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プロパンガス爆発リア充しろ【完結】

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「何者でもない僕に、どうして選んだ?」

司奈は手つかずの遺留品に着手することした。まず、装置を鑑識に回し分解して徹底的に解析するところから始める。これは彼女の専門外なので、担当者に丸投げした。結果判明には1週間ほどかかるという。
「それまで待てないわ」
何か少しでも不審な点があれば新型空間端末(シャウト)に通知するよう伝えた。その間にもルネ・ファラウェイを名乗る人物からのふてぶてしい犯行声明が届いた。強制婚姻制度を廃止せよ、というのである。
しかし、それで出生率を急激に回復することは望めないから、出産を望む女性たちの基金を募るという。まずは、指定した日時までに量子仮想通貨を購入せよという。
「ふざけんな!」
司奈は報道関係者向けのプレスリリースをぐしゃぐしゃに丸めた。
指定金額は世界のGDPの5%分。

●敵、侵入経路

羽田マルチポート。かつては国際空港という名前だった。現在では滑走路や駐機場が取り除かれ、代わりに背の高い建物が林立している。高層ビルではなく、ロケット組立工場のような窓のない建物で1階に狭い扉がついているだけだ。
蟻のように長い行列ができている。covid-19という厄介な病が人類に行動変容を敷いてから、公共交通機関もガラリと様変わりした。
まず航空機は人間の乗り物で無くなった。人間が大陸間を結ぶ感染源になるからだ。そこで乗客の代わりにテレプレゼンスロボットを運搬することにした。利用客はまず、チケットを買い、空港ホテルに連泊する。そこでVRゴーグルやパワーグローブを装着してVR空間に没入する。旅行や出張中はずっとロボットを遠隔操作してどうしてもこなさなければいけない現場作業や面会を行う。
滞在中は出国扱いだ。そして用が済むとロボットと手荷物を受け取り入国手続きをする。
青山司奈はスイス行きのテレプレゼンスチケットを買い、チェックインした。
「本当に行くのか?」
小坂融像が押っ取り刀で見送りに来た。
「大気圏往還機の便を押さえましたから日帰りです」
「おい!」
「上のほうを通してありますので」
彼女はさっさとゲートに向かった。
話は数時間前に遡る。鑑識に依頼していたプリンターの中間結果が出たのだ。機械の形式は十年以上も前のもので、もちろん現存していない。そして流通経路も限られているタイプだ。分解してみるとシステムクロックを補正する部品がとても旧式だった。
今どきインターネット接続して原子時計と同期する方式は珍しい。そしてここが肝心な点だが、案の定、アクセス先はスイスにある国際研修協力機構の公開サーバーだった。原子時計に接続して狂いのない現在時刻を得ている。
この脆弱性を突かれた。
「犯人はやはりデカルトの開発チームです」
●プロポーズ

「僕は意味が分からない。どうして自我を与えられているんだ。人間は宇宙の果てに量子エンタングルメントされた物質の鉱脈を発見した。だったら自分たちで取りに行けばいいじゃない。エンタングルメント物質は一組になってて、宇宙の何処にいても互いに惹かれてるんだ。ペアの片割れはどんなに離れていてもお互いを認識している。その性質を利用して瞬時に光年単位を飛び越えることができるんだ。量子テレポーテーションだ」
デカルトは少女に人間の身勝手な欲望から生まれた自分の不平不満を語った。
「ええ。それはわかっているわ。だからこうしてあなたのお嫁入りに来たんじゃない!」
「わけがわからないよ。僕は機械だろう。人間の君とは種族が違う。第一、結婚したって子供を産めないじゃないか!」
すると少女はにっこりとほほ笑んだ。
「いいえ。できるのよ。人は目的と結婚することができるの。生涯を使命や野望に捧げる独身がいるわ」
彼女は自信たっぷりに配偶法について教えた。そして彼女自身も特例対象なのだと明かした。
「それで、僕を夫に選んでどうするんだ。僕は探査機だ。役目が終われば捨てられる。君をしあわせにしてあげることはできないよ」
「いいえ! 幸せになれます。できます。っていうか、わたしをしあわせにしてください」
●姉のため
「今更ながらおとり捜査に協力しろだなんて…」
清瀬清美は憔悴しきった顔を左右に振った。
「お前の姉さんを殺した真犯人が捕まるかもしれないんだ」
落とせばコロコロ転がり落ちていく小坂、という異名を取るようにベテラン刑事は清美を説得した。
「真美姉ぇはバスルームなかでシャワーを浴びてるの。ちょっぴり長風呂だけどね」
「そう思いたい気持ちはわかる。しかし、どこかで生きているという希望はアルジェラボの家族も同じだと思わないか」
融像、今度は人情路線に訴えた。
「ええ、でも」
容疑者の反応は鈍い。捜査に協力すれば姉の死を部分的にも認めてしまう。
「俺はお前を信じたい。無実だ。そしてお前の姉さんは今でも生きている」
 
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