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仮面ライダーAP

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特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第20話


 放送局内のニューススタジオ。その空間で繰り広げられた超人達の激闘は、室内の設備を破壊し尽くしていた。

 その荒れ果てた室内で熾烈な拳闘を繰り広げていた仮面ライダーボクサーとDattyの「最終ラウンド」も、佳境を迎えている。
 互いにファイティングポーズを取っている両者は、足元をふらつかせながらも最後の一撃を決めようとしていた。

「はぁ、はぁッ……!」
「へ、へへっ……やぁるじゃねぇか、ファンボーイ……! この俺を相手にここまで張り合って来るとは、大したタマだ……! 警察なんかより、プロボクサーになってた方が成功してたんじゃあねぇかぁ?」

 Dattyよりもダメージが深刻なのか、ボクサーの足取りは彼以上におぼつかないものになっていた。それでもボクサーこと南義男は、その双眸でしっかりと宿敵の姿を射抜いている。
 かつて憧れた相手であり、何としても超えねばならない壁でもある宿敵を。

「……もう、なってるさ。俺はプロの刑事……そして、『仮面ライダーボクサー』だからな……!」
「はははッ! なぁるほどなぁ、そりゃあ確かにプロ試験も合格済みだァ! じゃあ……いっちょ試してみるかい? 俺を超えて、チャンピオンになれるかどうかをよォッ!」

 そんな彼に引導を渡すべく、Dattyは大きく踏み込み最後のストレートパンチを放とうとしていた。
 戦車すら横転させる彼が全力で繰り出すその一撃は、生半可な威力ではない。これまでボクサーを痛め付けて来たのは所詮、ジャブやフックに過ぎないのだ。

 このストレートをまともに喰らえば、ボクサーはその衝撃だけで装甲もろとも首を消し飛ばされてしまうだろう。だが彼は恐れることなく、真っ向から迎え撃つように踏み込んでいた。

「おらぁあぁあぁあッ!」
「どぉらぁああぁッ!」

 ボクサーはその巨大な右腕に銀色のエネルギーを凝縮させ、Dattyの顔面目掛けて強烈なストレートパンチ「シュリンプストレート」を繰り出して行く。

 そして、両者の絶叫がこのスタジオに反響し――激しい衝撃音が響き渡った。クロスカウンターの如く突き出された鉄拳が、相手の顔面に炸裂したのだ。

 先にパンチを命中させていたのは――ボクサーだった。渾身のシュリンプストレートを受けたDattyはよたよたと後退り、徐々に間柴健斗としての姿に戻って行く。

「……へっ、こりゃあ世界だって狙えちまいそうだぜ。なぁ、ファンボーイ……いや、仮面ライダー……ボクサーッ……!」

 自分を超えた、新たなるチャンピオンの誕生を祝うように。ボクサーの勝利を認めた彼は、轟音と共に倒れ込んでしまうのだった。
 そんな宿敵の「ノックアウト」を見届けたボクサーの仮面も、一拍遅れて崩れ落ちてしまう。命中したのはシュリンプストレートの方が先だったのだが、Dattyの拳も僅かにボクサーの顔面に触れていたのだ。

 辛うじて接触した程度の衝撃であったのにも拘らず、それだけでボクサーの仮面が崩壊したのである。まともに喰らっていれば、間違いなくボクサーの方が「ノックアウト」されていたのだろう。

「悪いが……俺はもう、世界にもチャンピオンにも興味はねぇ。市民の笑顔が……俺のタイトルだからな」

 その接戦を制したボクサーこと南義男は、誇らしげな表情を露わにする。何の栄冠(タイトル)も手にしていない一介の刑事である彼は、無冠の覇者としてその拳を天に掲げるのだった。

 ◆

 ハイドラ・レディの髪先が変異した、無数の蛇頭。それぞれが意思を持っているかのように無軌道に飛び回るその牙を、仮面ライダータキオンは必死にかわし続けていた。

 超加速機能「CLOCK(クロック) UP(アップ)」を有しているタキオンの疾さに付いて来れる怪人などあり得ない……はずなのだが。ハイドラ・レディの蛇頭は自動誘導弾(ホーミングミサイル)の如く、ピッタリとタキオンを追跡している。

「……タキオン粒子を発見したのは芦屋隷だけだと思っていましたか? 残念ですが、あなたの超加速(クロックアップ)は所詮……私の『後追い』に過ぎません」
「やはりこの女、俺と同じタキオン粒子を……! 道理でクロックアップ状態の俺を、これほど正確に補足出来ているわけだッ……!」

 彼女がタキオンと同じ「領域」に達している――即ち「CLOCK(クロック) UP(アップ)」状態にあることは明らかであった。
 芦屋隷がタキオン粒子を発見してタキオンのスーツを完成させたように、彼女もその粒子が齎す超加速能力を獲得していたのである。

「同じ? ……失敬な。あなたのような紛い物では所詮20カウントが関の山のようですが……私のクロックアップにはそんな時間制限は無いのです。完全上位互換、と訂正してください」

 能力の維持においても、戦闘技能においてもハイドラ・レディの方が遥かに上回っている。対してタキオンは、超加速能力の有効時間が限界に達しようとしていた。

「……その長ったらしい能書きも羽柴柳司郎の教えか? どうやら戦士としてはともかく、戦術教官としては3流だったようだな!」

 このまま超加速状態が終了すれば、今度こそ確実な敗北が訪れてしまう。タキオンはその結末を回避するべく、最後の「悪足掻き」に出た。

「貴様……柳司郎様を愚弄するかァアッ!」

 加藤都子が正規の訓練を受けたプロの軍人だったなら、安い挑発と切り捨てていただろう。だが彼女は、柳司郎と生死を共にするためだけに改造人間になった身であり、他の隊員達と比べれば精神面に脆い面があった。
 故に。タキオンが意図的に踏んだ「地雷」を受け流すことだけは、出来なかったのである。

 爆ぜるような憤怒を剥き出しにしたハイドラ・レディは、全ての蛇頭を一直線に伸ばしてタキオンを仕留めようとする。
 それは無軌道に動き回っていたこれまでの挙動と比べて、非常に「単調」なものとなっていた。

(蛇頭の挙動が一気に単調になった……! 今しかない、この瞬間しかない! 残り3カウントで、奴を倒すにはッ!)

 残された僅かな時間と、ハイドラ・レディが見せた微かな隙。そこに光明を見出したタキオンは、真っ直ぐに伸びてくる蛇頭の隙間を掻い潜るように急接近して行く。
 ハイドラ・レディが彼の目的に気付いた時には――すでにタキオンは「間合い」に飛び込み、飛び蹴りの姿勢に入っていた。

「し、しまッ――!?」
『3,2,1――RIDER(ライダー) KICK(キック)!』
「ライダー……キック! はぁぁあッ!」

 そして、超加速状態が終了する瞬間。タキオン粒子を集中させた右足を振るい、最大火力の「ライダーキック」を放つのだった。
 強烈な轟音と共にハイドラ・レディの身体が吹き飛び、スタジオ内の壁に叩き付けられて行く。

「あが、ぁあぁっ……!」

 そこから彼女の身体がべしゃりと床に落下した時、すでにその姿は美しい着物姿の女性――加藤都子のものになっていた。

「柳司郎、様っ……! 都子は、最期まで……あなた様のッ……!」

 羽柴柳司郎を心から愛し、彼と運命を共にする。そのためだけに生きて来た女は、愛した男と共に死ぬことも、その無念を背負って生き抜くことも出来なかった。
 残されたのは、己の無力さへの嘆きだけ。そんな都子の姿を見遣るタキオンは、力尽きたように片膝を着き――変身を解除していた。

「……貴様のたった一つの敗因は、自分のために勝とうとはしなかったことだ。俺は俺のために……守りたい者を、守る」

 亡き妹の面影を持つ、番場遥花。彼女を守るために戦い抜いて来た仮面ライダータキオンこと森里駿が、この戦いを制した唯一の勝因は――戦う理由の重み、だったのかも知れない。
 
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