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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第107話 失敗を恐れるな!膳王が語る天才の失敗!

 
前書き
 今回ユダのフルコースが出ますが食材の情報が少なかったのでオリジナルの設定を入れていますのでお願いします。 

 
side;小猫


 あれから修行も進み今は『蘇生牛刀』を使って『腐敗牛』の調理をしています。


 腐敗牛は普段はまるで腐ったような匂いでとても食べられる猛獣ではないのですが、蘇生牛刀で細胞を活性化させることで臭みを消して熟成された旨味のあるお肉を味わうことが出来ます。


「どうですか、姉さま?」
「……うん、美味しい!ちゃんと臭みが取れてる!バッチリだよ、白音!」
「や、やったー!」


 遂に蘇生牛刀を使いこなすことが出来ました!最初は何回も失敗して凄く臭いお肉を食べる事になってしまいましたがその苦労が報われたんですね!


「ほっほっほ、蘇生牛刀まで使いこなせるようになったか。いやはや若者の成長は早いのぅ」
「本当じゃな。あたしゃもこうして力になれて嬉しいじょ」
「えへへ……」


 次郎さんや節乃さんにも褒められちゃいました!この調子でどんどん成長していきますよ!


 その後はご飯を頂いて姉さまと一緒に皿洗いをしています。


「小猫も休んでいていいんだよ?」
「そうはいきませんよ。私もこれくらいはしないとバチが当たってしまいます」
「あはは、相変わらず真面目だね。小さい頃もお父さんの手伝いがしたいって一緒に皿洗いをしていたもんね」
「懐かしいですね……」


 まだ私が子供だった頃、父様の御手伝いがしたくて姉さまと一緒にお皿を運んだりこうして一緒に皿洗いをしていたんですよね。


「あの頃は楽しかったなぁ。お母さんも一緒で4人でいっぱい思い出を作って……」
「姉さまは覚えていますか?4人でいった山登りの事」
「ああ、うんうんよーく覚えてるよ!あの時白音がこけちゃって一杯泣いちゃったんだよね」
「母様が仙術で直してくれたけど父様に甘えたくておんぶばっかりしてもらったんですよね」
「あはは、そうだったね。頂上に着くころにはお父さんもうバテちゃって最後はお母さんに抱っこされて山を下りたんだよね~」


 私は昔の思い出を姉さまと語り合っています。


「貧乏だったけど幸せだったよ。すっとこんな幸せが続くと思ってた……でもその後二人は死んじゃったんだよね」
「姉さま……」
「改めて言うけど本当にごめんね、白音。あの時はグレモリー家を頼るのが最適な判断だと思ったけど結局貴方に寂しい思いをさせちゃったよ。もし私がずっと一緒にいるって判断が出来ていたら白音に寂しい想いをさせなかったのかな?」


 姉さまは目を細めてあったかもしれない可能性の世界の話をしました。


「確かにそうなってたら私は姉さまとずっと一緒にいられたと思います。でもこんな風に笑えていたとは思えませんし、姉さまに甘えて依存しちゃう弱虫になってたと思います」
「……」
「勿論姉さまと一緒にいられるのが一番良かったと思っています。でもリアス部長の眷属にしてもらって朱乃先輩や祐斗先輩、ギャー君といった仲間も出来て……そして私はイッセー先輩と出会えた」


 今でも思い出します、入学式に向かう途中でイッセー先輩とぶつかって彼からおにぎりを貰った事を……


「あの出会いが無かったら私はずっと弱っちい子供のままでした、あの出会いをくれたのは姉さまだと思っています。だから謝らないでください、私は今すっごく幸せですから」
「……そっか。ならもう謝るのは止めるね」


 私は姉さまに笑みを見せてそれを見た姉さまも憑き物が落ちたような顔で笑ってくれました。


「私はイッセー先輩と新しい家族を作ります、そしていつか父様と母様のお墓に見せに行くんです。因みにもう子供の名前も考えてあります。男の子だったら白兎(はくと)、女の子だったら猫音(ねね)って考えています」
「白音ったら大胆にゃん。もう子供作るつもりなの?」
「当然です!12人は欲しいですね!」


 私はエッヘンと胸を張ってそう答えました。


「白音は変わっちゃったにゃん。昔はお父さんとお母さんがキスしてるのを見て顔を真っ赤にしていたのに……爛れちゃったね」
「そ、そういう言い方は止めてください!大体そう言う姉さまはどうなんですか?そんな下着も履いてないように見えるくらいはだけた着物の上に割烹着って……なにかのプレイなんですか?」
「ちゃ、ちゃんと下着は付けてるよ!それに窮屈な服は嫌いなだけにゃん!」


 私は姉さまの服装を指摘すると姉さまは顔を真っ赤にしてそう言いました。


「そもそも姉さまはズルいんですよ、そんなエッチなお姉さん的な見た目していてウブだなんて……」
「そう言われても私は恋愛なんてしてる暇なかったし、G×Gに来た後も節乃さんとしか接してなかったから……今はイッセーが好きだけど」
「なら何で告白しないんですか?」
「だって……出来れば満天の星空の広がる夜景が見える展望レストランでイッセーから告白されたいし……」
「うわぁ、乙女チックですね……」


 ほんと見た目と合っていませんね、姉さまって。


「そうだ。なら一緒に修行の旅に付いてきませんか?姉さまも忙しいから毎回は無理でも一回くらいなら来れるでしょう?そこでイッセー先輩にアプローチしてみたらどうですか」
「だ、大丈夫かな……」
「問題無いですよ。先輩も姉さまの気持ちを察してるようですし、姉さまが積極的になれば先輩もちゃんと答えてくれますって」
「そ、そっか……じゃあ節乃さんに相談してみようかな」
「はい、それが良いですよ」


 私は姉さまに修行の旅に一緒についてきたらどうかと提案しました。勿論姉さまに頼るつもりはないしあくまで同行してもらうだけです。


 じゃないとイッセー先輩との時間が全然作れないですからね。


「ありがとう、白音。色々アドバイスしてくれて……恋に関してはからっきしだから助かったにゃん」
「いえいえ。それに姉さまもイッセー先輩の恋人になったら姉妹プレイが出来そうじゃないですか!私達二人で先輩を一杯……えへへ♡」
「やっぱり爛れてるにゃん……」


 私は呆れた視線を向ける姉さまを尻目に先輩の事を考えていました。


 さて、妄想もここまでにしてしっかりと修行をしないといけませんね。待っていてくださいね、イッセー先輩、ルキさん!



side:イッセー


 俺は気絶させたルキを自室のベットに寝かせる。まさかあんなに取り乱すなんて思ってなかったな……


「イッセーさん、ルキさんの様子は?」
「今は寝てるよ。ただ起きたらまた取り乱すだろうな」
「ごめんなさい、私の能力では気持ちまでは癒せなくて……」
「アーシアは悪くないさ、気にするな」


 アーシアの能力は出会った頃と比べると大きく上がっていて最近は怪我だけでなく精神的にも癒すことが出来るようになった。


 だが制度は怪我を直すのと比べるとまだ荒いようでルキのように強く取り乱してしまった人間には効果が出ないらしい。


 落ち込むアーシアを慰めた俺は取り合えず皆に話しをする。


「祐斗とゼノヴィアはルキを見ていてくれ。目を覚ましたらまた取り乱すかもしれないからな」
「うん、分かったよ」
「任せてくれ」


 俺はルキの様子を祐斗とゼノヴィアに見てもらうことにした。


「ユダさんも申し訳ありません」
「いやいや、構わんよ。しかしいきなり取り乱すとは……彼女に何かあったのか?」
「それは……」


 俺はユダさんに謝るが彼は何故ルキが急にあんな風になったのかを聞いてきた。だがルキの許可なく事情を話すわけにはいかないしどうしようか……


「……ふむ、まあ今はあの娘の方が大事じゃな。イッセー。この辺りにある薬草の匂いを嗅げるか?」
「ええ、出来ますけど……」
「ワシが指示する食材を捕獲してきてほしい。簡単な薬膳料理を作ろう、気休め程度じゃが気持ちを落ち着かせることが出来る」
「なるほど、そう言う事なら協力しますよ」


 ユダさんの提案に俺は有難く乗っかった。彼の薬膳料理ならルキの気持ちも落ち着かせてくれるだろう。


 俺は祐斗とゼノヴィア、あとティナにルキの事を任せてアーシア、イリナ、ルフェイ、朱乃、リアスさん、アザゼル先生、ギャスパーと共に薬草や食材を捕獲しに向かった。


「ナイフ!」


 俺は暴れる『医食牛』をナイフで仕留めた。


「よし、捕獲完了だな」
「おーい、イッセー。コイツであってるか?」
「それは毒草ですね。素手で触ると手が爛れますよ」
「えっ、マジかよ!?」
「弱い毒なんですぐに水で洗い流せば問題無いですよ。ほら、これで洗ってください」
「おう、悪いな」
「そもそもなんで素手で触ってるんですか」
「いや堕天使ならいけるかなって……」
「まったく……」


 俺は毒草を取ってきたアザゼル先生に水の入ったペットボトルを渡した。確かに堕天使は人間より頑丈だけどそれでも用心してほしい物だ。


「イッセーさん、これはどうですか?」
「おっ、偉いぞアーシア。コイツが『魂草』だな」


 俺は魂草を見つけたアーシアの頭を撫でる。


「イッセー、『漢方樹』の樹液を持っていたわ」
「私は『ヘルスホエール』を捕獲してきたよ!」
「朱乃、イリナ、お疲れ様」


 そこに朱乃とイリナがそれぞれ頼んでいた食材を捕獲して戻ってきた。


「イッセー、『健神の汗』を持ってきたわよ」
「『不死リンゴ』、取ってきましたぁ」
「リアスさんもギャスパーもご苦労様、既に『解毒草』もルフェイが捕獲してるし後は『つよき亀の願い』だけだな」


 リアスさんとギャスパーも食材を捕獲して戻ってきた。後は一つだけだ。


「健神の汗ってなんだ?」
「高い山の頂上に湧き出ていた水だったわ」


 食材の中でちょっと想像がつかない健神の汗をアザゼル先生が確認するとリアスさんは捕獲してきた食材を見せた。それは湧き水だ。


「その水は苦いけど栄養があるんだ。昔の人間はその水を求めて高い山を登っていた、そして頂上に着くころには汗まみれでそれを繰り返している内に健康な体を得た事でその名が付いたんだ」
「へー、それならちゃんと上って行くべきだったわね。私飛んじゃったもの」
「はは、今じゃヘリや飛行機の技術も上がって簡単に手に入れれてしまいますからね」


 俺は健神の汗の説明をするとリアスさんはちゃんと歩けばよかったと呟いた。まあ今日は急ぎだしまた別の機会にやってもらおう。


「ふーん、じゃあこの『つよき亀の願い』ってなんだ?」
「この食材だけ捕獲レベルが『0』なのよね。どういう事なの、イッセー?」


 アザゼル先生とリアスさんはつよき亀の願いという食材について俺に聞いてきた。この食材だけ捕獲レベルが0なんだよな。


「つよき亀の願いとは『脆亀(もろかめ)』という亀の涙です。この亀は非常に繊細で何かにぶつかっただけで大怪我してしまうくらいに弱いんですよ。その亀が産卵の時に涙を流すんですけど逃げ足も遅くて子供でも簡単にゲット出来てしまうんです。しかも産卵する場所は人間が住んでいる安全な場所に近いから他の猛獣の危険もないです」
「だから捕獲レベル0なのね」


 俺が説明を終えるとリアスさんは納得した様子を見せる。脆亀は弱すぎるから再生屋が保護してるくらいだしな。そんな亀の涙だから簡単にゲットできるんだ。


 その後俺達はつよき亀の願いを捕獲してメルクマウンテンに戻った。


「おお、待っておったぞ。流石に仕事が早いな」
「はは、ユダさんならもっと早く捕獲できるのでしょう?俺なんてまだまだですよ」


 俺はユダさんに食材を渡すと彼は早速調理を開始した。薬草を丁寧に調理していく。


「随分と古臭い道具を使うんだな、まるで石器時代に使われていた道具みたいだ」
「薬膳料理の基本じゃよ。食材によっては少しのミスで毒になってしまう薬草もある、だからこそ昔から使われているこの道具で丁寧な作業が求められるんじゃ」
「へー」


 アザゼル先生が失礼な事を言うがユダさんは気にした様子もなく説明してくれた。


「よし、完成じゃな」


 そしてあっという間に美味しそうな薬膳料理を作ってしまった。


「凄いわ、こんな短期間であんな美味しそうな料理を作ってしまうなんて!」
「まさか膳王ユダの料理を食べられるなんて!こんなの滅茶苦茶てんこ盛りな展開だわ!」


 リアスさんとティナはユダさんの料理を見て目を輝かせていた。俺もまさかこんなところでユダさんの料理を見られるなんて思ってもいなかったからテンションが上がってしまうな!


 まあ優先するのはルキなんだけどな。


「ルキさん、落ち着いて!」
「コラ、暴れるな!」


 二階が騒がしくなったのでまさかと思い向かうとルキが暴れていてそれを祐斗とゼノヴィアが止めていた。


「ルキ、落ち着けって!」
「オレはやってはいけないミスをしてしまったんだ!師匠の名に泥を塗って……ぐうぅ!!」


 ルキは頭を抱えて床にガンガンと叩きつけ始めた。俺がそれを止めようとするとユダさんがルキに何かを飲ませる。


 するとルキの表情が穏やかなものに変化した。


「これは……」
「それは『ほがらか草』を煎じたお茶じゃよ。気持ちを落ち着かせてくれる」


 ユダさんはルキに飲ませたものを説明した。凄い効果だな。


「ユダさん、あの……」
「話は後じゃ、まずは食事にしよう。腹が減っていては気も立ってしまう」
「えっ……」


 ユダさんはそう言うと下に降りていった。


「ルキ、行こうぜ。とにかく今は彼の好意を無碍にしない方が良いだろう?」
「……」


 俺がそう言うとルキは無言で頷いた。そして下に降りて皆でユダさんの料理を堪能するのだった。


「ユダさん、ありがとうございます。俺達の分まで作ってもらっちゃって……」
「食材を捕獲してきてくれたのはお主らじゃからな。当然じゃよ」


 ユダさんは俺達の分まで作ってくれたようで俺は彼に感謝の言葉を送った。小猫ちゃん用にも別に作ってくれたので冷蔵庫に入れておいた。


「美味し~い!あんなに苦い食材がこんなに美味しくなるなんて!」
「薬膳料理って体には良いけど味に好き嫌いが出やすいって聞いていたけど……ユダさんの料理はとっても美味しいわ!」


 リアスさんとティナは薬膳料理を美味しそうに食べていた。ティナの言う通り薬膳料理は味が苦い物も多く好き嫌いがハッキリと分かれる料理だがユダさんの調理でそんなものは微塵も感じないほど美味しくなっていた。


「流石薬膳料理の第一人者ですね。元々薬膳料理の知名度は低くて嫌いな人も多かったけどユダさんが誰でも美味しく食べられる薬膳料理に改良したことで今ではランキング5位になるほどの人気メニューになったんですから」
「ふふ、気にいって貰えたのなら良かったよ」


 もともと薬膳料理は知名度も人気も低かったがそれを爆発的な人気にしたのがユダさんだ。本当にすげぇよな。


 俺達はあっという間に料理を平らげてしまった。


「はー、美味しかった!」
「何故か体が軽くなったような気がするな。これも薬膳料理の効果か」
「体の奥から元気が出てきますね」


 イリナは満足そうにお腹を押さえゼノヴィアは力こぶを作り体の状態が良くなったと話す。アーシアの言う通りまるで体の細胞が洗浄された気分だ、元気が出てくるぜ。


「どうじゃったかな、ワシのフルコースは?」
「えっ?今の料理はユダさんのフルコースだったの?」
「それにしては捕獲レベルが低い物ばかりでしたが……」


 ユダさんの言葉にリアスさんと朱乃が驚いた様子を見せた。


 ユダさんが俺達に振る舞ってくれたフルコースは前菜『魂草の薬膳和え』、スープ『漢方樹の樹液スープ』、魚料理『ヘルスホエールの肝の薬膳炒め』、肉料理『医食牛の煮込み』、主菜『つよき亀の願いのおかゆ』、サラダ『解毒草の回復サラダ』、デザート『不死リンゴのゼリー』、ドリンク『健神の汗の薬膳茶』だ。


 確かに彼のフルコースは捕獲レベルが低い物が多い、一番高いのがヘルスホエールの捕獲レベル20だ。


 もし何も知らない人がこのフルコースを見たらあの膳王ユダのフルコースだとは思わないだろう。


「ふふっ、お嬢さん方。捕獲レベルなど何の意味もないよ。人生のフルコースとはその者が歩んできた軌跡を形にしたもの。夢、感動、苦労、挫折、喜び……それらを形にしたのがフルコース、ワシにとってこのフルコースは人生そのものなんじゃ」


 ユダさんは優しくそう答えた。確かに美食屋はフルコースにレベルの高い食材を入れて自信の力を見せつける奴もいる。


 だが結局はユダさんの言った通りその人間が美味しいと思った食材を入れるのがフルコースだ。


 俺もたくさんの食材を食べてきた。既に決定してある『虹の実』や『BBコーン』より捕獲レベルの高い食材も食べてきた。


 でもそれでフルコースを変えようとは思わない、どちらも俺が心から納得して選んだ食材だ。それがフルコースなんだ。


「深い言葉ね、私ってば高い食材が美味しいって思いこんでいたけど、思えば『フグ鯨』は私が初めて食べたG×Gの食材でフルコースにしたいって思ったんだもの。今ではそれ以上のレベルの高い魚を食べたけど変えようとは思わないもの、納得だわ」
「わたくしも『BBコーン』をサラダに入れました。自分の弱さを受け入れて一歩を踏み出せた日に食べた思い出の食材ですから。そこに捕獲レベルなんて関係ないですわね」


 リアスさんは初めてG×Gに来て食べたフグ鯨を魚料理に、朱乃は自分の過去を俺に話して一歩を踏み出せた日に食べたBBコーンをサラダに入れたらしい。


 二人にとってそれが思い出の味だからだ。


「このフルコースはワシのコンビであったゼンが世界中の人々の病を治したいという願いが込められておる。ワシにとっても最も思い出深いフルコースじゃ」
「えっ、ユダさんにコンビがいたんですか!?」
「それって超特盛のニュースじゃない!膳王ユダは決してコンビを組まない人で有名なのに!」


 ユダさんの口からゼンという名が出て俺とティナは滅茶苦茶驚いた。


 ユダさんは親父と同じで決してコンビを持とうとしなかった、そもそもユダさんなら自分で食材を捕獲できるから必要すらないと思われていたが……コンビがいたのか。


「少しワシの昔話に付き合ってくれんか?」


 ユダさんはお茶を入れながら俺達に昔話に付き合ってほしいと言った。ユダさんの話はとても貴重なものだ、ぜひ聞かせてもらおう。


「あれはワシがまだ自身の店を持っていなかった若き時代の事じゃ。ワシは薬膳料理を究める為にある料理人の弟子として活動していた。ワシはその料理人の技術を次々に会得していき周りから天才だと言われていた。ワシ自身もそれを肯定し自分に出来ないことはないと己惚れていたんじゃ」
「ユダさんがですか?」
「ワシも人間じゃよ、己惚れもするさ」


 俺は思わず驚いて話しを折ってしまった。だってあの1ミリのミスすらしないと言われているユダさんが己惚れるなんて想像がつかなかったからだ。


「当時のワシは直ぐに店を持てると思っておった、じゃが老師は決してワシに看板を譲ろうとはしなかった。ワシは老師に何故と聞くと老師はこう答えた。『おぬしは確かに天才じゃが故に最も大切な事を体得しておらぬ』とな」
「最も大切な事?それってなんなの?」
「ふふっ、それは話を続けて行けば分かるよ」


 ユダさんの師匠が言った最も大切な事とはなにかとイリナが聞くと、ユダさんは優しく微笑み話を続ける。


「ワシはその足りないものを知るために世界を旅した。そんな中ワシが危険区で出会った少年がいた、その者の名はゼン。ワシのコンビじゃ」
「へえ、旅をしていてそのゼンって人に出会ったんですね。ゼンさんは今何をしてるんですか?」
「……」
「ユダさん?」


 ルフェイがゼンという人物について尋ねるとユダさんは目を閉じて話を中断した。


「……すまないな、ゼンについても直ぐに話すよ。今は彼との出会いを優先してもいいかな?」
「あっ、はい。お願いします」


 ユダさんはルフェイにそう言うと話しを進める。


「ゼンはまだ幼い少年じゃった、彼は医食牛を捕獲しようとしておったが子供には捕獲できぬ、ワシは医食牛を倒して彼に声をかけたがゼンは倒れてしまった」
「えっ、大丈夫だったんですか!?」
「ゼンは病に侵されておった。幸い近くに彼が住んでいる村があったのでそこまでゼンを連れて行ったが直ぐに分かった、その村の住民は全員病に侵されているとな」


 アーシアはゼンという少年が倒れたと聞いて悲しそうな顔で無事かと聞くと彼は病に侵されていたとユダさんは答えた。


「強力な病じゃったがワシは薬膳料理を極めていて解毒食材も扱えた。直ぐに解毒料理を作り村人たちに食べさせた」
「ユダさんは村の救世主なんですね」


 ユダさんの話を聞いてルキが尊敬の眼差しを彼に向けてそう言った。


「ゼンもワシの解毒料理を食べて回復した。ゼンはワシにコンビを組んでほしいと言ってきたんじゃ。自身のフルコースで世界中の人の病を治したい、でも味が不味いからワシに美味しくしてほしいとな」
「なるほど、その時にゼンとコンビを組んだんですね」
「ふふっ、ワシはそれを断った」
「えっ?」


 俺はその時にゼンとユダさんがコンビを組んだと思ったが彼は断ったと話した。


「当時のワシは傲慢で己の腕に絶対の自信を持っておった、だからお主とワシでは釣り合わんと断ったんじゃ。そしてその直後じゃった、ゼンが血を吐いて容体を悪化させたのは……」
「えっ?」
「ゼンの病は治っていなかった。ワシの作った解毒料理は仕込みの段階で大人用と子供用で包丁の切り口を微妙に変えなければいけなかったんじゃ、そしてその差は僅か1ミリ……」
「ッ!」


 俺は何故1ミリという言葉にユダさんがこだわるのか分からなかったが、今日初めてその言葉を言う意味を知った。そうなるとゼンは……


「薬膳料理を扱う者なら最初に習う知識、じゃがワシは自分のやり方に一切の疑念を持たず失敗などしないと思い込んでいた。それがこの失敗を生み出してしまったんじゃ」
「……」
「間違った調理をした解毒料理はゼンの病を強め彼の命を奪ってしまった」


 俺はさっきユダさんが少しのミスで毒に変わってしまう薬草もあるとアザゼル先生に説明していたことを思い出した。


 ユダさんはそれを実際にしてしまったのか……


「幸いな事に他の子供たちはワシの料理が苦いため口にしなかった。ワシを信じて料理を食べたゼンだけが命を落としてしまったんじゃ」


 俺達は何も言えなかった。まさかユダさんが失敗をしてしかも人の命を失わせてしまった事があったなんて思いもしなかったからだ。


「村の人たちはワシを責めなかったよ。ゼンは体を張って村の子供を救ってくれたと……ワシに感謝していると言ってくれた……じゃがワシは心から後悔した。もしワシが仕込みの段階で少しでも疑問を持って調理の仕方を調べていたらゼンを死なせなくて済んだと……天才などともてはやされていい気になっていただけだったとな」
「ユダさん……」


 ユダさんほどの人でも失敗した、それを知ったルキは複雑な顔をしていた。


「その時になってワシは漸く老師が足りないと言ったものが分かった。それは『失敗』をすること、それによって知る自身の弱さじゃ。もし失敗をしないでそのまま店を持ったらワシは過信してそれ以上の被害をだしていたかもしれん。薬膳料理は特に失敗は許されない、1ミリのミスで取り返しのつかない事になるとワシは思い知らされた」


 ユダさんは本当に後悔しているといった苦しそうな目で窓から空を見ていた。


「ワシはゼンのフルコースを譲ってもらい誓ったんじゃ。もう二度と1ミリのミスもしないと……」


 ……それが1ミリのユダの誕生だったんだな。


「ルキ、お主もかなりの才能を持っているようじゃな。あの壁にかかっている包丁はお主が作ったのじゃろう?」
「はい、あれはオレの作品です」
「じゃがどんな優れた腕や大きな才能を持っていようと人は失敗する。だが失敗そのものが悪なのではない、大事なのはその失敗で何を得るかじゃ。お主は失敗はしたことはあるか?」
「……あります」
「ならその失敗を恐れるな。そこから何を感じたのか、自分はどうするべきだったのかをまずは考えそして次に活かしていきなさい」
「分かりました」


 ユダさんの言葉にルキは強く頷いた。


「さて、長居してしまったな。ワシはそろそろ帰るとしよう。包丁は後日また研ぎの依頼をさせてもらおう」
「なら代金は結構です、なんなら前の時にもらったお金も……」
「いやその必要はない。ワシも初心を思い出せた、良い経験になったのである」


 ユダさんはそう言うと俺に話しかけてきた。


「イッセー、お主も修行を重ねていると聞いた。お主も才能を持った若い芽だ、つい水や栄養を与えられすぎて早く伸びようとしてしまう事もあるじゃろう。じゃがそれでは体が耐えられずに腐ってしまう。時にはゆっくりと進む余裕も大切じゃ。その余裕が冷静な判断をさせてくれる」
「はい、ユダさんの教えを胸にこれからも精進します」
「うむ、頑張れよ。いつかワシの本店にも来るといい、最高の料理でおもてなししよう」
「はい!」


 ユダさんはそう言うとメルクマウンテンを下山していった。彼は間違いなくルキが自分の包丁を研いでいた事に気が付いていた、でも何も言わず去っていった。


 彼はルキを信じたんだ。自分と同じ天才と呼ばれたルキが立ち上がることを。


「凄い人だったね、ユダさん」
「ええ、とても為になる話でしたわ」
「私達も取り返しのつかない失敗をしないように自分に溺れぬよう精進しないとな」


 祐斗、朱乃、ゼノヴィアはユダさんの話を聞いて自分の力を過信しないようにと話す。それを聞いていたイリナ達も頷いた。


(ルキ、お前はどうしたいんだ?)


 俺は真剣な表情で何かを考えるルキを見て、彼女の選択を期待した。

 
 

 
後書き
 小猫です。私のいない時に膳王ユダさんに出会うなんて皆羨ましすぎます!


 でもイッセー先輩がサインをもらっていてくれた上にユダさんの料理も取っておいてくれたらしいです。嬉しすぎて死んじゃいそう……あふぅ……


 ……あっ、姉さまに次回予告してって怒られちゃいました。


 コホン……ユダさんの話を聞いてルキさんの心境に大きな影響があったみたいですね。でも最後の一歩を踏み出すことが出来ないようです。


 今こそ私の出番です!修行の成果を見せて見せます!


 次回第108話『自分を信じろ!研ぎ師ルキの誕生!』でお会いしましょうね。


 次回も美味しくいただきます、にゃんっ♪ 
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