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<ポケットモンスター トライアル・パレード>

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1章「新しい旅先」
  10話「むしポケモン祭り 集いの森」

 
前書き
ポケモンの二次小説です。主人公はサトシです。ご興味あれば、1話からお読み下さい。

(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。  

 
ハルタス地方からフィオレ地方に入ったサトシ達は、次のトレーナー・ベストカップが開催されるフォルシティに向けて、旅を続けていた。


「あと3時間も歩けば、フィオレ地方のウィンタウンに到着だ」
先頭で、腕輪のマップを見ながら先導するヒョウリが、後ろを歩くサトシとマナオへそう報告する。
「やっとフィオレ地方で、最初の町ですね」
やっと町へ到着する事に喜ぶマナオ。
「そこからフォルシティには、どれ位なんだ?」
一方で、その隣で歩くサトシは、ヒョウリへ質問をした。
「そうだな。ウィンタウンを抜けて、海沿いに東へ行けば、1日でフォルシティに到着だ」
「そっか」
「明後日には、到着しますね」
「あぁ。・・・試練の前日とはいえ、もう寄り道もトラブルへ首突っ込むのも無しな」
ヒョウリは、何気なく二人に念押しをした。
「は、はい」
「分かったか?サトシ」
「え、あ、・・・うん」
彼の忠告に、二人は心に突き刺さったのか横目になりながら、小さい声で返す。
「ハァー。こりゃ、何も起きない事を祈るしか無いな」
ため息1つをついて、何かに諦めてしまったヒョウリは、ただ祈るしかなかった。
ここまでの彼らの道のりで、既に数度に渡ってトラブルに巻き込まれてしまい、余裕が無いスケジュールの中で、ロスタイムが起きていた。
ロスタイムの原因の多くは、彼ら自身にある理由では無いのだが、回避出来たはずのトラブルをサトシとマナオが自ら首を突っ込んだ事で、大変苦労する羽目になった。道案内やスケジュール管理がメンバーの中で、唯一出来るヒョウリが、マップや周囲を見て道を確認しながら、休憩時間とショートカットを考えていたのだが、それを一瞬で台無しにされていた事へ徐々に嫌気が差していた。無論、ヒョウリとてサトシとマナオに悪気が無いことは理解していた。
「なぁ、マナオ。タマゴはどうだ?」
サトシは、マナオが背中に抱えているものを見て、そう問う。彼女が今抱えているのは、背負うタイプのポケモンのタマゴ用収納カバンだ。そのカバンには、ポケモンのタマゴが1つ収められていた。
つい2日前、ハルタス地方最後の町スズホウタウンの近くの森で見つけて保護したポケモンのタマゴ。一体何のポケモンなのかは不明だが、ポケモンハンターにより狙われている所を気付いたサトシ達は、助け出したのだ。そして、なぜかタマゴの声をマナオだけが聞こえてしまった。あらゆる事が不明なタマゴだが、マナオが責任を持って管理することとなった。
そのタマゴについて、何かが分かるかもしれないと、ポケモン研究を行っているピーツー機関がある研究所まで持って行く事になった。
「はい。あれから何も、聞こえないですね」
「そっか」
それから暫く、森の中を3人が歩き続けていると、サトシの肩に乗っていたピカチュウが何かに反応した。
「ピィカ!」
空を見上げると、ピカチュウが指を向けて、サトシに教える。
「ん?・・・あっ」
サトシもピカチュウと同様にそれを見上げて声を出す。それにマナオも気付き共に見た。
そこには、空に大量の飛行する虫ポケモンが集団飛行していた。
「おっ。アゲハントだ。それに、あっちはモルフォンに、ヤンヤンマ」
サトシが、空を飛ぶポケモンの名前を次々言っていく。
「凄い」
マナオは、大量のポケモンを見て、そう口ずさむ。
「群れの大移動か?」
ヒョウリは、空のポケモン達に見て、疑問に思う。
そんなサトシ達は、南へ向かって森の中を歩いていると、次第に人の姿が見えてきた。それも奥の道へ進むにつれて、人の数が次第に増えていた。
「ん?・・・なんか、さっきから人が増えたような」
それに気付いたサトシが周囲を見て言う。
「そうですね。この先に、何かあるんでしょうか」
隣のマナオも、それに同意して周辺の人を見ている。殆どの人が、サトシ達と同じ道を目指していた。
「妙だな。ウィンタウンも近いとはいえ、急に人が増えるのは何かあるな」
ヒョウリも不思議に思い、そう話す。
すると、サトシがすぐ側を歩いていた人に近づいて、聞いてみた。
「あの、すいません」
「え?」
サトシに聞かれた男の人は、足を止めて振り返った。
「この先で、何かあるんですか?」
そう質問をされたに対して、男は答える。
「もしかして、他所から来た人かい?この先で、恒例のむしポケモン祭りがあるんだよ」
「「むしポケモン祭り?」」
サトシとマナオがハモりながら、そうリアクションをする。
「一年に一度、この先の森で開かれる2日間限定のむしタイプを持つポケモン限定のお祭りさ。丁度、2日前の前夜祭が開催されていて、今日はその最終日なんだよ」
「「へぇ~」」
サトシとマナオがそう反応していると。
「むしポケモン祭りか。ジョウト地方であった虫取り大会を思い出すよな。ピカチュウ」
「ピカッ」
サトシとピカチュウが、ジョウト地方で旅をしていた時の事を思い出に浸っていると、隣でヒョウリも何かを思い出した。
「あぁ、思い出した。以前、この辺に来た時に、そんなお祭りがあると聞いたな。まぁ、その時は忙しくて祭りに行かなかったけど」
「よぉし。むしポケモン祭りを見に行こうぜ」
サトシが、テンションを上げて、そう皆に言った。
「そうですね。けど・・・」
マナオは、サトシには賛成のようだが、その表情は気不味いものになっていた。
「あっ・・・」
彼女の顔を見て、サトシは何かを思い出して顔色を変えた。そのまま二人揃って、そっとヒョウリの方を向いた。彼は、腕輪のモニターを開きながら、少しだけ眉間にシワを寄せてこちらを見ていた。
そんな彼に、二人とピカチュウは眼差しと表情を使い、彼へ行きたいアピールを放った。
「・・・」
ヒョウリは、そんな顔をしても駄目だからなと声でなく顔だけで反撃をしていたのだが数十秒後。
「・・・夕方までだからな」
ヒョウリは、折れた。
「ヤッター!」
「ピカッ!」
「ホッ。良かったです」
急遽、彼らはむしポケモン祭りに寄ることとなった。


サトシ達は、祭りを見に行く他の人々と同じ方へと歩き、5分程で開催場所に到着した。そこには、巨大な看板が建てられているゲートがあった。看板には、<むしポケモン祭り>と大きな文字と、その左右にはむしポケモンのイラストと共に書かれている。
ゲートを潜り抜けると、側に祭りの地図や説明が書かれたパンフレットを配布しているスタッフが居た。
すると、サトシは一人の女性スタッフからチラシを渡された。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
お礼を言って受け取るサトシの横で、マナオがスタッフへ質問をした。
「あのむしポケモン祭りって、何か催し物とかあるんですか?」
「はい、ございますよ。もしかして、はじめて来られた方ですか」
「そうです」
「催し物として、むしポケモンとそのトレーナーの出し物や演芸などがありますよ。詳しくはパンフレットに記載されています」
「はい」
「それと、この祭りでは注意事項がありますから、気をつけて下さいね」
「注意事項?」
スタッフから言われた言葉に、疑問を抱くサトシ達。
「今、お渡したパンフレットにも書かれていますが。この森では、原則ポケモンバトルや野生むしポケモンを捕まえる事は禁止となっております。また、自分の手持ちポケモンで、むしポケモンに危害を加える事は厳禁とされています。特に、とりポケモンをゲットされている方は、出すのは控えて十分注意して下さい」
「むしポケモンばかりの所に、とりポケモンなんか出すのは、そりゃヤバいよな」
ヒョウリは、注意事項を聞いて、そう言う。
「もし、むしポケモンを持っていらっしゃるのであれば、是非出して下さい」
「はい、分かりました」
そうして、サトシ達は祭りの中へ進んでいった。
「うわぁ。むしポケモンがいっぱいだ」
森の中を進んでいったサトシ達の目の前には、たくさんのむしポケモンの姿で溢れていた。通常の森でも、野生のむしポケモンはよく見るが、ここはその比では無かった。むしポケモン以外の姿が殆どいない上、様々な種類のむしポケモンが地面や草むら、木の根本や幹、枝、そして空を飛んで居た。
その数は、数えられない程で、この森に生えた全ての木の数より、多いと言ってもいいだろう。
「凄い数だな。ピカチュウ」
「ピカ」
サトシとピカチュウは、その多さに驚きの目をしていた。
「俺も、これだけのむしポケモンは見たことない」
隣でヒョウリも、似たリアクションで周りを見ていた。
「よし。出ておいで、カラカラ」
マナオは、自分のモンスターボールを手に取り、中に居るカラカラを出した。
「カラァ!」
モンスターボールから飛び出したカラカラは、マナオの側に寄る。
「見て、カラカラ。いっぱい、むしポケモンが居るわよ」
「カラ?・・・カララ!」
マナオに言われて、周りを見渡すとむしポケモンだらけの光景を見て、カラカラは驚いてマナオに引っ付く。
「大丈夫だよ」
マナオは、驚いているカラカラの頭を撫でながら、宥めた。
それからサトシ達は、続けて森のむしポケモン達を見て回った。
「お、こっちにミノムッチ。それに、コロボーシ、クルマユ、フシデ、バルビート、イルミーゼ」
サトシが次々とむしポケモンの名前を言っていく。
「本当に、色んなむしポケモンがいるんだ」
「ピカピカ」
「おい。あっちで、野生のカイロスと野生のヘラクレスが取っ組み合いやっているぞ」
ヒョウリが、
「本当だ」
「喧嘩でしょうか?」
「恐らくあれだな」
ヒョウリが指で差した先は、大きな木が生えていた。その木の幹から、黄色液体が垂れていた。
「樹液だ」
「あぁ」
「それでか」
「自然環境での弱肉強食の世界。その世界では、ポケモンは強い奴が弱い奴に勝って、縄張りを取り、より多いご馳走に有りつけるのさ。悲しいけど、これも自然の摂理なのさ」
「そうそう。俺、ヘラクレスをゲットしているんだ」
「そうなんですか」
「あぁ。今は、マサラタウンのオーキド博士の所に、預けているけどね」
(あいつら、今何をしているかな)
サトシは、マサラタウンのオーキド研究所に預けている自分のポケモン達の事を想像した。
「あっ、サトシ師匠。こっちのキャタピー、小さくて可愛いですよ」
マナオは、サトシにそう言うと木の側で屈んだ。彼女の目前には、通常よりも小柄のキャタピーが居て、彼女に気付くと側に寄って来た。
「ほんとだ」
サトシも、そう言って彼女の隣で屈む。
「ほら、おいで」
マナオは、手を差し出すと、キャタピーはそのまま手から腕へと登ってきた。
「あっ、私の腕に抱きついてきた。甘えん坊なキャタピーですね」
腕に抱きつくキャタピーの頭を、彼女は撫でるとキャタピーも嬉しいのか喜んだ反応を見せる。そんなマナオを見たサトシは、ふと心に思った事を声に出した。
「マナオは、むしポケモンは大丈夫なんだな」
「大丈夫って、何の事ですか?」
突然のサトシの言葉に、疑問に思ったマナオは首を傾げて聞いてみた。
「いや。その、むしポケモンが苦手とか嫌いだとかではないんだなって」
「全然そんなのないですけど」
「そっか。それは、良かった」
ホッとするサトシを見て、マナオは不思議に思いながら更に答える。
「ポケモントレーナーになるなら、どんなポケモンも嫌いになる訳ないじゃないですか」
マナオが話したその言葉を聞いてサトシは、なぜか少しだけ感動をした。
「そうだよなぁ。いやぁ、マナオがそういうトレーナーで、俺は嬉しいよ」
「どうしたんですか?急に」
突然のサトシの反応に、マナオは奇妙に思った。
「いや、なぁ。俺が昔、一緒に旅をしている仲間の一人に、同い年の女の子が居てな。そいつ、むしポケモンが凄く嫌いで、見ただけで悲鳴は上げるわ。カバンで殴って来るわで、酷いんだぜ。むしは無視って言って」
サトシの説明を聞いたマナオは、眉毛を上げて少し怒った声で話す。
「その人、酷いですね。むしポケモンだからと言って、差別するなんて。トレーナーの風上にも置けません」
「まぁ・・・そいつは、ジムトレーナーなんだけどな」
「嘘!信じられないです。ジムトレーナーは、ポケモントレーナーの基本となり、指導や教育もする立場の人間。そんな人物が、ポケモンのタイプや種族が違うだけで、差別するなんて」
「だよなぁ。俺が、初めてゲットしたポケモンがキャタピーだったんだけど。その時は、凄く嫌がった上、モンスターボールに入れていても、そのボールを近づけないでって、文句を言ってくるんだぜ」
「うわぁ、酷い」
二人が、そんな会話で盛り上げっていると、急にヒョウリが話しかけた。
「なぁ、サトシ。その子の話しは、その辺にしとけ」
「え?」
「きっと、そいつ。今頃、半端ない位くしゃみをしているぞ」
そうヒョウリに言われて、サトシは、その事を妄想して、少しだけ笑う。
「ハハッ、大丈夫だよ」
「分からんぞ。身から出た錆でもあるが、壁にミミロル、障子にリオルとも言うからなぁ」
「・・・まさか。ここにいるとか・・・な訳ないか」
ヒョウリの言葉に、一瞬ドキッしたサトシは、念にためにと周囲を見て、その人物がいないかを確認した。
「それにしても、どうしてこんなにむしポケモンが多いんでしょうね」
マナオが、疑問に思った事を口に出す。
「確かに、俺もそう思ってた」
「あぁ、俺もだ」
サトシやヒョウリも同じ疑問を持っていた。先程貰ったパンフレットには、そういった詳しい情報が特に書かれていなかったので、答えが分からないままだった。
「それは、ここが全地方で最もむしポケモン達に最適な環境だからですよ」
突然、彼らの疑問へ答えが聞こえた。スッと彼らが、声がした方へ顔を向けると、そこには中年の男性が、一人立っていた。
「はじめまして。わたくしは、この祭りの運営責任者をしています。チョウスケと申します」
チョウスケと名乗る男性は、挨拶と共に自己紹介をしてきた。
「はじめまして。俺、マサラタウンから来たサトシっていいます。こっちは相棒のピカチュウです」
「ピッカチュ」
「私、マナオです。こっちはカラカラ」
「カラァ」
「俺は、ヒョウリです」
サトシ達も自己紹介をした。暫く、チョウスケに付いて行き、森の中を歩いて回った。
「なるほど、それでむしポケモンが多いのか」
「えぇ。それに、この森はハルタス地方をはじめ、周辺の地方からもむしポケモンが最も多く通る渡り道でもあるんです」
「渡り道?」
「ここより南にサマランドという島があります。そこに、オリブジャングルという森があるのですが、そちらにも大量のむしポケモンが生息して、このフィオレ地方で最もむしポケモンにとって、最適な場所なのです。彼らにとっては、楽園と言っても良い程で、この森とあ合わせてむしポケモンの二大ポイントと言われています。その二大ポイントへ、毎年西のホウエンから東のジョウト、カントーにあるむしポケモンが、目指す事が多いのです。そのルートとして、最も通る場所がこの森なのです。森で直接来るか。または、ここを通って、島へ行くか。彼ら自身が選んで目指す渡り道なんです」
「へぇ」
「そういう事情があるんですね」
サトシ達へ、色々と説明するチョウスケは、ふと自分の腕時計を見た。
「おっと、すいません。私は、これからセレモニーの準備で行かないといけないので」
「あっ。説明、ありがとうございます」
「ありがとうございました」
「どうも」
サトシとマナオ、ヒョウリがお礼を言うと、チョウスケは慌ててその場を去って行った。
「よし。じゃあ・・・ん?なんか、いい匂いがするな」
突然、サトシの嗅覚が美味しそうな匂いを嗅ぎ分けた。
「本当ですね」
マナオも同様、同じ美味しそうな匂いを嗅いだ。
「あぁ。あっちで出店がやっているみたいだぞ」
ヒョウリが森の奥を指で差し示すと、僅かに出店のようなものチラと見えた。
「ほんとだ。お昼まだだったし、何か買って食べようぜ」
「ピカッ!」
「そうですね。私も、丁度お腹が空いちゃっていましたし」
「まぁ・・・空腹じゃあ。次の町まで行けなくからな」
そうしてサトシ達は、たくさんある出店の人混みへと歩いて行った。


サトシ達が向かった先には、20以上の出店が開かれていた。綿あめやポケモンの形をした飴細工、鉄板焼などの食べ物からむしポケモンのお面やグッズが売っている。そんなたくさんある出店の中で、一際お客さんの行列が出来ている出店があった。
「毎度、ありがとうございましたぁ♪」
赤い髪の法被を着た女性店員が客へ商品を渡して接客をしていた。
「はい。餡子入り2つとカスタード1つにゃあ」
その隣では、同じく法被を着たポケモンのニャースが人間の様に二足歩行で直立して、人の言葉を話しながら、客へ商品を手渡す。
彼らの背後には、ポケモン大判焼きと言う看板の掲げた出店があった。
「ほい。次、焼き上がったぞ!」
丸く型を取った焼き器で次々と大判焼きを作り上げている頭に鉢巻を巻いたエプロン姿の青髪の男がそう言って、出来立てを隣にいる者へ渡す。
「ソーナンス」
すると、法被を着たポケモンのソーナンスが、手に持った焼鏝で出来たて大判焼きに次々とポケモンの絵の焼印を押していく。
「いやぁ。ジャリボーイ達より先回りしてみたら」
「まさか、むしポケモン祭りなんて大イベントがあるとはな」
「こんなに大量のむしタイプのポケモンがいるにゃんて」
「全部ゲットする大チャンスじゃない」
「ソーナンス」
彼らの正体は、ロケット団のムサシ、コジロウ、ニャース、ソーナンスだった。彼らは、3日前からここに来ていたのだ。偶然、ジャリボーイことサトシ達の行く先であるこの森で先回りして、罠を張ろうとしていた。しかし、この森へ到着した彼らは、大量のむしポケモンがいる事と祭りが開催される事、たくさんの出店を開かれる事を知った。
普段の彼らなら、すぐさまむしポケモンを捕まえて逃げるか。ジャリボーイことサトシのピカチュウもゲットして逃げるかがいつもの行動パターンなのだが、今回は違った。
「出店でたっぷりと資金を稼いで」
「新しい強くて強いメカを作るにゃあ」
「それと」
コジロウは、腰から紫色のモンスターボールを取り出した。
「今朝デリバード便が届けてくれた。このシークレットボールもレンタルしたし」
その隣で、ムサシも自分のシークレットボールを握って、宣言する。
「ジャリボーイ達に、今度こそ目に物見せて上げるわ」
「ソーナンス!」
前夜祭から、ロケット団が出見せで稼いだ資金を使い、新しいメカと強いポケモンレンタルのシークレットボールを用意しようとしていた。今度こそ、サトシのピカチュウと森にいるむしポケモン達をゲットする計画が、着々と進んでいた頃。
一方、影でそのような計画が動いている事を知らないサトシ達は、出店で軽い食事を済ませると、再び森の中でむしポケモンを見て回った。
「あっ。木の上に、イトマルに、アリアドス」
マナオが、木へ指を指してポケモン達の名前を言う。
「あっちは、バチュルがいるな」
サトシも隣で、別の木にいるポケモンを見て名前を言った。
「あれが、バチュル。はじめて見ました」
マナオは、自分のポケモン図鑑を取り出して、バチュルに向ける。
『バチュル。くっつきポケモン。自分では、電気を作れない為、大きなでんきタイプのポケモンに取り付いて、静電気を吸い取る。吸い取った電気は、体にある蓄電袋に、貯める。』
ポケモン図鑑がバチュルをスキャンして説明を行った。
「へぇー、くっつきポケモンか。なんか可愛いな」
「バチュバチュ」
マナオがバチュルと戯れていると。
「・・・ん?」
「ピィカァ」
サトシが、肩に乗っているピカチュウの変な所に気付く。ピカチュウの表情が、普段と違って少し不安な顔をしていたからだ。
「どうしたピカチュウ?」
サトシが、ピカチュウに問うとピカチュウは、鳴き声と両手のジェスチャーで知らせる。
「ピカ、ピカァ、ピカチュピピカチュ」
普通の人間なら、いくらポケモントレーナーといえ、ポケモンの言葉は理解出来ないし、何を言っているのかは分からない。だが、ポケモントレーナーの旅をはじめて1年以上。ほぼ毎日、ピカチュウと共に苦楽を共にしたサトシには、理解が出来た。
「あ、そっか」
「どうしたんだ」
ヒョウリが、サトシとピカチュウの様子に気付いた。
「いや、ピカチュウが、あのバチュルに警戒しちゃって」
「ん?・・・もしかして、昔バチュルに襲われたか?でんきを吸われたりとか」
ヒョウリは、状況からすぐに察した。
「あぁ、そうなんだ。昔、イッシュ地方でちょっとな」
サトシは、昔イッシュ地方でピカチュウがバチュルにやられた事を思い出した。
「そういう話、でんきポケモンでならたまに聞くな。あいつら色んな所から電気を吸収する為、野生ポケモンなら勿論。同族以外のでんきポケモンからも吸うからな」
「それで、ピカチュウのやつ。不安になっているんだよ。また、吸われて大変な目に遭うんじゃないかって」
「うんうん、確かに。現に今そうなり掛けているからな」
「そうそう・・・え?」
ヒョウリが最後に言った言葉に、サトシは一瞬理解が出来なかった。
「ピカピ!」
「ん?あっ」
サトシは、ピカチュウの掛け声で自分の周囲を見ると、すぐさま理解した。
「バチュバチュ」「バチュバチュ」「バチュバチュ」
「バ、バチュル達に、囲まれたぁ!」
いつの間にか、サトシの周りを野生のバチュルが囲んでいた。その数は、数十匹以上だった。
マナオが見ているバチュル以外にも、たくさんのバチュルが木や林に居て、そこから湧いて出てきたのだ。その事にビビるサトシと不安が更に増して強張るピカチュウ。一方で、囲んだバチュル達は、サトシの肩に乗るピカチュウをじっと見ている。そう、正に餌を求めいている顔だった。
「ピカピカ!ピカ!」
「あぁ、分かってるよ。バチュル、頼むからピカチュウを」
慌てるピカチュウとバチュル達に説得して、離れて貰おうとするサトシ。
「バチュバチュ」「バチュバチュ」「バチュバチュ」
バチュル達は、一向にその言葉を理解していないのもあるが、聞いてもいない様子だった。
「余程、空腹みたいだな。まぁ、森で野生のきのみは食えるが、野生の電気は普通に無いからな」
ヒョウリが呑気にそう言っている間に、バチュル達が次から次へと、サトシの足にくっついてよじ登り始めた。
「ピ、ピカァ」
「ヒョ、ヒョウリ、呑気な事言わずに」
サトシとピカチュウが、慌ててヒョウリに助けを求める。
「し、師匠!だ、大丈夫ですか」
バチュルに夢中だったマナオは漸くサトシとピカチュウのピンチの状況に気付いた。
「ど、どうしよう。えぇと、えぇと。可哀想だけど、カラカラ。バチュル達に」
マナオが、カラカラに指示を出して、バチュル達を追い払おうとした時だ。
「おいおい、忘れたのか。ここでのルール」
マナオは、ヒョウリに止めら、その理由を思い出す。
「けど、このままじゃあ」
「そういえば、入り口のスタッフがむしポケモンなら、出してもいいと言ったな」
「え?えぇ」
「早く」
「ピカピカ」
ヒョウリは、自分のベルトに付けたモンスターボールの1つを手に取るとそれを前に投げた。
「出て来い、デンチュラ」
ヒョウリが投げたボールから出てきたのは、でんきグモポケモンのデンチュラだった。
「チュラチュラ」
ボールから出てきたデンチュラは、目の前の地面に立って、周囲を見る。
「チュラ」
そうして、周囲に大量のバチュルが居ることを気付いた。
「デンチュラ。あいつらを、引き寄せてくれ」
ヒョウリが、デンチュラにそう指示をする。
「チュラ」
デンチュラは、ヒョウリの言う通り、サトシの方を向かうと、周りを囲んでいるバチュル達に呼び掛ける。
「チュラチュラ、チュラ」
「バチュ?」「バチュ?」「バチュ?」
突然現れて、話かけて来るデンチュラに、バチュル達は振り返った。
「チュラチュラ、チュウラ、チュチュラ、チュラ」
引き続き、バチュル達に呼び掛けるデンチュラに、バチュル達は次第に注目していると。
「あっ」
「ピカッ」
バチュル達が、サトシから離れて行き、デンチュラの側に寄り、囲んでしまった。
「チュラチュラ」
「バチュ」「バチュバチュ」「バチュウ」
それでもデンチュラは、何も警戒せず、バチュル達と話をし、向こうも敵意なく会話をしている。
「ありがとう、ヒョウリ。デンチュラ。助かったよ」
「ピカピカ」
サトシとピカチュウは、ヒョウリとデンチュラに礼を言う。
「それにしても、ヒョウリ。デンチュラも持ってたのか」
サトシは、出てきたデンチュラを見て、ヒョウリに言った。
「デンチュラ・・・」
マナオは、自分のポケモン図鑑を取り出して、デンチュラへ向けた。そして、図鑑がデンチュラをスキャンして説明を始める。
『デンチュラ。でんきグモポケモン、バチュルの進化系。敵に襲われると電気を帯びた糸を吐き出して電気のバリアを作り自分を守り、相手を痺れさせるので 武器にもなる。また、電気を帯びたお腹の毛を飛ばし、毛が刺さると三日三晩全身が痺れると言われている』
「三日三晩も。可愛いですけど、ちょ、ちょっと怖いですね」
マナオは、そう言いながら、目の前のデンチュラに警戒感を出すと。
「そいつは、結構人懐っこい性格でな。誰とでもフレンドリーな性格なんだ。攻撃してくるか、俺の指示がないと撃ってこないから安心しろ」
「なら、安心ですね。それにしても」
マナオがデンチュラや周囲のバチュル達をじっと見る。
「こう見ると、丸で親子みたいですね。お母さんと、子供達って感じで」
「まぁな。こいつはメスだし。母親みたいに、思われているんだろうさ」
「へぇー、メスなんだ」
「ここでは、むしタイプが出していいというなら、折角だし出そうと思ってな。まぁ、そのついでにお前らを助けたがな」
「助かったけど、ついでは余計だぞ」
ヒョウリがそう言うと、隣のサトシが軽い愚痴を言う。
「冗談だよ」
「ところで、ハッサムも出さないのか?ハッサムもむしタイプだろ」
「あぁ。確かに、あいつもむしタイプだから、出してもいいんだが。ちょっとな」
ヒョウリは右腕を見て、そう言う。今のヒョウリの手持ちポケモンは6体だが、ハッサムのモンスターボールだけ右腕の裾の中に隠して持っているのだ。
本人曰く、非常時にベルトからボールを取れない際、咄嗟に出やすいようにわざとハッサムのボールだけを隠している。裾の中は、小さなバンドを腕に付けていて、そこにモンスターボールがセット出来るプラグが付いている。普段は、縮小したモンスターボールは裾の中に入るので、いざという時に腕を振って、ボールが出てくるギミックになっている。
「こいつ、真面目な性格ではあるが、人見知り、いやポケモン見知りをする性格なんだよ。あんまり知らないポケモンとは仲良くしたり、必要以上に接したりしないんだ」
ヒョウリが、自分のハッサムの説明をした。
「そうなんだ。ところで、あと2体のポケモンって誰を持っているんだ?一度も、全部のポケモンを見せても、教えてもくれないからさ」
「その内な。残った二体も・・・癖のある奴らでな」
サトシの言葉に、ヒョウリは苦笑いして返した。
『本日、開催のむしポケモン祭りのコンテストを、あと30分程で開始します。参加者の方々は、ポケモンと共に会場の待機コーナーでお待ち下さい』
突然、森の中でスピーカーによるお知らせが聞こえた。
「ん?むしポケモンコンテスト?」
「何でしょうか」
「あっ。さっき貰ったパンフレットに、そんなのが書いてあったな」
ヒョウリが、貰ったパンフレットを開いて、書かれている説明を読んでみる。
「えぇと、手持ちむしポケモン達の魅力を競うコンテスト。わざや見た目、演技などなど様々な見所満載だってよ」
「ポケモンコンテストみたいだな」
「あぁ。むしポケモン限定のアプールとパフォーマンスを行うみたいだな」
「次は、それを見に行こうぜ。なぁ、マナオ」
「はい。行きましょう」
「よし。デンチュラ・・・」
ヒョウリが、デンチュラを呼び戻そうとすると、バチュル達と仲良く話しているのを見て、止めた。
「仕方ないか。デンチュラ、あとで迎えに来るからそれまでその子達と遊んでやれ。あんま遠くには行くなよ」
そう言い残して、パンフレットを開いて、会場の場所を確認する。
「さてと、会場はさっきの出入り口から真っすぐ奥の森の中にある広場に設営されている様だな。こっちだ」
ヒョウリに続いて、サトシ達は会場の方へ向かった。
その頃。その会場では、祭りの運営達スタッフ達が、コンテストの準備に入っていた。
「よし。これでこいつは完了だな。あとは」
先程、サトシ達と会った祭りの責任者であるチョウスケが、会場の準備を指揮していた。
「チョ、チョウスケさん!」
すると、一人のスタッフが慌てた顔をして、彼の元へ走ってきた。
「どうしましたか?」
チョウスケが振り返るとスタッフは、息を荒くして説明する。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ。そ、それが、この後のイベントで使う機材の、一部が行方不明でして」
「行方不明?どういう事ですか?」
「分かりません。先週、用意していた機材で、大型の送風機や大型ライトまで消えていました」
「なんと」
「チョウスケさん!」
すると、今度は別のスタッフが慌ててやって来た。
「どうしたんです?」
「それが、午後から予定していた観光用の気球の機材が、消えてしまって。今朝までは倉庫にあったのですが」
「なんと・・・まさか、泥棒が」
チョウスケは、悪い予感をして顔色を変えた。
「ジュンサーさんを呼びますか?」
「呼んでも、ここまで3時間は掛かるぞ」
「けど」
「・・・分かりました。一応、ジュンサーさんを呼びます。ただし、他のお客様に気付かれずに、騒ぎが広がらないように注意をして下さい。今日は、年に一度の大事なお祭りなんです。皆さんに、思い出を壊さないようにしましょう」
「「・・・はい」」


『それでは、大変お待たせしました。これより、むしポケモンコンテストを開催します』
いよいよ会場で、むしポケモンコンテストがはじまった。会場の舞台上では、司会進行役の女性スタッフが、マイクで進行を執り行っていく。
『今回のコンテストの審査員には、開催委員長であり当イベントの責任者チョウスケ様、ウィンタウンの町長ユキマルオ様、そしてフィオレ地方で有名なポケモンコーディネーターのツツノジ様の以上、3名の方々が評価をされます』
紹介されたコンテストの審査員3名が、ステージの端に備え付けたテーブルの前で椅子に座っている。
「おお、あのツツノジさんだ」
「去年のフィオレ、ハルタス合同ポケモンコンテストの準優勝者だわ」
審査員の1人は、フィオレ地方での有名人のようで、会場に来た観客の中に盛り上がった者達がいた。
「あの人、有名人なんですね」
「そうみたいだな」
「ある程度の有名人なら俺も知っているが、コーディネーターは余り知らないな」
サトシ達は、観客席で座り、観覧していた。
『それでは、これより予選を始めます。最初の挑戦者は、この方』
ステージの上に最初の挑戦者が上がった。一人目は男性トレーナーで、彼の側にはむしポケモンであるコンパンと2体のパラス、モルフォンが付いて来た。
『フィオレ地方リングタウンからお越しのハルマさんとそのポケモン達です』
早速ステージでポケモン達の技を使ったアピールが行われた。その光景に審査員をはじめ、会場のサトシ達をはじめ多くの観客達、驚かせて感動させられた。
『次の挑戦者の方は、ジョウト地方ヒワダタウンからお越しのメイカさん。そして、彼女のポケモン達です』
『続いての挑戦者の方は、カントー地方トキワシティからお越しのハヤミさん。それとバタフリー達です』
「おぉ、バタフリーばかりだな」
次の挑戦者は、バタフリー6体へ指示を出し、全員が見事に連携を取って、見事なパフォーマンスを見せた。
「あぁ、綺麗」
「中々いい連帯のパフォーマンスだ」
マナオやヒョウリをはじめ、観客達からはパフォーマンスは好評だった。ただ一人だけ、パフォーマンスを見ていると、自分の過去を思い出していた。
「バタフリーか」
サトシは、そうポツリか呟き、心の中である事を考えた。
(あいつ、元気にしてるかな?)
その後も、次から次への挑戦者達がステージに上がっては、アピールやパフォーマンスをして見せた。
『それでは、これにて予選は終了致します。今から20分程の準備時間を設けさせて頂きます。30分後には、予選通過者の結果発表を行い、その後通貨者達による最終選を行います』
休憩時間となった事で、観客達の一部が次々と席から立ち上がる。
「ふー。何とかなりましたね」
「あぁ、そうだな。あっ、チョウスケさん、お疲れ様です。」
舞台裏で次の準備を始めるスタッフが話をしていると、そこに審査員だったチョウスケが休憩がてら裏方を見に来た。
「二人ともご苦労様です。次の準備お願いしますね」
「「はい」」
その時、一人のスタッフが腰に付けていたトランシーバーから電子音がなった。どうやら、どこかのスタッフが無線で連絡を入れてきたらしい。スタッフは、腰から取ると、応答した。
「はい。こちら、コンテスト会場担当」
『緊急、態。ガァー、ガァー。緊、ゅ』
相手からの応答に僅かにノイズが入っているのか雑音が酷く、声が良く聞こえなかった。
「はっ?よく聞こえないぞ」
『が、ガァー、ガァー。そっち』
「お~い、聞こえないぞ」
「どうしました?」
「それが、森の中にいるスタッフからの連絡なんですが。雑音が酷くて、よく聞こえないんです。なんか、周りが騒がしいみたいな」
「貸しなさい」
スタッフは、チョウスケにトランシーバーを渡すと、彼が応答をした。
「私だ。チョウスケだが、何があった?」
『巨大な、ガァーガァー。が、ガァー、ポケモン達を』
「ん?なんだって、もう一度頼む。何があった?」
チョウスケが連絡を必死に取ろうとしていると、側に居た二人のスタッフが何かを視界に入れた。
「ん?なんだあれ」
「・・・飛行船?」
スタッフ達が指を差して、声に出すとチョウスケもそちらへと向いた。
それは、巨大なドクケイル柄の気嚢に吊るされた飛行船が、森の上を航行こちらへ向かっていた。
「あんなもの。今回の祭りで使う予定ありましたっけ?」
「いや、私は何も聞いてないぞ」
次第に飛行船は、会場の上空で到達して静止した。
「おっ、なんだ」
「何かのイベントかしら?」
「今年は、凝っているな」
真下にいる観客は、イベントの1つだと思い、そう見上げている。
「なんでしょうか?」
「ドクケイル?飛行船?」
サトシやマナオも同様に、イベントの1つだと思っていた。すると、気嚢部分の下に吊るされた巨大な鉄製のゴンドラ底面の開いたハッチから飛び出している何かが動き出した。
「!」
それは、先にT字状の大きな物体が付いたアームで、こちらへと近づいていた。
「逃げろ」
ヒョウリが勘づいて、そうサトシ達に促す。
「え?」
「はい?」
「いいから木の所まで走れ!」
それから、T字状の物体の中央にある大きい穴が急激に吸引を始めた。
「うわぁ」
「きゃあ」
「くっ」
突然の吸引にサトシ達は、慌てて近くの木まで走ると根本に掴まって、地面にうつ伏せになった。
「ピカァ」
「カラァ」
ピカチュウはサトシの腰に、カラカラはマナオの足にしがみついて、抵抗をする。他の真下に居た観客やスタッフ、ポケモン達も同様に、慌てて抵抗や逃げたりと、パニックとなった。
身を屈めたり何かに掴まったりと、必死に抵抗しようとしたのだが、長くは続かなかった。むしポケモン達が次から次へと吸い込まれていってしまった。更に、ボールから出ていた一般トレーナー達のポケモン達も吸い取られ始めた。特に、人より体重が軽いポケモンは、一瞬にして吸い取られてしまう。
「くぅ」
「きゃぁぁぁ」
サトシもマナオが必死に抵抗する中、彼らに掴まるピカチュウとカラカラが、遂に限界がきてしまった。
「ピカァァァ」
「カラァァカ」
二匹は、サトシとマナオから剥がされしまい、吸い取られていった。
「ピ、ピカチュウ!」
「カラカラ!」
サトシとマナオは大声で叫ぶが、意味はなかった。
「ピカピィ」
「カララァ」
二匹は、そのままピカチュウとカラカラは、吸引装置の中へと吸い取られていった
「くそぉ」
サトシが悔しがる中、急激に吸引が収まり始めた。
「!」
「あれ?」
「終わった?」
下に居た人々が、そう考えて時だ。
『ワーッ、ハッハッハー!』
飛行船からスピーカー越しに誰かの笑い事が消えこた。
「今度は、何だ?」
下に居たチョウスケが、そう言った瞬間だ。
『一体、何だかんだと聞かれたら』
『教えて上げるのが、世の情け』
再びスピーカー越しに、その様な台詞が聞こ始めた。
「まさか」
その声を聞いて、サトシ達は嫌な顔をする。
「ハァー、来たな。トラブルが」
「また、あの人達ですか」
サトシは勿論だが、サトシと共に行動をしてきたヒョウリ、マナオもその台詞を聞いて、同じ顔をした。
『世界の破壊を防ぐため』
『世界の平和を守るため』
『愛と真実の悪を貫く』
『ラブリーチャーミーな敵(かたき)役』
『ムサシ!』
『コジロウ!』
『銀河を駆ける ロケット団の二人には』 
『ホワイトホール白い明日が待ってるぜ』
『ニャーんてにゃ!』
『ソーーーナンス!』
飛行船のゴンドラ内部のコックピットで、台詞を読みながら、決めポーズを行うロケット団。外の人間には、自分たちの姿は見えないのに、普段の癖なのかお決まりなのか、いつもの登場時のポジションで、ポーズ決めをした。
「全く、あいつら毎回似た台詞を言っているが、全然飽きないな。おい、サトシ。本当に、あいつら1年もこうなのか?」
「あぁ・・・そ、そうだな」
ヒョウリの言葉に、何とも言えないサトシが、そう答える。そんな会話をしていると、飛行船の吸引装置を見ていたスタッフの一人が何かに気付いた。
「あれ、よく見たら。あれは、消えた機材じゃないか」
「本当だ」
『そうとも、稼いだ資金でメカを作る予定だったが、足りない分は祭りの機材を使わせて貰った』
コジロウが、指摘してきたスタッフ達へそう教える。
「まさか、あいつらが犯人か」
「コラ!お前たち。機材を返せ!」
『ふん。誰が返すもんですか』
今度は、ムサシが返事をする。
「あいつらは、一体何者なんだ」
チョウスケが、ロケット団に対して、何者なのか理解がイマイチ理解出来ていなかった。
「あいつら、ロケット団という他人のポケモンを奪う悪者なんです」
隣に居たサトシが、ロケット団が何者なのかを、いつも通りと慣れた口調で答える。
「俺らに付き纏うクソウザいストーカー雑魚集団です」
「執拗くて、最低な人たちです」
サトシに続いて、ヒョウリとマナオも酷目にして教えた。
『ちょっと!』
『ジャリボーイ以外、結構酷い言葉が聞こえたぞ!』
『特に、暴力ジャリボーイが一番酷いにゃあ!』
『ソーナンス!』
早速、ロケット団はヒョウリとマナオにクレームを放った。特に、ヒョウリには厳しく文句を言うと。
「ほぉ、集音性は高いようだな。だって、事実だろ。ウザいし、付き纏うし・・・俺たちに何度も負けた上、サトシに1年以上追い払われてるんだろ・・・雑魚じゃん、プッ」
ヒョウリの舐めた顔で、言われたくない単語を最後に言われた。
『な、な、何ぃぃぃ!』
コックピット内にいるロケット団は、ブチ切れた。
『もう頭にきた。これでもくらえ!』
コジロウが、操縦パネルにある1つのボタンを押した。すると、先程の吸引装置が出てきた底面のハッチから別のものが飛び出してきた。先程の同じようにアームで動いていたが、先端部分が円柱状で大砲のような形をしていた。
『ネチネチ弾、発射にゃあ』
ニャースがそう言って、操作すると大砲の先から勢いよく白い物体が飛び出し、サトシ達へと向かった。
「うわぁ」
「きゃあ」
「くっ、しまった」
白い物体がサトシ達にぶつかるとそれは弾けて彼らの身体中や周りの木や地面に張り付いてしまった。
『やったぜ』
『よくやったわ』
『作戦通りにゃあ』
上手くいった事に喜ぶロケット団。
「くそぉ。なんだこれ」
「いや、体がベタベタ」
「こいつ粘性高けえな。外れねぇ」
サトシ達に付いたネチネチ弾と呼ばれる物は、ロケット団が今回の為に用意した特性の粘着率が高いモチ状の捕縛用の砲弾だった。見事にくらったサトシ達は、必死に剥がそうとするが、凄い粘着性で、手で取ろうにも剥がれない上、その手にもくっついてしまうという代物だった。
『さて、このまま森にいるポケモン達も皆貰っていきましょうか』
『よし、次のフェーズに移るのにゃあ』
『よっしゃ』
肝心なサトシ達を、動けなくした事で、ロケット団は次の作戦に移った。
『それそれ、乱れ撃ちだぜ』
今度は、コジロウが操作して、先程のネチネチ弾を次から次へと発射して、下にいる会場の観客やポケモン達へ発射した。
「ぐぁ」
「きゃ」
「あた」
『いいわよ、いいわよ。ドンドンやりなさい』
『トレーナーは動けなくして』
『ポケモン達は、後でこの中和液で動けるようにしてから、捕まえるにゃあ』
ロケット団の所業を真下から見ていたチョウスケやスタッフ達。
「チョウスケさん、どうしましょう」
「我々には、あいつらと戦うポケモンを持っていません」
「避難だ。出来るだけ、多くの観客やポケモン達を逃がすんだ」
「「はい」」
チョウスケの指示により、すぐさま観客とポケモン達の避難を始めた。
「皆さん、急いで逃げて下さい」
その頃、ネチネチ弾によって動けなくなったサトシ達。
「もお。全然剥がれない」
マナオは、必死に身体中に付いたネチネチ弾を剥がそうとする。その隣のヒョウリは、腰のモンスターボールへ手を必死に伸ばそうとしていた。
「くそ。腰のボールに中々届かなねぇ」
(それしても、最悪だ。選りに選って、右腕に当たったせいで、緊急用のハッサムも出せねぇ)
「くそ。待ってろ、ピカチュウ。すぐに助けに行くからな」
サトシは、必死に剥がそうとしながら、空を飛ぶ飛行船を見て、そう言った。
あれから、吸い込まれたピカチュウとカラカラは、飛行船のゴンドラ内部にある配管を通って行き、終着点に着いた。
「ピカッ」「カラッ」
配管の出口が真上に着いていた為、真下へ落下した二匹。尻もちをついて、少しだけ居たがっていたが、すぐに周囲を見て確認した。そこには、大量のむしポケモン達が居た。二匹は、そこが捕まったポケモン達を閉じ込めている部屋だと気付いた。その場には、先程のステージに居た挑戦者や観客ポケモン、そしてこの森に住む野生のむしポケモン達など大量に居た。ロケット団の飛行船が、サトシ達の所へ来るまでに、森に居た野生のむしポケモンを捕まえながら来ていたからだ。ピカチュウは、すぐさま周りを見て、どこか出口が無いかと探し始めた。こういった事に慣れた結果、迅速に考えて動けるようになったからだろう。
ピカチュウの後ろを怖がるカラカラが付いていく。すると、一匹のポケモンがピカチュウに話しかける。
「ピカ?」
「フリィリィ」
「!」
それは、ピンク色のバタフリーだった。その姿を見たピカチュウは、ある事に気付く。


ロケット団は、あれからサトシ達から僅かに離れていき、周囲のポケモンや観客たちへネチネチ弾を発射して言った。
『あっ。ネチネチ弾が空になった』
『まぁ、大丈夫にゃあ。肝心なジャリボーイ達は、もう動けないのにゃあ』
『それと、捕まえたポケモン達の格納庫が満杯になりそうだ』
『なら、もう仕事はおしまいにして。動けないジャリボーイ達に、今までのお返しをたっぷりするわよ』
『え?』
『折角、ここまで上手くいったんだし、ジャリボーイ達は動けないなら、気晴らしにやっておかないと』
『そうだな。ピカチュウだけが目当てだったが、今までのお返しはしておきたいよな』
『それに、散々なニャー達を怒らせた。暴力ジャリボーイにも同じ目に遭って貰うにゃあ』
そうして、ロケット団は再びサトシ達の方へ進路を変更して、彼らの元へと向かった。
「くそ、剥がれない」
「これ、ほんと気持ち悪いです」
「くっ。あと少しで右腕のが剥がれそうだが、時間が」
サトシ達は、まだネチネチ弾から脱出出来ていなかった。
「くっ・・・!あいつら、戻って来たぞ」
ロケット団が戻ってきた事に、ヒョウリが気付いた。サトシもマナオも上空を見上げて、ロケット団の飛行船を見る。
『さて、これからジャリボーイ達には、たっぷりとお見舞いして上げるわ』
『ポチッとにゃ』
ニャースが赤色のボタンを1つ押すと、ネチネチ弾の発射器が格納され、代わりに別の緑色の発射器が現れた。
『この特製超激辛ソースシューターを、あいつらの顔面に目掛けて撃ってあげるわよ』
すると、発射器のアームが動かして、サトシ達へ伸びる。まず最初に、発射器はヒョウリへと狙いを定めた。
「おいおい、マジかよ。・・・俺とお前らは、まだ出会って日が浅いだろ。ほら、長年のサトシの方を、さっさとやって今まで溜めてきた鬱憤を早く晴らしたいだろ。なっ、なっ」
ヒョウリは、必死に自分からサトシへ狙いを変えるように説得を始めた。
「ちょっ、ヒョウリさん。最低です」
「お前、酷いぞ」
マナオとサトシは、そんなヒョウリにショックを受けて、文句を言う。
「悪いなサトシ。俺、辛いの駄目なんだ」
(あと、ちょっとで取れそうなんだ。時間をくれ)
ヒョウリは、心の中でそうサトシに申し訳ない気持ちでいながら、ロケット団気付かれないように、右腕のネバネバを取ろうとした。
『そうはいくかと言いたいが、確かにそうだな』
ヒョウリの言う事に、納得したのかロケット団は、アームを操作して狙いをサトシへと変更した。
『じゃあ。悪いけどジャリボーイ。今までの鬱憤を返させて貰うわよ』
『大丈夫にゃあ。暫くの間、顔がヒリヒリしたり、口が激辛の味がするだけにゃあ』
『ソーナンス!』
そう言って、ヒョウリからサトシへと狙いを変更した。
『それじゃあ。いくぜ』
「くそ」
サトシが、覚悟を決めて目を瞑った。
その時だ。
遠くの空から、ロケット団の飛行船に向かい、何かが飛んで来た。飛んできたものは、途中で光線状のものを放ち、飛行船に命中させて、それで爆発と衝撃が起きた。
「にゃあ」
「ん?」
「なんだ?」
その衝撃で、ロケット団は驚いて動揺し、サトシへの発射が中断された。
「ん?」
地上のサトシ達も、一体何が起きたのか分からなかった。すると、先程の光線が飛んできた方から、一匹のポケモンが飛行して、ロケット団のメカへ向かっていた。
「あれはバタフリー」
ヒョウリがそう言って、サトシの視界にもバタフリーの姿が入る。
飛行船に近づいたバタフリーの両目が光り、そこからエスパーわざの(サイケこうせん)が放たれた。(サイケこうせん)は、そのままロケット団のメカに命中し、当たった所に僅かな爆発と煙が起きる。同時に、メカに衝撃が走り、コックピットにいるロケット団達にも伝わった。
「うぉっと」
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?」
「これ位で、壊れないようにしているにゃあ」
(サイケこうせん)が命中した気嚢は、僅かに焦げただけで合って、特にダメージは無かった。通常なら、燃えたり穴が空いて、中の浮遊用のガスが漏れ出し、飛行船は墜落する。だが、今回のロケット団が用意したメカの飛行船は、大量のむしポケモンピカチュウの捕獲、そしてジャリボーイことサトシ達の動きを封じる事を目的として作られていた。強力な吸引装置と頑丈なポケモンの捕獲部屋、そして強力なカーボンで出来た気嚢。これらは、前回のカゲギシ砂丘で作られたメカの元に設計し、更に改良を加えたものだった。そして、もう1つは、地上移動でなく逃亡用、地上からの攻撃や妨害を出来るだけ受けないように空中移動として飛行船が選ばれた。正に、過去に気球を破られた経験を活かしたロケット団の気合の作品でもある。
そんなメカの詳細について、サトシ達をはじめ先程から攻撃をしているバタフリーには、つゆ知らず。
「フリィィィ」
それでも、バタフリーは攻撃の手を止める事なく、(サイケこうせん)を繰り出しては、ロケット団のメカを壊そうとしている。
そんなバタフリーに、サトシはある事に気付いた。
「・・・あれは」
そのバタフリーの首には、黄色の布切れが巻かれていたのだ。
「くそっ・・・ヤバいな。またくっついてしまう」
必死にネチネチ弾を剥がそうとするヒョウリは、四苦八苦していた。すると、側の林がガサガサと音がした。彼は、咄嗟にそちらの方を見ると、中から1匹のポケモンが出てきた。
「チュラチュラ」
それは、デンチュラだった。
「デンチュラ。よく来てくれた」
ヒョウリは、現れたデンチュラが、自分のデンチュラだとすぐに分かり、喜んだ。
「これを切れ、デンチュラ。シザークロスだ」
ヒョウリは、デンチュラに自分の腕と地面に取り付いているネチネチ状の物体を見せつけ、切るように指示した。
「チュラ」
デンチュラは、早速動いた。前足2本が光だし、ヒョウリの指示通り、ヒョウリに取り付いているネバネバ状の物体を器用に切っていく。
「よし。足の方も頼む」
そうやって、ネチネチ弾から見事に脱出が出来た。
「次、俺も頼む」
「わ、私もです」
「デンチュラ、他の皆も頼む」
「チュラ」
サトシとマナオもデンチュラの助けで動けるようになった頃。先程からロケット団は、自分達の邪魔をしてくるバタフリーの対処に夢中となっていた。
「くっ、早くしなさいよ」
「分かってるって。けど、あいつすばしっこくて」
「にゃあ!」
「どうしたの?」
「ジャリボーイ達が」
「え?あぁ」
ロケット団は、サトシ達がネチネチ弾から脱出した事に、漸く気付いた。
「バタフリーに夢中になり過ぎたにゃあ」
「えぇい、こうなったら念のために用意したこれの出番よ。行くわよ、コジロウ」
「おう。ニャース、ソーナンス。後は頼むぞ」
「任せるにゃあ」
「ソーナンス」
ムサシとコジロウは、互いのシークレットボールを取り出すと、コックピットから出ていった。続いて、メカの後部のハッチが開き、中からムサシとコジロウがロープに掴まりながら、地面へ降り立ち、サトシ達へと向かう。
「よし、コジロウ達が降りたにゃ。ニャー達は離脱するにゃあ」
「ソーナンス」
ロープは巻き上げられると、飛行船はその場から離れていった。
「今日は、お前たち達を負かす大チャンスだ!」
「さぁ、行きなさい。新しいレンタルポケモン達!」
コジロウとムサシは、互いにシークレットボールを投げた。中から出てきた2体のポケモンは、サトシ達の目の前に姿を現し、攻撃体制を取った。
「ウッギャ」
「ゴロ」
強くサトシ達を威嚇する2体のポケモンを見たサトシとヒョウリ。
「あれは、モウカザル」
「隣は、ゴローニャ。それもゴローニャはアローラのすがたの方か」
「そうさ。俺たちの新しいレンタルポケモンだ」
「今度こそ勝たせて貰うわよ」
ロケット団が新たにレンタルしたポケモンは、モウカザルとゴローニャ(アローラのすがた)だった。
「モウカザルとアローラのゴローニャ・・・」
マナオは、ポケットからポケモン図鑑を取り出して、目の前の2体に向けた。
『モウカザル。やんちゃポケモン。ヒコザルの進化系。天井や壁を利用して、空中殺法を繰り出す。尻尾の炎は武器の1つで、その炎を長く伸ばし、体を大きく見せて、敵を怖がらせる。また、尻尾の炎の勢いをコントロールして、自分の得意な間合いを取って、戦う事がある』
『ゴローニャ(アローラのすがた)。メガトンポケモン。ゴローン(アローラのすがた)の進化系。名前の通り、アローラ地方に生息するゴローニャ。ダイナマイトでも傷が付かない丈夫な身体だが、湿気や雨など水分が苦手。帯電した岩石を発射。 着弾した一帯に、凄まじい電撃が迸り、掠れただけでも体が痺れ失神する威力がある』
「どうしましょう。私も師匠もポケモンが」
マナオの言う通り、サトシとマナオの唯一ポケモンであるピカチュウとカラカラは既に捕まってしまい、今の二人の手持ちポケモンは0である。その二人の前に、ヒョウリが出てきて、ロケット団に対峙する。
「俺が相手をするしかないだろ。・・・サトシ」
ヒョウリは、腰のポーチから何かを取り出すと、それをサトシへと投げ渡した。サトシは、受け取って、それを見るとある事を思い出した。
「・・・これは、あの時の」
サトシに渡されたのは金属製のL字状の道具だった。先にはモリのようなものがあり、その真下にはワイヤーがロール状に巻かれていた。手で握るグリップ部分には、丁度人差し指
が当たる所に、トリガーが付いていた。それは以前、サトシがヒョウリと出会ってから最初に訪れたハルタス地方の街ミョウコシティでロケット団からポケモン達を奪い返す為に、使ったワイヤーガンだった。
「それを使え、あの高さなら余裕で届く。俺が、こいつらの相手をする。お前らは飛行船の方を、ピカチュウ達を助けに行け」
「あぁ、分かった」
「分かりました」
サトシとマナオは、そのままロケット団のメカの方へと向かった。
「そうはいくか。モウカザル、かえんほうしゃ」
「ウッ、ギャャャ」
コジロウの指示で、サトシ達の進行方向へ(かえんほうしゃ)を放つ、モウカザル。
「デンチュラ、エレキネット」
「チュラ」
咄嗟に、ヒョウリの指示でデンチュラが(エレキネット)を、(かえんほうしゃ)に向かって撃ち、相殺させた。それにより、爆発と煙が発生する。
「今だ、行け」
「すまん」
サトシとマナオは、その煙の中を潜り抜けて走って行った。
「あっ、待ちなさい」
「おっと。お前ら、余所見するなよ。俺にまた負けたいか?」
「・・・フン。まぁ、いいわ。あんたと倒してからよ」
「そうだな。それに、ポケモン無しのあいつらには、飛行船に手も届かないさ」
二人が行くのを確認するヒョウリは、左手を腰に当てる。そこには、自分のポケモンが入ったモンスターボールがベルトに固定されているが、その周りに先程のネチネチした物体が僅かにこびり付いていた。
(右手のは取れたが、腰のが僅かに残ってすぐに剥がせない)
そう考えた彼は、右腕の裾からモンスターボールを1つ取り出して掴んで投げる。
「いけ、ハッサム」
投げたボールから出てきたハッサムは、目の前に降り立つ。
「ハッサム」
「よし。ハッサム、デンチュラ。こいつらを相手にするぞ」
「ハッサム」「チュラ」
ヒョウリの言葉に、返事をするハッサムとデンチュラは、戦闘態勢を取る。
「ゴローニャ、やってしまいなさい」
「モウカザル、お前も行け」
「ニャゴロ」
「ウギャ」
ロケット団とのバトルをヒョウリに任せたサトシとマナオは、飛行船の跡を追って行った。ムサシとコジロウを降ろしてから、飛行船は徐々に森から離れて行こうとしていた。しかし、飛行船には先程のバタフリーが空からわざを繰り出して、妨害していた。それに対して、コックピットに残ったニャースとソーナンスが、追い払いながら航行をしているものの、速度が徐々に落ちていた。
「よし。着いた」
「た、高いですね」
漸く真下にやって来た二人は、下から飛行船を見下ろした。地上から飛行船のゴンドラまでの高さは、約50m近くあり、サトシはあそこまで届くかと不安になった。
「・・・」
だが、サトシは先程ヒョウリから貰ったワイヤーガンを手に取り、それを飛行船のゴンドラに向けた。今までにこういうものを扱った事がないサトシには、上手く狙えず腕が上下左右にブレてしまい、狙いがズレてしまう。
(チャンスは1度だけ)
必死に狙いを定めてから、サトシはトリガーに指を掛けて、力を込めた。
(頼む。届いてくれ)
そう願いを込めて、トリガーを引いた。すると、ワイヤーガンの先端が圧縮されたガスが噴射し、その力により先端にあるアンカーが一気に射出された。アンカーは、勢いよく空気を切りゴンドラへと向かっていく。だが、僅かに狙いが逸れたのかゴンドラから徐々に外向きへと進路が変わっていく。
「あっ」
サトシは、声を出した。このまま外れたら、飛行船に乗り込む事は出来ない。そうなれば、ピカチュウ達を助けに行ける可能性が無くなるかもしれない。失敗してしまった事に、後悔した気持ちが湧き出てきた時だ。救いの展開が起きた。飛行船が少しだけ真横に動いたのだ。すると、ギリギリの所をアンカーがゴンドラに命中して、食い込んだ。
「・・・やった」
サトシは、飛行船の方から空を飛ぶバタフリーへと視線を移した。先程からの飛行船に(サイケこうせん)を放つバタフリーのお陰だったからだ。
「しつこいにゃあ」
「ソーナンス」
「こうなったら、奥の手にゃ!」
ニャースが、操作パネルの黄色のスイッチを押すと、ゴンドラの側面から巨大な電球の様なものが出てきた。
「!」
次の瞬間。ランプが一気に発光した。強い光がバタフリーに浴びせられ目を眩ませる。
「フッリィ」
突然の事に、驚きながら視界が真っ白になったバタフリーの動きが止まってしまった。
「今にゃあ」
巨大な吸引装置をバタフリーに向けると、内部のファンが先程までとは逆回転を始め、空気を溜めていくと、一気に放った。それは正に空気砲だった。そのまま、強力な風圧の弾は目が眩んで動きが止まっているバタフリーに命中した。
「フリィィィ」
バタフリーは、当たった勢いで、下の森の中へ吹き飛ばされて行く。
「あっ!」
その事に気付いたサトシは、バタフリーが墜落していくのを見た。
「・・・くっ」
サトシはバタフリーから飛行船へ向き直り、何かを悩む顔をする。
「師匠?登らないんですか?」
「!」
マナオにそう言われたサトシは、思い留まっていたが、すぐさま決断した。
「マナオ」
「は、はい」
「俺の変わりに登ってピカチュウとカラカラを助けに行ってくれ」
「・・・へ?」
「俺もすぐに助けに行く」
そう言うと、ワイヤーガンをマナオに手渡してから、急いで走り始めた。
「あっ、師匠。・・・行っちゃた。え、私一人で?」
サトシは、全速力で走った。走った先には、先程墜落したバタフリーが倒れていた。
「はっ」
すぐさまバタフリーに寄ったサトシは、抱き抱えて話しかける。
「大丈夫か?バタフリー」
「!」
突然、何者かに触られた事に驚くバタフリーは、慌てて暴れ始めた。
「うわっ。大丈夫だ、バタフリー。落ち着け」
バタフリーは、まだ先程のロケット団の目眩ましで、視界がまだぼやけていた。それで、相手の顔は分からないが、人間なのは分かった。きっと先程の襲ってきた仲間だと思っているのだろう。必死に抵抗しようとした所、サトシは大声でバタフリーに叫んだ。
「俺だ。バタフリー。思い出せ」
「!」
バタフリーは、その声に強く反応して動きを止めた。ただ、大声を出されて硬直したのではなく、彼にはどこか聞き覚えのある声だったからだ。バタフリーは、じっとそのまましていると、徐々に視界が戻り始めてきた。そして、やっとサトシの顔が聡明に見えた。
「フ、リィ・・・フリィィィ!」
「あぁ、俺だ」
バタフリーは、サトシの顔を漸く認識すると、凄く驚いた。


「行け、モウカザル。かえんほうしゃ」
「ゴローニャ、ロックブラスト」
「ハッサム、ファストガード。デンチュラ、エレキネット」
ハッサムは、両腕を正面に構えて赤い円状の盾を発生させて、(かえんほうしゃ)を受け止める。一方で、デンチュラは電気で出来た網状の物体を口から出して、飛んできた(ロックブラスト)を空中で相殺させた。
サトシ達と別れて、5分が過ぎた。ヒョウリは、現在使用できるポケモンであるハッサムとデンチュラと共に、ロケット団のレンタルポケモンであるモウカザルとアローラのゴローニャとバトルを続けていた。最初は、上手く戦えていたのだが、それぞれの相性が少し悪く次第にヒョウリのポケモン達が押されていた。
「相性が、ちいと悪いかな」
先程からハッサムがモウカザルを、デンチュラがゴローニャを相手にしていたのだが、戦いは徐々に追い込まれる事となった。
相手のモウカザルは、ほのおタイプでハッサムには相性は悪い。だから、出来るだけほのおわざに中止しつつ、遠距離は避けてハッサムの得意な近接戦で戦っていた。だが、相手のモウカザルは、この森に生えた大量の木を上手く使い、機動力と瞬間的な戦法を行っていた。そのせいもあり、ハッサムに対して素早い攻撃と不意打ちを行うようになり、徐々に押されていた。
もう一体のアローラのゴローニャは、いわタイプに加え、デンチュラと同じでんきタイプを併せ持つ。先程から、デンチュラのでんきわざである(エレキネット)と(10まんボルト)を放っても、効果はいまひとつであった。(エレキネット)で動きを封じようとするも、
「モウカザル、グロウパンチ」
「ファストガードだ」
「ハッサム」
「フン、今だ。モウカザル、フェイント」
「なっ」
「ハッサ!」
モウカザルは、急遽グロウパンチのままフェイントを繰り出すと、ハッサムが発生させたファストガードが打ち破られて、そのままわざがクリンヒットしてしまった。
「ゴローニャ、すてみタックル」
「チュラァ!」
「あっ、デンチュラ」
ハッサムとデンチュラは、共に攻撃を受けて、地面の上転がった。
「へぇんだ。どうだ、暴力ジャリボーイ」
「どうやら、今回はあんたの運の尽きみたいね」
ロケット団は、勝ちを確証したかのように、そう発言する。
「・・・」
それ対して、ヒョウリは何も返さない。
「あら、もしかして負けたのが悔しいの?」
「ふん。大人を馬鹿にするからこういう目に遭うのさ」
ロケット団は勝ち誇った態度でヒョウリに言葉を投げるのだが、ヒョウリの表情は悔しくも無く、ただ少しだけ俯いて何かを考えていた。
「うん?どうした急に黙って」
「ぐうの音も出ないとは正にこの事だな。今更謝っても許さないぜ」
「これで、あんたのポケモンを倒したら後は、他のポケモンと一緒に私達が貰って上げるわ」
「こないだは油断したが、力付くで奪ってやるからな」
ムサシとコジロウに、次々と言われ続ける彼だが、やっと口を開いた。
「・・・が」
ヒョウリは、ボソリと言葉を出したが、ロケット団には聞き取れなかった。
「ん?」
「なんだって?」
ロケット団に聞き返されたヒョウリは、顔上げた。その顔は、以前に彼らへ出したとても悪い顔だった。
「悪いが・・・お前らの負けだ。雑魚共」


「きゃぁぁぁ」
マナオは、大声で叫びながら、勢いよく飛行船へと登っていた。先程サトシから受け取ったヒョウリのワイヤーガンのグリップを両手で強く握りしめ、右手の人差し指でトリガーを引いていた。今の彼女は、サトシが何とか命中させて引っ掛ける事が出来たアンカーとワイヤーガンを繋ぐ細い特殊ワイヤーのみで、彼女の全体重を支えて、モーターで巻かれた力で釣り上げられる状態となっている。
「お、お願いだから切れないでね」
彼女は、細いワイヤーにそう願いならが、徐々に飛行船のゴンドラに近づいていった。
「やっと着いた・・・ど、どうしよう」
巻き上げが終わり、ゴンドラに掴まるマナオは、どうやって中に入ろうかと考えた。周りを見て、確認してもドアのような物が見当たらない。
「・・・あっ」
辺りを見ていると、ゴンドラの真下の開いたハッチに目を付ける。ポケモン達を吸い込んだ巨大吸引が取り出しているアームが中から伸びているのを見て、ここから入れるのではと考えた。彼女は、ゆっくりと手でゴンドラから出っ張ているフレームを掴みながら、内部へと入った。
「暗っ。明かりとかないの」
マナオが入ったゴンドラ内部は暗くて、ハッチから入ってくる僅かな光でしか光源がなかった。
「えぇと、こっちかな。あっちかな」
マナオは、迷いながらも内部のあちこちに這って行く。中は、配管やコードなど色々と入り乱れていて、人の通れるスペースが僅かしか無かった。
(カラカラ、ピカチュウ。どこ?)
マナオは、カラカラ達を探しながら進んでいると。
「・・・たくにゃあ」
「・・・ス」
どこかで誰かの話し声が聞こえた。
「!」
彼女は、その方向へ行くと僅かな光がチラチラと見えた。それは空調用のガラリで、向こうからの光の空気の穴を通って、こちら側を照らしているのだ。マナオはガラリ越しに奥の方を覗いた。
「ムサシ達、遅いにゃ。早く撤収しないと警察が来るというのに」
「ソーナンス」
(あれは、喋るニャースとソーナンス)
そこに居たのは、ロケット団のニャースとソーナンスの姿だった。マナオが覗いている空間は飛行船のコックピットだった。
(よし。こいつらを何とかしてポケモン達を・・・いや無理無理無理。私、今ポケモン持っていないし。私一人だし)
マナオは、必死に考えた。どうすればカラカラ達を助け出せるか。ニャース達をどうにかして飛行船を降ろせないか。そう彼女がえている最中に、ある物に気付いた。それは、這わされている色取り取りな配線の束だった。
「・・・」
マナオは、じっとそれを見てから悩んだ表情をする。それから、背負っているリュックを降ろして中から1つのハサミを取り出す。
「スゥー、ハァー」
何かを決断したような表情をして、ゆっくりと深呼吸をした。そして、手に持つハサミを握り、もう片方の手で配線の束を持ち上げた。
「!」
ブチッと配線は切断された。その瞬間。
ニャース達がいるコックピットの操作盤が赤色のランプが点滅して、警報音が鳴り響いた。
「にゃ、にゃんだぁ!」
「ソ、ナンス!」
ニャースとソーナンスは、急な状況に叫びながら大慌てになる。
「にゃっ。飛行船の操縦制御システムが不通になってるにゃ!」
「ソォナンス!」
「しょれに、飛行船のガス制御装置も不通に」
「ソォナンス!」
すると、操作が出来なくなった飛行船は徐々に、前へ倒れるかのように傾き始めた。
「にゃあ」
「ソォ」
ニャースとソーナンスは、バランスを崩して、そのまま前の正面ガラス目掛けて顔面を打ち付けた。
「ごにょままにゃ、墜落にゃ」
「ソォ、ナス」
そう結果が見えてしまったニャースとソーナンス。
「きゃぁ」
同様に、傾斜が出来た事でマナオも前へ倒れるようになると、彼女の体重が掛かったガラリが外れて、そのまま彼女はコックピット内に転がり入ってしまった。
「いてっ」
「にゃ?ニャー。おみゃーは、ジャリガール」
マナオの姿を見て、ニャースは驚いた。
「あっ、見つかった」
「さては、おみゃーのせいだな。一体、何をしたのにゃあ」
「ソーナンス」
マナオに詰め寄るニャースとソーナンスに、彼女はおどおどしながら答える。
「そ、その、えぇと・・・切っちゃた。配線」
「「・・・」」
「・・・」
「もう駄目にゃ。墜落にゃあ!」
「え、えぇ。墜落!」
ニャースの言葉にマナオもパニックする。
「ど、どうにかしてよ」
「おみゃーが切ったからもう無理にゃあ」
「けど、このままだと落ちたら、って。あぁ」
マナオが話している最中に何かを見て、マナオは指を指して大慌てする。
「にゃあ?」「ソ?」
彼女が見ている方をニャースとソーナンスも振り返ると。正面ガラスの向こう側が森や地面が見えていて、あと少しで届きそうな勢いだった。マナオ操縦不能に堕ちた飛行船は、次第に降下していき、地面へ向かっていた。
「にゃあぁ!激突するにゃあ」
「落ちるぅぅぅ!」
「ソォナァァ!」
飛行船は、墜落した。
「あっ」
飛行船が落ちた所をサトシとバタフリーは見た。サトシは、バタフリーで出会ってから、手持ちのキズぐすりを使って、バタフリーの治療をして回復させていた。
「行くぞ。バタフリー!」
「フリィ!」
二人は、急いで墜落地点へ向かった。
墜落した飛行船は、ゴンドラの部分だけが地面に衝突した後、少しだけバラバラになりながら地面に倒れるように着地した。更に、墜落のショックで気嚢と繋がっていた部分が破損した為、ゴンドラと巨大なドクケイルデザインの気嚢は、完全に外れてしまい、気嚢はそのまま離れた所に転がっていった。
「いたた」
「いたいにゃあ」
「ソッナンス」
ゴンドラは、僅かにヒビが入り、正面ガラスの殆どが割れていた。コックピット内に居たマナオとニャース達は、僅かな打撲で済んだのか無事だった。打ち付けた所を擦るマナオは、ニャース達を見て、すぐさま立ち上がった。
「あっ、コラ。あんた達」
マナオの大声に、ニャース達へビクっと反応する。
「「!」」
「早く、私のカラカラと師匠のピカチュウ、他のポケモン達も返しなさい。一体、どこに居るの?」
「ふん、誰が教えるにゃあ」
そう言ってニャースは立ち上がると、爪を尖らせてソーナンスと共に立ち向かう。
「くっ」
マナオは、何も考えずに感情的に言ってしまい、このままだと不味いと思った。彼女は、後ろへと下がるが、そこはコックピットの密閉空間で逃げ道が殆どなかった。
「ニャー達の邪魔をすると痛み目に遭うにゃあ」
その時だ。
「マナオ!」
外からサトシの声がした。
「師匠!」
「げっ、ジャリボーイにゃあ」
「ソーナンス」
ニャース達にもその声が聞こえたすぐさま見渡した。すると、割れた窓から外に、サトシとバタフリーが居た。
「居た。大丈夫か」
「師匠。はい、無事です」
マナオは、急いで窓から飛び出して、外に出た。
「ピカチュウ達は?」
「それが、その」
「ジャリボーイ」
「!」
ニャースとソーナンスが戦闘態勢で構えていた。
「こうなったらニャー達だけで、おみゃーらを倒すにゃあ」
「ソーナンス」
「そうはいくか。バタフリー」
「フリィ」
バタフリーは、サトシの前に出て、ニャース達と対峙する。
「にゃあ。さっきのバタフリーかにゃあ」
先程、追い払ったバタフリーだと気付いたニャース。
「・・・」
ニャースは、じっとバタフリーを見つめる。すると、どこか懐かしい何かを感じて、昔のある記憶が出てきた。
「そ、そのバタフリーは、まさかにゃあ」
そのバタフリーが、かつてカントー地方で出会ったジャリボーイのポケモンだったバタフリーだと分かり、ニャースは驚く。
「あぁ、そうだ。俺がはじめてゲットした仲間だ。行くぞ、バタフリー。サイケこうせん」
「フリィィィ!」
バタフリーは、(サイケこうせん)をニャース達に放つと、ニャースはソーナンスの後ろに隠れた。
「頼むにゃあ。ソーナンス」
「ソーナンス!」
ソーナンスの(ミラーコート)で、(サイケこうせん)を跳ね返した。
「躱せ」
バタフリーは、跳ね返されたI自分の(サイケこうせん)をギリギリで躱す。
「こうなった仕方ないにゃあ」
ニャースが隠して持っていた何かを勢いよく地面に投げつけた。すると、そこから黒い煙が溢れ出し、視界が見えなくなった。煙幕だ。
「くっ」
サトシとバタフリーは、煙幕でニャース達の姿が見えなくなり、すぐに次の手を打った。
「バタフリー、煙幕を吹き飛ばすんだ」
「フリィィィ」
バタフリーは、羽を激しくバタつかせて、煙幕を払い除ける。次第に、煙幕は薄れていき、視界が戻った。
「あいつらが、居ない。どこに」
だが、ニャースとソーナンスの姿がそこには無かった。辺りを見るサトシとバタフリー。
「師匠、あそこです」
マナオが、空に指を向けて知らせてきた、サトシとバタフリーも見上げると。そこには、ロケット団がいつも使っているニャース柄の気嚢に吊り下がった気球が飛んでいた。気嚢に吊り下げられた緑色のバスケットから、ニャースが顔を出した。
「バイにゃらにゃあ」
そう言って、気球はそこから離れて行く。
「待て!」
サトシが追おうとしたが、マナオに止められた。
「師匠、それよりピカチュウ達を」
「あっ」
すぐさまサトシ達は、墜落したゴンドラの残骸へ近寄り、中からピカチュウ達を探し出す。
「ピカチュウ!」
「カラカラ、どこ?」
「フリィィ」
必死にピカチュウ達を探すのだが、一向に見つからない。すると、サトシの耳に何かが聞こえた。
「ピカピ」
僅かに、ピカチュウが自分を呼ぶ声がしたのだ。
「!」
サトシは、すぐさま聞こえた方へ向かう。
「ピカチュウ!どこだ!」
残骸の中を掻き分けていくと、巨大なコンテナ状の物体を見つけた。
「これか?」
コンテナに触って試しに叩いてみると。
「ピカピ」
中からピカチュウの声が再び聞こえた。
「居た。マナオ、バタフリー、こっちだ!」
すぐさま、他の二人を呼んだ。
「くそ、どこがハッチなんだ」
サトシは、どこか出入り口のようなものは無いかと探したが見当たらなかった。
「仕方ない。バタフリー、サイケこうせん」
「フリィィィ」
コンテナに向けてバタフリーは、(サイケこうせん)を放つ。しかし、コンテナはびくともしない程の頑丈だった。
「駄目だ。びくともしない」
「そうですね」
「恐らく中も硬いからピカチュウ達でも出れないんだ。どうすれば」
サトシは、考えてコンテナの周りをもう一度よく見た。
「・・・ん?」
すると、上側に何かが突き出ているのを見つけた。
上へ登って見ると、コンテナの中央から配管が突き出ていた。
「そっか。吸い込んだポケモンは、ここを通って」
サトシは、配管に登って上から中を覗くと、中も金属のハッチで塞がていた。
「これも硬そうだな。けど・・・よし」
サトシは、名案を思いついた。
「バタフリー。俺が合図をしたら、ここへサイケこうせんを撃て」
「フリ」
「ピカチュウ、聞こえるか。」
「ピカ」
コンテナに向かってそう叫ぶとピカチュウが返事をする。
「今から中央を攻撃するから、ピカチュウ達は真ん中から離れるんだ。それとピカチュウとカラカラも中央を内側から攻撃してくれ」
「ピカッ」
「よし」
そうして、同時によるコンテナ破壊を行った。
「いくぞ。サイケこうせん」
「フリィィィ」
バタフリーの(サイケこうせん)がコンテナの中央の配管に命中する。同時に内部では、ピカチュウとカラカラによる破壊行為を行っていた。
「頑張れ、バタフリー。もう少しだ」
「リィィィィ」
両サイドから攻撃を続けて10秒以上が経過した。次第にハッチが壊れはじめ、遂に爆発した。
「くっ、成功したか?」
中央で煙が発生して、よく見えなかった。サトシ達は息を呑んで見守っていると、煙の中から影が1つ2つと出てきた。
「ピカピ」
「カララ」
煙から飛び出してきたのは、ピカチュウとカラカラだった。
「ピカチュウ」
「カラカラ」
サトシとマナオ、彼らの名前を呼び、抱きしめた。
「ピカピ」
「カララ」
それから、二人に続いて、空いた穴から他のむしポケモン達も次々と脱出を始めた。すると、バタフリーが周りをキョロキョロと向いて、誰かを探している。
「フリィ」
すると、他のバタフリーの声が聞こえた。バタフリーが、そちらへ向き直ると、そこには
一匹のピンク色のバタフリーが居た。
「フリィ」
「・・・フリィィィ」
バタフリーは急いでピンク色のバタフリーに駆け寄った。その様子を見たサトシは、ピンク色のバタフリーを見て、思い出した。
「あのバタフリーは、あの時の」
そのバタフリーが、かつて自分のバタフリーと別れた日、自分のバタフリーとつがいとなったピンク色のメスのバタフリーだと分かった。
「そっか、それでお前。あんなに・・・ん?」
サトシは、感動したのか少しだけ涙を出していると、ピンク色のその後ろには、小柄の3匹のキャタピーが居る事に気付いた。すると、バタフリーがそのキャタピー達に抱き締めるかのように羽で包み始めた。それに合わせてピンク色のバタフリーも同じ事をした。
「もしかして、お前の子か?」
サトシが近寄りながらバタフリーへ尋ねると、サトシの方を見て、返事をする。
「フリ」
「そっか。良かった」


サトシ達が、掴まったポケモン達を無事に救助出来た頃。
「う、嘘だろ」
「なんでよ」
森の中で、ヒョウリとバトルをしていたムサシとコジロウは、額に汗を掻いて、驚愕していた。
「ハッサム!」
「ウギャ」
「チュラ!」
「ゴロォ」
先程まで優勢だったムサシとコジロウのレンタルポケモン。モウカザルとアローラのゴローニャが返り討ちに合っていたからだ。
時は、マナオが飛行船に潜入した時だ。
「ざ、雑魚共だと。いい加減にしろよ。お前!」
「あんた、前から思ったけどほんと口が悪いし、性格も悪いはね。友達居ないでしょう」
ヒョウリに雑魚呼ばわりされたロケット団は、キレつつも彼へ言い返した。
「まぁ、本当の友達と言えるのは数人かな。ポケモンは敢えて省くが」
ヒョウリは澄まし顔で、答えと今度はロケット団へ質問をした。
「ところでお前ら、レンタルポケモンばかり使っているが、自前のポケモンはいないのか?」
「はぁ?当然いるわよ」
「今はただ、上の指示で本部に預けているだけだ。それでレンタルポケモンを運用して・・・って俺たちの事はどうでもいいだろ」
「そうか。なら、その2体だけなんだな」
「「ん?」」
ヒョウリの言葉にイマイチピンとこなかった二人だが、彼は一気に反撃を始めた。
「ハッサム、デンチュラ。フォーメーションRP3だ」
「ハッサム」「チュラ」
ヒョウリの言葉にダメージを負っていたハッサムとデンチュラの目つきが変わった。
「フォーメーション?」
「RP3?」
ムサシとコジロウがそう呟くと、ハッサムとデンチュラが動き出した。
「「なっ!」」
「ハッサム」「チュラ」
ハッサムとデンチュラは、ヒョウリの指示もなく互いに並ぶと共に(かげぶんしん)を使い始めた。ハッサムとデンチュラの左右に大量の影分身の残像が出現し、ロケット団のモウカザルとゴローニャは、慌て始めた。
「ウギャ」「ニャ」
「何よ。ただのかげぶんしんじゃない。ゴローニャ、ほうでん」
「モウカザル、かえんほうしゃだ」
「ゴロ、ニャー」
「ウギャァァァ」
ゴローニャの(ほうでん)とモウカザルの(かえんほうしゃ)で、(かげぶんしん)を使っているハッサムとデンチュラへ攻撃をする。わざが命中して、次々と分身体が消滅していく。
「今だ」
突然、ヒョウリがそう叫ぶ。
「チュラ」
影分身の中にいた本物のデンチュラが突然、エレキネットを次々と発射した。
「躱しなさい」
わざを中断してゴローニャとモウカザルは、すぐに躱そうと体が動かした。最初の一撃は躱せたが、次から次へと撃ってくるエレキネットは主にゴローニャへと飛んでいく。ゴローニャは、モウカザルに比べて素早く動けない体をしている。そのまま、エレキネットは次々とゴローニャに命中して、ドンドン身動きが取れなくなていく。
「ゴロゥ」
全く体が動かせないようになったゴローニャに、ムサシを悔しがる。
「えぇい、もう。コジロウ、援護しなさい」
「モウカザル、デンチュラにかえんほうしゃだ」
モウカザルは、素早くデンチュラへ目掛けて(かえんほうしゃ)を放とうとした瞬間。いきなり、真横からハッサムが突っ込んで来た。ハッサムが(でんこうせっか)で、モウカザルへ体当たりをしてきたのだ。
「ウギャッ」
(かえんほうしゃ)を撃つ瞬間の隙を突いてので、攻撃がクリンヒットした。更に、攻撃を受けて地面に倒れるモウカザルへデンチュラは、エレキネットを発射して、命中した。モウカザルは、地面に貼り付け状態となってしまった。
「ちょっと、二体ともやられたじゃない」
「あぁ、くそぉ。なんで、あいつは何も指示していないのに」
コジロウが、そうボヤくと。
「それは、そういう戦術のフォーメーションだからだ」
ヒョウリは、話を続ける。
「俺は、自分のポケモンにいくつかの戦法とフォーメーションを訓練させていてな。通常のバトルでは使わないが、必要な時には使う。サトシ達には、まだ教えていない。俺のポケモンの隠しわざという切り札さ」
その話を聞くロケット団は、ただ悔しいとしか言えなかった。
「そろそろ終わりにするか」
ヒョウリは、トドメを指示した。
「ハッサム、エアスラッシュ」「デンチュラ、ギガドレイン」
ハッサムの両腕が光だし、勢いよく腕を振って光の刃である(エアスラッシュ)が(エレキネット)で封じられたモウカザルに命中する。
「ウギャッ」
命中したモウカザルは、そのまま気絶した。
「あぁ!俺のモウカザルが!」
モウカザルは、ほのおとかくとうタイプのポケモン。ひこうわざである(エアスラッシュ)には効果抜群だった。
一方で、デンチュラは口から緑色の光の球を放つと、それが(エレキネット)で動けないアローラのゴローニャに命中した。
命中すると、ゴローニャはまるで何かを吸われたかのように力が弱まっていき、そのまま気絶した。アローラのゴローニャは、でんきといわタイプ。くさタイプの(ギガドレイン)は効果抜群だった。更に、(ギガドレイン)の効果でデンチュラは、体力を回復した。
「なんでよぉ」
「どうして、こんな事に」
先程まで、ロケット団が優勢となって、あと一歩で勝っていたはずだった。しかし、まさかの大逆転劇にロケット団の二人は、強いショックを受けていた。そんな二人を見て、ヒョウリは突然話し出す。
「戦いで勝つ大切な事」
「「?!」」
「その1。如何に相手を知り、自分の弱点を見つけ出す。そして、その対策と切り札を用意する・・・まぁ、これは俺の師匠からの受け売りだがな」
そう言って彼は、ロケット団の方へ近づいて行く。
「前半でお前らのポケモンがどういうわざと特技を持っているか分析した。そして、俺のポケモンとの相性と弱点に対して評価した。あとは、タイミングを見計らって、切り札を使った。それに、俺のポケモンには、相性が悪い奴に使えるわざを1つでも覚えさせていてな。
いや、良かったよ。お前らのポケモンがその二体だけで。こっちは今、この二人しか俺出せないからなぁ」
ヒョウリが軽く笑いながらそう言っていると、急に真顔に戻った。
「さて、どうするお前ら?今度は、お前らが直接相手になるか?」
「「くぅぅぅ」」
ムサシとコジロウは、歯を食いしばって悔しい顔をした。だが、もう彼に対抗できるポケモンも手も持っていない二人。このままでは、自分たちも返り討ちに遭うと分かってピンチだった時だ。
「ムサシ、コジロウ!」
「「!」」
自分たちの名前を呼ぶ声が上から聞こえた。咄嗟に見上げると、そこにはいつも使っているロケット団の気球が飛んでいた。
「「ニャ、ニャース」」
気球には、ニャースとソーナンスが乗っていた。
「お、お前、飛行船は?」
「もう落ちたにゃ。作戦失敗にゃあ」
「ソーナンス!」
「「嘘でしょう」」
「あんなに頑張ったのに」
「もう何やってんのよぉ」
ムサシとコジロウは、ニャースへそうボヤく。
「仕方ないにゃ。とにかく上がって来るにゃあ」
ニャースがそう言うと、隣のソーナンスが縄梯子を降ろした。
「くっ、戻りなさい」
「戻れ、モウカザル」
ムサシとコジロウは、気絶しているモウカザルとゴローニャをボールに戻して、すぐさま気球へ上がっていった。
「覚えてなさいよ。暴力ジャリボーイ」
「今度こそ、お前も倒して。ジャリボーイのピカチュウ諸共、お前のポケモンも奪ってやる」
そう吠え面をかきながら二人が上がり切ると、一気に上昇した。
「「撤収!」」
「逃げ足は早いな」
そんなロケット団を下から見て、そう呟くヒョウリ。
「待て!ロケット団」
「逃さないわよ」
すると、サトシ達もその場にやって来た。
「げっ、ジャリボーイ」
「ピカチュウを奪い返されたから、ヤバいな」
「全速力で逃げるにゃあ」
ロケット団は、気球の勢いを上げて、すぐさま逃げようとした。
「ハッサム」
だが、彼らの気球目掛けて、ヒョウリのハッサムが飛んできた。ハッサムは、(エアスラッシュ)を放ち、気球の気嚢を切り割いた。その結果、気球は浮力を失い、一気に落下した。
「「「あぁぁぁ」」
そのまま気球は墜落してロケット団達は、バスケットから投げ出されてしまう。
「いたた」
「全くあの暴力ジャリボーイ」
「こうなったらニャー達の意地を見せるにゃあ」
「ソーナンス」
ロケット団は、最後の悪足掻きとして戦闘態勢を取る。
「お前ら、無事だったようだな」
「あぁ。ヒョウリこそ、勝ったみたいだな」
「まぁな」
ヒョウリと合流したサトシ達は、ロケット団と対峙する。
「ん?あれって」
コジロウがサトシの隣にいるバタフリーに気付いた。
「ジャリボーイの奴、ポケモンを他に持っていたのか?」
「あれって、さっきのバタフリーじゃない?ほら、黄色スカーフ巻いた」
コジロウに続いてムサシも気付く。すると、二人にニャースが答えた。
「そうにゃあ。あれは、ジャリボーイのバタフリーにゃあ」
「「え?ジャリボーイのバタフリー・・・まさか」」
ムサシとコジロウは、昔のある記憶から思い出した。ニャース同様に、かつてカントー地方で僅かに出会ったあのサトシのバタフリーを。
「「あの時のバタフリー?!」」
ロケット団が、そうリアクションをしている間、サトシ達は動いた。
「行け!バタフリー、サイケこうせん!」
「ハッサム、エアスラッシュ!デンチュラ、10まんボルト!」
「フゥリィィィィ!」「ハッサムゥ!」「ヂュラァ!」
彼らの遠距離技が、ロケット団へ向かっていく。
「ソーナンスあとは宜しく」
ムサシがそう言って、ロケット団の3人はソーナンスの背後に避難する。すると、ソーナンスは、構えて体を光らせる。
「ソーナンス!」
ソーナンスの得意わざの(ミラーコート)を発生させて、彼らのわざを見事に弾き返し、そのまま彼らの元へ戻り爆発を起こす。
「くっ」
「厄介だな。あれは」
サトシとヒョウリは、苦悶してどうすればいいか考えると、サトシが何かに閃いた。
「そうだ。バタフリー」
サトシは、早速バタフリーに指示を出した。
「ねむりごなだ!」
「フリィ~!」
バタフリーは、すぐに羽を羽ばたかせてソーナンスに向かった。それからバタフリーの両羽から青色の粉が発生して、それがソーナンスに降り注いだ。
「おっと」
「ソ、ソーナンス」
「吸っちゃ駄目にゃあ」
ロケット団達は、自分達の鼻を摘んで、ソーナンスにそう注意するが、時は遅かった。
「ソ、ナンス」
そう最後に返事をして、倒れるソーナンスは、そのまま眠ってしまった。
「ちょ、ちょっと、ソーナンス」
「ナンス♪」
ムサシの文句に、寝言で返事をするソーナンスは、もう戦闘不能状態となった。
「ニャー達は、最強の盾を失ったにゃあ」
「て、いうことは」
ロケット団達は、恐る恐るサトシ達を見た。
「今だ。ピカチュウ、10まんボルト!バタフリー、サイケこうせん!」
「ピカッヂュゥゥゥ!」「フリィィィ!」
二人の(10まんボルト)と(サイケこうせん)は途中で1つとなり、ロケット団へ飛んでいき、大爆発が発生した。ロケット団は、爆発により空へと吹っ飛んだ。
「あぁ~、やっぱりこうなったか」
「折角、稼いでゲット出来ていたのに」
「また、一から頑張るしかないにゃ」
「ソ、ナンス♪」
「「「やな感じ〜~~!!!」」」
ロケット団は、何度も見たいつもの終わり方として、遠くへと飛んでいった。
それを確認したサトシとピカチュウ、バタフリーは、共に勝どきを上げた。
「やったぜ!」
「フリィィィ!」
「ピッピカチュ!」


ロケット団の騒動が終えてから時間が経過した。既に、盗難の件で通報を受けていたジュンサーをはじめ警察が森へとやって来た。被害にあった人達やポケモン達にも大した怪我は無く。捕まったポケモン達全員が無事に開放された。
ほんの少しだけ事情聴取などを受けたサトシ達は、その後祭りの運営であるチョウスケをはじめスタッフ達から、今回の事で感謝をされた。
あれから、サトシとピカチュウはかつての仲間であるバタフリーと話を始めた。
「そうか、お前はこの森の暮らしているのか」
「フリ」
「あのバタフリーと幸せに家族が出来て、良かったな」
「フリ」
サトシとバタフリーは、ピンク色のバタフリーと3匹のキャタピー達を見る。母と子供達で何か話しているようだった。
「ピカ、ピカピカ。ピカッチュ」
「フリフリ、フリィ。フリリ」
「ピカァ~」
「フリィ~」
そして、お別れの時間がやって来た。日が山へと沈む頃。辺りは夕焼け色へと変わり、徐々に暗くなりはじめていた。
「じゃあな。バタフリー」
「ピカッチュ」
サトシとピカチュウは、バタフリーに別れの言葉を言った。
「フリィィ」
バタフリーも二人へ別れの言葉を言う。
それから、サトシは振り返り、待っていたマナオとヒョウリの元へ戻った。
「お待たせ、行こうぜ」
「いいのか、もう」
「あぁ」
「そうか」
そうして、サトシ達は次の街へと歩き出した。
「・・・」
サトシは、それから一度も振り返らないまま、歩いて行く。バタフリーも同様に、何も言わずにただ見続けた。ピカチュウは、一度だけ振り返り、バタフリーを見たが、何か辛い気持ちになると思い、すぐに前を見た。お互いに、ただ黙ったまま離れていくが、心の中では何かを感じていた。こうしてサトシとピカチュウは、かつての仲間であり、友達でもあるバタフリーと再び別れをした。
辺りが暗くなった頃、無事にウィンタウンへ到着したサトシ達は、ポケモンセンターですぐに晩飯を食べて、一泊した。ヒョウリのハッサムとデンチュラは治療の為に、センターへ預けられた。ピカチュウやカラカラの方は、特に怪我は無かったので、すぐにジョーイから返された。
その夜。ポケモンセンターの宿泊部屋のベランダからサトシは、月を眺めていた。部屋には、マナオとカラカラ、ヒョウリが眠っていた。
「・・・」
ただ静かに、月を見つめるサトシ。彼の後ろから誰かが近づいていた。
「ピカピ」
「?」
側にやって来たのピカチュウだった。サトシは、ピカチュウを持ち上げて、抱き上げる。
「なぁ、ピカチュウ。今日は色々あったけど、凄く楽しかったな」
「ピカ~」
「バタフリーにも久しぶりに会えたな」
「ピカッチュ」
「・・・また会えるよな」
「・・・ピカ」
それから少しして二人はベッドに戻って眠った。


翌日。彼らはウィンタウンへ向けて出発する。
「よし。フォルシティに向けて出発だ」
「ピッカ」
サトシとピカチュウは、元気よく両腕を上げる。
「昨日は、あんな事あったのに。本当にお前らは元気だな」
「当たり前だよ。次の街まであと少しなんだ。張り切って行くぞ」
「そうですね。あと少しでフォルシティです」
「さて、なら今日も頑張るか。もうトラブルや寄り道もごめんだぜ」
こうしてサトシ達は、次の目的地であるフォルシティへと向かった。 
 

 
後書き
今回は、原作(ゲーム)に存在する地方フィオレ地方が舞台となる話でした。フィオレ地方の中にあるむしポケモンが大量に生息する森でのお祭りに立ち寄ったサトシ達。そこで、
ロケット団に遭遇。しかし、そこでサトシの最初の仲間であり、ピカチュウの友達だったバタフリーに再会が出来ました。アニメでも再会したシーンだけがありましたね。

次回は、トレーナー・ベストカップ第二の試練が開催されるフィオレ地方の港街フォルシティが舞台となります。

話としては、この先最終話まで続ける予定ですので、ご興味がある方は、最後までお読み下さい。

追記:
今後の話が進む中で、オリジナルポケモンが登場する予定です。オリジナルポケモンのイラストを作成してアップしようと思います。
また、前回登場したサトシ達が保護した謎のポケモンタマゴのイラストをpixivで掲載しております。
詳しくは、登場人物・ポケモン紹介一覧にある「謎のポケモンタマゴ」に記載したURLから見れます。



(注意)
掲載された作品で、文章の変更や文章ミス・誤字脱字などに気付きましたら、過去のも含めて後日改めて修正する可能性もあります。 
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