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ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。

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ロストメモリー

なぜならば、この部屋には彼女が持ち込んだであろう様々な機材が置いてあり、それらの説明を受けたところで到底理解できるわけがなかったからである。
真也が困惑したまま部屋の入り口を振り返っている間に、遥香は再び立ち上がってドアを開ける。
するとそこに立っていたのは、黒い制服姿の、長い銀髪の少女であった。
少女の登場を予想していなかったらしい真也は大きく驚き体を仰け反らせた。
それを見ると遥香は、ぱちりとウィンクをし「びっくりさせてゴメンネ☆ じゃあ私はちょっと席を外すけど、仲良くやっててね!」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。
真也はこのタイミングでの来訪者を不審に思うが、何にせよ助かった、とも感じていた。真也の心境は複雑であり、誰かと話したいという気分ではなかったため、それを見計らって現れたのかと思えた。
扉を開けた姿勢のままで固まっていた銀色の美少女だったが、しばらくしてハッとすると、ぎくしゃくとしながら口を開く。
「ど、どうも……」
「あの……どちら様ですか?」
この質問に少しばかりショックを受けつつ、気を取り直すように銀髪を翻す彼女は真也と視線が合わないように横を向きながら自己紹介をした。
「わ、わたし、は『アンノウン』部隊、『ハウンド』部隊の隊長をしています、『ルイス・レンゲ』と、申します。階級は『二等兵』です。以後おみ知りおきを。えー、そしてこちらは『ビショップ級』のソフィア准尉の……妹です」
その瞬間、ルイスと名乗る女は真也と目があった。目が合った、というのとは若干異なり、彼女はまるで何かに引き寄せられたかのような表情をしていた。
「……どうしました?私に聞きたいことが何かありますか?」
「あ、いえ……えっと、貴方の名前は……なんと言うんでしょうか」
なぜそのような事を聞くのだろうかと真也は不思議に思ったものの、答えない理由もないため素直に答える。
「はい、九重真也といいます。えーと、よろしくお願いします」
真也が頭を下げると、なぜかルイスは顔を赤らめつつ、目をそらしつつぼそりと答えた。
「よ、ろしく、お願い、します。……ま、真也、さん」(なんだこれ)
真也はその対応に違和感を感じつつも会話を続けた。
「それで『ルーク』クラスの方……でしたっけ、そちらの人はどこにいるんですか? あと、どうして俺はこちらに連れてこられたのでしょう」
「あー……ソフィア准尉の言っていた事は事実なので、あまり気にしない方がいいですよ」
真也の疑問は最もであったが、ルイスは言葉を濁す。しかし彼はそんな彼女へ再度問いかける。
「そんな事を言われても困りますよ。……それと、なんでさっきから俺のことを見て話しているんですか?」
「……え!?︎……え、……うぅ……」
彼女の態度はあまりにも不自然で、そしてあまりに真也を真っ直ぐに見つめてくる。そのため真也の問い掛けにもうまく返答できなかったようで、ルイスはそのまま口をつぐんでしまった。
そのまま二人の間に沈黙が訪れる。
(気まずいなぁ)と真也が思っていたその時、部屋をノックする音が響き渡った。
2人が顔を見合わせていると、扉が開く。そこには先程部屋を出て行った遥香が戻ってきたのだった。
遥香が戻ると、部屋の雰囲気は明らかに変わっていた。
それは2人の女性が向かい合っていることだけでなく、その女性の様子が明らかに違っているからでもあった。
さきほどまでのどこかふわりとした雰囲気はどこへやら、その少女の目つきには険があり、対面に座っていた女性……『アンノウン部隊』、『ビショップ』のコードネームを名乗る黒髪の少女を睨んでいた。
対して黒髪をポニーテールにまとめた女……つまりはルイスは目を丸くしており、どう見ても遥香の訪問は予想外であるように見えた。
そして彼女は椅子から立ち上がると慌てたように口を開いた。
「えー、と。お姉ちゃんが戻ってきてしまってはもうこれ以上は無理そうですね」
「あら?まだ話は途中じゃありませんか?」
「いえ、もう大丈夫です。また来週伺いますので! では!」
早口に告げると、ルイスは足速にその場を去ろうとする。真也も、突然の出来事に驚いていたが、遥香と黒髪の女、二人のやり取りをみて何かあったらしいということは理解し、自分も出ようと声を上げた。
「あ、あの」
その声に、ルイスと真也が振り向く。
真也が言い淀んでいる間に、遥香がその前に立った。まるで彼の言葉を奪うかのように。
「なんですか?『異能者』のお嬢さん?」
女からの挑発とも取れる物言いを受け、遥香の顔色が変わる。しかしそれでも、彼は再び口を開く。
「えっと、……あの……ありがとうございました。助けに来てくれ……」
そこで彼は口を閉じた。自分が今言うべきなのはそれではない、と感じたのだ。 
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