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ハドラーちゃんの強くてニューゲーム

作者:モッチー7
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第1話

かつて、地上を我が物にせんとした男がいた。
だが、その男の夢は……まさに風前の灯火であった。

「……オレが生命(いのち)を賭けてまで倒そうとしたアバンの使徒!それは不屈な魂を持った希望の戦士だっ!最後の最後まで絶望しない心こそがアバンの使徒の最大な武器ではなかったのかっ!!」

かつて男と同じ軍勢に所属していた筈のキルバーンの目論見により、男の敵であるダイとポップ諸共死の淵に立っていた。
が、敵である筈の男の叱咤によって奮起したポップがこの窮地を脱する術を絞り出し、なんとかダイを救う事に成功したが……
「何故逃げなかった?」
男に問われたポップが苦しそうに告げた。
「悪りィ……アンタにみとれちまった………あの時、おれたちを必死に生かそうとしてくれる、アンタを見たら………なんだか他人に思えなくって……アンタが絶対に助からねえって頭でわかっていても見捨てていく事に抵抗がどうしてもあって……だって、そうじゃねぇか……自分の誇りを賭けて……仲間たちと力を合わせて、努力して、おれたちと正々堂々と戦うために、必死に……必死に頑張りぬいてよ……おれたちとどこが違う?同じじゃねぇか!!」
そんなポップの言葉に、男は初めて神に縋った。
「……神よっ!人間の神よっ!魔族のオレが……はじめて祈るっ!もし本当に……おまえに人命を司る力があるのなら、こやつ(ポップ)をっ……この素晴らしい男だけは生かしてくれっ!オレのような悪魔のためにこやつを死なせないでくれっ!頼む……神よッ!!」
その願いが聞き届けられたのか……男のかつての宿敵がご都合主義的に現れてくれて、
「困りますよポップ。勝手に“あの世”なんかに逝かれちゃ…」
「アバン!?生きていたのか!?」
アバンと呼ばれた男は、かつての宿敵だった男を抱きかかえ、ポップを庇ってくれた事に礼を言った。
が、男はそれでも戦う道を選んでしまう。
「……ありがとう……とでも言うつもりか……?甘い!相も変わらず甘い奴よ!」
そう叫んだ男は、再度ポップに止めを刺しに来たキルバーンの身体を拳で貫き、
「大魔王バーンは恐ろしい男だ!情けは捨てろッ!冷徹になれッ!」
アバンにそう伝えると、男は再び地に倒れ伏した。
「ポップよ……おまえたち人間の神というのも……中々粋なやつのようだぞ!オレの生命とひきかえに……オレがかつて奪った大切な者をおまえたちに返してくれた…………そのうえ……オレの死に場所を……この男の腕の中にしてくれるとはな…………」
死力を尽くし生き抜いた嘗ての好敵手との再会に廻り合わせた人間の神への感謝の念を残しつつ、アバンの腕の中で灰となって散った。

その男の名はハドラー。かつて獄炎の魔王と呼ばれた男……

1人の少女が目を覚ました……
途端、仰天しながら飛び起きた。
(生きている!?……馬鹿な!?俺は確かにダイに敗れ、アバンに見守られながら灰になった筈!?)
少女はふと自分の手を視る。その手は、か弱そうな娘の手であった。
(しかも、この手は何だ!?まるでか弱き子供の手の様ではないか!?)
少女は恐る恐る声を出した。
「あー。あーーー」
やはり出るのは、若くて幼い女の声のみであった。
(どうなってる?俺の身体に何が[[rb:遭 > お]]こったと言うのだ?)
近くに大きな鏡が有ったので、少女は恐る恐るそれを見た。
そこに写っていたのは……赤い長髪と小さいけれど形が整った乳房が特徴の背が低く、年齢よりも幼く見られやすい少女であった。一応、超魔生物の時の角は生えていたが。
少女は、認めたくない現実に直面して、鼻水を垂らしながら絶叫した。
「ど……ど……ど……どうなっとんじゃあぁーーーーー!」
その声が聞こえたのか、しばらくしてドアをノックする音が響いた。
「如何いたしましたか?ハドラー様」
その声に、ハドラーと呼ばれた少女は驚き振り返った。
(その声は……ガンガディア!?奴は確か、アバン共との戦いで死んだ筈!?)
が、声の主を確認しようにも、今の姿があのハドラーとは程遠いので、どうしたら良いのか解らなくなる。
(どうする!?今の俺の姿は、明らかにかつての俺ではない!最悪……侵入者と間違えられて……)
とは言え、ノックの音はまだまだ響いている。
「ハドラー様?」
(あー!もう!既に1度死んだ身だ!出たとこ勝負だ!)
少女は近くに有った服を乱暴に着てながらドアを開けた。
「どうした?ガンガディア」
少女は可能な限りの威厳を発揮するが、自分自身でも明らかに貫禄敗けしている事は解った。
(駄目……だよな?……やっぱり)
だが、ガンガディアの態度は少女の予想とは真逆であった。
「ハドラー様、先程の声はどうしたのですかな?」
少女は、目を点にしながら鼻水を垂らした。まさか、こんな姿になっても自分をハドラーと認識してくれるとは、夢にも思えなかったからだ。
ガンガディアもこれにはリアクションに困った。
「あの……その顔は一体……」
それに対し、ハドラーと呼ばれた少女は取り敢えずガンガディアを落ち着かせた。
「いや、よい。騒ぐな」

以降、この少女の事を「ハドラーちゃん」と呼称する。

ハドラーちゃんの当面の課題は、今の自分に何が出来るかと言う事である。
「ガンガディアが生きていると言う事は……まだアバンと戦ってる時である……筈だよな?」
取り敢えず、火炎呪文(メラゾーマ)を放とうとするが……
(今……魔炎気が混ざっていなかったか!?馬鹿な!?魔炎気(あれ)は超魔生物時代の技の筈!?何故今使える!?)
次に、ダイとの戦いの最中に得た極大閃熱呪文(ベギラゴン)を放ってみた……
(出る!?おかしい……魔炎気も極大閃熱呪文(ベギラゴン)も……ガンガディアが死んだ後に得た技の筈!?だが、湧き上がる力は……)
今度は気合い溜めをおこなうハドラーちゃん。
(何!?この力は……魔族の力と超魔生物の力!?両方を同時に兼ね備えていると言うのか!?だが、ザムザの見立てでは『超魔生物状態で呪文が使えない』だったのに……だから俺は、魔族を辞めたのだ!なのに!)
ハドラーちゃんは、恐る恐る覇者の剣を生やしてみた……
(出るねぇ……当然の様に……覇者の剣(これ)って、俺が超魔生物に改造されている最中にザムザがロモス王国から盗み出した……なのになぁー……しかも、既にダイの奴にへし折られたんだっけ?)

取り敢えず……魔族時代の技と超魔生物時代の技の両方が使用可能である事が判明したが、それがかえってハドラーちゃんを大混乱に陥れた。
(俺が超魔生物で、ガンガディアはまだ生きている。その上、俺がこんなか弱い小娘の姿になっている……時代(ここ)は……どこなんだ……)
取り敢えず、ガンガディアに戦況を訊ねる事にした。
「ガンガディアよ、俺達魔王軍はどうなっておる?」
だが、ガンガディアの口から出た言葉が、ハドラーちゃんを更に大混乱させた。
「その事なのですが、本当にカール王国のフローラ王女を誘拐しろと仰るのですか?」
ハドラーちゃんは、鼻水を垂らしながら目が点になった。
「ハ、ハドラー様!如何なさいましたか!?その様な顔をなさって!」
カール城での初対戦(ここから)かよぉ……)
そして、ハドラーちゃんは無性に腹が立った。
(ちょっと待て!よりによって、何故カール城での初対戦(ここから)なんだ!?ダイはおろか、アバンすら育ってないと言うのに!冗談じゃない!そんな退屈な勝利を得て何になる!?超魔生物時代の技で誰と戦えという―――)
ハドラーちゃんの脳裏に浮かんだのは、ハドラーがかつて仕え、そして裏切ったあの大魔王。
「ククク……ハハハハハ!」
「ハドラー様!?」
「そう言う事か……そう言う事か!」
「どう言う事です!?」
「他の者達を呼び集めよ……大事な話が有る……」
「わ……解りました!」
ガンガディアが慌ててバルトス達を呼びに行ってる間、ハドラーちゃんはある確信を得て笑っていた。
「ハハハハハハハハ!そう言う事か地上の神よ……貴様等は、あの隠し事多き糞爺を認めないと言うのか?ここであの糞爺が死ねば、それだけの人間どもの命が助かると言う訳か?」
倒すべき敵を見出したハドラーちゃんが闘志を漲らせる。
「あの糞爺には、バランとの戦いを邪魔されたしな……よかろう!お前達の誘い……乗ってやる!」
再び覇者の剣を生やし、それを見つめながら誓うハドラーちゃん。
「大魔王バーン!俺はお前を逃がさない!どこへ行こうと絶対に!どこへ行こうと逃がさない!地獄の果てまで追いかけて必ずお前の頸に刃を振るう!絶対にお前を許さない!」
 
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