| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

仮面ライダーAP

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

特別編 仮面ライダー羽々斬&オリジンモンスターズ 第9話


 怪人達による蹂躙、虐殺。赦しを乞う暇もなく踏み躙られ、掻き消されていく兵士達の命。
 その断末魔が一つ残らず絶え果て、戦車隊の残骸が朝陽の輝きを浴びる頃。

 人間としての最後の尊厳も、誇りも捨てた怪人達は――焼け焦げた森の中で。眩いばかりの陽光を浴びていた。

「片付いたようだな」

 そこへ、改進刀を携えた羽々斬――羽柴柳司郎も現れる。後光の如くその背に朝陽を浴びて、この場に歩み出た黄金の戦鬼は、その手でザンの首を掴んでいた。

 この世の苦痛を味わい尽くしたかのような、筆舌に尽くし難い苦悶の形相。そんな表情のまま絶命しているザンの姿が、国防軍の「過ち」を象徴しているかのようだった。柳司郎は変身を解くと、その首を粉々に踏み潰してしまう。

「……これでもう、この国からの出資は得られんな。俺達はまた一つ、居場所を失ったということだ」
「元より人ではない俺達に、安住の地などあり得んさ。……国防軍に粗末なデータを売るくらいだ。恐らくは清山も、『潮時』と判断していたのだろうな」
「……そうだな。俺達は改造人間。人であって、人ではない。人間同士のルールに拘る意味も、必要もない。国防軍との契約自体が非公式のものである以上、向こうもこの件を表沙汰には出来んしな」

 先ほどまで、「異形の怪人」として暴虐の限りを尽くしていた傭兵達。彼らの多くはすでに「変身」を解き、柳司郎と同じ野戦服に袖を通した人間の姿に「擬態」していた。

 彼らの足元に広がる血の海は、この地で起きた殺戮の苛烈さを如実に物語っている。原型を留めている遺体など、一つも無い。

「清山は一足早く国境線を抜けたそうだ。俺達も急ぐぞ。今に国防軍の増援が押し寄せて来る」
「全く……相変わらず、せっかちな男だ」

 そんな仲間達は、多くを語ることなく。間霧が鹵獲したティーガーIに乗り込んだ柳司郎や、LEPを搭載した兵員輸送車と共に、この場を後にして行く。
 国防軍に牙を剥く結果となった以上、これ以上この国に留まることは出来ない。

 彼らはこれまでも、そしてこれからも。安息の地を持たぬ改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)として、世界中を転戦して行くこととなるのだ。

 決して楽には死ねない身体で。それでもいつかは必ず訪れる、死の瞬間まで。

「……この決着は、気に食わんか?」
「あぁ……奴らは死んだが、勝ったのは俺達ではない。もし、この戦闘に勝者が居るとすれば……それは、俺達を駆り立てたツジム村の住民達だ」
「そうだな……そうかも知れん」

 昨夜の死闘が嘘のような、穏やかな朝。
 その陽射しの中を仲間達が進み出して行く中、都子の肩を抱いていた柳司郎は一度だけハッチから身を乗り出すと――少女達が眠る、ツジム村の跡地を一瞥する。そんな彼の胸中を、山城が慮っていた。

 生身の人間は、いとも容易く、死ぬ。たった1発の銃弾でも、それ以下の攻撃でも、簡単に死んでしまう。そしてそれは、兵士ですら例外ではない。
 それほどまでに人の身とは脆く、それ故にゲリラ如きを恐れ。徳川清山が売り込んだ改造人間の威力に縋り、どこまでも狂気に堕ちて行った。

 健全な精神は健全な肉体に宿る、という古い言葉がある。それは裏を返せば、肉体が惰弱ならば精神もそれ相応の域にしか届かない、ということでもあるのだろう。
 人間は弱い。弱いからこそ歪な力にも縋り、自ら闇に堕ちてしまう。ならばその惰弱な肉体を捨てねば、人は真に強き精神を得られないのではないか。

 ――このような惨劇を起こしてまで、粗悪な力に縋るような愚者を、この先も生み出してしまうのではないか。
 生前の村人達が自分達に見せた、屈託のない笑顔を思い返す度に。柳司郎は独り、その歪んだ思想を先鋭化させ、より深化させて行く。

「……この国を出たら、清山に提案してみるか」
「提案……? 何をだ」
「奴が計画していた、この会社を原型とする新組織の名だ」

 やがて、柳司郎がぽつりと呟いたその一言に反応した戦馬が、何事かと小首を傾げる。その時の彼は、決意に満ちた表情を浮かべていた。

亡霊(シェード)。安住の地など無く、彷徨うことしか出来ない俺達にはよく似合う名となろう」

 ◆

 ――それ以降、約30年間に渡り。徳川清山は柳司郎達と共に世界各地を転戦する中で、自らが運営する傭兵会社の経営を続けながら、蓄積された実戦データを基に改造人間の技術をより高度に発展させていた。

 1991年のソビエト連邦崩壊により冷戦は終結を迎えたが、紛争が相次ぐ世界はさらに平和から遠退き、改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)が必要とされる場が絶えることはなかった。

 やがて2000年代に入り、時代が「対テロ戦争」に有効な兵器を望むようになると。徳川清山はそのビジネスチャンスに乗じて、さらに事業を拡大。
 対テロ作戦に特化した新型の改造人間の傭兵(サイボーグ・マーセナリー)を各紛争地に投入し、その成果と利権を我がものとした。

 そして、その莫大な収益を原資に。かつての傭兵会社を前身とする、対テロ組織――「シェード」が誕生するのだった。
 首領の徳川清山と実戦リーダーの羽柴柳司郎を含めた17名の創設メンバー達は、総じて「始祖怪人」、あるいは「No.0シリーズ」と呼ばれ、世界各地の紛争地帯で劇的な戦果を上げたのである。

 だが、その栄華も長くは続かなかった。
 組織の実力が証明されてから間も無く、改造人間に関する非人道的な研究の数々が――当時の特捜部を率いていた番場惣太(ばんばそうた)によって、白日の下に晒されてしまったのだ。

 それ以前からも、改造手術の実態に迫る情報が出回ることは何度もあった。が、清山の技術は当時の科学の範疇を遥かに逸脱したものであったため、その荒唐無稽さ故に長らくの間、ゴシップ誌にしか載らないUMAの類としか扱われてこなかった。

 しかし21世紀初頭から飛躍的に発展した情報社会が、その「誤魔化し」を許さなかったのである。かつてはオーパーツだった概念に時代の理解が追い付いたことで、その概念に「正当な評価」が下されたのだ。

 正義の対テロ組織から一転、悪の秘密結社とされてしまったシェードはほどなくして解体。最高責任者の清山は投獄され、政府の追手を退けた柳司郎達も地下に潜ることを余儀なくされた。

 その状況に一石を投じたのが、2009年に起きた織田大道(おだだいどう)によるテレビ局占拠事件だったのである。
 織田のテロを呼び水に、世界各地に潜伏していた元シェードの怪人達は続々と蜂起。柳司郎を筆頭とする始祖怪人の面々も、その急先鋒となっていた。

 だが、元構成員のNo.5こと「仮面ライダーG」の活躍により、怪人達は次から次へと斃されて行き――彼とほとんど遭遇することがなかった柳司郎を除く始祖怪人達も、戦いの中で敗れ去ってしまうのだった。

 そして清山の死後、2016年までただ独り生き残っていた柳司郎も。「仮面ライダーAP」こと南雲(なぐも)サダトとの一騎打ちに敗れ、命を落とし。彼の死を以て、シェードは完全に壊滅した。

 ――かに、見えた。

 戦いはまだ、終わってはいなかったのである。

 シェードの壊滅後。中途半端な能力しか発現せず、社会の庇護下からも零れ落ちた改造被験者達の自助組織は、終わらない迫害に抗うため「ノバシェード」を創設し、人類に反旗を翻していたのだ。
 かつてのザンのような「粗悪な改造人間」が、再び人々に牙を剥いていたのである。

 だが、2019年――その首領格だった明智天峯(あけちてんほう)上杉蛮児(うえすぎばんじ)武田禍継(たけだまがつぐ)の3人は、「ライダーマンG」こと番場遥花(ばんばはるか)を筆頭とする新世代ライダー達に敗北。組織の勢いは急速に衰え、シェードと同じ滅びへの道を歩んでいた。

 世界各国の軍部や警察組織のみならず、巨大企業「筬夢志(おさむし)重工」をはじめとする企業群のバックアップも得ている彼らと、民兵集団に過ぎないノバシェードでは勝負になるはずもない。
 本来ならば、そのままノバシェードとの戦いは、新世代ライダー達の圧勝に終わっていたのだろう。

 だがその時、「不思議なこと」が起きてしまったのだ。

 2021年。シェードが壊滅して久しく、その爪痕から生まれたノバシェードも滅亡に瀕していたこの時。
 かつて仮面ライダーGに敗れた始祖怪人達が、「仮死状態」から一斉に目覚めてしまったのである。徳川清山も羽柴柳司郎も死んだというのに、彼らは未だに死に切れずにいたのだ。

 傭兵として世界を巡った昭和の時代を生き延び、平成の世で怪人としての死を迎えたはずの彼らは、期せずして令和の現代に蘇っていた。
 そんな彼らに待ち受けていたのは、清山達の死とシェードの壊滅、そしてザンの再来たるノバシェードの存在という無惨な現実であった。目覚めた時からすでに彼らは、全てを失っていたのである。

 それ故に。彼らに残された道は、「怪人としての死に様」のみであった。
 蘇ったからといって、この期に及んで人として生きる道など、彼らの中には最初から存在し得ないのである。

 ノバシェードに参加した彼らは天峯達に代わる新たなリーダーとして台頭し、戦闘員達の強化を図り、組織の立て直しを目指した。それまで優位に立ち回っていた新世代ライダー達の快進撃が止まったのは、それが原因だったのである。

 だが、元が粗悪な改造人間ではいくら訓練を付けたところで、いずれ限界が来てしまう。戦闘員達の強化は新世代ライダー達を多少は苦戦させたが、その程度が関の山であった。

 やはり怪人は、仮面ライダーに倒される宿命にあるのか。自分達はどこまでも、亡霊(シェード)に過ぎないというのか。
 それならば、その末路に相応しい舞台を用意せねばなるまい。

 その決心に至った始祖怪人達は、ノバシェード最後の刺客として。旧シェードの残影たる始祖怪人として。
 この令和を守る新世代ライダー達に対する、最期の挑戦状を叩き付ける決意を固めたのだった。

 ――そして。

 その舞台は、全ての始まりとなった場所。かつて織田大道が襲撃した、某テレビ局であった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧