ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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使命を果たすために
曰く「自分の手汗が凄すぎて汚いと思われたくない」「触った瞬間通報されるんじゃないか不安」との事であったが……美咲はそれについて、「私は気にならないのにな……」とは思っているものの決してその話題には触れなかった。
(真也がそう言うんだからしょうがないよねぇ。うん)
真也と美咲の間には微妙な距離があったが、真也の顔色は非常に良くなっていた。彼はこの世界に来る前の事を美咲に相談することによって、『元の世界にいた時と同じような普通の学生生活を送る事が出来ている』と感じられたのだ。
それは真也の精神状態を保つ上で大きな意味を持つものであり、それ故に美咲は彼の相談に乗ることに意義を感じていた。
だがそんな彼の精神状態を揺るがせる存在が現れたのだ。「どうしたんスか? 元気無いッスね〜真也さん」
美咲の隣に腰掛ける女性、透に真也は苦笑いで返す。彼女は美咲よりも先にここへ訪れ、ベンチに座って項垂れていた真也に声をかけてきたのだった。
最初は、先日自分のことを「好きになってしまったかもしれない後輩の男の子がいる」という話をしたばかりでなんというタイミングの悪い女だと思った真也だったが、彼女の『お悩み相談』を聞き終わったところで「ああ、やっぱり自分はこっち側の人間だわ」と思ったものだ。
彼女が自分と同じ『異性愛者ではない側の存在』であるということが分かったため、警戒を解くことにした真也に対して「今日は私と一緒に帰りませんか?」と言い始めた。
その時の表情から察するに下心の類は無く本心から出た言葉だという事が分かったが、流石にそれは断るしかなかった。美咲に断りを入れようとしたが「別にいいんじゃ?……なんか、真也も友達できたみたいだし、邪魔しちゃ悪いしさ」と言うので一緒に帰る事になった。
真也としてはこの世界でようやく得られた信頼できる人間の一人であったので、彼女の申し出を受けるのは全く問題はなかったのだが……。美咲には「浮気された気分」と言われた。解せぬ。「あー、俺の事は気にしないんで続けてください」
真也が促すと美咲は再び話し出した。
「えっとさ、真也の話を要約すると『異能を使っても何も言われなくなったら怖い』んだよな?」
美咲の言葉を受けて、真也は小さくうなづく。それは彼がこの世界にやってきて最初に得た実感であり、一番恐れていたことであった。
真也は自分の異能力『世界を騙す程度の能力』により、自分の外見は変わっていないにも関わらず周囲の人間の認識を変化させ、自分が男だと気付かれなくすることに成功している。そのおかげで学園での生活を平穏無事に過ごすことが出来ていたが、それがもし解けてしまったらと、最近は毎日を怯えながら過ごしており、美咲とこうして話すことも億劫になっていたほどだった。
だが、そんな真也の気持ちを知ってか否か、ソフィアはその事実を伝えてくれない。
もちろん、真也自身もそれを問いただそうとしなかったが……彼女の真意を知ることで安心できるのではないかという思いもあった。
美咲は腕を組み、頭を捻る。そんな彼女を、真也は固唾を飲んで見守った。
*
***
しばらく黙り込んだあと、頭を抱え込みながらも言葉を選びつつ、彼女は口を開いた。
「まあ……なんだ。……私は真也が『そうじゃないやつ』だって知っているからあんまり言えないんだけど。普通はそんな心配、しなくても大丈夫だと思うぞ?」
美咲の発言は『異世界』に全く縁の無い人間が発したものであれば「何を馬鹿な事を言っているんだ」と言われるであろうものだったが、ここは世界線を跨ぐ『狭間の世界』である。
そして『この世界の人間』の感覚を一番よく知る『もう一人のソフィア』がそれを伝えたのだから、きっと正しいのだろう。真也がそう考えつつも、それでも尚納得できないような表情をみせると、彼女もまた難しい顔を作る。
しかしそれも長くはなく、彼女は諦めたかの様に両手を上げた。
「んー、なんて言ったらいいか分かんないけど。とりあえず、ソフィアちゃんはそういう事言う子じゃなさそうだから聞いてみればいいんじゃないか?」
真也の相談相手となっているはずのソフィアだったが、彼女は先ほどからの会話に参加していなかった。
彼女の態度が『いつもと違うこと』は美咲も気づいたようで、その視線を向けられ少しだけ顔を赤らめる。
「……い、いやまあそのな?……確かにちょっと露出多いよな、あれ……」
頬に指を当てながらちらりと真也の隣を見る美咲に対し、透も負けじとその対象へと鋭い眼光を向けた。
真也を挟んで二人の少女のバチバチとした火花を感じ、居心地が悪くなる真也。話題を変えようと慌てて美咲に相談をする。
「あの、先輩」
「うん?……ああ、私のことは美咲でいいぞ。苗字はなんかいらんって感じだ」
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