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プロパンガス爆発リア充しろ【完結】

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「彼女ができたらしいです」

どうしてもダメという人は一定数いる。彼らに対しても国は里親というキャリアパスをちゃんと用意している。
ちゃんと人の親になれて幸せじゃないかとマッチングされたカップルはいう。でも、彼ら彼女らの顔は笑っていない。

そして、姉はみごとにこうのとりの陥穽に落ちた。
「貴女はいいわよねぇええ!」

姉が裾で手を拭いている。清美はバスタオルを使えと言うが、大学の単位を落としていたら自分も露出度の高い服を着ていた可能性があると思い、自分にも責任があると感じる。姉の側に行かなかった理由は、配偶法の特例項目により、極めて高度かつ国家戦略に必要欠かざる才能専門性を有し余人を以て代え難い人材は、専門者会議の助言と審査を経て結婚が免除されるからだ。姉が|稲田姫のプロジェクトと結婚したのは、清美のためだと言うが、清美は冗談めかして「たっぷりケツの毛まで毟り取って返すって言ったじゃない」と返す。元夫も見合い当日から粘着していたらしいが、清美は自分がしつこかったために婚期を逃した原因があると思い、姉に謝罪する。しかし、引き戸が閉まると、姉がドレスを蹴り出し、清美が洗うことになる。清美は姉の代わりにプロジェクトの問題を解決するために、プロジェクトメンバーである矢作絵里奈からの電話に応じる。姉がいなくなってしまったという連絡に驚く清美は、プロジェクトの真相に迫ることになる。

そこで通話が切れた。五分後、私は印旛沼アルゴリズム推進研究所の赤い建屋に舞い降りた。ワンマンドローンがよたよたと入道雲に消えていく。生ぬるい風が髪を揺らす。着陸前から察していたが人の気配がない。それどころか生活感が消えている。そういえばナビシステムが何度も念押ししたっけ。アルジェラボは25年前に廃された。押し問答が面倒になって私は3年ぶりにコマンドラインを手打ちしたのだ。経度緯度を指定して強引に到着した。屋内は禁コロだ。感染症対策のために服をダストシュートに入れ、シャワーを浴び、自分のロッカーから下着を含めた一式を取り出す。銀色の糸くずが一杯ついていた。
「うぇっ。衣魚だらけじゃん」
濡れた体のまま検疫場を素通りして職場に向かう。立体印刷機にパターンが入っていたハズだ。姫が着せ替えごっこするためのデータが。そこで私は見たくない文章に出会った。
〝KiY♡へ。これを見ているということはあたしは…"
●AI結婚理論

人工知能の学習は結婚と似ている。人間は物事を予測する際、縦軸に深刻さや期待値を取り、横に時間軸を置く。
そして、経過に応じた結果を点に記していく。もっとわかりやすく例えるなら恋人の月収だ。
交際中の女は考える。このまま時間軸を結婚後に延長した時、あの人の収入でやっていけるだろうかと。
点と点を赤ペンで結び、出産や子供の入学など節目節目の収入を予測したい。その為にはなるべく多くの点を結ぶ曲線を探す必要がある。

彼女は赤ペンで何度も何度も線を引きなおすのだ。まるで運命の赤い糸をみつける作業だ。
人工知能も手探りで事物の因果関係を学んでいく。これをフィッティングという。

さて、恋愛において白馬の王子様が迎えに来たり、一目惚れした相手と幸せな夫婦生活を満了する奇跡はそうそうない。

人は異性遍歴を重ねながらパターン認識を鍛えて己の理想像に近似した相手を選ぶ。

恋する二人はまことに客観的な赤糸(データ)に寄り添うものなのだ。

「でも、二人がうまく行くかどうかなんて評価できませんよね」

英国、マンチェスターにあるラッセルフォード工科大学の講堂に失笑が満ちた。
機械学習に関する授業は美人のアリサ・テレーズ教授が教鞭を執っており、満席だ。
二回生のエドモンドがいい質問をした。アリサはさっそく評価関数の紹介をはじめる。

「伴侶にどれぐらい従っていけそうか、相手がどれほど理想像っぽいか。判断基準を設けるために評価関数という道具を用意します」

生徒のスピリッツに数式に流れる。「例として訓練データを用いる二関数を用います」
Σでおなじみの二項定理が右辺に記述された。
「Nは夫婦喧嘩の履歴です。愛する二人は衝突を繰り返して絆を深めていきます」
 
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