ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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魔法使いの戦い
気がつくと真也は地面に膝をつけ、頭を両手で抱え、苦しんでいた。そのすぐ側ではソフィアも胸を押さえ、同じく苦しみ、のたうち回っていた。「どうなってんだ……?」と呟き、真也はなんとか立ち上がる。
2人の様子は異常だったが、それ以上に異常なものが周りを覆い尽くすような感覚に襲われ、真也はその違和感の正体を突き止めようと周囲を見渡した。
(これは……)真也は目を凝らす。
(この音、世界の崩壊の……!?︎ でも何が起きてるんだ)
その疑問はすぐに解決することとなった。
真也の背後の壁が突然崩れ去り、巨大な化け物が姿を現したからだ。
(ドラゴン!!)それは、神話の中に出てくるような存在。西洋の剣山のような硬いトゲのついた皮膚に覆われている。しかしそれよりも驚いたのが。
『……マァサアサン!……タスケテェエ!!』
なんと、言葉を発したことだろうか。その生物は長い首を伸ばし、目と思われる穴から涙を流していた。そしてそれは間違いなく『助け』を求めていた。その瞬間、頭に直接映像のようなものが流れ込んだ。真昼の草原に寝転ぶ少女、そこに群がる異形の群れ。少女に迫る鋭利な爪を持った化け物の手、それを食い止める白銀の鎧の巨体……。
そして、今まさに真也の前で苦しむソフィアと、彼女を庇って死を覚悟している少年。「は? はぁああ!?」と真也は思わず叫んだ。
(ちょっと待ってくれよ、どういうことだ、俺はこんな『物語』知らないぞ! 俺はまだ死んでないのか!? ここはあの異世界じゃないのか!? じゃあさっきまでいた異世界が崩壊するとか、そういうアレなのか!?)
そんなことを考えながら呆然と立っているうちに、ソフィアの体に異変が起きた。黒い鱗が、体を覆っていく。それはまるで彼女が別のものに変わっていくようで。真也は無意識に後退りをするが、その分化け物は彼女に近づいていった。
ソフィアだったものの瞳がギョロリと動き、真也の姿を捉える。「ヒッ」と声を上げ、再び逃げ出そうとしたが、彼女の長い腕がそれを許さない。
そのまま彼女はゆっくりと口を開いた。
『コノ、クソ野郎ガ……私ヲ殺シタノカ』
真也はまた頭に痛みを感じて、その場にうずくまった。ソフィアの意識に乗っ取られているらしい彼女は真也の首を締め上げようとするが、「ま、まって」と慌てて真也がその手を掴み、押し返す。
「ち、違う、俺は君を知らなかった!」必死に訴えかけたが、彼女の怒りが収まる様子はなかった。
「はー……ふざっけんなマジで」
もうダメか、と諦めたとき。その声と共に、目の前にいた化け物が吹き飛んだ。
『え……?』
先程真也と神の間に入り込んできてくれた人物の声だと気づいたが、状況を飲み込めず真也が顔を上げるとそこには見知った人が2人立っていた。
1人は先程の化け物を殴り飛ばしたであろう、真っ黒な戦闘服に黒いヘルメットの男。「お兄ちゃん大丈夫?」と言う少女は彼の後ろからヒョイっと顔を覗かせた。
もう1人の人物は真也がよく知る人だった。
「美咲!」と名前を呼ぶ。「久しぶり」と笑いかける彼女を見て安堵する一方で、『何故ここにいるのだろうか』という気持ちもあった。
そうこうしているうちにソフィアの姿をした女がこちらへ飛びかかってきた。「まずい」と思った時には遅く、真也の身体は簡単に宙を舞い、壁に勢いよく打ち付けられた。あまりの衝撃に息が止まりそうになる。その様子を見兼ねたように、男は「下がってろ」と言い放ち真也の前に立ち塞がった。そして右手を大きく振りかぶると同時に叫ぶ。
「さっさとくたばれ『悪魔公デーモンロード』!! この『英雄』の拳で!!!」すると彼の周りを風が纏うかのように揺らめき始め、男の右半身は陽炎のように消えていき始めた。そして完全にその姿を消すと同時、化け物の頭は弾け飛びその体は力なく地面へ落ちていく。
真也には何が起こったのか分からなかったが、「すげぇ……」という言葉だけは自然と口からこぼれた。
2人を襲おうとしていた化け物はいつのまにかいなくなり、あたりは再び静かになったが、すぐに遠くの方からバタバダという複数の足音が聞こえてきた。
ソフィアの姿をしたものも既に事切れており、真也がほっとしていると今度は自分の体が浮き上がった。
「ちょ!? 美咲?!なんで抱き上げるのかな!?」
慌てるが彼女の表情はいつも通りの笑顔であり、どうやら答えてくれるつもりはないらしく、真也は暴れる気力すら無くなって脱力して彼女の肩に身を預けた。
***
「……なるほど、異世界に行っていたのか。それも『ドラゴンの世界』なんて、また凄いところに迷い込んだものだな」
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