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十回目で

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第三章

 この日港で待った、次の日もまた次の日も。
 アカマスを待った、船は次々と戻ってきていたが。
 彼の乗った船は戻らなかった、そしてだった。
 港に来て九回目即ち九日目もだった。
 アカマスの乗った船は戻らなかった、だが。
 ある戦士がだ、ピュリスに話した。
「まだです」
「船はありますか」
「はい、遅れている船もありますので」
「トラキアの船で、ですね」
「きっとです」
「その船にですね」
「アカマス様はおられます」
 こう言うのだった。
「あの方は確かにです」
「戦いではですね」
「ご無事でしたので」
 このことは間違いないというのだ。
「私は船に乗るのを見ました」
「ではですね」
「私からも言います」
「アカマス様はですね」
「必ず戻られます、そもそもアテナ様は嘘を言われません」
 戦士もこう言った。
「あの方は極めて誠実な方です」
「そうした女神様ですね」
「ですからお亡くなりになられるなら」
「そう言われますね」
「花は咲かない筈です」
 彼女が与えたアーモンドのそれはというのだ。
「ですから」
「私はですね」
「今日は駄目でもです」
 それでもというのだ。
「女神さまを信じられ希望を持ってです」
「待てばいいですね」
「今日は来られずとも」
「明日かも知れないですね」
「そうです、世の中はそうしたものですね」
「今日来なくともですね」
「明日来るかも知れません、希望の足は遅いものです」
 戦士はピュリスに確かな声で話した。
「中々来ません、ですから」
「待ってもですね」
「中々来ないものです、しかしです」 
 それでもというのだ。
「必ずです」
「来るものですね」
「はい、ですから」
 それ故にというのだ。
「アテナ様を信じられるのでしたら」
「明日もですね」
「ここに来られるべきです」
「そうするつもりです」
 最初からとだ、ピュリスは答えた。
「では」
「はい、またですね」
「明日ここに来ます」
 強い声で答えてだった。
 ピュリスは夕方に港を後にした、そして次の日自身の言葉通りにまた港に来た。この日で十回目だったが。
 この時にだ、遂にだった。
 アカマスは港に来た、そのうえで自分に駆け寄ってきたピュリスと抱き締め合いそうしつつ彼女に話した。 
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