ビンドポピアス世界線破却同盟①真実を知る覚悟があるなら、今ここで私と共に。失うものはあるかもしれないが、それでも進むべき道はある。闇を超えて、未来をつかめ―。
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記憶を探して
少し離れたところに大きな街がある。どうやら森を抜けてすぐの街ではないらしいと推測できた。さらによく観察すると、そこには異能を使ったであろう戦いの跡が見られた。
真也の体に痛みはない。だが全身が汗にまみれており服が張り付いていることから激しい運動をしたことが分かる。真也は自身の体が問題なく動くことを確かめてからゆっくりと立ち上がる。
ソフィアはまだ目覚めてはいないようだ。ソフィアに駆け寄りその肩に触れるが反応がない。ただ静かに寝息を立てているだけなのだ。呼吸、脈拍を確認しても異常な点は見つからない。
一通りの確認を終えた真也がもう一度顔を上げるとその視線の先には巨大なドラゴンの姿が見えた。その姿を目視した途端真也の体は無意識のうちに臨戦態勢を取っていた。
それは真昼に見たときよりも、ソフィアの話を聞いてからの何倍もの恐怖を感じさせていた。その目は爛々と赤く輝いており、口元からは鋭い牙が覗いている。翼を大きく広げこちらに向かって羽ばたき、木々を押し倒しながら飛んでくるその様はとても友好的には見えなかった。
—逃げなくては そう思った時にはすでに真也の足は動き出していた。幸いなことにソフィアの荷物の中には武器もあったはずだ。それでなんとか時間を稼いでこの場から逃げよう、そんなことを考えながら必死に足を動かし、ソフィアの元へたどり着いた真也だったが彼の努力は無駄に終わる。
真也がその目にしたのは目を閉じて横たわる少女、ソフィアを抱え上げようとする少年。その光景を見た真也は一瞬にして冷静になる。
自分がここで死んだとしてもソフィアの身に何かあることはないだろう。それならばせめてソフィアだけでも助けるべきだと真也は思った。
「……ごめんね。ソフィア」
そう呟くと同時に真也はソフィアを抱きかかえて全速力で走り出す。
しかし真也の全力疾走も虚しく、背後の地面が大きく盛り上がる。そしてそこからドラゴンの手が現れ、逃げる真也の腕を捉えた。
(あ)
地面に組み伏せられそうになったところを体をひねるようにして回避するが、勢いのままごろん、ごろんと転がる。その際に強く腕を打ち付けたらしく、鈍い痛みが走った。しかしそれに顔を歪めるまもなく次の攻撃が来る。今度は前脚が振り下ろされ真也を踏みつぶそうとするそれを横に転がりギリギリで避け、その爪による風圧を背で受けてそのまままた走る。
真也は理解できなかったが、それはまるでゲームに出てくるようなボス戦だった。しかも敵は真也にとって最も倒しにくいとされる龍。そして真也自身はといえば、この世界の一般人と同じ程度の身体能力しかなく異能力もない。その上戦闘経験などないのだ。
つまり真也は完全に詰んでいた。しかし真也は死を受け入れられなかった。彼は妹を置いて死ぬ訳にはいかない。妹のためにこの世界で生き抜かなければならない。
「……真也!」
不意に大声で名前を呼ばれ、後ろを振り返る。ソフィアだ。彼女は意識を取り戻したのか体を起こしていた。その手にはいつの間に手に持っていたのだろうか、大剣を持っていた。
彼女が叫ぶ声はまるで助けを求めているようで、それが自分のことを指していると気づいた瞬間、心の中の黒いものに火がついた気がした。
真也の中で今まで押さえつけられていたそれは、目の前の圧倒的脅威を目視し、本能で感じることにより目覚めた。そして彼の中で渦巻いたのは妹を助けたいという思いから来る怒り。その感情に呼応したように、真也の心臓がドクンと高鳴った。
*
* * *
***
「ふぅ」
ため息とともに最後の一匹を切り殺したところで、レイラの頭の中に声が響く。
『レオノワ ニゲル』
それは真也のモノとは違う機械音。
「……分かった」
先程までの戦闘により荒れ果てた荒野にたった1人残されたレイラは通信相手の指示に従い、真也の捜索を始める。
ついさっきまで感じられていたシンヤとの距離感は既に無くなっていた。レイラは、自身がこの世界で初めて会った人が彼であり本当に良かったと思っていた。
レイラはこの世界で目覚めてからずっと1人だった。『棺桶の中に入っていた女の子を助けた』というだけですぐに牢に入れられ、取り調べを受けていたのだが、その時に話しかけてくれたのも兵士だけだった。
それから数日後、彼女の身柄は正式に国連の管理下に置かれることとなる。そしてその後しばらくして、ようやくレイラの身元保証人として面会に来たのが今、連絡を取っているアイリだった。
「あの子が居なくなったってどういうこと!?」
「すまない」
「謝るのはあと! どこ行ったの? 無事なの?」
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