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跡継ぎの髪の毛

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第三章

「代々禿げて」
「あの方もだな」
「それからは逃れられなかったな」
「髪の毛がなくなられた」
「それも特に早く」
「残念なことだな」
 こう話した、しかし。
 当の公子は笑ってだ、こう話していた。
「いやあ、もうね」
「髪の毛のことはですか」
「わかっていたから」
 その頭を撫でつつ話した。
「私もね」
「だからですか」
「早かったけれど」
 若くしてそうなってしまったがというのだ。
「それでもだよ」
「もうですか」
「何しろ代々なんだよ」
 そうなっているというのだ。
「それで自分はならないとはね」
「お考えにならないですか」
「だからね」
 それ故にというのだ。
「私も受け入れていたから」
「今の状況でもですか」
「いいよ、じゃあね」
「それならですか」
「もうね」
 それこそというのだ。
「もう笑い飛ばして」
「いかれますか」
「髪の毛がなくても生きていけるし」
 そうであってというのだ。
「そしてね」
「そしてといいますと」
「これが皆の話題の種になって楽しめるなら」
 それならというのだ。
「いいね、だからね」
「それで、ですか」
「私はいいよ」
「ご自身の髪の毛のことは」
「それで誰か困ることもないしね、ではね」
 公子は笑ってさらに話した。
「公務にね」
「それにですね」
「かかるよ」
「そうされますか」
「うん、またね」
 穏やかな笑顔で言ってだった。
 公子は公務に向かった、そうしてそちらの仕事を無事に済ませた。そのうえで公務の後でネットのゴシップの話を読んでまた笑った。
「いいね、また私のことを書いているよ」
「髪の毛のことですね」
「三ヶ月前よりさらに減ったってね」
「私だったら嫌になりますが」
「何、どうしてもっていうならね」
 公子は傍の者に笑って話した。
「全部剃ったらいいしね」
「スキンヘッドですか」
「そうもして」 
 そしてというのだ。
「鬘でも被るとね」
「いいですか」
「それでね、むしろその方がいいかもね」
 髪の毛を剃って鬘を被った方がというのだ。
「面白い話題作りになるかもね」
「本当にそれだけですか」
「うん、話題を提供するのも貴族の務めだからね」
 こう言ってそうしてだった。
 公子は記事を読みつつ自身の頭を撫でた、底にある者は確かに数ヶ月前より減っていた。だが彼はそれを心の中で笑って済ませたのだった。
 そしてだ、彼はこうも言った。
「笑い飛ばせれば勝ちだよ」
「それで、ですか」
「そう、自分で出来たらね」
 それならというのだ。
「もうね」
「勝ちですか」
「何でもね」
 こう言うのだった、そう言う笑顔は実に明るいものだった。


跡継ぎの髪の毛   完


                    2022・10・14 
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