ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
意思の力
真也はその目にソフィアと伊織が息を飲む。真也の表情の変化は、今まで一緒に過ごしてきた彼女たちから見ても新鮮で美しかった。しかしそれは一瞬のこと。すぐに彼は落胆の表情を浮かべる。
「そんなに沢山無いですよ……。でも……強いて言うなら空を飛んでみたいな、とかですかねぇ」
その言葉を聞くなりソフィアは満面の笑みとなる。真也の隣へ腰を下ろし、彼を抱き寄せた。
真也は自分の腕に当たる胸の柔らかさに意識がいってしまうが、彼女の行動の意味がわからず戸惑う。
「真也様!私、真也様にお願いがありますの!」その言葉で我に返りソフィアを見つめ直す。
ソフィアは彼の手をぎゅっと握り、真也に上目遣いを向ける。
「私にも、『世界線移動』のやり方を教えてくださいまし!」
真也はソフィアから伝えられた『世界線移動』の一言に動揺する。
異世界からの帰還者。その特異性故に狙われやすい自分のことを気遣ってのことだとは分かる。しかしそれでも、彼がそれを他者に伝えることは、自身の存在そのものの秘密を伝えてしまうことにほかならない。
この世界の誰にも明かしてはいけない秘密なのだ。真也がどうすべきか思案しているうちに、横から助け船が入った。
「ソフィアさん? ボクの師匠は真也じゃないんだけど?」
真也をフォローすべく発されたであろう、いつもの平坦な声での指摘に、ソフィアは少し頬を膨らせる。
「分かっていますわ。だから、真也様の弟子として貴方に弟子入りしたいんです」
「……はい?」真也の困惑に構わず、ソフィアは伊織へ説明を続ける。
「伊織さん、貴方も知ってのとおり、真也さまの世界線で私たちに何かが起きています。
そしてそれは『真也様の力が必要かもしれない』ということですよね?」
伊織は無言をもって返答とするが彼女は構わず続ける。
「つまり真也様はこれから世界線を渡ることになるでしょう。
私はその力になれるようになりたいのです」
真也はソフィアの意図を理解する。彼女が自分に弟子入りし、自分の世界線とこちらとを行き来することが出来れば、今後真也はいつでもこの世界に戻ってくることが出来るようになるだろう。
しかし伊織がそれを止めるように、彼の頭を引き寄せ、自分の膝の上に乗せる。真也の顔はソフィアの太腿に押し付けられるような形となった。
「伊織ちゃん!? 何してますの?」
「いやぁ……なんか嫌な予感がしたから」
真也の頭上で口論を始める彼女たちだが、当の真也は突然の状況についていけずに混乱するばかりである。
彼の耳には声が届きにくくなっていることもあり状況を把握しづらい中、彼の顔をソフィアの大きな尻で挟むようにしてソフィアが体重をかける。
柔らかい。
その感触は真也に先ほどとは違う興奮をもたらした。
伊織は真也の首筋から後頭部に向けて人差し指を走らせると真也の体がビクリと震える。
真也は思わず声をあげそうになった。
(え、あ、これどういう状態!?)
真也の混乱など関係なく2人の論争はヒートアップしていく。
やがて伊織がソフィアを諌めようと立ち上がりかけた瞬間、伊織とソフィアの動きが止まった。
「真也?」
ソフィアの声が、自分の名を紡ぐのを聞きながら、真也は目を閉じた。
****
『お兄ちゃん!』
その呼び方に真也は違和感を覚える。この世界で自分を妹が『お兄ちゃん』と呼ぶのは初めてだった。
その感覚が呼び水となり真也は自身の現状を思い出す。そうだ、自分は今、異能を使えない代わりに魔法陣の光で異世界に強制召喚されたんだった、と。
真也は自分の体を確認するが、普段通りの黒い学ラン姿であった。
周囲を見渡すが、真っ暗。
唯一見えるのは目の前に佇む少女のみ。
「君は……誰?」
少女はその質問に驚いたのか、大きく目を開く。
そして次の言葉を待つ真也だったが、彼女は何も言わずゆっくりと歩み寄ってくる。
真也と彼女の間に3メートルほどの距離まで近づくと、立ち止まり真也を見下ろす。真也も見上げる格好となる。身長は彼のほうが少し高いようであったが、顔を見るにはやや上向きになった顎を持ち上げねばならなかった。
その視線は、値踏みするようなものではなく、まるで懐かしき友との再開を喜ぶかのようなものだったが、真也はそれに覚えがない。
「久しぶりだね。まー君」
真也は、その呼びかけに驚くと同時に胸を高鳴らせた。
「え、俺の事?……ってことは、もしかして!」
「そう、私は、真也君の、お姉さんよ!」
真也は期待に胸を膨らませ、そして、絶望した。
真也の落胆の様子を見た女性は口角を上げ微笑んだ。
「うん。ごめんなさい。
『初めまして』の間違いだよ」
真也は絶句する。そんな彼を前にして、その女性は語り始めた。
「私はこの世界の住人じゃない。真也君は私の事を知ってるかわからないけど……」
ページ上へ戻る