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ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。

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新たな敵

真也は再び自分の胸元に手を置き、そして頭を下げながらはっきりと感謝の言葉を口にする。
「ありがとうございます」
すると彼女は一瞬驚いたような顔をしたが、その後微笑んだ後真也の耳元に顔を寄せ囁いた。
「ええ、いいえ」
彼女はそれだけを言うと身を翻し部屋から出ていった。
その光景を見ていたルイスも、何かを堪えるように拳を強く握り締めながら真也の方を向き、絞り出すように言った。
「私に敬礼は必要ないですよ、私は、あなたの『上司』ではありませんから」
真也はその表情に驚きつつ、小さく手を挙げ敬礼を解くと、彼もまたその場を去るべくルイスに背を向けた。

***
部屋に残されたルイスは大きくため息をつく。そして、部屋の奥に置かれた簡易ベッドに倒れ込むと独り呟き始める。
「はー、つかれた……。やっぱり慣れないことはするもんじゃないわね」
天井を見ながらルイスは今日のことを思い返した。

***
真也たちが『東雲学園高等部1年生教室区画A棟』を出たとき、時刻はすでに夕方を過ぎていた。
真也と伊織はまだ校舎の中に留まっていたが、他のクラスの友人や知り合いとの会話に花を咲かせていたレイラ以外のメンバーたちはそれぞれ帰路についていた。
寮へと向かっている間、会話はなかった。ただ黙々と歩いているだけだったのだが、そんな道中の空気を変えようとしたのか、美咲がやや大きめの声で全員に向かって話し出した。
「ま、とにかく!無事に解決してよかったよ〜!それにしてもさすがだよねーソフィアちゃんって感じだよ〜」
しかし彼女の明るい話題は功を奏さず、沈黙が訪れる。
(えぇー、この空気どうしよう……。うぅ……)
なんとかしようと美咲が言葉を繋ごうとした瞬間、光一が静かに話し始めた。
「今回の件で、我々の情報共有不足を痛感した。我々がもっと互いを理解し、その上で行動しなければならないだろうな。そのためにまず、互いのことを知る必要があると考えている」
その言葉に、皆の足が止まる。真也とレイラだけは、特に変わった様子もなかったが。
「親睦を深めるという意味では、やはりまずはそれぞれのことを知らなければ始まらないと思うが……九重院?」
立ち止まった一同を不審に思ったのだろう、一番前にいたはずの彼が、最後尾にいたソフィアに声をかける。
「あっはい!もちろん大丈夫ですよ、ハイ。えーとですね。みなさんのことを知りたいのはやまやまだし、ボクだってそのつもりではありますけど……でも、今はもうちょっとだけ待ってほしいかなぁ……みたいな……あは、あははは」
そう言い残すと『お先に失礼しまぁす!』という謎の言葉を残しソフィアは猛ダッシュをして真也たちから離れていった。その姿を呆然と見つめたあと、最初に我に帰った美咲が口を開いた。
「なんだったんだろ?急に……」
次に我に帰った真也は、レイラがこちらを見てじっとしていることに気がついた。彼の目線が自分を捉えているとわかると、少し困ったような顔になり、頭を掻きながら彼女へと告げる。
「あの、大丈夫だから。本当に、大丈夫。ありがと」
それを聞くと、彼女は小さくため息をつき視線を外す。
「……わかった。また明日」
それだけを言い残し、一人歩き始めた。
真也は彼女に何か声を掛けるべきかと迷ったが、それよりも先に背後からの声で振り返ることとなる。
「えっと、間宮くん、今日、うちに泊まりに来るかい?うちはいつ来てもらってもいいから」
その言葉を聞いた真也は一瞬固まり、数秒考えた後に答える。
「あ、……じゃ、お邪魔させていただきます」
すると、今度は横から透の声がかかる。
「僕も、いいかな? 母さんには今晩遅くなるかもしれないとは言ってあるんだけど、もし駄目なら早めに帰るようにする。……それとさ、僕は君の事を知りたいと思っているし、きっと君も僕のことを知ってほしいと思っているんだ」
それを聞き、真也もまた答えを返す。「……ありがとうございます。俺で良ければ是非」
すると二人は嬉しそうな笑顔になった後、お互い手を軽くあげ挨拶をした。そして、真也の横を通り過ぎる際、小さな声で言う。
「楽しみにしてる」
それは先ほどの会話とは違いどこか熱っぽくて色っぽさがあり、そのギャップに真也は心臓の高鳴りを抑えることができなかった。
***そんなやり取りのあった日の夜。
真也は初めて、異能を使った。

***
夜、真也とレイラがいつも通り二人で風呂に入っている時、真也は意を決して自分の能力について話を始めた。
「実は……ソフィアちゃんから聞いたんだ。俺は『この世界の人間じゃない』って。それで、どうすれば元の世界に戻れるのか分からなくって」
それをきいたレイラの手は、湯船の縁を掴むように動きを止める。表情に大きな変化こそないものの、驚いたことは確かであった。 
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