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英雄伝説~西風の絶剣~

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第80話 鬼気解放

 
前書き
 リィンが鬼気解放を使いましたがこれはまだリィンが鬼の力を使いこなせていないからこっちを使ったという風にしています。


 どうみても神気合一の下位互換にしか感じないんですよね、鬼気解放…… 

 
side;リィン


「がはっ!?」


 強い衝撃と共に岩壁に叩きつけられる、俺は痛む体を抑えながら刀を構えて走り出した。


「遅ぇよ」


 だがヴァルターは俺の顔に前蹴りをすると岩壁に叩きつけた。


「ぐぁ……!」
「いつまでこんな茶番を繰り返すつもりだ?お前如きが俺を殺さないで制圧できると本気で思ってんのかよ?」


 タバコを吸いながら余裕そうに俺を貶すヴァルター、俺は刀を離してナイフを取り出してヴァルターの足に刺したが……


「なっ……!」


 ナイフは先端が少し刺さっただけでそれ以上はさせなかった。


「硬ぇだろう?氣を練って肉体の強度を上げているのさ。お前だって似たようなことをやるだろう、それと同じさ」


 確かに武術の中には氣を使った肉体強化はある、八葉一刀流にもそういう技術はあるし流派によってやり方は違うだろうが基礎ともいえる技術だ。


 だがこの男は今まで戦ってきた武術家や戦士の中でも氣の練り方が熟練されている、まるで鉄の鎧に刺しているみたいだ。


 俺はナイフを捨てヴァルターの足を掴んでドラゴンスクリューという組み技で奴の体を倒し寝技に持ち込んだ。ヴァルターの腕を掴み足を組みつかせて三角締めをかけた。


「おいおい、俺は男と寝る趣味はねえぜ?」


 三角締めは首の動脈を締め付け呼吸を奪い失神させる技だ。普通なら意識が薄れていくはずなのにヴァルターは余裕そうに呟いた。


 ヴァルターは俺の左腕を持つと無理やり首から外そうとする、なんて力だ……!


 俺は必至に技をかけなおそうとするが首と右腕を振りほどかれた。俺は一瞬だけ鬼の力を解放するとヴァルターを投げ飛ばした。


「おおっ♪」


 俺は直ぐに起き上がりヴァルターの顔をボールを蹴りぬくようにキックした。


「はっ、なってねえな。蹴りって言うのはこうやるんだぜ!」


 ヴァルターは目にも止まらぬ速さで俺の顎を蹴りぬいた。意識が持っていかれそうになるが歯を食いしばって何とか耐える。


「ぐふっ……!?」
「今見せたその異能、レーヴェに一撃入れた奴か」
「はぁはぁ……レーヴェ?誰だ、そんな奴は知らないぞ」
「そうか、お前らの前ではロランスと名乗っていたんだったな。奴の名はレオンハルト、俺と同じ執行者だ」


 ロランス少尉の本当の名はレオンハルトというのか……やはりあの男も執行者だったんだな。


「しかしなんでその力をフルで使わねえんだ?俺はそれが見てぇからお前にちょっかい出したんだぜ?態々各地で情報まで残してやったのによぉ、焦らすなよな」
「やはり誘い込んだのか、お前ほどの男が一般人に姿を見られる訳が無いからな」


 ツァイス各地でヴァルターの姿を見たと言う証言が多かったのはこいつがわざとそうしていたからだ。俺達がここに来るように仕向けていたんだな。


「お前も分かってんだろう?今のままじゃ俺には勝てねぇってよ……なのになぜ使わない?出し惜しみするようなもんでもねえだろう」
「……お前には関係ないだろう」


 俺がそう言うとヴァルターは溜息を吐いた。


「はー、くだらねぇ……こんなんじゃ満足できねえよ。折角良い玩具が見つかったと思ったんだが期待外れか」
「……」
「だが俺は良いことを考えた。お前がその力を俺に向けて使いたくなるようにしてやるよ」
「何をする気だ……」


 ヴァルターは二枚の写真を取り出した、そこにはフィーとラウラが写っていた。


「ブルブランから借りたもんだ、この二人お前のコレだろう?こいつらの首を引っこ抜いてお前の前に並べてやれば俺を殺す気になるんじゃ……がっ!?」


 ヴァルターが全てを言い切る前に俺は奴の胸に破甲拳を放った。ヴァルターはさっきの俺のように岩壁に激突する。


「フィーとラウラを殺す……?殺すだと……!?」


 俺はヴァルターを睨みつけた。


 普通なら唯の戯言だと意識しない、だがこの男はそれを本当に実行できる実力を持っている。フィーやラウラどころかエステルや姉弟子、クローゼさんやオリビエさん、アガットさんにティータと全員殺すだろう。


「いいさ、殺し合いがしたいなら俺が付き合ってやる。お前を殺してやる……!!」


 手加減して勝てる相手じゃない、俺が殺されればこの男は俺の大切なフィーやラウラ、仲間を殺す。


 だったら俺がこの男を殺さないと……!


「鬼気解放!」


 鬼の力を解放した俺は太刀を拾いなおして上段から振るった。


「滅・緋空斬!!」


 縦に振るわれた燃える飛ぶ斬撃がヴァルターに目掛けて放たれた。ヴァルターは足から衝撃波を繰り出して緋空斬を相殺する。


「ククッ……漸く殺る気になったようだな。そうじゃなくちゃ面白くねぇ」


 ヴァルターは全身から闘気を迸らせ構える。なんて威圧感だ……!


「レイザーバレット!」


 ヴァルターは足から衝撃波を連続で放ってきた。


「滅・疾風!」


 俺は疾風を使い衝撃波を回避しながら奴に斬りかかった。ヴァルターはその一撃を先程ナイフを通さないほど肉体を硬くできる気の硬化で受けたが完全には防げずに血が噴き出した。


「くそっ!切断には至らなかったか!」
「はっはっは!いいじゃねえか!傷を負ったなんて久しぶりだ!」


 ヴァルターは怪我などお構いなしに俺に接近すると怒涛の連続攻撃を放ってきた。


「インフィニティコンボ!」
「残月!」


 俺は残月の構えに入り奴の攻撃をいなしていく、完全にはいなせずに複数の打撃を貰ったが構わずに業炎撃を繰り出した。


「フレイムブロウ!」


 それに対してヴァルターは摩擦によって燃え上がった拳で打撃を打ち込んできた。業炎撃とフレイムブロウがぶつかり合い大きな衝撃が走った。


「うおぉぉぉぉっ!!」
「らあぁぁぁぁっ!!」


 業炎撃とフレイムブロウの鍔迫り合い、その決着は互いに大きく後退するという引き分けに終わった。


「レイザーバレット!」


 先程より大きな衝撃波を足から放つヴァルター、俺はその攻撃を跳んで回避すると時雨の構えを取る。


「時雨・山風!」
「ソニックシュート!」


 上空から突きを連続で放ちそれを飛ぶ斬撃にして放つ範囲攻撃を繰り出した。それをヴァルターも高速で放たれる拳で相殺する。


「上空に跳んだのが運の尽きだったな、死ね!」


 そして空中で動けなくなっていた俺にヴァルターが跳んで向かってきた。そして俺の足を掴むと組み付いて何かの技に移行する。


「デストロイドライバー!」


 ヴァルターは俺の四肢を封じ込めて頭を地面に激突させようとする。俺は拘束から逃げだそうとするが完全に極められており逃げられない。


(だったら……!)


 俺は鬼気解放によってあふれ出ていた赤い気を内部へと圧縮させていく。そして叩きつけられる寸前にそれを解放した。


「爆芯!!」


 咄嗟に名付けたそれは俺の全身から圧縮された気を一気に開放するという単純な技だ。だがそれはヴァルターの拘束を吹き飛ばすほどの衝撃を生み出した。


「くっ……!」
「今度はお前がさっき自分で言ったことを味わえ!」


 上空に浮かんでいたヴァルターは回避できない、先に地面に着いた俺は直に奴に攻撃を放った。


「水龍脈!!」


 時雨では硬化する肉体に弾かれると判断して隙が大きいが威力のある水龍脈を放った。ヴァルターの心臓に目掛けて放ったが奴は咄嗟に拳で突きの軌道を逸らす、俺の肩名は奴の右肩を突き刺した。


 そのまま壁にヴァルターを叩きつけた俺は次の手を考えた。


(突きは外したがこのまま斬り上げて肩を切断してやる!)


 俺はこのままヴァルターの肩を斬り裂いてやろうと刀に力を籠めるがヴァルターは俺の片方の腕を掴んでそれをさせない。


「ククッ、どうする?」


 不敵に挑発するヴァルター、俺は警戒するがその時俺の頭の中にまたあの声が響いた。


『殺セ……殺セ……!』
(くっ!lこんな時に出てくるな!)


 俺は声を抑え込んだがヴァルターがその隙を見逃すはずもなく俺の腹部に拳を添えた。その瞬間俺の内臓がまるで爆発したかのような衝撃に襲われて俺は吹っ飛んだ。


「……ッ!?」


 ゴスペルの刺さった杭にぶつかり勢いが弱まって地面に叩きつけられた。


 声も出せないほどの痛みで地面を転げまわるも何とか歯を食いしばって気絶するのは抑えれた。は、早くダメージを回復しないと……!


 俺は薬を飲もうとするがそこに何かが飛んできた、それは奴が放った気弾だった。


 俺はその気弾を後方にジャンプして回避する。気弾は地面に当たり砂埃を巻き上げた。


「奴は何処に……!」


 俺はヴァルターを探すがその時砂煙を引き裂いてヴァルターが俺の目の前に現れた。


「破甲拳!!」


 俺は咄嗟に破甲拳を奴の顔面に放った。だがヴァルターはサングラスを割られながらも構わずに攻撃を放った。


「アルティメットブロー!」


 次の瞬間、俺の顎に凄まじい衝撃が走り俺の体は洞窟の天井まで打ち上げられて叩きつけられた。脳が揺れて意識が薄れていく。


「ぐふっ……!」


 俺は血を噴き出して地面に落ちていった。横たわる俺にヴァルターが肩を抑えながら近寄ってくる。


「ククッ……残念だったな、最後の最後で気が乱れたぜ?その力を完全に使いこなせていなかったお前の負けだ」
「ぐっ……」
「だが楽しかったぜ、久しぶりに血肉湧き上がる殺しあいが出来た。その礼としてこれ以上苦しまないようにトドメを刺してやる」
「俺を……殺すのか?」
「アイツは出来れば殺すなと言っていたが俺には関係ないことだ。そもそも例の計画にはなんの関係もないアイツの私情だからな、俺も好きにさせてもらう」


 ヴァルターが言った計画が気になったが今はそれどころじゃない、早く逃げないと……


 俺は痛む体に鞭を撃って這いずりながら逃げようとする。


 頭の中にはフィーとラウラの笑みが浮かんだ、もう二人に会えないなんて嫌だ……無様だろうが逃げきってやるんだ……!


「ククッ、その状況で逃げる気か?無様……と言う奴が殆どだろうが俺はそんな事言わねえよ、生きようとするのは当たり前の事だからな」


 だがヴァルターに踏みつけられて動けなくなった。くそっ、今になって本気で死にたくないなんて思うとは……俺は何処まで馬鹿なんだろうか。


(ごめん、フィー……ラウラ……)
「あばよ、リィン・クラウゼル。俺が死んだら煉獄でこの戦いの続きをしようぜ」


 そして奴の手刀が放たれて……


「させない!」


 だがそこにフィーが現れてヴァルターに銃撃を放った。ヴァルターは後方に大きくジャンプしてそれを回避する。


「リィン!大丈夫!?」
「フィー……なのか?」
「しっかりして!今薬を飲ませるから!」


 フィーが俺の頭を抱き上げて薬を飲ませてくれた。


「フィーさん!」
「クローゼ、リィンをお願い!」
「分かりました!」


 すると他のメンバーたちも駆けつけてくれた。みんな無事だったんだな……


「ほう、お前ら特異点を脱出できたのか。予想より早かったな」
「はっ、あんな程度俺達にはなんてことなかったぜ」
「リィンの仇、討たせてもらおう」


 アガットさんやラウラ、それにエステル達は俺の前に出て武器を構えた。


「覚悟しなさい!とっつかまえてやるわ!」
「はっ、小娘が舐めてんじゃねえぞ。負傷してるとはいえそれはお前らも同じこと……全員纏めて相手をしてやる」
「ならまずは俺の相手をしてもらおうか」
「ッ!」


 その言葉と同時に何者かがヴァルターに向かっていった。その人物はヴァルターに飛び蹴りを放ち奴を交代させる。


「どうやら間に合ったようだな」
「ジン……さん?」


 それはかつて俺達の力になってくれたカルバート共和国の遊撃士、ジン・ヴァセックだった。


「リィン、よくコイツを相手に耐えたな。後は俺達に任せろ」
「ありがとう……ございます」


 ジンさんほどの達人が加勢してくれるなんて心強い……俺は安心して気を失った。


―――――――――

――――――

―――


side:フィー


「リィン!……気を失っただけか、良かった」


 わたしは気を失ったリィンを見て一瞬驚くが少なくとも命に別状はなかったようなので安堵の溜息を吐いた。


「ククク……レーヴェの報告にあったカルバート共和国のA級遊撃士……ジン、てめぇの事だったのか」
「まあそういうことだ。まさかこんな場所であんたと再会するとはな……ヴァルター」


 ジンはサングラスの男……ヴァルターを睨みそう言い放った。もしかして二人って知り合いなのかな?


「いつから『結社』なんぞに足を突っ込んでいやがるんだ?」
「あの出来事の後さ。どこかで見ていたのか直ぐにスカウトが来てな、話を聞いて面白そうだったので入っただけさ」
「馬鹿な事を……」


 そう言って笑うヴァルターをさらに強い目で睨みつけるジン……この二人、唯の知り合いじゃないね。なにか因縁じみたモノを感じるよ。


「あんた、自分が一体何をしてるのか分かってるのか!?そんなんじゃ師父はいつまで絶っても浮かばれ……」
「おいおい、綺麗事を抜かすなよ」



 その時だった、さっきまで飄々としていたヴァルターが明らかにいら立ちを込めた声色に変化した。


「てめぇは知ってるはずだ、ジン。俺がどんな道を選んだのかをな」
「……」
「ふざけた事を抜かすと……殺すぞ?」


 リィンに付けられた傷から血が噴き出した。でもそれ以上に怒りの感情が闘気と共にあふれ出ていた。


「……だったらあんたは知ってるのか?ツァイスの町にキリカがいる事を」
「っ!」


 キリカの名前を聞いたヴァルターの闘気が少しだけ小さくなった。


「2年ほど前からツァイスの遊撃士支部で働いているんだ、どうやらそれまでは大陸各地を回っていたらしい。キリカはあんたの事を今でも……」
「チッ……衰えたぜ」


 ヴァルターはそう言うと杭に設置されていたゴスペルを抜き取って洞窟の上にあった穴に飛び上がった。


「おい、ヴァルター!結社の事は兎も角キリカはずっとあんたを……!!」
「うるせぇよ、ジン。アイツとはもう終わった仲だ」


 ヴァルターはこっちを見下ろすとわたしに声をかけてきた。


「おいガキ、リィンに言っておけ。次に殺りあう時はその力使いこなせるようになっておけとな」
「気安くリィンの名前を呼ばないで……!」


 わたしはヴァルターを睨みつけるが奴はそんなもの気にもしないで去っていった。


「逃げたわ!追いかけないと……!」
「いや止せ。ヴァルターは身体能力においては泰斗の弟子の中でも随一だった、追いつけはしない。それよりもリィンの方が先だ」
「フィー!リィン君は大丈夫!?」



 アネラスはヴァルターを追おうとするがジンに止められた。アイツ凄く強そうだった、下手に追いかけても負傷してるわたし達では危険だし今はリィンの方が先だ。


 エステルは駆け寄ってくるがわたしは首を縦に振った。


「傷は回復させた。でも直ぐにミリアムの所に連れて行った方が良い」
「なら急いでツァイスに向かうぞ!」


 ジンがリィンを担いで外に向かっていく。わたしはアガットやアネラスに後の事を任せてジンの後を追った。


  
 

 
後書き
―――オリジナルクラフト紹介―――


『フレイムブロウ』


 摩擦によって燃え上がった拳で相手を打ち抜く。範囲攻撃で50%で炎傷・気絶。


『デストロイドライバー』


 敵を上空に蹴り上げて組み付き地面に叩きつける。単体攻撃で30パーセントの確率で即死、70%で気絶。 
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