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ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~

作者:字伏
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
  第三十六話 戻ってきた現実、されど・・・

一月六日 京都府 某所

ギンッ、ガギンッ、キィンッ

正面には神座が設けられ、額縁には「天衣無縫」と書かれた格言が墨書されて飾られた板張りが施されている場所―――いわゆる道場―――でその甲高い音は立て続けに響いていた。交わる金属同士が甲高い音をたて、無情なる刃は相手を傷つけんとするがその刃が届くことはない。何度も繰り返される激しい攻防戦。それを壁際で見学しているものは唖然とすることしかできなかった。

「大分うでを戻してきたわね、桜火」

「まぁ、あの時ほどではないですがねっ!」

横薙に振るわれた刀を桜火はしゃがむ様に避けると、そこから膝のばねを利用して右の刀で刺突を放っていく。その攻撃を体を逸らしながら左の刀で受け流し、桜火と刀を交えている女性―焔―は右手に持った刀でカウンターを放っていく。

「あまいっ!」

通常ではそのカウンターを防ぐか避けるかするものだが桜火は違った。左の刀でカウンターを受けながら、体勢を少しだけ変え、そのまま放たれたカウンターを返した。さしもの焔と言えど、カウンターにカウンターを当てるような馬鹿な真似ができるはずもなく、その一撃を防ぐほかなかった。

「・・・おかしいでしょ・・・カウンターにカウンターを当てるとか・・・」

「・・・・・・」

焔の言葉に少しばかりむすっとしてしまうのは仕方のない事だろう。自分の得意技をおかしいとか言われたら誰だってそうなる。

「姉さんも相変わらずですね」

暗に、あのカウンターを防ぐとか相変わらず化け物じみた技量ですね、と桜火は皮肉を込めてそう言ったが焔はさして気にすることはなかった。

「褒め言葉として受け取っておくわ」

人生経験の差がここでものを言った。ちなみに、これは全部押して押されてと鍔迫り合っているときの会話である。第三者にはただの軽口の言い合いに聞こえるが、当事者たちにとってはそうではなかった。相手の一挙手一投足を見逃さず、次にどのような戦法で来るか、そして、どのような戦法で行くかを考えているのである。
先ほどまで叩いていた軽口は収まり、静寂が場を支配する。

「「・・・・・・」」

誰かが息を呑む中、最初に動いたのは―――焔だった。その場を後方に跳び去るように床を蹴り、鍔迫り合っていた桜火の刀を弾きながら上段から桜火に向かって刀を振るう。焔がやったこと、それは剣道で言うところの「引き技」である。打突が軽くなりがちで一本を取るのが難しいとされている引き技であるが、それはあくまで「剣道」に限っての話しである。お互いに刀という凶器を持ち、攻撃が当たれば即戦闘不能、あるいは命に係わるという条件下ではその限りではない。完全に意表を突いた攻撃だったが、桜火にとってそれはたいした脅威ではなかった。

「まだですよ、と!!」

焔の引き技を体を逸らすことでやり過ごす桜火。

「あまいわよっ!」

しかし、その避けた先にもう一本の刀が横薙に振るわれる。桜火や焔の納めている剣術流派「陰陽月影流二刀剣術」とは、その名の通り二刀を扱う流派なのである。なので、たとえ一撃目を避けたとしてもすぐさま二撃目が襲い掛かってくる。

「読んでましたよ!」

それを刀で受け流し、そのまま刀身を沿ってカウンターを仕掛けていく。対して焔も一撃目の刀で桜火を斬りにかかる。このままいけばどちらかの、あるいは両方の刃が相手の命を奪うが、それを遮るものがいた。

「そこまでっ!」

威厳のある言葉が道場全体に響き渡る。振るっていた刃を止め(双方とも首筋を斬りつける一歩手前)桜火と焔は手を止めると少しの間をおいて刀を鞘に納めた。

「・・・もう少しやらせてくれてもいい気がするのだけど?」

「右に同じだ、御当主」

若干不満が残るようで打ち合いを止めた人物の方へと非難の目を向ける二人、ソレイユの姉である月影焔とソレイユこと月影桜火だったが、その視線を向けられた「陰陽月影流二刀剣術」当主である月影 泰全(たいぜん)は呆れたように道場の入り口の方を指をさしながら言った。

「焔、桜火・・・時間を見てそういうことは言うんだな・・・」

指をさされた入り口には一人の女性が立っていた。全員の注目が集まる中、その女性は何事もなくたった一言だけで伝えた。

「朝食の用意ができました」



「打ち合ってるときにも言ったけど、だいぶ戻ってきたみたいね」

「自分的にはまだまだなんですけど・・・」

道場とは違った場所で朝食をつつく桜火たち。桜火と焔は師範代の席に腰を落としている。

「しかし、前より技のキレが良くなってる気がしますが・・・」

話しに入ってきたのは同じ師範代の席に座る男だった。名を月影 水霊(みずち)。桜火の従兄にして泰全の息子である。

「ああ、それなんだけど・・・たしか、仮想世界が現実世界に及ぼす影響ってやつだと思うぞ」

「仮想世界が、ですか?」

「ああ、これは親父の受け売りなんだが・・・仮想世界で学んだことがある程度現実世界にも還元されるとかなんとか」

お新香を咀嚼しながら水霊の疑問に答えていく桜火。

「筋力が上がるとか足が速くなるとかそういったもの類が還元されるわけではなく、向こうで学んできた経験が還元されるらしいぞ」

「なるほど、それなら納得です」

SAOに囚われていたのが二年間。その毎日を剣を振っていたのだ。その経験が現実世界の桜火の体に還元され技のキレが上がったと水霊は感じたのだろう。しかし、二年間も寝たきりだったので当然ながら筋力は落ちていて、目覚めた当初は刀を持つことはおろか歩くことさえままならなかった。その事実を突き付けられた桜火は夜な夜な一人で泣いていた。比喩ではなくマジで。

「ところで、今日の朝食はおいしいですね。誰がつくったんです?」

「おれだ」

水霊の言葉に桜火が答えた瞬間、場の雰囲気が凍った。

「・・・桜火・・・お前はもう師範代なんだぞ・・・こういうことは下の者がやることなんだが・・・」

「そうか、それは知らなかった」

いけしゃあしゃあと嘘を吐く桜火に泰全は頭を抱えたくなった。これでは下の者に示しがつかなくあるのだが、たかが注意した程度で桜火がそれを直すとは思っていない泰全はもはや諦めの溜息を吐くしかなかった。ちなみに、SAOに囚われる前を含め、泰全がこれを注意するのは十三度目である。

「あきらめた方がいいと思いますよ、当主?」

桜火の姉である焔の言葉に泰全は溜息を吐くことしかできなかった。

「はぁ・・・ところでこの後おまえら二人はどうする?」

「私は東京に戻りますよ」

「おれはしばらく東京にいることになりそうです」

「そうか、わかった」

朝食をとり終えると、桜火はかかりつけの医師のもとを訪ね東京でSAO帰還者の定期健診を受けられるよう紹介状を書いてもらうと、焔とともに東京へ出かけて行った。未だに目覚めない彼女の見舞いのために。



埼玉県所沢市―――その郊外にある最新鋭の総合病院にルナは眠っている。デスゲーム≪ソードアート・オンライン≫がクリアされて二ヶ月がたったが未だに目覚めない人たちが三百人もいた。その中にソレイユの恋人であるルナこと柊月雫も含まれていた。手続きを取り、通行パスをもらうとエレベータに乗り込み最上階である十八階まで登っていく。最上階まで到達し、無人の廊下を歩いていくと目的の場所が見えてきた。

≪柊月雫 様≫

そう書かれたプレートの下にあるスリットにパスを走らせると、かすかな電子音と共にドアがスライドした。中に入り広い病室を仕切るためにあるカーテンを引くとそこには最愛の人が眠っている。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・


・・・


桜火は何をするでもなく月雫のことをただ見つめているだけだったが、その瞳は憂いに満ちていた。帰り際に一度だけ優しく頬撫で病室を出て行く。憂鬱な気分でエレベーターホールに向かう中、ある一つのネームプレートが目に付いた。

≪結城明日奈 様≫

そう書かれたネームプレートを見た桜火は二か月前に分かれる際に聞いた名前を思い出していた。

『わたしはね、結城・・・明日奈。十七歳です』

通行パスを取出し一度だけ眺めると≪結城明日奈 様≫と書かれた下にあるスリットへとパスを走らせる。すると、先ほどと同様にかすかな電子音と共にドアがスライドした。病室の中に踏み込んでいくと、月雫の部屋同様に広い病室がカーテンで仕切られていた。そのカーテンを引くと見慣れた顔が見えた。それを見た桜火はたった一言呟いた。

「・・・・・・・ふぅ、世間ってのは思ったより狭いんだな」



「ん?誰かいるのかね?」

明日奈の顔を見ながら物思いにふけてると、突然背後から年老いてはいるが貫禄のある声が聞こえてきた。声のした方へ顔を向けると、そこにはシルバーグレーの髪をオールバックにした恰幅のいい初老の男性と人のよさそうな男がいた。

「どちら様かな?」

「初めまして。SAOの中でアスナさんにお世話になっていたものです。SAOではソレイユと名乗っていました」

SAOのアバター名を名乗ると初老の男性が驚いたような顔をした。

「おお、では君があの・・・おっと、自己紹介がまだだったね。明日奈の父の結城章三だ。わざわざ足を運んでくれてすまないね。明日奈とも仲良くやっていたと聞いてるよ」

「月影桜火です。わたしの方こそ何のご連絡もせずに申し訳ありません。明日奈さんには大変お世話になりました・・・そちらの方は?」

自己紹介を終えると桜火はもう一人の男性へと視線を向ける。それに気づいた章三氏は桜火が視線を向けた人物の紹介を簡潔に行った。

「彼かい?彼は私の腹心の息子でね。うちの研究所で主任をしている須郷君だ」

「よろしく、須郷伸之です。―――そうか、君があの≪最強の剣士≫か」

「・・・・・・月影桜火です。最強の剣士と言ってもあくまでゲームの中の話しですよ」

須郷伸之だが人のよさそうな笑顔を浮かべながら自己紹介をするが、桜火は表情にこそ出さないが訝しんでいた。
それぞれの自己紹介が終わると章三氏はアスナの枕許に近寄ると、そっと髪を撫でた。しばし沈思した後、章三氏は桜火に向きなおり口を開いた。

「では、私は失礼させてもらうよ。月影君、また娘の見舞いに来てやってくれ」

「わかりました」

桜火の返答を聞くと病室を出て行く章三氏。あとに残った須郷伸之は先ほどの章三氏のように明日奈の枕許に近寄ると、明日奈の髪に触れようとするが桜火がさせなかった。

「はなしてくれるかな?」

「不用意に患者に触れるものじゃないと思うんだけど?」

桜火が手を離すと須郷伸之も明日奈に向けていた手を引っ込める。数秒にらみ合った後、口を開いたのは桜火だった。

「須郷伸之、だったか?レクトのフルダイブ技術研究部門ってのはご存知かい?」

「・・・僕が主任をしているところだが、それがどうしたんだい?」

なおも人のよさそうな表情で桜火と話していくが、そんなことはお構いなしに桜火は言葉を続ける。

「≪SAO≫を開発したアーガス。SAO事件が起こった後、事件の補償で莫大な負債を抱え会社は消滅。その後、SAOサーバの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術研究部門と聞いている」

「そうだよ。だから、なんだい?」

「なら、そこの主任を務めているあんたなら、未だに目が覚めない三百人がどうしてるかわかるんじゃないのか、と思ってな」

「ああ、そのことかい。残念ながらそう上手くはいかないよ。SAOサーバに掛けられたプロテクトは誰にも解くことはできなかった。だから維持するだけで精一杯なのさ」

「そうか・・・無能か・・・」

ボソッと呟いた桜火の言葉を聞いた須郷伸之の表情が先ほどまでと比べて明らかに人を見下したような表情へと一変した。

「(いや、一変したというより被っていた仮面を脱いだ、というほうが正しいか)」

「言ってくれるねぇ・・・わかっていないようだから教えてあげようか?未だに眼が覚めない三百人の命を握っているのは僕だよ。その三百人を生かすも殺すも僕しだいってことさ」

イヒヒッ、と薄気味悪く笑う彼を見ながら桜火は溜息を吐いた。

「あんた、今さっきSAOサーバには強力なプロテクトがかかってるから手が出せないって言ったばかりじゃないか。そんなことで命を握ってるとか言われてもねぇ。結局のところ、あんたにも何もできないんじゃない?」

だが、桜火の言葉を聞いても須郷伸之は薄気味悪い笑いをやめようとはしない。

「ヒヒヒッ!これだから力のないガキってのは面白いよ、まったく」

桜火を見下して笑いながらそう言うと踵を返していく。

「精々そう思いたければそう思っておくんだね、最強の剣士クン」

去り際にそれだけ言い残して須郷伸之は病室を出て行く。須郷伸之が病室を出て行ったあと、桜火は不敵な笑みを浮かべて弾むような声で呟いた。

「手掛かりゲット」



寝ている明日奈に「お大事に」と一声かけ病院を後にした後、東京都品川区にあるとあるマンションの前に桜火はいた。そのマンションは外見ですでに高級マンションであることがわかる。

「ホントにここでいいのかよ・・・」

残念ながら桜火の呟きに答えられるものはいない。唯一手掛かりになるであろうメモに狂いはなく、自分が曲がった場所にいるということもなさそうであった。姉に渡された住所が書いてあるメモとマンションを見比べることしかできず、おもわず病院に行く際に姉に言われたセリフを思い出していだす。

『私が今品川に住んでるから、用事がすんだらおいで』

「・・・・・・もう、いいや。とりあえず入ろう」

考えても仕方がないのでマンションの中へと歩を進めていく桜火。外見と同様、内装も高級感が漂いセキュリティもしっかりしているようであった。メモと共に渡されたカードキーを使いセキュリティを解除するとエレベーターを使い、十五階にある焔の部屋まで歩を進める。部屋の前に来るとカードキーがあるにもかかわらず、なぜかインターホンを鳴らした。

ピーン、ポーン

「・・・は~い」

インターホーンを鳴らし、少しすると返事と共に玄関の扉が開かれる。現れたのは当然というべきか焔だった。

「って、桜火?どうしたの、インターホンなんかならしちゃって?」

「いや、なんとなくならさないといけないような気がして・・・」

「そう?まぁ、入って入って」

若干調子が狂いながらも桜火は焔の言うとおり部屋に上がっていく。

「姉さん一人でこれ借りてるのか?」

「いえ、翡翠と一緒よ」

翡翠という名を聞いた途端、桜火の顔が思いっきり引きつった。

「あ~、それで、その・・・翡翠は、今、どこに?」

おずおずと尋ねる桜火に焔は苦笑いをし、肩を竦めながら答えた。

「恋人たちのところを転々としてるって」

「・・・あの、遊び人が」

翡翠らしい答えを聞いた桜火は大きく溜息を吐いた。それから、焔は桜火の部屋へと案内していく。

「ここは空き部屋だから自由に使っていいわよ。それから、今晩私の友達が遊びに来るから」

「了解・・・姉さんはこれからどうすんの?」

「とりあえず、買い出しかな。あなたはどうする?」

「一緒に行く。生活用品買わねぇと」

その後、桜火と焔は近くの大型ショッピングセンターへと出かけて行った。



「ああ、そうだ。姉さん、パソコン借りてもいい?」

「いいけど・・・何するの?」

ショッピングセンターから帰ってきた後、桜火は部屋でくつろいでいた姉に頼みごとをしていた。焔は特に気にした様子もなくOKを出すが、何に使うか聞いたところ予想外の答えが返ってきた。

「ちょっとばかしハッキングを、ね」

「・・・・・・犯罪よ?」

「ばれたらな」

暗にばれなければ問題ないと言い切る桜火はどこかおかしいが、焔は特に気にした様子もなく―――

「なら、ばれないようにね」

―――などと言うあたり桜火だけでなく焔もおかしかった。
 
 

 
後書き
ルナ「どうせ私はこういう扱いですよーだ!」

ソレイユ「そういじけるなって」

ルナ「だってぇ~」

おーい、お二人さん・・・そろそろ本番はじまりますよー・・・えっ?もう始まってる?
ちょっ・・・どうしてもっと早く言わないの!!
えー、改めて今回からフェアリィ・ダンス編の始まりです!!

ソレイユ「初っ端からルナの空気化が決定してしまいました」

ルナ「字伏のばかー!」

しょ、しょうがないでしょ!あーもう、ぐだぐだじゃんorz

ソレイユ・ルナ「「いつもだろ(じゃん)」」

ぐはっ・・・と、とにかく感想お待ちしております!! 
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