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懐かしの古戦場

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第二章

「公方様の軍勢と羽柴様の軍勢が入り乱れてや」
「戦したんか」
「もうお城の堀が全部埋められてな」
 そうなってというのだ。
「公方様、天下の軍勢が一気にきてや」
「ここまでかいな」
「来てな」
 そうしてというのだ。
「もう何もなくなったお城は一気に囲まれたわ」
「あのお城やな」
 太吉はその城を見た、だが天守閣はない。建てられたそれはもう落雷で焼失してしまっているのだ。
「あそこにやな」
「場所ちょっとちゃうけどな」
「あそこまでかいな」
「それでこの辺りは家も何もなくなってな」
「橋もかいな」
「そや、もう戦の中で軍勢が通るか焼け落ちてや」
 そうなってというのだ。
「もうや」
「なくなってたんか」
「多くがな、それでもうこの辺りはな」 
 それこそというのだ。
「倒れたモンや刀や弓矢が一杯落ちてたんや」
「そやったんか」
「あの時はな」
「そんなん信じられへんわ」
 太吉は老人に周りを見回して答えた。
「全然な」
「家ばかりでやな」
「そや、家にお店にな」
 太吉は老人に話した。
「橋が一杯あって」
「戦があったなんてやな」
「考えられんわ」
「今はそやな」 
 老人は笑って答えた、優しい笑顔だった。
「ほんまに。けどな」
「昔はかいな」
「そやったんや、まさにや」
「戦があって」
「もう家もお店もなくてな」
「橋も焼け落ちてて」
「そしてや」
 そのうえでというのだ。
「倒れたモンとかな」
「刀とか落ちてたんか」
「具足来たお侍が大勢おってな」
「お侍って」 
 そう聞いてだ、太吉は言った。
「わし見たことないわ」
「大坂はお侍少ないしな」
「おりはるって聞いてるけど」
 それでもというのだ。
「大坂にもかいな」
「そや、ちゃんと奉行所もあってな」
 そうしてとだ、老人は太吉に答えて話した。
「羽柴様の頃はお侍が大勢おられてな」
「戦でもかいな」
「そや、具足を着てな」
「戦してか」
「この辺りもそやったんや」
「そやねんな、ほんま信じられんわ」
 太吉はまたこう言った。
「そんなんやったて」
「今はそやな」
「昔はそやったんか」
「ああ、それでお城が落ちて」
 落城してというのだ。 
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