ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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真相は闇の中
真也はソファに座らされ、その隣では妹がお茶を用意していた。「はい、熱いよ」と言って出されたカップをありがとうと受け取り口に含む。温かいお茶を飲むことで、少しだが冷静になれた気がする。真也は自分の置かれた状況を整理しようと、これまでの経緯を話し始めていた。
話が進むごとに伊織は眉間にシワを寄せていったが、最後まで黙って聞いてくれた。「で、そっちはどんな感じだったんだ?」
「あー……まぁ色々あってさ、その話は後で。でも、こりゃもう終わりっぽいぞ。今ちょうど警察が来たみたいだしな」
そう言って彼が指差す方向に視線をやるが、ガラス越しのためよくわからない。
「え? 本当?」と呟きつつもう一度窓の向こうを見るが、やはり真也の目には分からない。「……お兄ちゃんは、鈍感だからな〜」と妹の冷たい声が聞こえる。そんなことはありません、と言いたかった真也だったが、残念ながら心当たりがある。しかしここで認めてしまうとその通りだと認めることになってしまうので反論したかったが「それより、だ」と話を遮られてしまい何も言い返せなかった。
「それで、これからどうするんだよ」
『……』
沈黙。それはそうだ。つい先程、自分を殺そうとしてきた人間を師匠と呼び、その上信頼していたなどという話を聞かなければならない真也にとってみれば地獄のようなこの時間は、もう終わる。
しかしその事に安堵している自分に、吐き気を覚える。
(……俺は、まだこんなことを……)
「あの女が誰なのかは知らないけど、まあ、とりあえずお疲れ様。ボクも助けに行くべきじゃなかったんだけどさ、ほっといた方がめんどくさそうっていうか、なんか危なっかしいから。一応言っとくね」
相変わらず毒舌のようだが真也はその軽口がありがたく感じる。自分の置かれている立場は分かっていても、その事実を突きつけられると辛いのだ。
それにしても、ソフィアの正体については真也が言わないまでも勘づいているような雰囲気を感じ取れるがあえて触れて来ず、『危険に突っ込んできた兄への皮肉を込めた説教』のように感じられるので、余計ありがたいと感じてしまった。真也は「うん、ありがとう」と返事をした。
そして彼はそのまま続けて話す。
「お前を撃ったアイツはもういないし、俺と美咲は帰るから。後のことはよろしく頼んだぜ。あと、これ……」
伊織がカバンをごそごそと漁るとそこから一枚の写真が取り出される。「これは?」
そこにはソフィアと真也が映っており、真也の記憶の中では初めて彼女と顔を合わせた時に渡されたものだと思ったが、どこか様子が違う。写真の中央にいる2人は腕を組んでいて、その手には小さな箱が握られていた。その中身までは写っておらず、ただそれだけのものだがそれが何かというのは、嫌でもわかる。
「あいつから貰った指輪だけど、お前持ってたら呪われそうなんで僕が預かることにしたから。それあげるよ」
『っ!?︎』
思わず息を呑む真也だが、確かにソフィアから受け取った時とは違い、写真の中で光り輝く指輪に恐怖を感じる。
「まあ別にお前のもんでもないから好きにしたらいいけど、絶対渡せよ。もし捨てようとして変なことに巻き込まれたら目も当てられないからな」そういう事なら納得できる。しかしソフィアが自分の手元に置こうとしたものを何故自分が持っているのだろうか? 真也は不思議に思うが今はその事は考えないことにしておいた方がいいだろうと判断する。
そして、ふと伊織の後ろに立っている妹を見やる。
ずっと無表情で黙っていたが、この兄妹の間には一体どんなやりとりがあったのだろう、と真也は気になった。
『…………』
その真也の眼差しに気付いたのか、「……ふん」と鼻を鳴らしてから不機嫌そうに「なに」と言った。真也にはその態度の意味がわからなかったが、ひとまず謝った。
「ご、ごめんなさい」
真也が素直に頭を下げる様子に伊織は一瞬たじろぐ。その謝罪は先程の話に対してではない。そんな事でこの男が驚くとは思えなかったからだ。ならば何を謝るのか、という疑問はすぐに氷解する。真也は、自分が美咲を傷つけるようなことを言ったことを謝罪したのだ。真也自身その自覚は無いかもしれないが。
「……ボクも悪かった。ちょっと強く言い過ぎたと思う。……じゃあね、また学校で」
そう言うと伊織は踵を返し歩き出す。その後ろ姿をじっと見つめていた美咲であったが不意に振り返り、最後に言葉を投げかける。
「ねぇ、お兄ちゃん! また、会えるよね?」
「ああ、多分な!」
少し大げさに肩をすくめ、呆れたように笑っている伊織に真也も笑顔で答える。
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