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苦しい時代の中で

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第一章

               苦しい時代の中で
 テネシー州チャタヌーガ通りで一匹のジャーマンシェパードとグレートピレネーのミックスの四歳の白い雌犬が寂しく歩いているのが見付かりすぐに保護された、すると。
 その犬の首輪には手紙があった、彼女を保護した動物保護センターのスタッフの一人であるローレン=マンアジア系で黒髪を長く伸ばした若い女性は言った。
「悲しいことが書かれています」
「何てだい?」
「はい、この娘の名前はリロといいまして」
「クゥ~~ン・・・・・・」
 傍にいる彼女を見つつ話した。
「ご家族は今の状況で」
「インフレでだね」
「生活が苦しくなって」
 そしてというのだ。
「お家を失って二人のお子さんと暮らすだけで」
「今のアメリカでは増えているね」
「はい、そして」
 それにというのだ。
「この娘を手放さざるを得なくなって」
「それでなんだ」
「今こうしてです」
「ここにいるんだね」
「そうだそうです」
「手紙にはそう書かれているんだね」
「はい、それでなのですが」
 マンは先輩に真剣に考える顔で提案した。
「お手紙にはこの娘の名前を変えないで引き取って可愛がって下さいとも書かれていて」
「ああ、それはね」
 先輩はマンのその話を聞いてわかった。
「手放した人は心からね」
「この娘を大事に思っていますね」
「間違いないね」 
 このことはというのだ。
「本当に」
「私もそう感じました、ですから」 
 それでというのだ。
「この娘のことをインターネットで紹介して」
「それでだね」
「ご家族にです」
「手放さざるを得なかった」
「何とか。その人達にも私達の出来ることをして」
「そしてだね」
「お助けして」
 そしてというのだ。
「またです」
「この娘と一緒に過ごせる様にするんだね」
「どうでしょうか」
「そうしよう」
 先輩はマンの言葉に頷いた、そしてセンターの所長も頷いてだった。
 すぐにリロのことが紹介された、するとその日のうちに彼女の家族の知り合いがその紹介を見てだった。
 一家に紹介した、するとまだ小学生と思われる男の子二人を連れたブロンドの長い髪の毛に灰色の目の三十代前半のすらりとした女性が来て。
「リロ、御免なさい」
「クゥ~~ン」
 その女性、マリア=ホーンは息子のエドゼルとジャックを連れて来てリロを抱き締めてから言った。
「貴女に辛い思いをさせて」
「事情はわかっています」 
 その彼女にマンが声をかけた。
「それでなのですが」
「あの、今私達はペットが飼えない施設にいまして」
 ホーンはマンに顔を向けて話した。
「それで残念ですが」
「それでしたら」
 マンはそう言うホーンにこう返した。
「私達がペットと共に暮らせる施設を知っていますので」
「そちらにですか」
「移られて」
 そしてというのだ。
「一緒に過ごされてはどうでしょうか」
「そこまでしてくれますか」
「ご家族のことを思いますと」
 そこにリロが含まれていることは言うまでもなかった。 
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