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ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。

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美術人民共和国のスパイ

開口一番に謝罪をしたレイラに対して大きな声を出したのは彼女と同じく白い肌と銀色の髪を持った女性であった。アイリと名乗るその人はどうやらレイラの世話をするために来てもらったらしいが、その仕事内容を伝えるよりも早くレイラがいないことを指摘された。それもそのはず、何日も前から行方が分からなくなっていたのだから。
この世界に来て初めて出来た友達である。そんな彼女に嘘を言うわけにもいかず、また隠し事をしながら生活するのは不誠実に思えた。なので正直に話すことに決め、自分が異能力者であることも伝えた。その上で、この国で何が起きたのかを伝えたのだった。
この国の現状を聞いたアイリの反応は、最初はとても驚き信じられないという様子だったが、次第に険しい表情に変わっていく。話を聞くうちに、その眉間に刻まれたしわは深まっていった。
そして一通り話を聞いた後、大きくひとつため息をつく。
「……そう。……でも、あなたはその子のこと探してあげて」
「え……どうして」
アイリの口から出てきた言葉の意味がわからず、レイラは問い返す。その答えを聞こうと思ったが、アイリはそれを待たず、逆に質問してきた。
「ねぇレオノワ。あなたの力なら……私達異能力者の力で助けられないと思う? この国は……」
レイラも考えていたことだ。だがその結論に至る前に考えることをやめていたのは、自分以外の人の命を犠牲にする事を良しとしないためだ。
しかしその気持ちはアイリによって遮られる。その瞳には悲壮感がありありと見て取れた。
その目に映るアイリの思いを知ることはできた。それでもレイラはその結論に至った理由を問いかけずにはいられなかった。
「もし私たちの力でなんとかなるとして、その力を誰かの命を奪うために使ったとしたら、その罪は一体誰が背負うの」
真也がソフィアを助けるべく立ち向かっていた龍の爪による一撃。それは間違いなく死んでいただろうタイミングだったと真也自身感じ取っていた。それを助かったのは自身の意志によるものか、それとも……
「その力で何かを殺すことでしか生きていけない人間もいるかもしれないのに……それに手を貸すことは、許されるのかな」
アイリの言葉を聞きレイラは考えを改めることにした。確かにアイリの意見は筋が通っている。自分は異能力者として戦う力を持つのだからこの世界の人間を助ければいい、というわけではないのだ。自分の力を振るったとき、そこには責任が発生する。
自分の行動には、自分の力が伴わなければならないのだと気づかされる。そしてその力は人を守るために使われるべきである。
自分の力が真也を死に誘ったものであってもだ。

* * *

* * *

* * *
自分の体がまるでゲームキャラクターになったかのように動き、敵の攻撃をひらりひらりと避けるのを真也は実感していた。先程まではあんなに恐怖心を感じていた龍の猛攻が全く怖いものではなくなりつつあった。むしろその圧倒的な攻撃により自身の感情すらも高揚していくのを感じる。
『オマエヲコロス』
真也はソフィアから向けられた言葉を理解できなかった。否、頭では理解できるのだがそれが自分の頭の中で結びつくことは無かった。
しかし今はどうだろうか。彼女の一言、そして今のこの状況は、真也の中にすんなりと入ってくるものだった。
「あー……そっかぁ、そうなんだなぁ」
『ア、オイイィィ!』
目の前の脅威を脅威と感じなくなり、頭の中のモヤが晴れたような感覚の中、彼はぼそりと呟く。そして真也の口から出た独り言に反応したのは他でもないソフィア本人だった。
「俺、死ぬの嫌だったけどさ。死んでも仕方ないなって思えるように、なったみたいだよ」
そう言うと同時に、シンヤは再び走り出す。彼の胸中にあったのは自分の死の覚悟ではなく、妹の生存を願うものであったのだが。
「っ!」
シンヤの体はまだボロボロだった。そんな状態で先程よりも数倍強い攻撃を避けられるかといえば答えは『無理』である。だが、彼の体は無意識のうちに最適解を導き出しその攻撃を避けていた。そして、それと同時に拳が突き出され、龍の腕の付け根が爆発を起こす。
『グアアッ!?』
「おぉ……すごいな、こっちの攻撃」
シンヤは初めて自分の意志を持って異能を使ったが、その結果に対する感動よりも先に出てきたのがこの感想である。
シンヤ自身も、まさかこんなにすんなりできるとは思ってもいなかった。それもそうだ。今までただひたすら逃げることだけを考えていたものがいきなり目的が出来ただけでこうまで動けるとは彼自身予想していなかったのだから。
その驚きのまま、シンヤは次なる行動に出る。 
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