ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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時を巡る旅
ソフィアは、伊織の説明を引き継いだ。電話口でもはっきりと聞こえる彼女の声で解説される真也には分からない単語もあったが概ねそのような内容であった。
ソフィアの言葉を聞いた伊織は『さっすが先輩』と感嘆の声をあげ、それに対して「当然ですの」とソフィアは返した。
2人のやり取りは真也の知らないものであり、ソフィアはどうやら伊織と仲が良いようであることは感じ取れた。
(……そういえば『伊織』とか呼んでるしな……。なんでだろう?)と真也の中で疑問が渦巻く。
真也がそんなことを考えているとソフィアはさらに言葉を続けた。
「真也様、私にいい考えがございます。」
『いい』という言葉を強調しつつ、どこか楽しげな声色で言う彼女に、なぜか真也は嫌な予感を覚えた。
ソフィアが告げたのは次のようなものだった。
『真也を男として再度転生させる』
6. 翌日、日曜日の早朝に目覚めたソフィアはその日は休日であることを良いことに真也を起こしに来たところ、すでに彼が起きて着替えをしている所だった。
「あら?おはようございま……」そこまで言ってソフィアは自分の失敗に気がついたが、時はすでに遅かった。
いつものように挨拶をしようとしたが、目の前に立つ真也の姿はいつもとは違うものだった。
真也は本来、昨晩のうちに女性へと再調整されていたはずだが、その姿は依然として男性のままである。しかし、彼が着ていた服だけは女物のパジャマとなっていた。
「あ、ああ、あの!ち、違うのです!!」真也が自分の姿に気づいたと同時に慌てる。
ソフィアとしては、「せっかく真也が『男の子』として生まれ変わっていたのだもの。それを活かせばよいではありませんの!」という気持ちからの提案であったが、真也にとってこの提案は予想だにしないものであった。
真也自身、『異世界帰りの少年=女体化済み、真也』という認識のもと話していたつもりだったのだが、それはあくまでも本人による自己申告に過ぎない。実際の彼はまだ何も変わっていないのだ。
ただ性別だけが逆転してしまった状態の真也の姿を見て、ソフィアは慌ててフォローを入れるが、当の真也にとってはあまり意味の無いものである。
なぜなら真也は、自分の姿をまじまじと見ていないのだから。
真也は鏡を見るより早く、洗面所に飛び込み己の姿を確認して絶望した。
「お兄さん?」その声に真也が振り返ると、そこには心配そうな顔をした苗の顔があった。いつの間に来たのか。いやそもそも今の音は何なのか。様々な疑問が頭を巡るも真也の口から出てきたものは単純な問いかけだった。
「み、見ましたか……?」
「はい?何をでしょうか?」苗から帰ってきた返答を聞きつつ、真也は安堵の溜息をつくとともにその場にしゃがみこんだ。
7. 朝食後、自室にて落ち込む真也にソフィアと伊織が訪れた。
「真也さま、先ほどは取り乱してしまい申し訳ありませんでしたわ」
しょんぼりとした様子のソフィアを見て、自分が悪いわけでもないのに「こちらこそすみません」と言いそうになるが堪え、謝罪を受け入れる旨の言葉を返す。
すると彼女は嬉しそうに笑ったあとに続けた。
「実は……私は今とても困っていることがあるんですの。聞いてくださるかしら?」
ソフィアは少しだけ悲しそうな顔を作りながら上目遣いに真也を見た。
真也の心臓が大きく脈打つ。彼女のような美しい人間から頼られるなど初めてのことで、真也にはそれがまるで天命のように感じられた。
彼の中で『ソフィアは困っていて自分に相談に来た、自分がなんとかしなければ』と思考が暴走する。
「なんでも言ってくれ!……俺は何すればいいんだ!?」真也の言葉を聞いてソフィアと伊織はほくそえむ。
2人は相談があると言ったものの、実際にはソフィアの目的は別のところにある。そしてそれは伊織の作戦の一環であった。伊織の考えた筋書きは以下の通りだ。
真也へ「異世界での話を聞かせてほしい」と伝える。
真也は、それを受けて異世界について語ろうとする。
伊織の策とは単純明快であり、ただ単に「伊織は異世界の話に興味がないから、自分に話しをさせてくれないかな?」というものだった。
ソフィアとの会話の機会を増やしたいがために伊織に話しかけてもらうようソフィアに依頼した形になる。伊織の狙い通りに事が運び2人は喜びあうが真也は全くそれに気がついていなかった。
真也はソファに座って伊織の方を見ながら、伊織もまた向かい側の1人用の椅子に座りながら話し始める。
「じゃあさっそくだけど、昨日話してたところの続きを頼むよ。『魔法が使えるようになったらやりたいことリスト』を全部教えてね」
真也の目つきが変わった。その目はまさに異世界に居たときの彼のものだった。
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