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英雄伝説~西風の絶剣~

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第81話 絆を深める

side:リィン


「……ん、ここは?」


 ヴァルターに敗北した俺は気が付くとベットの上で眠っていた。見覚えのあった天井を見て俺はここが中央工房の医務室なのに気が付いた。


「リィン!」
「気が付いたのか!」
「フィー、ラウラ……」


 側にいてくれたのか二人が俺に駆け寄ってきた。


「リィン、体は大丈夫?痛くない?」
「そなた、丸一日は眠っていたんだぞ?もう起きても大丈夫なのか?」
「……ああ、まだ体は痛むけど少なくとも団長の拳骨を喰らった時よりは楽だよ」
「そんな冗談が言えるのならもう大丈夫だね」
「うん、そうだな」


 フィーが安堵の笑みを浮かべ釣られてラウラも笑った。その後ラウラがエステル達を連れて来てくれた、皆俺が目を覚ましたと知って喜んでくれたよ。


「ジンさん、お久しぶりです。助けてくれてありがとうございました」
「なに、礼を言われることはしていないさ。寧ろ身内が酷いことをしてしまって申し訳ない」
「身内?」
「ヴァルターは俺の同門だ、かつて俺が修行を付けてもらっていた師父の一番弟子だったんだ」
「泰斗流の……通りで強い訳だ」


 俺はジンさんからヴァルターが元泰斗流の門下生だと話を聞いた。


「しかしあいつの使う技に泰斗流では見た事もない物があったのですが、何か知りませんか?」
「恐らくだがヴァルターは泰斗流以外の武術も取り入れて独自の武を極めたのだろう、あいつは格闘のセンスは誰よりもずば抜けていたからな」


 俺は前にジンさんに稽古を付けてもらったがその際に泰斗流の技も見せてもらった。だがヴァルターは俺が見た事の無い技を使ってきたので俺の知らない泰斗流の技かと思ったが違うようだ。


 ジンさんに技の詳細を聞いておけば次に奴と戦う時に助けになると思ったのだが、そんなに上手くはいかないよな。


「……ジンさん、お願いがあります。俺に稽古を付けてくれませんか?以前のようなものじゃなくてもっと実戦的なものをお願いします」
「張り切るのは良いがまずは体を治してからだ、ミリアム先生が傷の治りが普通より早いと驚いていたがそれでも大きなダメージを負った事に変わりないからな」


 ジンさんが呆れた様子でそう話す。俺の体は普通の人より傷の治りが早いらしい、これは元々こうだったのではなくD∴G教団の人体実験をされたことで得た副産物だと俺は思っている。だってあいつらのアジトから逃げてからこんな体質になったからだ、間違いないだろう。


「そういえば姉弟子はいないんですか?アガットさんの姿も見えませんが……」
「アガットとアネラスさんはあの杭が刺さっていた場所の調査をしてるわ」


 俺はここに来ていない仲間の事を聞くとエステルが教えてくれた。


 あの後ヴァルターは撤退したようでその場には七耀脈を活性化させるという杭だけが残されたらしい。その杭はラッセル博士の元に送られたようでブルブランが実験に使っていた投影装置と共に解析を進めるらしい。


 それからみんなと話をしてオリビエさんがリュートを引きそうになったのでエステルが耳を引っ張って連れて行った。他のメンバーもフィーとラウラを残してホテルに戻っていった。


「そういえばフィー達は特異点にいたんだよな?何があったんだ?」
「それがね……」


 そしてフィーは特異点で何があったのかを話してくれた。


 特異点を支配していた魔獣を倒すと源泉が湧く洞窟の入り口に立っていたらしい、そしてギルドに報告しに紅葉亭へ向かい導力通信機で連絡すると丁度ジンさんが来ていたらしく応援に駆けつけてくれたようだ。


「でも入り口は高温の蒸気に阻まれていて入れなかったんじゃなかったか?」
「うん、そうだよ。でも突然水蒸気が収まって中に入れるようになったの」
「もしかするとヴァルターに吹っ飛ばされた時あの杭に当たって杭が地面から外れたな、そのおかげかもしれない」


 俺はヴァルターとの戦闘中に杭に当たったことを思い出した。偶然とはいえあれが無かったから殺されていたな、運が良かった。


「フィーは一目散にそなたの元に向かったのだ、よほど心配だったのだろうな」
「そうか、フィーのお蔭で殺されずに済んだ。ありがとうな、フィー」


 俺はラウラからそう聞いてフィーにお礼を言った。でもフィーは複雑そうな表情になる。


「どうしたんだ、フィー?」
「……わたしは何も出来ていないよ、今回はたまたま運が良かっただけ。わたしはリィンを守るって誓ったのに結局肝心な時は側にいられなかった……わたし、役立たずだったよね」
「フィー……」


 フィーはそう言って落ち込んでしまった。思う事があったのかラウラも同じような状態になる。


「……フィー、ラウラ、俺の近くに来てくれないか」
「えっ?」
「いいから、ほら」
「ご、強引だぞ……」


 俺はフィーとラウラの腕を引っ張って側に寄せた。そして……


「んんっ!?」
「んっ……!」


 俺は自分から二人の唇を奪った。


「リ、リィン……?」
「なにを……」
「俺、決めたよ。二人を俺の嫁にする」
「えっ……」


 俺の突然の告白に二人は目を丸くした。


「俺は二人に告白されてずっと考えていたんだ、どっちの想いを受け取るかって……でも考えても考えても選べなかった、そんな中途半端な自分が情けなくて二人の好意に甘えてばかりで心底無様だった」
「リィン……」
「でもヴァルターに殺されかけて俺は死にたくないって思った、フィーとラウラを悲しませたくないし何より俺が死んだら二人が他の男に取られてしまうって嫉妬さえしてしまった」
「……」


 二人は俺の話を真剣な目をして聞いていた。


「俺、フィーとラウラが好きだ。他の男なんかに取られたくないし俺だけのモノにしたい!だから俺は二人を奪うよ、団長やヴィクターさんが反対しても二人から奪い取ってやる!だから二人とも、俺のモノになってほしいんだ。本当の家族になってほしい!……これが俺の答えだよ」


 俺は二人にそう伝えた、我ながら最低の答えだ、二人が呆れて俺の元を去っても仕方ない。


 でも俺は俺自身の本音を話した。何もできず死ぬくらいなら玉砕してもこの思いを伝えるべきだと思ったんだ。


「……」
「……」
「あの、せめて返事は返してほし……ッ!?」


 俺は二人に返事をしてほしいと言おうとしたが強い衝撃と共にベットに倒れてしまった。痛ったぁ……!!


「ふ、二人とも?」


 フィーとラウラが俺に抱き着いてきて胸に顔を埋めていた。そして涙を流しながら顔を上げた。


「嬉しい……やっと……やっとリィンがわたしに告白してくれた……」
「まったく……待たせ過ぎだぞ、馬鹿者……」
「えっと……二人とも?返事の方は……」
「そんなのOKに決まってるよ!だってずっと待っていたんだよ?」
「うん、そうだぞ。わたし達はいつでも二人でそなたを受け入れる気でいたのだ、断るなどあり得ない」
「へっ……そうなの?」


 俺はまさかの肯定的な返事にそんな間抜けた声を出してしまった。


「ラウラはわたしにとっても初めての親友だしラウラならいいかなって思ったの。リィンは無茶ばかりするから二人でリィンを守ろうって話し合ったんだ」
「うん、わたしもフィーの提案に乗らせてもらったんだ。そのおかげでそなたに告白できた」
「そ、そうだったのか……」


 これならもっと早く想いを打ち明けておけばよかったな、本当にウジウジしすぎだろう、俺……



「ねえリィン、もう一回ちゃんと想いを伝えてほしいの。駄目かな?」
「私からも頼む。先ほどは不意打ちで驚いていたからしっかりと聞き取れなかったんだ」


 フィーとラウラは期待のこもった目で俺を見てきた。なら俺はその期待に応えないとな。


「……フィー、ラウラ、俺は二人の事が好きだ。これからもずっと一緒にいたいし誰にも渡したくない、だから俺の家族になってください」
「……うん!」
「……はい」


 フィーは満面の笑みを浮かべて、ラウラは優しく微笑んで俺の告白を受け入れてくれた。


 かなり待たせてしまったけど、これで多少は男として責任を取れたよな。


 俺はそう思い二人を抱きしめるのだった。


―――――――――

――――――

―――


 それから2日が過ぎた。ミリアム先生からもう退院して良いと言われたので彼女にお礼を言って皆に合流した。


 因みに俺達の関係は皆にはまだ内緒にしておこうって事になった、理由はエステルに申し訳ないからだ。


 エステルはヨシュアを取り戻す為に頑張ってるのに申し訳ないからだ。


 俺達が結ばれたと知れば純粋に祝福してくれると思う、俺達が気にしすぎなだけかもしれないがやはりこういう報告は全員が幸せな気持ちになれないと駄目だろう。


 だから皆に打ち明けるのはヨシュアを連れ戻してからだ。


(ヨシュアさん……いやヨシュア。女の子は俺達が思っている以上に強いぞ、いつまでも逃げ切れると思わないことだな)


 俺は心の中で女の子の強さを舐めるなよと今はいない親友に向けて心のメッセージを送った。後もうさん付けは止めた、親友に壁は作りたくないからな。


 まあヨシュアがそう思っているとは分からないが、俺はあいつを親友だと思っている。エステルの為にも、そして俺自身の為にも必ずヨシュアを連れ戻そうと誓った。


 まあそういう事で結社を追う旅を再開させようと思ったのだがキリカさんにある提案を受けた。


「えっ、休暇ですか?」
「ええそうよ。今の所他の地方で異常現象が起きているという報告もないし貴方達も二度の異変を解決して疲れているでしょう。丁度エルモ温泉も近いんだし一日くらいゆっくりしなさい」
「う~ん、こんな時に良いのかな?仕事も残ってるのに……」


 エステル達は俺が休んでいる間も仕事をしていたらしく結構疲れているようだ。


「なら俺が皆の代わりに働くよ。それならエステルも休めるだろう?」
「却下よ」
「えっ、どうしてですか?」
「貴方だけ働いていたらみんなが気にしてちゃんと休めないでしょう?」
「でも俺は……」
「おいおい、まさかずっと寝てたからなんて言わないよな。そんなこと言ったら俺だって怪我で仕事できなかったんだぞ?」
「グラッツさん……」


 今まで動けなかった俺が代わりに仕事をすると言うとキリカさんに却下された。俺はそれでもと続けようとするがグラッツさんにそう言われて何も言えなくなってしまった。


「リィン、ここはキリカの提案を受けようよ」
「うん、そなたが申し訳なく感じてしまう性格なのは分かるが病み上がりの体で無茶をしても意味はないぞ」
「……そうだな、分かった」


 フィーとラウラにそう言われたら嫌とはいえないな。


「キリカさん、話を折ってしまい申し訳ありません」
「構わないわ、他人に気を使えるのが貴方の美徳ですもの。もっともそれが行き過ぎてしまうのもたまに傷だけど」
「あはは……」


 キリカさんにそう言われて苦笑いをする、団長にも空気を読んだ方が良いと言われたことがあるしこれからは気を付けよう。


 そして俺達はエルモ温泉に向かい一日の休養を取ることにした。


「あっ、リィンさん。もう動いても大丈夫なんですか?」
「大怪我をしたって聞いたから心配してたのよ」
「ティオにアリサ?どうしてここに?」
「今回の作戦に協力した縁で折角だからってキリカさんが私達も誘ってもらったの。エルモ温泉には興味があったし楽しみだわ」
「私もロイド兄さんやセシル姉さんのお土産を買っていこうと思いましたので」
「なるほど、なら一日だけだけどよろしくな」


 確かにこの二人はティータ達のように俺達に協力してくれたしフィーもティオともっと話したかっただろうし歓迎だな。


「ふぅ……やはりここの湯は身に染みる程気持ちいいな……」


 俺は温泉を堪能している、体に暖かさと心地よさがしみ込んできて何とも言えない極楽だな……溶けそう……


「いやー、前に来た時も良い湯加減だったけど相変わらず何度も入りたくなる気持ちよさだねぇ」
「そういえばオリビエさんはクーデター事件の後にエルモ温泉に来たことあるんでしたっけ?」
「うん、そうだよ。あの時はシェラ君も誘ったんだけど断られちゃってさ、彼女と一緒だったらもっと楽しかったのになぁ」
「貴方みたいな変人がシェラさんを誘えるわけないじゃないですか」
「酷いことを言うねぇ、リィン君。なら君に楽しませてもらおうかな」
「近寄らないでください」
「あふんっ」


 目を怪しく光らせてにじり寄ってきたオリビエさんを押しのける。この人マジでそっちの気もあるんじゃないだろうな?


「しかし……」
「あん?何見てやがる」
「どうした、お酒に興味があるのか?流石に未成年にはやれんぞ、すまんな」


 俺はアガットさんとジンさんの鍛え上げられた肉体を見てため息を吐いた。


「いえ、お二人の体は凄いなって思って……」
「……おい、お前少し離れろよ。俺はそっちの気はねぇぞ」
「俺も流石にそういう愛を否定はしないが自分が向けられるのはちょっとなぁ」
「なんだい、リィン君も興味あるんじゃないか。僕が優しく教えてあげようかい?」


 何故かアガットさんが俺から距離を取ってジンさんは困ったように苦笑した。オリビエさんが意味の分からない事を言ってるけどどういう……


「……あっ、言っておくけどそっちの気があるわけじゃないですよ!?ただ筋肉があって逞しい体してるから羨ましいってことですよ!貴方はさっさと離れてください!」
「おふんっ♡」


 俺は3人の反応を見て俺がそういう目で見てると思われていると分かったので慌てて訂正した。後またにじり寄ってきていたオリビエさんは押しのけた。


「俺って体質的に筋肉が付きにくいのかあまりお二人みたいにムキムキにならなくて……」
「ふむ、だが俺から見てもかなり鍛え込まれた良い肉体をしてると思うがな」
「細身じゃ嫌なんですよ、俺は将来団長みたいな男になりたいんです」



 ジンさんが褒めてくれるがもっと筋肉が欲しいんだ、団長やジンさんみたいな丸太のような腕なんて逞しくてカッコいいじゃないか。


「僕としてはリィン君は細身の方がタイプなんだけどね♡」
「貴方の意見なんて聞いていませんよ」
「はっ、体うんぬんよりそんな小せぇこと気にする精神を鍛えろってんだ」
「うっ……」


 オリビエさんが気持ち悪いこと言ったのでバッサリ切り捨ててやったが、逆に俺はアガットさんにバッサリと切り捨てられてしまった。やっぱり女々しいのかな……


「それよりもクラウゼル、お前結社の一人とやり合ったんだよね?相手はどんくらい強かった?」
「そうですね……ヴァルターは俺が戦ってきた戦士の中でも抜群の身体能力を持っていましたよ、一瞬のスピードや瞬間的なパワーはロランス……いやレオンハルトを超えるかと」
「ちっ、そこまでかよ。ロランスの本名がレオンハルトだったな、アイツとは一度交戦したがかなりの使い手だった。そいつと同じくらい強いのか」


 アガットさんがヴァルターの実力を聞いてきたので俺は奴の強さを話す。それを聞いたアガットさんはかつて戦ったレオンハルトを思い出して苦い顔をしていた。


「ヴァルターは泰斗流の門下生の中でも最高クラスの実力を持っていた。それが今では違う流派の技も取り込んで更に厄介なものになっている」
「そういえばヴァルターに触れ合いで衝撃を叩き込まれたんですがあれも泰斗流の技ですか?」
「泰斗の奥義の中に相手の内部に衝撃を流し込んで内側から破壊する『寸勁』という技がある。ヴァルターの得意な技で奴は鉄の塊すら粉々にしたほどだ」
「そんな技を喰らって良く生きていたな、俺……」


 ジンさんにヴァルターが使った技の正体を聞いて俺は自分が良く生きていたなと幸運に感謝した。


「お前とヴァルターの戦いを聞いたが確かその技を喰らう前にお前は内部に気を込めていたんだったか?」
「はい、デストロイドライバーを回避するために鬼の力を内部に溜めて爆発させました」
「爆芯だったか……多分その時溜めた気がまだ内部に残っていたのだろう。それが寸勁の威力を弱めたのかもしれないな」
「なるほど……」


 俺はジンさんに良いヒントを貰った。次にヴァルターと戦う際に有効な手段になるかもしれないな。


「しかしリィン、鬼の力は以前も見たがあれは禍々しい力だ。本来力とは善悪のない純粋なものだがアレに関してはお前に悪い影響を与えるだろう、まるでお前ではない別の存在が生みだした力……」
「別の存在……」


 俺は以前ラッセル博士から鬼の力の元は俺の心臓から出ていると言われたことを思い出して胸の傷に触った。


「アレを使うなとは言わんがあまり過信しすぎてもいかんぞ」
「分かりました」


 ジンさんからのアドバイスを俺は真摯に受け止めた。


「……俺も異能の力があれば妹を守れかのかもしれないな」
「アガットさん、今何か言いましたか?」
「はっ、なにも言ってねえよ。俺はもう上がる」


 アガットさんはそう言って外風呂を後にした。何かつぶやいたような気がしたんだけど気のせいだったみたいだな。


 その後またオリビエさんが変な事をしようとしたので拳骨して気絶させた。ジンさんが彼を持って行ってくれたので今は一人で温泉に入っている。


「俺もそろそろ上がろうかな……」


 そう思って立ち上がると女湯の方から誰かが入ってきた。


「あっ、やっぱりリィンの気配だ」
「流石だな、フィー。私ではそんなことは分からないぞ」
「フィー、ラウラ、今来たのかい?」


 入ってきたのはフィーとラウラだった。相変わらずラウラは良いスタイルをしているな、湯着の上からでも分かってしまうくらいだ。数年後にはもっと魅力的な女性になるだろう。


 そんな魅力的な女性を恋人に出来たのか、俺は……ふふっ、なんか嬉しくなってきたよ。


「わたしにはそういう目を向けないんだ」
「えっ?」


 気が付くとフィーが不満そうに頬を膨らませていた。


「いや別にフィーが魅力ないなんて思ってないし……」
「ふーん、そう言う割にはラウラばっかり見てるじゃん。変態」
「うぐっ……」


 しまった、体型を気にしているフィーの前で同じ恋人とはいえ違う女性に見惚れていたら面白くもないよな。


「フィー、ごめん。フィーだって魅力的な女の子だよ。数年後にはラウラと同じくらい素敵な女性に成長するさ」
「……ん、今日は許してあげる」


 ハグをして頭を撫でながらキスをして謝るとフィーは許してくれた。


「そなた、なんだかルトガー殿が言うようなセリフを言いだしたな」
「そうかな、もう二人は俺のモノだし遠慮しなくてもいいかなって思っただけだけど……」
「馬鹿者、そう言う事を恥ずかしげもなく言うな……」


 ラウラはそう言うが嬉しそうな顔をしている。今までさんざん待たせたからな、これからは攻めていくスタイルで行こうと思ったんだ。


「ところで二人だけか?他の女性陣は上がったの?」
「なんだ、私達だけでは不満か?」
「ち、違うよ!もし他に誰かいるならこんな風に二人と接することが出来ないなって思っただけで……!」
「ふふっ、そんなに慌てなくてもよい。冗談だよ」
「そ、そうか……」


 俺は他に人がいたら二人と恋人として接する事が出来ないなと思ってそう聞いたが、ラウラの冗談に焦ってしまった。


「エステル達は先に上がったぞ、オリビエ殿がいるから変な事をされたくないと言って外湯には来なかったのだ。だが気配がそなただけになったとフィーが言ったのでこちらに来たんだ」
「そうなのか、じゃあ二人だけなんだが」
「いや、そういう訳では……」
「お待たせー、髪を洗っていたら遅くなっちゃったわ」
「わぁ……里の温泉を思い出しますね」
「兄さんとも来てみたいですね」
「へっ……?」


 ラウラの言葉が言い終わる前に金髪の女性と薄紫の髪の女性、水色の髪の少女が外湯に入ってきた。


「アリサにエマ、ティオまで……」
「えっ、なんで女湯にリィンがいるのよ!」
「アリサさん、ここ混浴ですよ。だから湯着の着用が義務付けられているんですよ」
「そうなの?てっきりこういう物かと思ってたんだけど……」
「私は知っていましたよ。ちゃんと注意書きを読まないと……」
「ううっ、仰るとおりね……」


 アリサは混浴だと知らなかったようで俺を見て驚いていた。エマに説明を受けて渋々納得している。ティオの言う通り注意書きはしっかり見ないとな。


「あの、俺がいると落ち着けないなら俺上がるけど……」
「べ、別にそこまでしなくていいわよ!驚いただけでルールを知らなかった私が悪いんだし……逆に気を悪くしちゃうから気にしないでいいわ」
「そうか……エマとティオは良いか?」
「はい、私も構いません。寧ろリィンさんとお話しできるいい機会ですし」
「私も兄さんの事をいっぱい話したいですし気にしなくても良いですよ」


 3人はそう言うとゆっくりと外湯の中に足を踏み入れた。


「……はぁ~♡中のお風呂の湯加減も良かったけど外湯も格別ね~♡シャワーとは違った温かさだわ」
「アリサさんの実家はお風呂は無いんですか?」
「帝国じゃバスタブが主流ね、後はシャワーかな。こんな風に広いお風呂に入ったのは子供の頃に一回旅行に行ったきりなの」
「そうなんですか、私の里では温泉があるんで毎日入っていましたので知らなかったです」
「えっ、そうなの?日常的に温泉に入れるなんて羨ましいわね。ティオは何処出身だっけ?温泉ある所なの?」
「今はクロスベルに住んでいますね」
「クロスベルは温泉とかないの?」
「こういった温泉地帯はありませんがミシュラムというリゾート地には温泉があるらしいです」
「ミシュラム……面白そう、いつかそっちにも行ってみたいわね」


 アリサとエマとティオは仲良くなったらしく温泉のトークをしていた。というかエマの住んでいた里って温泉があるのか、俺も行ってみたいな。


「エマの里ってもしかしてユミルって所?」
「いえ違いますが……そこは何処でしょうか?」
「ユミル?懐かしいわね、私が小さいころに行ったのってまさにそこよ。フィーも行ったことあるの?」
「ううん、わたしは行ったことないけどユンお爺ちゃんが良い温泉があるって言ってたから」


 フィーの質問にエマとアリサはそれぞれ違う反応をみせた。偶然にもアリサが話していた旅行に行った場所だったみたいだ。


「ユンお爺ちゃんってフィーの祖父の事?」
「本当のお爺ちゃんじゃない、リィンの剣の師匠でわたしも教えを受けた事があるの。いつもお小遣いくれる良い人だよ」
「あの人フィーに甘すぎるからな……」


 アリサの質問にフィーがそう答えた。西風の旅団の団員達に負けないくらいフィーに甘いんだよな、老師は……


「でもお爺ちゃんか。私も最近お爺様に会っていないし何だか懐かしくなっちゃったわね~」
「アリサのお爺さんってラインフォルト社の元会長であるグエン氏の事か?」
「えっ、お爺様の事を知ってるの?」
「直接会ったことはないけど名前は知ってるよ、有名人だしな」


 アリサの祖父であるグエン・ラインフォルトはあのG・シュミット博士とも親交を持っており導力鉄道や様々な兵器など多くの発明に携わってきた人だ。


「もしかしてリィンも私みたいに技術系のお仕事をしてるの?それともリベールにいるから遊撃士なのかしら?」
「どっちでもないよ、俺は猟兵だ」
「猟兵?」


 俺がそう言うとアリサとエマは首を傾げた。まあ猟兵を知らない人もいるか……


「戦場を渡り歩く傭兵の中でも特に強い集団の事だと思ってくれればいいよ。俺達が所属している猟兵団はラインフォルト社からも依頼を受けるんだ」
「だからお母様の事を知っていたのね。でも私、貴方達とは一回も会ったことないわよ?」
「そりゃしょっちゅう行ってるわけじゃないしな。そもそもイリーナ会長と依頼のやり取りしてるのは団長だし俺は2回会ったくらいだよ」
「ふーん、よく分からないけどお母様が依頼するならそれだけ凄い組織って事なのね」


 まあイリーナさんは優秀な人物だし娘であるアリサもそれは分かっているから彼女が依頼する俺達の団が凄い組織だと思ってくれたみたいだ。


 あんまり褒められた組織じゃないんだけど褒められると嬉しくなってしまうな。


「……アリサってイリーナって人の事嫌いなの?」
「えっ?」
「お、おいフィー……」


 フィーが急にそんな事を言ってアリサが目を丸くした。俺は慌ててフィーに止めようとする。


「急にごめんね、でもアリサってイリーナの名前を聞いたり話をしたりすると何だか寂しそうな目をしていたからつい……わたしは家族って暖かくて優しくしてくれるものだって思ってるから気になっちゃって……」


 なるほど、フィーからすれば家族は優しさと愛情の象徴みたいなものなんだな。それがあるから嬉しくなるし暖かさを感じる、それは俺も同意見だ。


 だからこそ寂しそうな目をしたアリサが気になったんだろうな。


「そっか、フィーは家族をそう思ってるのね。私もそう思うわ、でも今は家族と仲良くできないの」
「どうして?」
「私、お母様の気持ちが分からないの。昔はもっと笑みを浮かべる人だった、お父様や私の為に慣れない料理を頑張ったり一緒に旅行したり……今でも楽しかったって鮮明に思い浮かぶくらいに暖かくて素敵な家族だったわ。でもお父様が事故で亡くなってからお母様は変わってしまった。仕事に没頭するようになって私の事を相手してくれなくなったの。仕舞いにはお爺様から会長の座まで奪い取って……」
「アリサさん……」


 アリサの家庭の事情にフィーとエマは複雑そうな表情を浮かべた。ラウラとティオも思う事があるのか何かを考えこんでいる。


 家族との仲が上手くいかないのって辛いよな……俺も昔団長とケンカしたことを思い出した。


 でも俺達はその度にお互いを理解して絆を深めていった。だがアリサとイリーナさんは気持ちがズレていく一方のようだ。


「私、何度もお母様と話し合おうとしたわ。何回も何回も粘ってようやく一緒に食事をする機会を作ってもらってね、その日を楽しみにしていたんだ。でもお母様が急な仕事が入ったってボイコットしたからそれで我慢の限界が来て……」
「家出したのか、それは何というか……ごめん、上手く言えないや」


 アリサの悲しそうな顔に俺は慰めの言葉をかけようとしたが上手く言えなかった。仕事人間だとは思っていたけどここまでとは……


 まあイリーナさんにも事情があるんだろうけどそれを理解しろと言うのはアリサに酷だよな、まだ10代半ばだろうし親に甘えたい歳だ。


 家出したくなるほど悲しかったんだろうな。


「結局家出も出来なかったけどね」
「えっ?」
「それから数日後にようやく家出の準備が出来たから実行しようと思ったんだけどシャロン……私の家に仕えているメイドなんだけど彼女がリベールの中央工房に私が研修に行く手立てがすんだって言われてなし崩し的に連れてこられたって訳。きっとお母様は私が家出するって分かっていたんでしょうね……だから先手を取っていたんだわ。でもそれなら一言謝ればいいじゃない!それだけでいいのに厄介なものを押し付けるみたいに……あー、ムカムカする!」


 アリサはイリーナさんの顔を思い出したのかぷんすかと怒り出した。


「アリサさん、もし良かったら愚痴くらいならいくらでも聞きますよ」
「うん、ため込んでいる物をこの際全部出してしまった方が良いだろう」
「はい、私も不満とかあったら兄さんに聞いてもらっていますしいっぱい話してください」
「エマ、ラウラ、ティオ……ありがとう、気遣ってくれて嬉しいわ」


 エマ達の気遣いにアリサは笑みを浮かべて礼を言った。


 その後俺達はお互いの家族関係や俺達の経験してきた事、旅をしてきたほかの地方や好きな料理や趣味などいろんなことを話した。流石に聞かせられない事はボカしたけど俺達は絆を深めながら楽しい時間を過ごしたのだった。

 
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