正解なんだろう。
「やっほー!お見舞いに来たわよ~」
昼過ぎに俺の部屋にやってきたのはミセス・レイチェルだった。
「わざわざすみません」
俺は起き上がって出迎えた。彼女は手に持った紙袋を俺に手渡した。「これ、うちの店で売っているフルーツの詰め合わせ。あなたにって」
「ありがとうございます」
俺は礼を言って受け取った。
「ところで、リディ。エドガーと喧嘩したんですって?」
「え、誰に聞いたんですか?」
「さっきエドガーが来て、リディと仲直りしたいって相談されたの。私はもう気にしてないって言っておいたけど」
「あ、いえ。それはもう大丈夫です。俺ももう怒ってないし」
「そう、よかったわ。あの子も最近はちょっと様子がおかしかったし。リディアが来てくれてほっとしてるみたい。私もね、ちょっと心配していたのよ」
「え、エドガーの様子ですか?」
「ええ。最近あの子は少し変よ。まるで別人のように。いつもの自信たっぷりな態度とか笑顔がなくなってきた気がして。それは前からあったことなんだけど、最近のは何かが違うのよね。うまく言えないけど……」
俺は黙っていた。確かにエドガーは変わった。以前の彼とは違う。それは俺が一番よく知っている。
しかしそのことを話すことはできない。
ミセス・レイチェルが帰ってしばらくしてエドガーが戻ってきた。彼は俺がベッドの上に座っているのを見ると、安心したような笑みを見せた。それから隣に腰を下ろした。
俺はもらったばかりのフルーツの箱を開けて彼に見せた。
彼は興味深げに覗き込む。
彼が好きだと言ったものを持ってきたというわけではないが、彼の好物であるりんごを一つ取り出して見せた。
すると彼は嬉しそうに笑って、 そのまま俺の唇を塞いだ。
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