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エターナルトラベラー

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外典 【NARUTO:RE】 その3

「おまえらはぁあああああっ!」

「「「ひぃっ!?」」」

火影室に怒声が響く。

「里がこの忙しい時期に休暇とは、良い身分だなっ」

と五代目火影である綱手の怒号。

「は、初顔合わせでいきなりソレは…」

「お前たちだけだぞっ!私とまだ顔を合わせていない上忍達はっ!…いったい何をしていたのだ」

「いやぁ…先代の書庫の整理を…あはは…」

流石に教授(プロフェッサー)と呼ばれた忍。その集めた術は千を超えていたのだ。時間も掛かろうと言うもの。

「まったく、もう少し早く戻ってもらえれば危険な任務を下忍となりたての中忍になど任せはしないと言うのに」

「何があったのですか?」

とイズミ。

「サスケが連れ去られた…いや、状況を見るに里抜けしたと言った所か」

「はい?」

俺達が居ない間に色々な事が有ったらしい。


「大蛇丸にかどわかされたと見て間違いないだろう」

「でも、どうして里抜けなんて」

とハナビ。

「この間うちはイタチがこの里に現れてな」

「なっ!イタチ君が…」

イタチはうちは一族を虐殺した張本人。つまり生き残りであるサスケとイズミの仇でもある。

「イズミ」

「…大丈夫よ。ありがとう、アオ」

そっと握ったイズミはどうにかイタチへの憎悪を振り払う。

「あーズルイ。わたしも」

と反対側の腕を取るハナビ。


「ラブコメは他所でやれっ!」

綱手の恫喝。独り身だからって…

ジロリ

あ、いえ何でもありません。

おずおずと手を放す。

「そしてそのサスケの復讐心に付け込まれたと考える。イタチとの力量差に焦ったのだろう」

「それで里抜けか…サスケくん」

イズミの心境は複雑だろう。

「ナルトも自来也について修行の旅に出るようだし、サクラはわたしが弟子に取る。しばらく第七班は解散だな」

「えー…」

誰も中忍になっていないので卒業では無いのである。

「こんな時だ、動ける上忍を遊ばせておく訳にもいかん。こき使うから覚悟するように」

はぁとため息を吐く綱手。

「とは言え、すぐに言い渡せる仕事もない。ナルトに任せた旅芸人の監視任務に付いてもらう」

「監視任務?」

「こんな時だどうもきな臭い。悪いが頼まれてくれ」


綱手から頼まれた旅芸人の監視任務。

大人と子供の二人組らしい。

1人はナルトと一緒に里外の森で何かしているよう。

取り合えず、そちらに向かうと、二人の少年が何やら手のひらを向かい合わせ何かしていた。

「何をしている?」

「あ、アオ先生っ!」

と、ナルト。

「そっちは?」

「オレはボルトってーんだ」

「ナルトに似てるな」

「に、似てねーってばさっ!」

いや、似てるって…

「アオ先生は何しに来たんだってばよ」

「第七班がしばらく解散状態だから、お前と一緒に監視任務だと、で何してんの?」

「見て分からねーのかよ、修行だってばよ」

自来也さん考案で二人のチャクラを共鳴させて合一し増強させる訓練らしいが…余りうまく行っているようには見えない。

「で、なんでそんな事してんの?」

「それは…」

一度言葉を濁したボルトだが。

「大筒木ウラシキって言うやつがコイツの中のチャクラを狙っているんだ」

「へぇ、オオツツキ…」

「っ」「っ…」

ようやく聞いたその言葉にアオの体が打ち震えた。その漏れ出した殺気に震えあがるナルトとボルト。

一度撃退したらしいが、万全の状態でもう一度襲いに来るだろうとの事。

これは一石二鳥だな。

綱手様の任務ついでにオオツツキと言う存在を処理できるのだから。

「あー…出来ねぇ…」

ばたりと倒れ込むボルト。

「もう一度だってばよ…」

ナルトも肩で息をしているが持ち前の根性でどうにか立っている。

「おう」

ボルトは仕方ないと立ち上がった。

「なぁなぁ、アオ先生」

「なんだ」

ナルトに呼ばれアオは呼んでいた雑誌から目を上げる。

「何かコツみたいのはねーのか?」

「俺に聞くな俺に、自来也さんに聞け」

「いねーじゃんよ…」

「そもそも俺に言わせればその修行は無意味だ。何を思って自来也さんがそんな修行を付けているか知らないけどな」

寧ろ単純に二人一緒に居る事を目的にしているのかもしれない。

二人で修行と言えば一緒に居なければならない口実になる。

「意味がねーってどう言う事だってばさっ」

ボルトが食って掛かる。

「どんなに強力な術が出来ようと二人居なければ出来ない時点で欠陥。見た所螺旋丸の形にしようとしているようだけど、どうやって敵に当てつもりなの?」

「それは…」

「そんなもん根性で当ててやるってばよっ!」

「二人掛りでも俺に攻撃が当たるとでも?下忍の寝言は質が悪い」

「そりゃアオのにーちゃ…アオさんには白眼があるってばさっ」

「白眼など使わなくても当たんねーよ」

「そんなに言うなら勝負だってばよ」

「だな。こっちは二人掛かりだけど卑怯とか言うんじゃねーってばさ」

面倒くさいが二人とも臨戦態勢で引く気は無い様だ。

「「影分身の術」」

ナルトはお得意の多重影分身で20人ほどに分身、ボルトも三人ほど影分身を出して身構えた。

「うぉおーーーーー」

今のナルトに影分身を上手に扱う事は出来ず、ただ我武者羅に殴りかかって行くだけ。

「「風遁・烈風掌」」

「ボルトストリーム」

影分身の烈風掌を加速装置にして飛び掛かって来るボルト。

ナルトの物量の影で死角からの攻撃のようだ。

手に螺旋丸を溜めつつ突っ込んでくるボルト。

「あまい」

ボルトの手を取って後ろに放り投げる。

「うわああーー…だけど、今だっ!」

「螺旋丸」

そのボルトを死角にナルトが突っ込んできた。

アオの上体はボルトを放り投げてバランスを崩している。

「喰らえェーっ!」

「ふっ」

アオは地面を蹴るとそのまま回し蹴り。

「ぐあっ…」

吹き飛ばされて地面を転がるナルト。

「手裏剣やクナイを使っても構わないぞ。何だったら起爆札もな」

「ちっくしょー」「くそ…アオのにーちゃんってここまで強かったんだってばさ…」

その後、忍術、手裏剣、何をしても白眼すら使っていないアオの体術のみの攻撃でしのがれてしまうナルトとボルト。

「はぁ…はぁ…」「く…はぁはぁ…」

「二人とも体術レベルの向上からだろ。大技の修行なんてしている暇は無いな」

「くそう…白眼すら使ってねーってばよ」「なのに勝てねーってばさ…」

二人はバタンと倒れ込み気絶してしまったようだ。

次の日からは自来也からの修行をいったん棚上げし二人でアオに一撃でも入れようと戦いを挑むが、軽くいなされてばかり。

「二人とも敵を前にすると感情的になりすぎる。二人とも煽り耐性が低すぎるな」

「分かってるってばよ」

「分かってるってばさ」

「いいや、分かってない。その結果、きっといつか取り返しの効かない事になるぞ」

「そんな事ねーってばよ」

「はぁ…ダメだわ。ナルトのそこは長所で短所だなぁ」

ため息を吐くアオ。

そんな時、森を掻き分けて上空から白い服に角を生やし、薄紫の目をした男が現れた。

「こんな所に居たのですか」

「大筒木…ウラシキ」

チャクラで作られた魚籠と釣り竿を持つその男を見てボルトが呟く。

「そろそろ狐を刈り取らせてもらいましょうか」

「てめぇっ!」

ナルトがウラシキに身構えた。

「やめろ、ナルトっ!お前の敵う相手じゃない」

あの敵は魂の位階が人間のそれとはもはや別次元だ。

「やってみなければ分からねーってばよっ!」

言って聞くようなヤツではない。

「くっ…」

アオは印を組み上げ呪印を回すと急いで自然エネルギーを集め始めた。

目的はナルトの中の九尾のチャクラなのだからナルトは殺す事は無いだろうが…ボルト…

人柱力が死ぬと中の尾獣は一度死ぬ。それではチャクラを抜く事は叶わない。

「ボルトっお前は」

アオなら生きてさえいれば四肢欠損くらいどうにか出来る。

「くそ、こうなりゃやってやるってばさっ」

だが死んでしまってはどうしようもない。

「お前も感情的になるなよっ!逃げろっ」

「それは出来ねー相談だってばさ」

そう言ってナルトと一緒にウラシキに向っていくボルト。

「毎度毎度バカの一つ覚えみたいに」

影分身で拳を振り上げ飛び掛かるナルトにつまらなそうに持っている釣り竿を振った。

それだけで大部分の影分身が煙となって消えてしまう。

急いで自然エネルギーをかき集め仙人化すると印を組み上げる。

「木遁・黙殺縛りの術」

「木遁!?」

ボルトの驚きの声。

左右の木から伸びたロープがウラシキを縛り上げる。

しかし、ウラシキの瞳が青く光るとまるでその動きが読まれているかのようにいなされてしまった。

瞳術っ!

アオの白眼はその発動を見逃さなかったが、どういう術なのかはまだ分からない。

事実はアオの攻撃が外れたと言う事だ。

「木遁・挿し木の術」

周りの木々から鋭い枝を飛ばしウラシキを攻撃するが…

「だから当たりませんよ。私には未来が見える」

一見逃げようも無い攻撃をウラシキは再び青い目で避けられてしまった。

「その眼…輪廻眼か…」

「ほう、ご存じでしたか」

「……」

「あなたも白眼をお持ちと言う事は大筒木の家系なのでしょうか」

「白眼が大筒木の家系ってどう言う事だってばさっ」

「おや、ご存じない。白眼を持つと言う事は我が同族が遥か昔この地の野蛮人と交わったという事ですよ」

何が面白いのかいやらしく笑うウラシキ。

「日向が大筒木の家系…じゃあ…俺は…」

ボルトが何やら思い悩んでいるが、今は戦闘中だ。

「こんのぉっ!」

「やめろっナルト下がれっ!」

アオの言葉なんて聞かずにウラシキへと飛び掛かるナルト。

「そちらから来てくれるのは好都合ですよ」

「木遁の術」

「うわぁっ」

しなる竿から放たれる釣り糸に絡み取られるまえにナルトの足を木遁で引っ張る。

「ナルトをオメーに何て渡す事は出来ねーってばさ」

飛び掛かるボルト。

しかしやはりウラシキの方が上手だ。

ボルトの攻撃はかわされ、返す竿で弾き飛ばされる寸前…

「木遁・樹界壁ッ」

ボルトの目の前に現れる木の壁。

しかし振られた釣り竿はその壁を貫きボルトを弾き飛ばした。

「かはっ…」

壁が無ければどうなっていた事か…その位派手に飛ばされて行く。

「ボルトッ!」

心配で視線をボルトに向けた瞬間、アオの背後から伸びた釣り針がアオの背中を貫いた。

「かはっ…」

「白眼にも死角が有るんですよねぇ」

自分も持っているからか、白眼の事は熟知しているらしい。

「チャクラが…かは…」

引き抜かれた釣り針に何かチャクラの塊のような物が引っかけられ抜き取られるとその反動がアオが倒れ込む。

「アオ先生っ!」「アオのにいちゃんっ!」

「滑稽ですねぇ、あなた達が勝手な事をしなければもっと善戦できたかもしれないのに。いえ有難い事ですね」

「あ、ああ…」

ナルトが紅いチャクラに包まれる。

「ほう、これは中々のチャクラだ」

そう言って吊り上げたその何かを魚籠へと移すウラシキ。

「怒りに飲み込まれちゃダメだってばさっ!」

ボルトの叫び声も聞こえず、ナルトが暴走。

「グルルルル…」

駆け寄るボルトだが、敵も味方も見境を無くしているナルトはボルトにその拳を振り上げた。

「…どいていろ」

「え…」

ボルトが振り返った先に居たのは倒れ込んだはずのアオだ。

「グルルルルルルル…グラァ…」

ドンッ

「か…はっ…」

アオの突きがナルトの腹部に入ると漏れ出していたチャクラが引き意識を失うナルト。

「アオのにーちゃんっ!……その体は何だってばさ」

見ればアオの額の◆模様から幾何学的な模様が全身に広がりそのラインが蒼銀に発行している。

「それは…まさか楔(カーマ)っ…お前、イッシキの…」

アオはつまらないものを見るようにウラシキを見上げるとポーチから二枚の手裏剣を取り出し無造作にウラシキへと投げた。

「無駄ですよ、私には未来が視える」

そう余裕そうなウラシキはその輪廻眼を輝かせた。

「ぎゃぁっ」

だがその次の瞬間、ウラシキはその両目に手裏剣が刺さり、体の力が抜けたのか地面に落ちていた。

「バカな…こんな…バカな事が…」

一瞬で失明する以上に精神的ダメージを負っているようなウラシキ。

「何をしたんだってばさ…」

ここで少し解説すれば、ウラシキの輪廻眼の能力は自身を少し前の時間に戻す能力である。

一度経験してから避けているのだから、相手の攻撃が通じないのは当然だ。

だが、今アオが何をしたのか。

アオが投げたのはたった二枚の手裏剣だが、それは絶対に命中する。

その避けようのない手裏剣をいったいウラシキは何回やり直したのだろうか。

十回だろうか、百回だろうか。いや、千回、万回。…ウラシキが諦めるまで。

自身の能力のせいで常人とは別のベクトルで精神的なダメージを負ってしまったのだ。

「待っていろ」

「アオにーちゃん、その眼は…サスケさんの…」

アオの瞳が紅く輝いていた。

ゆっくりとボルトの傍を離れる。

相手が信念をもった忍なら両目がつぶれた位で動揺はしなかっただろう。しかしウラシキは絶対的強者であり狩人だ。

今まで手痛い反撃など皆無だっただろう。

「く、来るなっ!」

ウラシキが魚籠に手をかけた瞬間、どう移動したのかアオの足がウラシキの腕を踏み抜いていた。

「ぎゃあぁああああっ」

反射的にもう片方の手に持っていた釣り竿も取り落としてしまった。

その釣り竿をアオは無造作に持ち上げる。

「そうだな…太公望とでも呼ぼうか」

次の瞬間、ウラシキのチャクラで輝いていた釣り竿が蒼銀に輝いた。

ウラシキの絶望は続く。

しゃがみ込んだアオが眼球に刺さった手裏剣に手をかけ引き抜くとなぜか手裏剣について眼球がもがれた。

「ぎゃぁああああああああああっ」

無造作にアオの掌で踊る眼球は、次の瞬間血だらけの傷が消え去り真っ白な白眼へと戻っていた。

「これは必要になりそうだ」

そう呟いたアオは取り出した小さな巻物に封入の術で封印するとポーチへとしまう。

「ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるなっ」

絶望から立ち直ったのか突き出した右手から放たれる衝撃波。

これにはアオもその場を離れるしかない。

「くそ…くそくそ…ふざけるなよっ!この下等生物がっ!」

そう言って立ち上がったウラシキは手に残った魚籠を口に当て、アオのチャクラを吸収したそれを酒を飲み込む様に魚籠の中にしまい込んでいた大量のチャクラをその体に流し込んだ。

効果は劇的で一瞬でウラシキの体は変貌し、猛禽のような特徴を持った異形の姿へと変わった。

変わったのは姿だけじゃなく、負ったダメージは回復し、両目は輪廻眼では無い物の新しい眼が生え、魂の位階が上がったのか内包するチャクラ量も桁違いに増えている。

「調子に乗るなよ、下等生物の猿共め」

怪力乱神を手に入れたウラシキは手を振れば幾つもの極光が降り注ぐ。

「アオのにいちゃーん」

「馬鹿者、速くここを離れるぞ」

気絶したナルト、絶叫するボルトの傍に現れたのは黒い装束で片目を隠している男性。

「サスケさんっ、でもアオのにいちゃんが」

「あの程度でくたばるようなら俺がとっくに殺している」

サスケがナルトを抱えて走ると仕方なくついて距離を取るボルト。

「サスケさん、今までどこに行ってたんだってばさっ」

「アイツがお前たちの傍に居たから近づけなかったんだ。アイツの白眼は俺が未来だと見抜く」

それは不都合が大きいとサスケ。

「じゃあどうしてっ!」

「今は白眼を使っていないようだ」

「…っ!あれはサスケさんやサラダと同じ…どう言う事だってばさっ!」

「それは俺も知らん。どうして…あんな物が…」

アオめがけ降りそそぐ極光に土埃が舞う。

「あはははは、サルは所詮サルなんだよ」

上空で高笑いをするウラシキ。

「猿か…確かにな」

「なん…だと…?」

煙が晴れるとその中心で事も無く立っているアオの姿が。

「そうか、金剛の術っ」

「アレはそう生易しいものじゃない、似た何かだ」

サスケがそう言う様に普段アオが使う金剛の術とは違い、真っ赤な瞳の外側を金色に染めていた。

次の瞬間、上空に居るウラシキの背後に一瞬で現れたアオは足を振りぬいた。

「がはっ」

骨が折れる音がしてアオと入れ替わる様にウラシキは地面へと打ち付けられた。

その後、何か重いものが落下するような速度で地上に迫り踵落としがウラシキの腹部を直撃。

「っ……!!!」

更にクレーターを深いものにする。

ウラシキを見下ろすアオ。

「認めてやる。お前の方が強い…だがな」

ウラシキは最後の力で腕を上にあげる。

その腕の先、上空に大きなチャクラの弾が形成されていた。

巨大なリュウグウノツカイのその口元に尾獣玉のように収束されるチャクラの塊。

「避けても良いんだぜ、だがここら一帯、それこそ大事な木ノ葉の里くらいは無くなっちまうなぁ」

「このクズが」

「天須波流星命・竜宮」

撃ちだされる極光。

「さ、サスケさん…あれは不味いんじゃ」

「く…まだ瞳力が戻ってない…このままでは」

焦るボルトと悔しがるサスケ。

アオはウラシキの胸倉をつかむと極光に向けて投げる。

「俺の…勝ちだ…」

勝ち誇るウラシキ。

「それはどうかな…」

「そ、それはっ」

次の瞬間、蒼銀のチャクラがアオを覆い巨大なカラス天狗を思わせる巨人をかたどった。

「須佐能乎だってばさっ、なあサスケさんっ」

「…………」

完成体須佐能乎がその剣を抜き放つ。

銀の光が輝くと振りぬいた剣はウラシキを切りその背後の極光を切りその巨大なチャクラは小さなブロックに切り刻まれ上空へと吹き飛ばされて消えていく。

「…神にしては弱い」

アオを覆っている幾何学模様が◆に戻っていくと同時にアオの意識が遠のく。

次に目が覚めると木ノ葉の病院のベッドの上だった。

どうしてこんな事になっているのかと聞けば、ナルトとの修行中に行き過ぎて両者倒れていたらしい。

なぜかそう言う事になっているのでアオは特に何も言わずに口を閉ざした。

その後、ナルトにそれとなく聞くとここに三日の事は全く覚えていないらしい。

ボルトと言う少年の事も誰も覚えておらず、モヤモヤしたままこの件は幕を下ろした。



アオを除いた関係者に記憶の改ざんを終えたサスケはボルトと共に未来へと帰る。

「なぁ、アオのにーちゃんは良いのか?」

「前も言ったが白眼を使うアイツの前に立つ事の方がリスクが高い」

「そんなもんかね」

ボルトは納得しかねるようだ。

「しかし、アオのにーちゃんってあんなに強かったんだな。俺ってばハナビのねーちゃんやイズミのねーちゃんの尻に敷かれている印象しかねーってばさ」

「ヤツが本気を出せば俺やナルトが二人掛かりでも勝てん」

「そりゃ流石に嘘だってばさ」

普段だらしないナルトを見ているボルトだが、その実力は知っている。

「………」

「マジで…?」

沈黙に耐えかねてボルトは話題を変える。

「そう言えば、イズミのねーちゃんの眼なんだけど」

「ああ」

「白眼じゃ無かったってばさ。それにうちはって、いったいどう言う事だってばさ」

サスケは何かを思案し、ため息を吐いた。

「それに気が付いていれば俺達がやきもきする必要は無かったな」

「どう言う事だってばさーーーーーー」



……

………


「弟子を取ろうと思う」

久々にハナビとイズミと一緒だった任務の帰り、アオが唐突にそう切り出した。

「は?」「なんかアオくんが面白い事を言ってる」

イズミとハナビ。

「我が第七班は活動休止中な訳だが」

「そうね」

「ナルトは自来也さんが連れて行き、サクラは綱手様、サスケは大蛇丸について里抜けと、これじゃ俺が弟子の育成に失敗したみたいじゃん」

「みたいじゃ無くて失敗してるわね」

「ぐは…」

イズミの心無い肯定に傷つく。

「だが、お前らを育てなのは俺だろ?」

「え?」「え…?」

「そこは肯定してくれよ、泣くよ」

「冗談よ、アオくん」

「まぁ、そうね。感謝しているわ」

ハナビとイズミが一応同意で返してくれた。

「班員の育成も上忍の仕事の内とは言うしね。それがバラバラとなるとアオの責任って事になりそうね」

「お前らは楽で良いよな。猪鹿蝶トリオは秘伝忍術で昔から親密な連携パターンが確立されている一族だし、犬塚や油女に上忍が教える事なんて無いだろ」

「まぁ…」

「そう言われると痛い所が…」

「とは言え、班の解散にはなってないし、シカマルなんてもう中忍ともなれば俺の指導が悪いみたいじゃんか」

それは悔しいとアオ。

「それで、どうやって弟子を取るの?誰かに声を掛けるとか?」

とハナビが話題を変えるように問いかけた。

「一応火影屋敷に募集の張り紙を出しておいた」

「張り紙?」

とあきれ顔のイズミ。

「そ、張り紙」

真面目なアオ。

「それってあの隅っこの方にある掲示板?」

とハナビが聞き返す。

「そうだな」

「誰も見ないような掲示板じゃん」

「それって大丈夫なの?」

イズミが呆れて肩をすかした。

「まぁ、縁も大事さ」


「はぁ…」

その日、テンテンは色々な事が有って少々落ち込んでいた。

テンテンはナルト達の一つ年上である下忍で、同期のネジ、リーと共に上忍であるガイに師事され成長途中の忍だ。

しかし、テンテンは憧れの綱手が火影として帰って来たためダメもとで弟子入りと思って訪ねたのだが、自分に医療忍者としての素質が無いと言う現実を突き付けられただけだった。

その帰り道、火影屋敷の普段は寄り付かないだろう掲示板。

意気消沈していた彼女は何故か存在感の無いそれに引き寄せられるかのように歩み寄る。

「わたしって才能無いのかしら」

ネジは柔拳を使い、その技量は卓越している。天才と言っても過言では無い。

リーは一見落ちこぼれだがその努力で剛拳の才能を開花させている。

「それに比べてわたしって…」

ネジ程の才能も、リー程のひた向きさもテンテンには欠けていた。

それでも強くなりたいと、彼女は思っていた。憧れの綱手様みたいに。

「でもわたしにサクラほどの医療忍術の才能は無いし…うう…それにガイ先生も…」

上忍であるマイト・ガイが強いのは間違いない。それはテンテンも認めている。彼に勝てる忍は火影様は伝説の三忍を除けば同じ上忍でもはたけカカシくらいだろう。

それはテンテンも認めている。

「けどなぁ…ガイ先生は体術一辺倒だからなぁ」

ガイは体術以外の才能に欠けていた。

暑苦しい所を除けば体術の師としてはこれ以上ない逸材なのだが他の忍術を師事するには不向きだ。

「どうすれば…」

そう言葉が漏れた時、テンテンの目の前に一つの張り紙が目に入る。

『弟子募集』

その張り紙にはその文字と練習場所のみが書いてあった。

「これは…」

テンテンも普段ならばそんな胡散臭い張り紙取り合わなかっただろう。

しかしテンテンは落ち込んでいて。

そこにその張り紙は天から伸びる蜘蛛の糸のように素晴らしい物に思えた。

後から思えば地獄の日々の始まりだったのだが…

テンテンは前が開けた思いだった。

「場所は…ふむふむ…」

テンテンは勢いよく張り紙を剥がし取るとその場所を熟読し、何かに導かれるように火影屋敷を去ると駆け出していった。


木ノ葉の里の近くの修行場の一つで、普段からアオ達三人くらいしか寄り付かない一枚上の大きな平岩のある修行場の上でハナビとイズミが戦っている。

「はっ!」

「くっ…でもまだまだっ!」

二人ともそれなりに本気の攻撃だが、勝手知ったると言った感じで修行の範疇を出ない、どこか安心感がある。

「これでっ!」

「くっ…」

ハナビの攻撃がイズミに当たる直前…

「何っ!?」

ハナビの嘗手を遮る何か。

それはイズミの背後から肋骨の様にイズミの前方を覆っているチャクラの塊だった。

「どう言う訳か、最近使えるようになったのよ」

とイズミ。

「須佐能乎か」

「須佐能乎?」

とハナビ。

「両目に写輪眼の瞳力を宿したうちは一族が使えるようになる絶対防御の化身だな」

「いつも思うけど、あなたって気持ち悪いくらい写輪眼に詳しいわね」

「ぐは…止めてくれ、その言葉は俺に効く…」

「でも本当にアオくんって何者?小日向家だよね」

「白眼だろ、よく見ろよ」

とアオが言う。

「よく見なくてもこの里の人なら白眼だと思うわね」

イズミもやれやれと肩をすかした。

「本当なら籠の中の呪印を刻まれてもおかしくないんだけどね」

とハナビ。

「俺に日向家と直接の付き合いは無いからな」

父親が死んだときに縁が切れている。

小日向家は何代も白眼を発現できる子孫がおらず、この先も現れる事は無いと思われていた。

「でも、確かにアオって日向家の特徴の黒い漆黒の髪は持ってないのよね」

「似合ってるだろ」

「はいはい」

イズミはどうでも良い事のように同意した。

「で、須佐能乎って何?」

イズミが話を戻して説明を求めた。

「両目に万華鏡を開眼した者がその体に宿す血継限界だな」

「体?」

「白眼で見ればよく分かる。イズミの体の経絡系が以前とは書き換わっている」

「どう言う事よ」

「脳内で発せられた特殊なチャクラが眼球を通って全身の経絡系に働きかけて書き換えているな。なるほど、そう言う事だったのか」

なるほどね、とアオが一人納得している。

「つまりどう言う術なの」

「陰遁の一種でチャクラを操作して戦う術だな。イタチの須佐能乎には手を焼いた」

「手を焼いたって…いやアオくんは変態だった」

こらこらハナビ、変態とは何だ変態とは。

「強力な術みたいね」

「その代わり体に掛かる負担も大きい。あまり多様出来るものでもない」

「ほんと、良く知ってるわね」

少々呆れ顔のイズミ。

「でも本当に写輪眼って多芸ね」

「本当本当、白眼が霞むぜ」

はぁとため息を吐くハナビとアオ。

「でも忍術で有るのなら再現は出来るのかな」

とハナビ。

「考えた事も無かった…」

「アオくんにしては珍しいわね」

「確かに」

イズミもハナビに同意した。

「いや、木遁で似たような事出来るし」

そう言って印を組むと木遁・木人の術を使う。

「あー…アオくんには必要ないか」

「いや、そんな事無いが…確かにそうだな…再現か…」

とアオが考え込み始めた時、一枚岩の下から声が掛かる。

「あ、あのー」

「…?ハナビ何か言った?」

「何言ってるのイズミ」

ボケちゃったとハナビが答える。

「あのー、弟子募集の張り紙を見て来たんですがー」

「あ、誰かが呼んでいるわ」

「ほら、アオも行くわよ」

「お、おう」

イズミに促されてハナビとアオと岩を降りる。

「あの、弟子募集の張り紙を…って、ハナビ先生とイズミ先生。良かったです」

「あー、あの張り紙を見たのね」

「はい」

「喜んでくれている所悪いのだけれど」

とハナビ。

「その張り紙を出したのアオくんなんだよね」

「え…」

流石に第七班の解散を知っているらしいテンテンの声が曇る。

「その反応は地味にショックだ…」

「え、あ…そうじゃ無くて」

取り繕うテンテン。

「大丈夫よ、第七班の子達が変わった子ばかりだっただけで、アオって本来教えるのはうまいから」

「そ、そうなんですか?」

イズミの言葉に意外そうに応えるテンテン。

「そうよ。わたし達なんてもう12年もアオくんの弟子をしてるしね」

「え?ハナビ先生とイズミ先生が…?」

「悔しいけれど、この年で下忍を任せられるくらいになったのはアオのおかげね」

イズミも同意する。

「分かりました、わたしを弟子にしてください」

と言って頭を下げるテンテン。

「よろしい」

「アオくんの修行は厳しいけれど、やり遂げればしっかり強くなるから」

「がんばってっ」

「あ、ありがとうございますっ!」

「おーい…なぜか俺の全く絡まない所で話が進んでる気がするが…」

その日、アオに新しく弟子が一人増えたのだった。



テンテンの実力は中忍試験を受ける程に高く、基本はしっかりしている。

体術はガイさんにみっちりと仕込まれているらしく、他の下忍を抜きん出ているのだが…

「五大性質の遁術は壊滅的だな、才能がない」

「ひーん」

「ちょっと、アオ。本当の事だとしてもあんまりよ」

「うぅ…」

「トドメを刺すね」

イズミの言葉が決め手になりそうだ。

「あ、ごめんなさいテンテン…」

「い、良いんです。分かっていた事ですし…」

「でもその代わり時空間忍術は得意そうね」

ハナビが褒める事でどうにかバランスを取った。

「そっちの方は才能があるってガイ先生も言っていました」

「だが、使い方がなってないな。巻物に封入した忍具を開封して投げつけるだけじゃね」

「うう…」

「こらアオ。もっとソフトに言いなさいっ!ソフトにっ!」

最初にトドメを刺したのはオメーだ。

「ああ、泣かないで。時空間忍術、わたしは苦手だから」

凄い才能だとイズミ。

「あ、でもちょうど良いじゃない」

「何がですかぁ」

ハナビの言葉に半泣きでテンテンが応える。

「アオくんは時空間忍術も得意よ」

「も、って…えっと…アオ先生が苦手な忍術ってあるんですか?」

「……」「………」

顔を見合わせたイズミとハナビだが、思いつかず。

「しかし、時空間忍術に才能が有るとはね」

「うう、どうせ巻物から忍具を取り寄せる事しか出来ませんし…」

もはややけくそ気味のテンテンだった。

「いやいや、時空間忍術の才能は得難い物だと思うよ」

「例えば?」

どんな事が出来るのかとテンテン。

「単純に口寄せの動物と契約出来ればそれだけで戦力は高まるね」

「うぅ…そう言うのって一族契約とか、よほどの縁が無ければ口寄せ獣契約なんて出来ませんよ」

「確かにね」

こらこらイズミ、テンテンを凹ますなよ。

「特殊忍具を口寄せするとか。炎が出る刀とか風を巻き起こす団扇とか」

「そう言う物ってどこに行けば手に入るんですか…」

テンテンのテンションが下がる一方だ。

「時空間忍術を極めるとこういう事も出来るぞ」

そう言って一本の特殊クナイを取り出すと遠方の木に向って投げた。

「飛雷神の術」

コンと音を立てて突き刺さったクナイの元へと一瞬で飛ぶアオ。

「え、…え?…今のどうやったんですかっ!」

ようやくテンテンのテンションも上がった様だ。

「飛雷神の術。口寄せの応用なんだけど、イズミとハナビは下手くそだからなぁ」

「使えない訳じゃ無いわ」

「そうよ。アオくんほど得意じゃないだけ」

「あ、あの…わたしも覚えられますか。その…飛雷神の術を」

「それはテンテンの努力次第」

「分かりました…頑張りますから、弟子にしてください」

改めて頭を下げるテンテン。

「おう。絶対うちの班員をボコボコに出来る位に育ててみせる」

「え?なんですか、それって」

「ああ。アオくんの班ってあれじゃん?」

「ええと。はい」

その辺の諸事情はテンテンも知っているらしい。

「で、自分の手を必要としないで離れて行ったから見返したいんだって。本当に子供なんだから」

「えー…」

「まぁ、アオくんは教えるの上手だし。大丈夫よ。死なないギリギリのラインを責めるのは得意だから」

「一気に不安になってきました…」



テンテンの修行は日進月歩ではあるが、蝸牛と言うよりも牛歩の速度だ。

「一応飛雷神の術は使えているわね」

とハナビ。

「はぁ…はぁ…はぁ…もう一度、お願いします」

「ほどほどにしておけよ」

アオが時空間忍術を教える傍ら、イズミとハナビがフィジカルを鍛えている。

今もハナビと模擬戦をしていたようだ。

テンテンは時空間忍術を得意としているのだが、飛雷神の術はやはり難しいらしく戦闘で使いこなせるまでには至っていない。

テンテンの方はまだ順調なのだが、深刻なのはこちらだ。

スカンと音を立てて木の的に突き刺さるクナイの音が響く。

イズミが投げたクナイだが、彼女にしては珍しく中心を外していた。

いや、珍しくない事に、だ。

「はは…外れちゃった」

おかしいなぁとイズミ。

「イズミ、どれくらい視力が落ちている?」

「い、嫌だなぁ…何を言っているの?」

「万華鏡写輪眼は使わなければ瞳力を増さないが、使えば使う程光を失う」

と言ったアオの言葉であちゃぁと肩を竦めるイズミ。

「アオって写輪眼マニアだものね。うちは一族でも知らない秘密をどうして知っているのかしら」

「………」

「はぁ…写輪眼で見えて三メートルくらいね」

「大分落ちているな」

アオの能力で視力を戻したとしても意味がない。なぜなら瞳力も弱まるからだ。

「はは…アオも酷いな…知っているなら教えてくれれば良いのに」

「教えたら使うのをやめたか?」

「それは…」

イズミはイズミで強さに貪欲だった。弱い自分が嫌いだからだ。

「まぁ、俺は写輪眼マニアだから、当然対処法も知っている」

「アオ?」

そんな事がとイズミ。

「遺伝的近親者の眼を奪えば良い」

「バカね、里に居るうちは一族はもうわたし一人よ…どうやって…」

「あの日…あのうちは一族が虐殺された日、暗部よりも先に俺が小母さんの眼を回収していたって言ったら…怒るかい?」

「そんな…」

「ただ、小母さんが万華鏡写輪眼を開眼していたかは分からない。写輪眼は使えていたみたいだけどね」

イズミは少し考え込んで口を開いた。

「それで視力が戻るのなら…まだ戦えると言うのなら。貰うわ。母さんの眼」

「そっか」

眼球の交換と言う高度な医療忍術の行使には綱手様を頼った。

この里に置いて彼女よりも腕の良い医療忍者はおらず、失敗は許されない手術だったからだ。

「たく、この私にこんな大事を持って来てからに」

手術室から出て来た綱手が医療衣を脱ぎながらため息を吐いた。

「手術は成功したんですか」

心配してアオと一緒に詰めていたハナビが問いかけた。

「この私を誰だと思っている」

「それじゃあっ!」

「完璧だよ。しばらくすれば包帯も取れるだろうさ」

それを聞いたハナビは喜んでイズミの待っている病室へと急ぐ。

「それにしても、イズミの写輪眼は失明直前とは言えどこに白眼なんてあったんだ」

………え?

数日してイズミの包帯が取れる。

クルクルと包帯を外す綱手。

「どうだ、視えるか?」

ゆっくりとイズミは瞼を開いた。

「視えます…はっきりとっ!」

そう言って気色ばんだ。

綱手は良かったと言い、特に違和感は感じて無いらしい。

が、アオは滝のように汗がにじみ出ていた。

「え…?イズミ…それ」

「……どうしたの?」

「どうだ」

そう言って綱手から手渡される手鏡に映っていたイズミの顔。その両目は薄紫色の虹彩をしていた。

「え……これってどう言う事…?」

「どう言う事とはどう言う事だ?まぁ、どうしてアオが白眼なんて持っていたのかと思う所はないでもないが」

と綱手様。

「ま…」

「ま?」

なんだと綱手。

「ま…ま…」

「ママ…?」

お母さんとハナビ。

「間違えたーっ!」

アオ絶叫。

「渡す巻物を間違えたっ!?」

ガシっとイズミがアオの肩を握る。

「痛い痛い…ちょっと落ち着いて、な?」

「これが落ち着いていられるかっ!」

感情のままにアオを揺さぶるイズミ。

「なんだ、何か手違いが有ったのか?」

綱手がアオを向く。

「本当はイズミの母親の写輪眼を渡すはずだったんですけど」

間違った巻物を渡したらしい。

確認もしなかったアオが悪い。

「うぅ…何で白眼なんか…」

「ちょっとイズミっ!いくら親友でもその言葉は聞き捨てならないわ」

「ご、ごめんなさい」

白眼に誇りを持っているハナビに凄まれた勢いで謝るイズミ。

目元付近の経絡系が浮き上がっているハナビは普通に怖い。

「あれ、でもイズミ。写輪眼使えてるじゃん」

「え?」

急いで鏡を確認するイズミ。

するとそこには真っ赤な瞳に基本巴の写輪眼が浮かんでいた。

「アオ、説明せんか」

綱手が強めにアオに迫る。

「えっとですねぇ…」

としぶしぶと少し前にナルトを襲った大筒木ウラシキと名乗る敵の話を伝えた。

「ぶっ殺して奪い取ったぁ?」

綱手が呆れた声を上げる。

「それも輪廻眼だと…?」

「あの、輪廻眼ってなんですか」

とハナビ。

「輪廻眼は忍の祖と言われる六道仙人が開眼したとされる眼の事だ。まさか…実在しようとは…」

「だけど、その説明ならば白眼である事と写輪眼が使える事の説明になってません」

「それはそうだが…おいアオ」

じろりとアオを睨む綱手。

ハナビとイズミの視線も向いた。

「もともと輪廻写輪眼と言うのが有って、その劣化が輪廻眼。さらにその劣化が万華鏡写輪眼、そしてその劣化が写輪眼なんです。白眼は俺も知りませんね」

「劣化とは…いやまて逆に言えば写輪眼の最終到達は…」

「そんな者が現れるかは分かりませんが、そう言う事です」

「はぁ、私は疲れた。聞かなかった事にしたいくらいだ」

「あの綱手様」

「なんだ」

「もう一度手術をしてもらう事は…」

「視神経も経絡系も奇跡の様に上手く繋がっている。同じことをもう一度やれと言われても私は嫌だ」

「そんな…」

「お前の気持ちも分からんでもないがな。まぁ諦めてくれ。次は失明するかもしれん」

そう言うと疲れた感じで病室を去る。

「アオ」

「ごめんなさい」

すぐさま平謝りだ。言い訳するとヒートアップするからなぁイズミは。

「はぁ…まあいいわ。視力低下はしないのかしら」

「それなぁ…まぁ見た感じ大丈夫そうでは有るな」

とアオ。

「まって、じゃあわたしも写輪眼に覚醒なんて事にっ!」

「そんな事になるなら俺はとっくに覚醒しているな…って痛い痛いっ!」

ハナビの手がガっと頭を掴むと万力の様に締め上げられて堪らずアオは悲鳴を上げた。

「じゃあ逆にイズミは白眼を使えるの?」

「さあ?使い方が分からないもの」

「要修行ね」



……

………

結果としては、ハナビの修行で白眼を使えるようにはなった様だが、その精度はハナビやアオに遠く及ばないものだった。

そしてイズミの力不足なのか輪廻眼も使えないようだ。

「まぁ、万華鏡写輪眼が使えるのだから問題はないわ。むしろ最初からなかったってだけよ」

「へぇ、そんな事が有ったんですね」

とは久しぶりに一緒に修行しているテンテンだ。

「それで、視力の方はどうなんですか」

「これが悔しい事に以前よりも良く見えるのよね。良く馴染むと言うか」

「普通輪廻眼なんて入れたら自我を食われそうなものだが…どうしてだろうか」

とアオも首をひねった。

これは後で知った事だが、あの眼をくり抜いて元の状態に戻した時アオイの記憶にない所でアオの能力で完全に支配(強奪)していたらしい。

その為に自我を食われずに済んでいるのだ。


最近、ハナビが少し考え事をする時間が増えたのか、修行中ボーっとしている時間が見て取れる。

「ハナビ、何かあった?あなたが悩むなんて珍しいわね」

そうイズミが言う。

「わたしだってたまには考え込むわ」

アオはテンテンと暗器の修行中で聞き耳を立てる事もない。

「何、面倒な話?話せばすっきりする事もあるわよ」

秘密の話にはいいタイミングだった。

「ちょっと日向家でね…面倒な話が幾つも重なって、どうしようかな…て」

「面倒事?」

何よとイズミ。

「一つはあなたにも関係が有る事よ」

とそう言ったハナビはクナイをクルクル回しながら岩の上に腰かけた。

「わたし?」

「と言うか、あなたの白眼が問題ね」

「ああ…」

白眼は日向家の血継限界で、管理を徹底したい日向家は分家に呪印を刻むほどだ。

その管理を逃れている白眼が今木ノ葉の里に二人居る。

アオとイズミだ。

アオは血の薄まった分家でもう何代も白眼を開眼した事のない家系だったために忘れられ、イズミのそれは出所がはっきりしない。

日向家の分家には籠の鳥の呪印が刻まれ、死ねばその能力を封印する。

例え生きたまま奪われたとしても、それがまさか木ノ葉の里では有ってはならない事態だ。

イズミのそれは嘘を吐くよりはと本当の事を綱手経由で日向家に伝えられたのだが、それはそれとして納得できかねるらしい。

「イズミに宗家の呪印を刻むって言ったらどうする?」

「ハナビには悪いけど日向家の連中をボッコボコにしてやるわ」

勝てるとは思わない事ね。と鼻息を荒くするイズミ。

「やめてあげて…父様でもイズミに勝てると思わないから…」

アオの修行の成果か、イズミの実力は火影を除けばこの里で三指に入る。

「まぁ、そんなふざけた事を言った身内はすでにわたしがボコボコにしておいたから」

許してあげて、とハナビ。

「ありがとう」

イズミもハナビの隣に座った。

「どういたしまして。でも、まぁ状況は複雑なのよ」

プラプラと足を揺らしながらハナビが呟いた。

「まぁそこは理解しないでも無いわ。わたしもうちはだしね」

写輪眼が散逸してはうちは一族も似た様な事をしただろう。

はたけカカシが色々な事情から特別なだけで、血継限界を持つ家系は闇が深い。

「それと、わたし達ももう結婚適齢期じゃない?」

「そ、そうね…」

忍者の平均寿命は短い。

戦没者が多い為、現役を引退出来る忍者は少なく、一族の秘伝忍術や血継限界を残す為に結婚の若年齢化が進んでいるのはしょうがない事だ。

「父様がお見合いしろって。相手は日向家の適齢期の男性らしいわ」

「結婚するの?アオの事はどうするの」

もう十年以上もの付き合いがあるイズミにはハナビの気持ちはバレていた。

「それはイズミもでしょ」

「……そうね」

「まぁ、日向宗家はわたしが継がないとだから、結婚はしなきゃかな」

「諦める?」

「…………」

ハナビの表情が曇った。しかし、次の瞬間、はっとして立ち上がった。

「そうだっ」

「な、なに?」

「良い事を思いついちゃった」

さも良い事とハナビに生気がみなぎる。

「だから何?」

「むっふっふー。宗家の事も白眼の事もお見合いも全てまるっと解決できる取って置きの作戦が有るの」

「そ、そうなの…わたしに出来る事が有ったら協力するわ」

「もちろんよ。むしろイズミの協力は必須だしね」

「ええっと…ちょっとこの暴走したハナビをどうしようか…」

こうなると止められないと長い付き合いでイズミは達観していた。

「大丈夫。全て解決間違いなしっ!」

「なぜだろう。すごく不安だわ…」



……

………

どうしてこうなった。

アオは今木ノ葉の大きな披露宴会場で人工のライトに照らされて汗をかいている。

白い純白のレースの飾られた長机の向こう側に座り、両側に白無垢を着た少女が座っていた。

一見すれば結婚式の披露宴のようだが、なぜか両側に花嫁が居る。

「まさか死ぬ前に弟子の結婚式に出られるとはのう」

とは弱り切って車椅子で駆けつけてくれた猿飛ヒルゼン、三代目火影その人だ。

「あ、ありがとうございます…」

「まぁワシはどちらかとはくっつくと思っていたが、まさか両手に花とはのう」

羨ましいものじゃ、とヒルゼン。

「ははは…」

重要書類だと言われて署名したサインがまさか婚姻届けだと誰が思う?

ハナビの事は長い付き合いだからと油断は有ったが、まさかこんな事になるとは。

「なによ、不満なの」

とイズミ。

「そんな訳ないわよね。こんな美人二人と結婚出来るんだから」

そうハナビが言った。

「あ、ああ。不満はない。不満は無いが…周りの視線が人を殺しそうで」

日向家から、いやハナビの父親のヒアシ様からのプレッシャーが重い。

「しかしまさかこれが全てを解決する秘策だとはね」

と若干呆れているイズミ。

「でも丸く収まったでしょ」

そう。白眼の事も籠の鳥の呪印の事もハナビと結婚して宗家に入ってしまえば確かに解決する。

「綺麗です。ハナビ姉様。イズミ姉様」

「そ、そうかしら…」「ありがとう、ヒナタ」

血継限界や秘伝忍術を宿す一族で重婚は珍しくは無かった。

血を残す事が一番に求められるからだ。

その制度を逆手に取ったハナビの策略は、思うよりも上手くはまった。

「結婚おめでとうございます。まさかアオ先生がこんな事になるとは」

とテンテンは少し複雑そうだ。

「ほら、ネジも」

「あ、こらテンテン」

テンテンに押されて正面に立つネジ。

「おめでとうございます。分家一同心よりお祝い申し上げます」

「いや、まぁ…うん。ありがとう。ネジ」

テンテンとの繋がりで最近は顔を合わせる機会の多かったネジにそう言われると複雑だ。

「かー、ただ酒はうまいなぁ」

賓客席で豪快に酒瓶を煽る綱手。

「綱手様、飲みすぎですよ」

後ろに控えたサクラがたしなめた。

「これ綱手。そんなんだからいまだに嫁の貰い手がないのじゃ」

ヒルゼンは綱手の隣でため息を吐いた。

「うるせーなこの老いぼれジジイ。酒くらい自由に飲ませろってんだ」

披露宴が無事に終わると、宗家に建てられた離れで暮らす事になる。

そこで結婚初夜…とはいかなかった。

ヒアシが日向総出でアオを出迎えたのだ。

そう、殴り愛である。

「アオくんガンバって」「頑張れ。わたしは疲れたからもう寝るわ」

「この裏切者っ!」


「大丈夫かしら、アオ」

部屋に引っ込んだイズミが呟く。

「まぁ、アオくんだもの。上手く手加減するでしょう」

「だと良いんだけどね」

それにしても、とイズミ。

「まさかうちはのわたしが日向になるとはね」

「嫌だった?」

ふるふると首を振る。

「わたしはきっとアオ無しじゃ生きていけないから。うちはは愛情深い…いいえ、愛に依存する一族だからね。でもハナビは何故?そんなにアオの事好きだった?いや好きなのは知ってたけど、日向家の事情に巻き込めるほど?」

「わたしも譲れないから。たぶんずっと前から」

「お互いに難儀なものね」

「でも、お互いにとって最良だったでしょう」

「たしかに…ね」

ふあと欠伸をするイズミ。

「わたしはもう寝るわ。今日は帰ってこないでしょうしね」

「そうね。お休みイズミ」

「お休みハナビ」

そう言って電気を消して布団で休む。


そんな二人をしり目に彼らの戦いは次の日朝日が昇るまで続き、そこには死屍累々の男達が倒れていたそうだ。

「認めざるを…得ん…な…ガク」

「勝ったぞーっ!!」



……

………

三代目火影、猿飛ヒルゼンはアオ達の結婚式を見届けた後、安らかにこの世を去った。


「上忍昇格、おめでとう、テンテン」

「あ、ありがとうございます。でもどうしてあたしの部屋?」

クラッカーの舞うのはテンテンの自室のようだ。

部屋の壁には多くの忍具が飾られている。

その中央のテーブルにはアオが作ったらしい料理が並び、アオ、ハナビ、イズミがクラッカーの糸を引いている。

「日向家でくつろげるか?なら今からでも」

「わぁ、ありがとうございますっ」

アオの答えを聞かなかった事にしたらしい。

「まぁいい。上忍昇格祝いだ」

「あのテンテンがもう上忍とはね」

「さすがにわたし達の弟子ね」

「なんですか、これ」

「もう少しもったいぶって開けてくれ」

手渡された包装された木箱をビリビリと破き中に入っていた一組のリストバンドのような物。

装着するとリストバンドから伸びた線が手のひらへと延びていてその先にボタンのような物がついていた。

「これ、ボタン」

「あ、こらっ」

右手で左手のボタンを押したテンテン。

左手首の向いた先には不幸にもアオの姿が。

ヒュっと飛び出たチャクラ糸をどうにかアオは体をずらして回避したが、飛ばされた糸はアオの後ろに有った大きな手裏剣へと付着。

「ご、ごめんなさいっ」

そのまま手首を引いたテンテンに引き寄せられるかのように宙を浮く。

「きゃっ」

しかしそこは忍者。自分の暗器で怪我をするわけもなく、その手裏剣を受け止めた。

「な、なんですか。これ」

「アオ」

ハナビが呆れていた。

「いや、最近面白いヤツと知り合ってね。そいつが開発した新しい忍具なんだ」

忍者の居る世界なのにどこか別のベクトルに才能を開花させたようなヤツだった。

「どうやって使うんですか?」

「掌のボタンを押すとチャクラ糸が飛び出る。もう一度押すと糸が切れる仕組みだ」

「また変なものを…」

「一つの事しか出来ないが、印を必要としない分即効性のある忍術忍具だな。使い方は多いだろう」

「へぇ、面白いですね。これ」

しばらく色々いじっていたテンテンがそう言えばと問いかける。

「なんていう名前の忍具なんですか?」

「そうだなぁ…宇恵舞手雨多(ウェブシューター)とか」

「変わった名前ですね」

とテンテン

「わたしはこれね」

そう言って取り出されたのはつづら折りの紙だ。

「修行チケット…?」

「わたしと修行したいときに使ってね」

ハナビよ、なんて安上がりな…

「…あ、ありがとうございます」

ほらテンテンが微妙な顔をしているぞ。

「じゃぁ最後はわたしか」

イズミが取り出したのは小さな巻物だ。

机の上で開かれたそれは口寄せ契約の巻物に似ている。

「それはなんですか?」

とテンテン。

「これはわたしの抉り取った眼よ」

「え?」

なんと猟奇的な回答だった。

余りの衝撃にハナビですら若干引いていた。

「そんな引く事ないじゃない」

いや、引くだろ。普通。

まぁ良いわとイズミは続ける。

「正確にはわたしの写輪眼ね。あ、もちろん前のよ」

前と言われても、とテンテン。

「それを私の万華鏡の能力で巻物に封印したの。憑依口寄せの要領でその能力を使えるはずだわ」

「い、良いんですかっ!?そんな物を頂いてっ!」

「まぁあなたくらいの口寄せの適正が無ければ使えないでしょうしね」

凄い事をしでかしたな、イズミは。

「ただしカカシさんを見れば分かる様にうちはじゃないあなたにはチャクラ消費が厳しいでしょうし、万華鏡写輪眼なんか使ったら最悪チャクラ切れで死んじゃうかもしれないわね」

はたけカカシは写輪眼で有名だがすぐにチャクラ切れを起こすらしく良く寝込んでいる事でも有名だった。

「う…」

「でも、暗器使いのあなたには有用でしょう?」

相手の攻撃を見切れる眼はどんな攻撃に対しても有用だ。

「は、はい…心して頂きます。あ、ありがとうございます」

そう言って巻物と口寄せ契約を交わすテンテン。

「た、確かにチャクラ消費がきついですね」

使ってみてと言われたテンテンは口寄せ写輪眼を使ってはみたが、チャクラ消費の激しさからすぐに還してしまった。

「まぁ、要修行ね。せめて食没か仙術が使えればね」

チャクラ消費以上のチャクラ容量が有れば問題ないとイズミが言う。

「食没?仙術?…なんですか、それ」

「まぁ、その為にわたしのチケットを使いなさいな」

とハナビの言葉。

「う、はぁい。ありがとうございました、三人とも。本当に有効に使わせてもらいますね」


そんなこんなで時は過ぎ…

火影室にて。

「ナルトが里に戻ったそうだ」

と綱手。

「へぇ、それじゃ第七班の復活ですか」

「いや、お前も新しく下忍を持った。担当上忍は別の者になる予定だ」

先日アカデミーを卒業した三代目火影の孫である猿飛木ノ葉丸を含む三人の下忍の担当に新しくついていたアオ。

「まぁ、三代目の弟子である自分が適任だと言うのは分かりますがね」

「どうやら相談役達はお前をナルトに付けさせたくないようだな」

この三年、アオやハナビ、イズミの活躍は目を見張るものが有り、イズミ、ハナビの班員は全員中忍に上がり、アオに師事したテンテンは上忍へと育て上げた彼らの評価は高く、日向家と言う事もあって里の支持を増やしていた。

そんなアオに九尾の人柱力であるナルトまで手懐けさせる訳には行かないと思ったのだろう。

「担当上忍にははたけカカシを付ける」

「面白く無さそうですね」

「権力に執着する老人どもには苦労する」

はぁと綱手はため息を吐いた。

「ナルトの説得は任せる」

「ええ、面倒くさいなぁ」


里内を歩いていると騒がしさを感じ視線を向けるとどうやら木ノ葉丸とナルト、サクラがなにやら悶着を起こしているよう。

何かが有ってナルトが殴り飛ばされていて、木ノ葉丸は逃亡を計っていた。

「よ、ナルト。成長…したな…身長は」

サクラに思い切り殴られたナルトに向けてそう挨拶をする。

「あ、アオ先生。久しぶりだってばよ」

「ああ、久しぶり」

男同士の再開なんてこんな物だろう。

「よし、これで第七班再結成だってばよ」

バシンと両手を叩くナルト。

「あー…悪いんだけどね」

と事情を説明。

「えーーーっ!アオ先生ってば俺達の担当じゃねーってのかっ」

どうして、とナルト。

「三年も居ないんだもの。俺にも生活があるって」

それに、とアオ。

「三年勝手したのは自分だ。何もかも元通りになると思わない事だ」

「俺にはまだよく分かんねぇ、分かりたくねぇってばよ」

「そう言う所がガキだって言うんだ。大人になれよ」

「いーや、綱手のばーちゃんに直談判に行って来るってばよっ!」

「あ、ちょっとナルト」

サクラが手を伸ばすよりも速く走り去る。

「まぁ、無駄だと思うけどね」

それとサクラとアオが言う。

「はい」

「この人事は少しきな臭い。気を付けるように」

「分かりました。綱手様でもどうにか出来ない事態って事ですね」

「そう言う事だな」

結局、ナルトの申し出は綱手に却下され、カカシが担当上忍としてスリーマンセルで任務へと駆り出されて行った。





世界はナルトの帰還を待っていたかのように加速していく。

暁と言う組織の胎動。

暁と名乗る組織が風影である一尾の人柱力を襲ったらしい。

その救援に駆けつけたナルト達がどうにか事件は解決したらしいのだが、一尾は奪取されてしまったのだと言う。


あー…火影様…俺の事を働かせすぎじゃないですかね…」

「なーにを愚痴を言っておる。今から雨隠れの里に潜入しようと言うときにのう」

雨に打たれながら現実逃避をしていた俺を引き戻す白髪の男。

「潜入任務なぞこの自来也様一人で十分と言うのに綱手のヤツがどうもイヤな予感がすると付けて寄こしたのがお主とはのう。新婚なのについてないのう」

アオは今伝説の三忍と呼ばれた自来也の隣に居た。

「…どうしてここに居るのでしょうね」

自来也が暁の本拠地と思われる雨隠れの里へと訪れていた。

しかし…

「それは…お主が実力を見せすぎたのが敗因よのう」

はぁ…と深い溜息を吐く。

「綱手がわざわざ寄こすくらいだ。そこらの上忍とは一線を隔すのだろうのう」

「ははは…」

力なく笑う俺。

「俺は飛雷神の術を使えますからね。いざと言うときの脱出要員と言う事でしょう」

「ほう、ミナトの飛雷神を使えるのか。そいつは確かに潜入任務に連れて行けと言うのも分かるのう」

ふむと手を顎に添えた。

「ホレ」

「……?男の胸を見せられてもうれしく無いのですが…」

「アホかっ己はっ!ワシとておなごの前で肌をさらしたいわっ!そうじゃなく飛雷神の術はマーキングした所に飛ぶ術のはずじゃ」

ああ、なるほど。

「確かに…そこが一番でしょうね。でも良いんですか?」

右胸、心臓の上に術式を刻めと言っているのだ。そこならば体が欠損して飛べないと言う確率を極限まで減らせる。

そもそも心臓をやられれば死ぬのだから必死になって守るだろう。

「何、お主を信用している綱手を信じるだけよのぅ」

「器がでかいわ…やっぱり伝説の三忍と呼ばれるだけは有る」

「それはもう昔の話じゃろう。今じゃ木ノ葉に三輪ありと言われているそうじゃないか」

「え、なんです?」

「知らぬは本人ばかりかのう…」

自来也が雨隠れに単騎侵入した後に飛雷神の術で飛ぶ。

そこからは分かれて諜報活動。

「こう言うの、苦手なんだけどなぁ…」

スニーキングミッションはあまり得意じゃないようだ。

「白眼っ!」

キィンと視界が広がる。

広大な雨隠れの里の一番高い塔。そこだけ白眼でも見えず視界が歪んだ。


自来也が良い感じに敵の注意を引き付けてくれている内に…

特性クナイを一本遠投させる。チャクラで強化されたそれは塔の天辺付近に突き刺さったのを見て取ると俺は飛雷神の術で飛ぶ。

薄暗い部屋の中、大きな車いすのようなものに乗るガリガリの男。

彼の眼は薄紫に染まり螺旋状に渦を巻いていた。

輪廻眼っ!?

「まさかここに小南以外に来客が有ろうとはね。自来也先生は陽動か」

「そう言う訳じゃ無いのだけれどね」

「ここに来たと言う事は俺がペインだと知ったと言う事。生かして帰す訳には行かない」

「それは俺も同じだ。俺はお前を殺さなくても良いが、その眼は潰したい」

その眼は色々面倒そうだ。

「眼…これが輪廻眼と知っているか…お前…」

俺はクナイを取り出すとペインに向かって駆ける。

「神羅天征」

「この術はっ!!」

記憶の奥底で似た技を喰らった記録を思い出す。

この術は斥力を操るっ!

「猿武っ!」

全身の細胞を操り斥力を受け流す。

「なっ!」

まさか吹っ飛ばないとは敵も驚いた事だろう。


「油断だなっ!」

取ったっ!と必殺のクナイがペインの眼を抉る…その前…ペインの肩から機械仕掛けの腕が生え俺のクナイを弾いた。

「なっ!?」

修羅の攻で他世界の化学技術によるカラクリを口寄せしたのだ。

キュィーン

腕が開きレーザーが収束する音が聞こえる。

「うっそっ!」

回避…どうやって?口径は?速度は?熱量は?

そんな疑問が俺に飛雷神の術を使わせる。

すぐにさっき投げたクナイへと飛ぶ。

ドンと壁を破壊する音が響く。

キュイーン

第二射。これはかわせるタイミングではない。

すぐに刺さったクナイを手に取ると軌道外へと投げ放ち、飛ぶ。

ドンッ

二射目も何とかかわせた。

だが…

「終わりだな」

レーザーが二門に増えていた。

クナイを投げるが投げたクナイを正確にレーザーが狙っていた。

ジュッと打ち砕かれるクナイ。

レーザーは俺の体を狙っている。

だが、甘い。

影クナイの術。

クナイを投げた時、その視覚の陰にもう一本クナイを投げていたのだ。

これでチェックメイトと飛べば口寄せされたペイン六道が現れた。

その数6体。

「邪魔だぁっ!」

大技で薙ぎ倒そうとしたその先、ペインの一体が今まさに息絶えそうな自来也の体をぶら下げていた。

「くっ…」

瀕死ではあったがまだ生きている自来也を見て攻撃を止めてしまった。

「どうする、自来也ごとやるか?」

うぅぅ…

木遁・樹界降誕

乱立する巨木。

「何っ!?吸い取れないっ」

どうやら敵は忍術を無効化する術があるようだが、実体を伴う術は対応が難しい。

だが、相手には神羅天征がある。実体を伴う分弾くのも容易だった。

が、これは目くらまし。

乱立する巨木、弾かれる枝を白眼で見切り避けつつ自来也に接触するとそのまま飛雷神の術を使う。

「…逃げたか。これは急がねばなるまい」

敵は落ちていたクナイを手に取ると万象天引で雨隠れの外まで弾き飛ばしていた。


飛んだ先は火影室。つまり綱手様の所だ。

「自来也っ!?」

「すぐに救護を、速くっ!」

「く、シズネとサクラを呼べ。大至急だ」

傍に居た火影の護衛にそう伝達すると綱手はすぐに自来也に寄ってチャクラで治療を始めた。

「死ぬな、自来也…わたしを一人にするな」

潰された喉、肺、心臓機能はアオが念能力で治していたが、無くなった腕の回復は物が無い為に不自然だったがゆえに治せず終い。

しかし自来也はどうにか一命を取り止める事に成功したのだった。

病院のベッドの上。

「どうやら死に損なったようだのう」

「自来也…良かった、本当に…良かった」

「綱手…」

と腕を持ち上げようとした自来也だが、その左手がついてこない事でようやく失った事を思い出したらしい。

「輪廻眼相手に腕一本で生還出来ただけでも儲けものだのう」

「自来也…それで何があった」

と綱手はすでに火影の顔に戻っていた。

「それがのう…」


……

しばらくしてサスケが大蛇丸を倒したと言う噂が所かしこで囁かれていた。

寧ろこれは噂を意図的に流しているのだは無いかと言うレベルだ。

そこで急きょ第七班を中心とした班に任務が言い渡される。

イズミは第七班の隊長を務めるカカシと共に任務を受けていた。

任務はサスケの捜索及び捕縛。

それとイズミは万華鏡写輪眼を開眼しているクラスの瞳術使いだ。つまりもしもナルトが暴走した時の抑止だった。

ナルト、ヒナタ、イズミとカカシ先生が付けた忍犬とでスリーマンセルを組み、他にもいくつも班分けをしてサスケを追う。

しかしそれを邪魔する存在が現れた。

グルグルの変な仮面を着けた男だ。

暁が着ていた意匠のマントを羽織っている所を見るとおそらく暁のメンバーと言う事なのだろう。

「いやぁ、まさかこんな所で木ノ葉のみなさんとバッタリなんて…しかも八対一とは分が悪い」

「分が悪い?」

その軽い口調からも自身が絶対優位に立っていると疑わない。

ナルトが影分身で突っ込んだが、まるで透けるようにその体を通り抜けてしまっていた。

「ヒナタっ」

「実体です。攻撃がヒットする瞬間まではチャクラの揺らぎも変化は有りません」

「そうね。私の写輪眼もそう視えたわ」

「ほう、白眼に…写輪眼か。まさかカカシ以外にも写輪眼を使いこなすやつが居たとはな…まさか10年前に殺しそびれたヤツが居たのか…まぁどうでも良いが」

と仮面の男。

ナルト、キバ達短気な奴らが交戦を始める。数はこちらが優位なのだ、観察させてもらうと写輪眼で見つめるイズミ。

しかし、その攻撃の悉くはすり抜けられてしまう。また油女シノの蟲を使った全方位攻撃すらすり抜ける。

「消える前まではアイツのチャクラは確かにそこにあった…」

消えた仮面の男。

「ヒナタっ」

誰かが白眼を持つヒナタを呼ぶ。

「あそこっ」

まったく別の所に現れる仮面の男。

「これは…時空間忍術の一種ね。体の一部、または全部を別の空間へと置換する」

「ほう…良い眼をしている」

「…写輪眼」

仮面の男の開いた視界から覗く赤い瞳。

「写輪眼だとっ!?」

驚く面々。しかしイズミは冷静だ。

「印も結ばずにすり抜けると言う事はそれは瞳術、つまり」

「万華鏡写輪眼かっ」

言葉を繋げるようにカカシが叫ぶ。

「万華鏡ってなんだってばよ」

「簡単に言えば、すごい写輪眼だよ」

「…ヒナタ、それはちょっと…」

「え…え?」

ヒナタに簡潔に略されてうちは一族であるイズミは少しやるせない気持ちに陥った。

「正体を暴いたくらいで粋がってもこの俺の能力は無敵だ」

「今度こそっ螺旋丸っ」

ナルトが空気を読まず特攻。

「確かにダメージを与えられないのだもの、そううそぶくのも頷ける…だけど同じ瞳術使い同じ写輪眼使いである私の前で見せすぎね」

「無駄だと言う事が分からないのかなぁ」

そしてすり抜けようとした仮面の男だが…

「うらぁっ!」

「なにっ!?」

ダンと回転しながら後ろの巨木に叩きつけられる仮面の男。

「がぁっ…」

仮面の下で血を吐いたようだ。

「当たったってるってばよっ!でもどうして」

理由は簡単。イズミの万華鏡写輪眼は術を封印吸収する。それは瞳術であっても変わらない。

つまりすり抜ける瞬間にその術を封印したのだ。

「良いから畳みかけなさい」

「何か分かんねーが…行くぜ赤丸」

「あんあん」

「牙通牙」

「くっ…」

しかしキバ達の攻撃は仮面の男に再びヒットする。

「万華鏡とは…油断した…いったいどう言う能力かは分からんが俺の万華鏡を封じるとはな…良い眼をしている」

「余裕ね。あなたの術は私が封じていると言うのに」

「ああ、だから今回は逃げさせてもらう」

「させるかってばよっ」

とナルトが飛びかかる。

卯・亥・未

仮面の男が印を組んで身構えた。

イズミは印を読み取ってはいたが、どういう効果か分かるまではと万華鏡による封印術を使わない。

ナルトの螺旋丸が仮面の男にヒットして吹き飛んでいく。

「あちゃー、ひどい事をする」

突如真後ろに現れる仮面の男。

「またすり抜けかっ」

とカカシ。

「違うってばよ、今度はちゃんと当たってたっ!」

男の左目を覆っていた仮面がはがされ穴が開いている。

そこから覗くのは写輪眼だ。

「ヒナタ」

「分からない…分からないけど突然…それこそ現実を書き換えたように現れたのっ」

「と言う事はあの時組んだ印が…」

「だけどこっちの攻撃は有効なんだっカンケーねぇってばよ」

とナルトが再び突貫。

しかし今度はその攻撃をすり抜けた。

「どう言う事、イズミ」

とカカシ。

「っ!なぜ…どうして…」

イズミにも目の前の光景は分からなかった。

「ヒナタっ!」

コクリとヒナタが頷くと印を組んでチャクラを込め始める。イザとなればアレを使ってでも…

しかし確かにすり抜ける術は封印したはずである、がしかし現実に男はすり抜けた。

その時木から生えるように得体のしれない半裸の男が現れる。

「サスケが勝ったよ。イタチは死んだみたい」

「そうか…」

と仮面の男。

「イタチくんがっ!?」

それに一瞬イズミが動揺する。

イタチは母殺しの仇である。しかし、イズミはサスケほどに子供ではなく、うちは一族に流れていた気配とイタチの決意をどこかで感じ取っていた。

だから復讐と言う率直な手段に走らずにいられたのだ。とは言え、その大半はアオが居たと言う事が大きい。

彼が居なかったらイズミもイタチを追って復讐に走っていたと自分でも思う。

「なるほど…この場はお前たちが強い。まぁ、言いたい事は言えたしオレは帰る。精々生き足掻け、まもなく終わるこの絶望の世界をな」

「消えた…」

それだけ言い置くと仮面の男は渦を巻くように消えて行った。

「一体何が…」

とヒナタ。

「逃げられたわ…でも、こういう時アオが居ればと思わなくはないわね」

「はい…アオ兄さんならシレっとした顔で術の効果を言い当てそうです」

「そうね」

とにかく時間を稼がれサスケを追えずじまい。仮面の男には逃げられて散々な任務となったのだった。





ペインとの戦いにより自来也は負傷…片腕を失った状態ではもはや忍者としては戦えない自来也は本格的にナルトに仙術を教える気になったらしく妙木山へと拉致して行った。

「お前も来いのぉ」

「何故にっ!?」

「四代目の術を悉く修めとるお前じゃ、仙術もものに出来るかも知れん」

「すわっ!?」

問答無用で逆口寄せに巻き込まれる。

「自来也ちゃんや、仙術の修行はナルトちゃん一人じゃなかったかいの?」

じいちゃんカエル…フカサク様だ。

「そこなんですが、コイツにも教えてやれねーですかいのぉ」

「コイツにか?」

とジィっと見るフカサク様。

「ダメじゃ、必要ないの」

「そこを何とか頼みます」

「そうじゃない。コイツ、自然エネルギーの匂いをさせとるしのぅ…お主…仙術使えるじゃろう?」

ギクッ

「あはははは…」

「なんだ、アオ先生はその…仙術って言うのは使えるのか?」

と興味津々のナルト。

「あはは…誤魔化されては…くれませんよね…」

「本当か。…なんと、…ちと見せてくれんかいのぉ」

と自来也までも言って来る。逃げ道は無かった。

「良いですけど…ここはちょっと…自然エネルギーの匂いが…」

「匂い…?」

「本来自然エネルギーはあまり匂いは付かないものなんですが…ここはちょっとカエル臭くて…まぁやってみますけど」

と両手を合掌させて自然エネルギーを取り込むと、目元にうっすらと隈取が出来、開いた眼には横に伸びる瞳孔に変じていた。

カエル化である。

「こりゃ驚きじゃ…ほとんど完璧に自然エネルギーを取り込んでおる」

とフカサク様。

「やっぱり少しカエル化しちゃいましたね…」

「お主…どこで仙術なんて覚えたんじゃ?」

「水簾洞で仙猿に習いました」

「猿飛一族の秘伝か、ヒルゼン先生…」

「よっしゃ、それじゃオレもすぐに仙術ってのをマスターしてやるってばよっ!」

ナルトの仙術修行は順調のようだ。

自来也さんが時折ため息を吐いているほど。


「そろそろ良いころ合いじゃかのう」

と自来也。

確かにナルトは良い感じに仕上がっている。

「そろそろ仙術の弱点を教えるころじゃて」

そうフカサク様。

「なになに、なんだってばよ」

「まぁ聞けナルト。仙術にはちぃっとばかしデカい問題が有るのよ」

そう自来也がナルトに説明し始めた。

仙術の弱点は動きながらでは自然エネルギーを取り込めない。

仙人モードは持続時間が短い。

と言う問題点をはらんでいた。

「ど、どうすんだってばよエロ仙人っ!これじゃ実戦で使えねーってばよっ」

「まぁまて、だからそれに対する解決法もちゃんとある」

とフカサク様との融合を説明し、両生の術でどうかしようとしたフカサク様は何者かの拒絶により弾かれていた。

「…どうやらお主の中に居る九尾が拒絶してるようだのぉ」

「えー、それじゃどうするんだってばよっ」

「どうしようかのぉ…おお、そう言えばお主はどうしておるんじゃ?」

と自来也が俺に振った。

「俺?…俺か…ふむ」

言われて目の前で掌を合掌させると自然エネルギーを誘引する。

一瞬で目の周りに隈取が現れた。

「なっ」

「これは…」

「…なんだ、結局動けないんじゃ意味ねーてばよ」

「バカもの、よく見てみ。こやつは一瞬で自然エネルギーをかき集めよる」

「へ?」

「俺が習ったのは仙猿なので、両生の術は使えません。なのでどれだけ素早く自然エネルギーを集め、どれだけ仙人モードの持続時間を長くするかが課題。その一つの答えがこれ」

「……ただの修練…ほんにお主はワシの想像の斜め上を行くのう」

「つまりはどう言う事だってばよっ!」

「要するにだ。こいつも仙術チャクラを練るときは動けん。これは一緒だ。じゃがのう、こやつはお主が何分も掛けて練る仙術チャクラをものの数秒で練っとるのじゃ。これはワシにも出来んかった事じゃ」

「確かにこれならギリギリ実戦でも使えるじゃろうて」

とフカサクさま。

「まぁ、裏技が無い訳じゃ無いんですが」

「ほう」

「多分ナルトには使えませんね」

「なぜじゃ」

「九尾の封印式の上から呪印を刻む事になりますから」

「…確かにそれは上手く無いのう。最悪封印が破られてしまうかもしれん」

そんな危険な事は出来ないと自来也が言う。

「他の方法を考えるしかないのう」

結局影分身のチャクラを本体に還元する方法を思いついた事でどうにか仙人モードを会得したナルトだった。

しかし、この妙木山に俺が来る意味は有ったのか。いや、有ったのだろうな。

大蝦蟇仙人から俺への予言が出たのだから。

「思うままに生きろ。それがより良い未来へと繋がる、ね」

よく分からないが思うままに生きろと言う事らしい。

俺を呼んだ人物はこの世界で俺に何をさせたいのか、その未来の先はいったいどんなだろうか。

ナルトの修行も大詰めを迎えた頃、自来也が木ノ葉に残して来た連絡蝦蟇が戻り緊急を伝えた。

「ペインがっ!」

「すぐに木ノ葉に戻るってばよっ!」

「飛雷神は…なんだ、マークが無くなっている?」

すぐに飛ぼうとして飛雷神の目印が無くなっている事に気が付いたアオ。

「今シマが近くのおる、逆口寄せをするから準備しておくのじゃ」

とフカサクが言い、逆口寄せで木ノ葉へと戻る。

「なんだ…ここ…」

「ここは何処だってばよ…なぁ、エロ仙人、アオ先生」

「よく見ろ、ここが木ノ葉の里じゃのう」

「なっ!」

目の前には何もない。

いや、正確には何かに吹き飛ばされ地面が視える程に壊された木ノ葉の里だった。

「ペインの奴の能力じゃろう」

「許せねぇ…」

「くそ、綱手はどこじゃわい」

自来也はいち早く綱手様を捜索に駆けていく。

「イズミ、ハナビ…」

仙人モードで感知する。

いない、か?

木ノ葉の里だった所の中心に人影を白眼で視る。どうやらあの暁のペインのようだ。

「こら、ナルトっ!」

駆け出すナルトはペインへと迫る。

六人居るペインの正体は自来也の推察では動く死体か何かで操り人形。本体はあの時の痩せたヤツであろうとの事。


「そんな、これは…」

「酷い…どうして…」

アオの隣に飛雷神の術で現れたのはイズミとハナビ。

竹取一族との折衝で里を出ていたのだが、嫌な予感がしてアオの所へと飛んだらしい。

「いや…いや……だめ…いやぁあああああ」

「イズミ、落ち着け」

そっとイズミを抱き留め落ち着かせる。

里の現状に九尾の襲撃がフラッシュバックしたようだ。

「は…はぁ…もう…大丈夫、よ。でも…誰がこんな事を…」

「輪廻眼…」

イズミの両目は綺麗な水色の波紋を現していた。それはウラシキの輪廻眼とは色合いが違うようだった。

「本当に、…どうして」

ハナビの決意のような声に視線を向けると額の◆模様から幾何学模様が伸びその眼が青く光り輝いていた。

「く…」

そのハナビに触発されたようにアオもハナビと同様の変化が訪れる。

「アオ、ハナビ…?」

大丈夫なのか、とイズミ。

「今はそんな事を考えている場合じゃないわ」

里の襲撃よりは重要度は下がるだろうとハナビ。

「暁のペインの本体はここには居ない様だ。が…」

「探しに行くにしてもあのペイン達をどうにかしてからね」

その言葉にはイズミもこくりと頷いた。

「そうね、わたし達にケンカを売った事を後悔させてあげなきゃね」

呪印を廻し自然エネルギーを取り込むと赤い隈取が現れる。

仙人化だ。

「おそらくあのペイン達は個々はそれほど強くない」

「ええ」「分かっているわ」

個々に切り離して戦えと言うと三人は地面を蹴った。

「くそ、復活するのかよっ!」

ナルトが何体か倒したはずのペインの復活の驚きの声を上げていた。

「あれはわたしが行くわ」

ペインを復活させたペイン六道の地獄道。その横に見える閻魔のようなチャクラ体は輪廻眼でしか視認できない。

イズミはまず回復役を潰しにかかった。

「火遁・豪火滅却」

ボウと紡ぎ出される火の玉。

餓鬼道がチャクラを吸収するには遠い位置で炸裂し粉塵を巻き上げた。

「先ずは一体」

灼遁チャクラモードのイズミは触れた物の水分を抜き取る。いくら死体とは言え生物の構造の域を出ていなかったようで、カラカラに干からびた地獄道は刺さっていた黒い棒を残して塵となって朽ち果てる。

「ハナビのねーちゃん、そいつに忍術は効かねーってばよっ!」

粉塵を目くらましに餓鬼道へと近づいたハナビを仙人モードで感知したナルトの警告。

「もともとわたしは余り忍術は使わないわよっと」

沸遁チャクラモードで一気に沸点へと持っていったチャクラを嘗手に乗せて餓鬼道を攻撃するハナビ。

チャクラを吸収して減衰させるよりも速い攻撃が餓鬼道を襲いその体を襲った衝撃に吹き飛ばされる。

餓鬼道は大量に経絡系に流し込まれた仙術チャクラが暴走しその体が石化。落下と同時に粉々に砕けた。

「こえーってばよ…ハナビのねーちゃん、イズミのねーちゃん」

「口寄せ獣が厄介だな…」

アオは畜生道を倒す事は問題なかったが、召喚者は本体であり分体である畜生道を倒しても口寄せされた獣は消えていない。

「攻撃すれば増えるとか…」

首の分裂した巨大な狼と大きなペリカンのような鳥獣。

増幅口寄せで呼ばれた狼が特に厄介だ。

「木遁・黙殺縛り」

口寄せ狼を木遁で縛り上げたアオ。

「アオにしてみれば弱気ね」

「須佐能乎か」

イズミは既に鎧を着こんだ上半身の益荒男を現していた。

右手には釣り竿のような見た目をした長い棒を持ち、左手には酒瓶のような物を持っている。

バシっと振るわれる釣り竿。

「あら?」

「だから増えるんだって」

一度その体を20ほどの狼に分裂し木遁の縛りを抜けた狼はアオ達を襲う。

「イズミ、数を増やしてどうするのよっ」

「ご、ごめんハナビ…ええい、面倒くさいわね」

「だから、増やさないでよっ!」

振るわれた釣り竿でさらに倍に増えた狼にハナビが呆れる。

「仕方ない…とっておきだけど…」

「なんだそれはっ!」

ハナビの変化にアオが声を上げた。

ハナビの背後にチャクラの肋骨が浮かび上がる。

それはだんだんと肉付き女性のような上半身を現した。

「須佐能乎?」

奇稲田姫(くしなだひめ)。アオにこれを見せるのは初めてかしら」

それは正に須佐能乎の様。

地面を踏みしめるハナビの足元から草が茂り、そして枯れていく。

それを脅威に思ったのか狼たちは一度集合し膨れ上がった。

奇稲田姫の手に持った剣が伸びると増幅口寄せで呼ばれた狼に突き刺さる。

その程度は頭を増やすだけのはずの攻撃。

だが…

「わたしの十拳剣は斬ったものを変質させる」

突き刺された狼は内側から竹が伸び、竹林へと姿を変え、成長し枯れていった。

「こ…こえー…」

とはアオの呟き。

その横で名誉挽回とイズミが釣り竿を振りペリカンに刺さった釣り針を引き抜くとチャクラを抜き取り魚籠へと封印。その巨体が倒れ込む。

修羅道と人間道はナルトの螺旋丸に倒れ残りは天道の一人。

「気を付けろ、あいつは引力と斥力を操る」

「引力とか斥力ってなんだってばよ!」

「引っ張ったり突き飛ばしたりするって事だっ」

バカのナルトの為にかみ砕いて言うアオ。

「分かりやすいってばよっ!」

そう言いながら突っ込んで行くナルト。

「戻った…」

ドンと天道を中心に抗い難い衝撃が弾ける。

「わっ!」「うわっ!」「なんて威力っ…」

弾かれて吹き飛んでいくハナビ達三人。

「なぜ吹き飛ばない」

それは猿武で斥力を全身の細胞で受け流しているからだ。

ハナビ、イズミ、いや普段の俺自身もここまでの猿武は使えないのだが、このよく分からない呪印が発動すると体が書き換えられたかのように思うままに動けるようになる。

ドン、ドン、と二回神羅天征を放つペインだが、やはりアオには効かない。

「木遁・樹縛栄葬 」

天道の足元から木が乱立し襲い掛かる。

「神羅天征っ!」

斥力で弾き飛ばしその場からジャンプ。

ペイン天道の着地と同時にアオが再び印を組んだ。

「仙法・封印術、緊箍児(きんこじ)

直系三メートルほどの金の輪がペイン天道を囲う。

「縛」

アオが手を握りしめると縮んでペイン天道を縛る。

「こんなもの…神羅天征」

だが術は発動しなかった。

「封印術だ。当然忍術は発動出来ないようになっている」

「く…このっ…」

「まぁ、そう言う訳だ。どうせ本体じゃないのだし、壊しておくか」

アオの感情のこもらないただの作業だと言うような声色に、この後ペイン天道がどうなるか悟ったペインの本体である長門の心が折れる。

「…、待ってくれ」

輪廻眼を持つ長門でも今のアオには敵わないと、それこそ輪廻眼を持っているからこそ分かってしまった。

今のアオは正真正銘化け物だ、と。

「……?」

「弥彦の体を壊さないでくれ…」

「その体にどれほどの思い入れが有るか分からないが、それは少し都合が良すぎないか?」

木ノ葉の里にこれほどの事をしておいて、とアオ。

「分かっている…だが…」

天道ごしの誰かの声が沈む。

「俺達はただ、世界に痛みを知って欲しかったんだ…痛みを知れば、戦争をやろうとは思わない。しばしの平和が訪れる…」

「…で?」

いきなりそんな事を語られても困る。

「な、なに…?」

「俺は肯定も否定もしないよ」

「ならっ!」

「君の思想を否定したくて戦う訳じゃなく、俺の生活圏を襲って来たから排除するだけ」

「そんなだから世界から戦争は無くならないと、なぜ分からない」

「いや、分かっているが。戦争は無くせない。平和なんてものは存在しない」

「だったら、一時の平和であろうとっ」

「争うのは生き物全てがする事だ。犬でも猿でも魚でさえ、な。生きると言う事はそう言う事だ」

「お前に弥彦の思想を語るだけ無駄か…」

「無駄とか無駄じゃないとかではなく、やったらやり返される。そうだろ?」

「ああ、だからそう言う世界を無くそうと」

「やられたからやり返す。やり返されたからまたやり返す。だが、お前は自分がやり返した後に相手に我慢しろと言うのだろう?」

「互いに痛みを知れば…」

「いや、俺はお前と平和についての談義をしたい訳じゃ無いのだが。どうせこの話は平行線だ。俺は君の話に理解も共感もしないのだから」

アオは知っている。

人類は互いに争うからこそ進化する種族だと言う事を。

闘争を無くした人類に訪れるのは緩やかな衰退、そして滅びだ。

なんて事をペインに語った所で分かるまい。

「だが、まぁ…本当に世界平和を願うなら、力よりも言葉で世界を変えるべきだと、お前よりも長く生きている俺は思うよ」

「そんな事が出来る世界では無い。力こそ正義だ」

「忍者とはどんな苦行も耐え忍ぶ者なんだぜ」

「安易な道を選んで何が悪い」

「易いと言うのは脆いと言うのと同義なんだ。悲しいけどね」

「………」

沈黙するペイン天道。

「俺達は間違っていたのか…?」

「そう言う事が分かるのは何十年も先、後世の歴史家が決める事だな。俺にはどうでも良い事だ」

「歴史、か…」

「さて、話は終わりか。俺はこのペインを壊してお前をとっちめに行くぞ」

「すまない…弥彦の体を傷つけないでくれ」

「だからさー…」

はぁとため息を吐く。

「建物を直す事は出来ないが、今なら死んだ者達はまだ生き返らせられる」

とペインが言う。

「お前…いくら輪廻眼とは言えそんな事をすれば」

死者の蘇生のような大禁術には相応の代償が伴う。

「俺は最後は言葉で負けたと胸を張って弥彦に会いに行く」

「ちょっ、俺が説教したみたいじゃん」

その言葉を最後にガクリと天道の体は力が抜けたように崩れ落ちた。

ピク

仙人モードの感知能力で探れば多くのチャクラが復活していた。

「やり逃げか…」

ため息を吐くアオ。

「ねえ、アオ」「終わったの?」

ハナビとイズミが駆け寄って来た。

二人はもう戦闘態勢を解いている。

「本体は?」

そうハナビが問う。

「死者の蘇生…そんな事をしたら」

とイズミ。

二人も生き返った木ノ葉の人々を感じ取っていた。

「今さら追えないな」

「なぁなぁ、ペインはどうなったんだ」

遅れて来たナルトにアオは肩を竦めるだけだ。

ハラハラとどこからともなく折り紙が天道の体に張り付き、その遺体を運んでいく。

こうして大きな被害を出したペインの襲撃はそれは呆気なく幕を引いたのだった。 
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