プロパンガス爆発リア充しろ【完結】
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時を超えた物語
「うん。驚くのも無理はないと思うんだ。だってさ、まだ二十歳にもなってないし。だけどさ、これでも、それなりに考えて出した結論なんだよね」
「うーん、そうだね」
「そう。でさ、相手の人、ちょっと変わった人でさ。普通、プロポーズっていうのは、女の人からするもんじゃないだろう? なのに、彼氏、自分がしたいって言い出してさ。しかも、私が断ってもしつこく付き纏ってくるわけ。それで結局、折れたのは私のほうで……。ま、それだけ惚れられてるってことなんだろうけどね」
「でもそれ日本住血吸虫だよ。人間の格好をしているけどね。変な虫と付き合わない方がいいよ。病気がうつされるよ」
「うっせぇ! そんなことは分かってんだよ!」
「そんなこと言うならさ、僕と結婚してよ!」
「嫌に決まってるじゃん! キモいし!」
「…………ぐすん」
※※※
『はい、もしもし』
「もし、俺です。そっちに行きました」
電話口から聞こえてくる若い男の声に、初老の男は淡々と応える。
ここは埼玉県川越市。関東の某県にある県庁所在地の郊外に位置する閑静な住宅街だ。
『分かった。すぐ向かう。ありがとう』
「いえ」
通話を終えた男が、スマホの電源を切ると、目の前にある家を見上げる。
築30年以上の平屋建ての一軒家で、玄関の扉の前まで石段が続いているのが見える。
「ははは、まるで忍者屋敷だ」
「どうしたの? まさくん」
独り言に反応され、隣に立つ妻へ視線を向ける。妻はこちらに顔を向けていたが、少し不安げに尋ねてきた。
「この家の中、何だかいつにも増して、おかしな感じがするの」
「……ああ」
妻に促されてもう一度、家全体を見回す。なるほど確かに普段とは違った印象を受ける。
「気づかなかったが、そう言われてみれば妙な雰囲気を感じるな」
「何というか、上手く言えないけれど。すごくイヤなものを、中に閉じ込めているみたいな。うまく説明できないんだけどさ」
妻の言っていることは分かる。だが具体的にどうなっているのかが理解できなかった。
「……まあ、とにかく、行くか。あまりグズグズしてもしょうがない。急ごう」
俺は少し躊躇したが歩き始めることにした。このままでは、いつまでも立ち止まってしまいそうだったからだ。
「……ねえ。まさか、入るの?」
妻も足を踏み出しながら、おずおずと尋ねる。しかし、答えずに前へ進む。
「やめようよ。怖いよ。危ないかもしれないじゃない」
「じゃあ、ここで待っていてくれ。何かあったらすぐに大声を出すんだぞ。いいね?」
念を押してからドアを開けると、俺は薄暗い屋内へと踏み込んでいった――。
***…………どれくらい歩いただろう。やがて廊下の先に光が見えてきて、思わず安堵の息を漏らした。
やはり先ほどの違和感は錯覚ではなかったらしい。この先に、得体の知れない空間がある。それを確信し、自然と身体が強張った。
(よし)
意を決して足を速めると、光の漏れ出す部屋の扉を開く。そして、一気にその中へと飛び込んだ。
「動くな!」
叫びざま、室内へ目を凝らす。すると予想通りというべきか、部屋の中には2人の男女の姿があった。
男は白衣を着た背の高い優男で、年齢は20代半ばといったところだろう。
対して、女の方はというと、見た目の若さに反して顔には深すぎるしわが刻まれていた。おそらく50代の後半ぐらいだろう。服装から察するに、医者のようだ。
そんな彼らの様子を観察しながらも俺は、拳銃を構えてじりじりと間合いを詰めていく。「銃を捨てろ!」
「お断りします。これは私にとって命よりも大切なものでしてね」
男の警告に対し、あっさりと拒否を示すと、女医はそのままゆっくりと口を開いた。
「私は大丈夫だから。心配しなくていいわよ。あなたは下がってなさい」
その口調は柔らかく、どこか幼子を諭すようなものでもあった。
だが、それはあくまで表面上のものにすぎない。何故ならば、彼女もすでに覚悟を決めており、今さら怖気づくことなどあるはずがなかったからである。
「何を言っているんだ! 君は黙っていたまえ」
男は苛立たしげに叫んだ後で、「失礼しました。自分は、こういうものです」と名乗りを上げた。そして続けて名刺を差し出してくるが、彼女は無視をした。「お嬢さん、いい加減にしてもらえませんか。あんたがチクワ電子頭脳の発明者であることは調べがついているんだ。チクワ電子頭脳でこの世界をめちゃくちゃに操っているということも。今回の事件の真犯人であることも」「あら、それは心外ですね。どうして、私がそんなことをしなければならないのですか。理由を教えてください」「ふん、白々しい嘘をつくな。お前はあのチビメガネをハッキングしてチクワの機能を乗っ取ったんだろう。そうだ。そうに違いない。そして、自分の欲望のままに世界を弄び始めた」
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