寄りを戻したくて

　　　　　　　　　　　　　　　　寄りを戻したくて
　高田雄馬サラリーマンをしていて黒髪を真ん中で分けすっきりした顎ときりっとした目と引き締まった唇と細い眉を持つ一七三位の痩せた身体の彼は今は彼女はいない。だが。
「営業の高田さん宮家さんと付き合ってたの」
「ええ、企画部の宮家真礼さんとね」
「最近まで付き合ってたのよ」
「そうだったのよ」
　社内のＯＬ達はこう話した。
「同期入社でね」
「研修の時に仲良くなって」
「それで付き合ってたのよ」
「けれど旅行好きの宮家さんとジム通いが好きな高田さんじゃ休日どう過ごすのかよく意見が衝突して」
「それで別れたそうよ」
　こう話していた、そして実際にだった。
　高田はジム通いが好きで仕事帰りや休日はいつもジムで汗をかいていた。そして真礼は連休はよく旅行に行っていた。
　それで接点はなかった、だが。
　高田がいつも通り仕事帰りにジムに行って汗をかいていると。
　隣にスポーツ用のシャツに膝までの半ズボン姿の彼と同年代の女性がきた。黒髪を首の先位の高さで前が長く後ろが短くなる様に切っていてだった。
　大きな吊り目で細い眉で艶やかな口元の色白で一六二位の見事なスタイルの女性が来た、雄馬はその彼女を見て言った。
「こっちのジム入ったのかよ」
「そうよ」
　その女性、真礼は高田に顔を向けて答えた。
「スポーツもいいと思ってね」
「そうなんだな」
「ええ、いいわよね」
「俺が言うことじゃないからな」　
　高田はこう返した。
「だからな」
「このジムで汗かいていいのね」
「好きにしろ、俺は俺でやる」
「それじゃあね」
　真礼は彼に応えてだった。
　彼の横で汗をかいた、この日からだった。
　真礼は毎日ジムに来て高田の横で汗をかいた、そうして。
　連休の時は旅行に行っていた、だがそうでない時は休日もジムに来て彼の横で汗をかいた。そんな彼女を見てだった。
　高田はある日社内で真礼に対して言った。
「何でずっとジムに来てるんだよ」
「汗を流したくても」
　真礼はこう彼に答えた。
「それでよ」
「それだけじゃないだろ」
　高田は真礼の返事に眉を顰めさせて返した。
「それ位俺だってわかるぞ」
「だから理由を言えっていうの」
「ああ、どういうつもりなんだよ」
「私達付き合っていたでしょ」
　高田を見据えてだ、真礼は強い声で返した。