ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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覚醒の時
真也は再び驚きに目を大きく開き、美咲を見た。
その目は真っ赤に充血しており、よく見ると瞼も腫れているようであった。
そして、いつもはきつく吊り上がっている眉は八の字になり、鼻の頭が赤い。唇の端から垂れる液体を指で拭いながら、彼女の表情が曇っているのがわかった。そんな彼女の様子と言葉に、さらに驚く。
真也は異世界に行く前まで、家族にも『女の子とまともに喋れない男』と思われていたほどだ。それをまさかこんな風に肯定してくれる人間がいることなど、想像だにしたことがなかった。
ましてやそれが、自分の姉であり親友である人間であること。それは真也の心に刺さっていた氷柱のように硬く冷たい何かを吹き飛ばすのには十分すぎた。
「うぅ……み、みさき……」
その日。二人は泣きじゃくりながら抱き合った。
その日から真也の地獄が始まった。
学校へ行くのはもちろんのこと、家の外へ出ることができなくなった。部屋からは出ることはできても階段の下から二階へ上がることはできないのだ。
真也と美咲が仲直りした次の日に『一緒に風呂に入ろう!』と言い出した透をなんとか誤魔化し一人で入ったところまでは良かったのだが、それ以降の日常生活において全く問題が無かったのにもかかわらず、いざ異性として意識してしまう相手が現れるとそれができなくなってしまうのだ。
そんな真也の様子に、当然透も美咲も頭を悩ませた。特に透はどうにか真也を学校に行かせるべく必死に考えたがどれもうまくいかず、ついには強硬手段に出たのだった。
「お、おい……ちょっと落ち着けって」
真也を後ろ向きに立たせたあとに彼の制服の上着のボタンに手をかけ始めた透に対し、流石の真也もそれはまずいと慌てる。真也の体から汗が流れ始め、手が震え始めるが透は気にせず続ける。しかしそこで、思わぬ人物の介入が入った。
「ちょ、何してんすか、先輩!」
そう言いつつ透の体を押すのは苗。彼女は真っ青な顔をしながらも真也を守ろうとするかのように両腕を広げる。
真也が助かった、と思ったのも束の間。美咲もまた真也の前に立ち塞がった。
「私の弟だ。私の好きにさせろ。お前らは関係ないんだから引っ込んでいろ」
「関係あります! それにもう私たち兄妹みたいなもんじゃないですかっ! 兄が妹を守ったり助けたりするのは当たり前です! 私が真也を守るんです! この家で一番頼りになるのは私だけです! 邪魔しないでください!……ってなんで先輩は服脱いでるんすか!?︎」
美咲は透の行動の意味を正しく理解した。その証拠に彼女の額には大量の冷や汗が浮かび上がっている。「そっちこそなぜ真也を脱がそうとしていた!」
真也はその二人をオロオロと見比べた。
その後真也にとっての受難の一幕はあったものの、『妹が』『姉より強い』というパワーワードが世間の目を逸らすこととなり、無事に?学校生活に戻ることが出来た。
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「……えっと?」
突然自分の身の上話をされ戸惑う美咲だったが、その話を聞いている間に段々と彼女の表情は曇っていった。真也が語り終えた後も暫く押し黙っていた美咲はゆっくりと口を開く。
「つまり……」
「ごめんなさい……」
そう口にする真也は、今までの人生の中で一番反省していたかもしれないと美咲は感じていた。
美咲にとってはただ純粋に、『自分がどれだけ真也を好いているのかを伝えたかった』だけであった。その結果真也に恐怖を与えてしまったのであれば、美咲としても不本意である。
真也は自分の姉に恋をしているわけでもない。むしろ自分のせいでそんな目にあったのだから、自分こそが嫌われてしまってもおかしくはないと考えていた。
そんな真也の言葉を受けて美咲は少し考え込んだあと、言葉を発する。「……その、まぁなんだ。別に嫌ってはいない。あー……でも、そういう目では見れんというかさ……」
真也は驚き顔を上げると、そこには視線を下に向けてモジモジとしている美咲がいた。それは真也が初めて見る彼女であり、そして『男ならだれもがその仕草を見たことあるに違いないだろう』と思うような、可愛らしい恥じらいを持った少女であった。そしてそんな姿の彼女に、真也は再び心を奪われるのだった。
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「あの時は驚いたけど、今は大丈夫だし」
真也が美咲への思いを告げてから1ヶ月後。彼らは再び同じベンチに座っていた。あれから、二人の距離は少しずつではあるが確実に近づいていった。今では隣に座ることに抵抗はなく、会話の数も増えた。
しかし未だ手を触れ合っていないどころか、互いの体にも一切触れることがなかったが……これは真也からのお願いによるものである。
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