ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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友との絆
そこまで言ってから、真也は口ごもりつつも続ける。
「俺の世界でも『普通に』使えるだけで、別にこっちの世界で同じように動かせるとは……」
真也が最後まで言い切るよりも早く、美咲が立ち上がり彼の手を取る。そのまま部屋の奥のスペースに引っ張られてゆく中、彼は後ろを振り向きながら叫ぶ。
「ちょっと待ってくださいね! すぐに準備しますので!!」
そうして部屋の奥、ガラス窓で囲まれた空間で真也と美咲、それに透はそれぞれタブレット型パソコンのような見た目をした、しかしキーボードなどはない奇妙な機器の前へ案内される。
美咲は椅子を引きずると、嬉々としてそこへ座り、機器を操作する。
「えっと、まずどうすればいい?」
「それでは、この丸い部分に触れてください。そうしていただければ私の異能により、間宮さんの個人情報を読み取らせていただきますわ」
そう告げると、美咲は何やら操作を始め、やがて表示された文字を見て感嘆の声をあげた。
「え? は!?」「まじで?」
真也と美咲がそれぞれ驚きの声をあげながらも透は一人満足げに笑みを浮かべる。
そして真也の横に並んだまま美咲と同じように驚く透に対して、真也は小声で尋ねた。
「先輩はこのアプリのこと知ってたんですか?」
「ええ、一応は」
彼女の答えを聞いてから、再び美咲へ顔を向けると美咲もまた驚いたように口をあんぐりと開けていた。
美咲は画面を見ながら何かをつぶやくと、再度こちらを見る。
「……『シンヤ』って、書いてある」
その名前は聞き覚えがありすぎる。真也は自身の体が小さく震えるのを感じる。
真也の目の前には、見慣れた名前の並ぶ自分の個人データが表示されており、それはまるで他人のように感じられた。
真也と目が合った美咲は少し頬を赤らめながら、気を取り直すように咳払いをする。
「まあ、なんにしても間宮の名前がわかってよかったぜ。じゃ、間宮、とりあえずそのアプリを俺の端末にも送ってくれよ」そう美咲から言われたものの、真也はそのアプリの使い方が分からないことに気がつく。
そんな様子の真也を見かねてか、透が声をかける。
「私も興味があるので、教えてもらえないでしょうか?」
透の言葉に美咲は大きく首肯する。
「おお、もちろんだぜ!」
美咲が透の方へ移動した為、自然とその隣にいることになる。そんな彼女の態度に、やはり自分は彼女に嫌われてしまったのではないかと真也が思い悩んでいると、美咲は先ほどまで自分が座っていた席を真也へと差し出した。
「お兄様」
その言葉に真也はハッとし、一瞬にして全身に冷や汗が出るのを感じた。真也の様子の変化を感じ取った美咲は、顔を覗き込み、尋ねる。
「ん? どうした?」
真也が美咲のことを怖がってしまったことなど知る由もない透も美咲と同じ様に首を傾げる。しかし二人とも全くの善意からの行動だ。
真也はそれを分かっていながらも、つい体が動いてしまった。彼は思わず美咲を突き飛ばしてしまい、彼女と共に床に転がった後、その場から離れるべく走り出す。部屋の隅にある扉を開き、逃げるようにして自室へ飛び込んだのだった。
バタン、という音が部屋に響き渡る。真也が逃げ込んで来たのを確認するや否や透は素早く立ち上がると、彼を追って扉に手をかけた。が、それよりも先に美咲が立ち上がって彼の手を阻む。彼女は真也が入って行った扉のノブを握ったまま、口を開く。
「あのなぁ!……っと待って、お前もなんかあったんだろ? いいから落ち着けって。話くらい聞いてやるっつーの」
透が振り向くと、そこに居たのは先程真也を怒鳴りつけていた人間とは別人のような姿であった。
透の手を掴んだ美咲はそのまま彼に話しかけた。その目には怒りはなく、どちらかといえば同情すら感じる色を帯びている。
真也は自分のしてしまった行動の異常性にようやく気がつき、その場に崩れ落ちるように膝をつく。
自分の妹に恐怖するなど、なんて事をしてしまったのか。
しかし彼はすぐに顔を上げる。今すぐに謝らなければならない。たとえ許してもらえなくとも、それでも。
「すみません……」
そう口にする彼の肩に、美咲は優しく手を置く。真也の体はびくりと跳ねた。
「……大丈夫だから。ちゃんと、話してくれないか?」美咲の言葉に促され、事の顛末を真也は説明し始めた。
自分が女性恐怖症になったことや、『シンヤ』という名で呼ばれていたことなどは隠したまま。異世界のことも。
話し終わると、真也の目には涙が浮かんできた。そして美咲の顔を見ることができずに、俯いた。そんな様子を見て、美咲が呆れたようなため息をつくのを背中越しに感じた。
きっと失望されてしまったに違いない、そう真也は考えていたが、聞こえてきた声は意外なものであった。
「なんだそれ!?︎ お前も被害者じゃないか!」
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