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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第104話 超一流の研ぎ師への道、美食連合の褒めまくり作戦!

side:小猫


 無事にメルクさんと出会うことが出来た私達はメルクの星屑を貰いヘビーホールを登っています。早く帰ってルキさんに報告しないといけません。


「なあイッセー、何で態々登って帰るんだ?フロルの風とやらでワープした方が楽じゃねえか」
「重力の変化を体に慣らす修行なのでそれやったら意味ないでしょう」
「ちぇ、俺は早く帰ってもらったメルクの星屑で人工神器を作れないか試したいのによ……」
「アンタ、自分が引率で付いてきてるって忘れてませんか?」


 アザゼル先生は早く帰りたいようで駄々をこねています、そんな先生にイッセー先輩が呆れた表情を浮かべました。


「でもまさかルキさんとメルクさんがすれ違っていたのが声が聞こえないなんて理由だったのには驚いたね」
「まったくよ、どうしたらそんな勘違いをするのかしら……って言いたいけどあの声の小ささならそうなってもおかしくないのよね……」
「まあまあリアス、そういった面も彼の魅力なのですよ」


 祐斗先輩がメルクさんとルキさんのすれ違いがまさか声が小さかったことと改めて話すとリアス部長が溜息を吐きました。すると朱乃先輩がフォローをいれます。


 確かのあの風貌で声が小さいおしゃべりというのはギャップかもしれませんが、やはりリアス部長のように溜息を吐きたくもなってしまいますね。


「でもこれでルキさんも安心して仕事が出来ますね」
「ああ、しかも彼女は二代目として認められていたそうじゃないか。良いお土産話があったし喜ぶだろう」
「うんうん!これであとは小猫ちゃんの包丁を作ってもらってメルクの星屑を調味料にすれば一件落着ね!」


 アーシアさんとゼノヴィアさん、イリナさんはルキさんが喜ぶと話していました。確かにルキさんは喜ぶと思います。


 私はルキさんの喜ぶ顔を想像しながらヘビーホールを登っていきます。そして途中で休憩をしていたのですが……


「なぁ皆、二代目の事をルキに話してもいいのかな……」


 ふとイッセー先輩がそんな事を言いました。


「イッセー、どういう事?」
「いやメルクさんが生きていたことは当然話すが二代目を託していたと今のルキに話してもいいのかなって……」
「話すべきよ。だって彼女の腕はメルクさんが認めていたんだから」
「でもルキ本人は認めていない。アイツの中では自分を半人前としか思っていないんだ」


 リアス部長は二代目の件についてルキさんに話すべきだと言いますが、イッセー先輩はルキさんは自分を半人前だと思っていると言いました。


「ルキには自信がない、あれだけの腕を持っておきながらそれに相応しい自信がアイツには無いんだ」
「確かにルキさんは自信がなさそうにみえたけど……別に問題はないんじゃないの?」
「いや問題だ。なにせ自信が無ければ良い作品が出来ない」


 イッセー先輩は自信が無ければいい作品は出来ないと言います。


「これは美食屋、料理人、職人に共通してることだと思うんだけど一流の人間ってそれに相応しい自信を持ってるものなんだ。勿論それが増長すれば傲慢にしかならないけど自信が無いってのも問題だと思う。もしリアスさんが自分に自信がある職人と全く自信が無さそうな職人に物作りを頼もうと思ったらどっちに頼みますか?」
「それは自信のある方に頼むわね……ああ、なるほど。このままだとルキさんに依頼をする人間が減ってしまうと言いたいのね」
「ええ、そうです」


 リアス部長の話に私はなるほどと思いました。確かにどんなに腕が良くても自身はなさそうな人には頼もうとは思わないですよね。


「だが彼女は6年間メルク殿の代わりに仕事をしてきたんだ。大した問題も起こしていないそうだし大丈夫なんじゃないか?」
「でもこれから先ずっと何も起こらないとは言えないだろう?」
「まあそれは確かにな……」


 ゼノヴィアさんは今まで大丈夫だっただろうと言いますが、イッセー先輩はずっと大丈夫なんて保証はないと言いました。


「それに今まではルキもメルクさんの名を守るために必死だったはずだ、その必死さが仕事のクオリティも上げていたから良い包丁が作れていたんだと俺は思うんだ。だがメルクさんが生きていたと知ればルキは当然安堵するだろう?」
「そっか、それで気が緩んで失敗しちゃう可能性もあるもんね」


 イッセー先輩はメルクさんが生きていたと知ればルキさんが安心してしまい今までのような仕事は出来なくなるかもしれないと言いました。それに対してイリナさんも失敗してしまうかもしれないと言います。


「その失敗が問題だ。ルキは今まで失敗したことが無かった、でも万が一に気が緩んで失敗でもしたら彼女は折れてしまうかもしれない」
「えっ、たった一回でかい?」
「ああ、天才というのは失敗をしたことが無いから天才なんだ、逆に言えば失敗に慣れていないって事だ。ルキは真面目な性格だからな、それを引きずって最悪職人を引退してしまうかもしれない」
「それは……」


 祐斗先輩は一回の失敗で折れてしまうのかと言いました。


 私はその光景を思い浮かべて顔を青くしてしまいました。確かにルキさんは真面目で自分を追い詰めてしまう性格だと思います、一回の失敗も許せないと思ってしまうかもしれません。


「なによりあんな凄い腕を持っておきながら上を目指そうとしないなんてもったいないじゃないか。ルキならもっと上を目指せると俺は思うんだ、それこそメルクさん以上の……だがルキがそれを望まなければこれ以上先には行けない。だから自信を付けてほしいんだ」


 イッセー先輩はそう言うと私達を真剣な表情で見てきました。


「これは唯のお節介だ、メルクさんにも頼まれたわけじゃないからな。下手をすればルキを傷つけてしまうかもしれない。皆はどう思うか聞かせてほしい」


 イッセー先輩はそう言いましたが全員黙ってしまいました。先輩の言う通りこれは唯のお節介です。ルキさんを傷つけてしまうかもしれない以上安易には良いとは言えないのでしょう。


 でもじゃあ何もしなくてもいいとも言いづらいです。今は良くてもいつかの未来でルキさんが自分を信じられずに職人を止めてしまうかもしれないし、今の状態を維持するだけの人生を送る事になるかもしれない……


(私は……)


 私は自分の考えを纏めて決心しました。


「先輩、やりましょう」
「小猫ちゃん……」


 私の言葉に全員が驚きました。まさか私がいの一番にそう言うとは思ってなかったようです。


「小猫、良いの?もしかしたらルキさんを傷つけてしまうかもしれないのよ?」
「はい、最悪上手くいっても私はルキさんに嫌われてしまうかもしれません。でもそれでも私はルキさんに自信を付けてほしいんです」


 私は折れた包丁を取り出して自分の考えを話します。


「私はルキさんに初めて会って今まで持っていたイメージと少し違うなって思っていました。それがなぜなのか漸く分かりました、ルキさんも私と同じ半人前だったからです。でも彼女の腕は私なんかより遥かに上です、だからこそルキさんにはもっと上に進んでもらいたいんです。道は違っても私と一緒に上を目指す仲間になってほしいんです!おこがましいとは思いますけど……」
「いいえ、小猫。貴方の考えは素敵だと思うわ」


 私の頭を部長が優しく撫でてくれました。


「ルキさんの腕前は素人の私でも凄いと思う、このまま埋もれさせておくにはもったいないほどにね。それに小猫の包丁を作ってもらうのなら最高の腕と自信を持った人にお願いしたいもの。皆も良いわよね?」


 部長の言葉に全員が頷きました。


「皆ありがとう、俺も彼女には親近感を感じていたんだ。力になってやりたい」
「だが実際どうするんだ?自信を付けるつったってあの様子じゃ簡単には自分を認めねぇぞ?」


 アザゼル先生は簡単にはルキさんは自信を付けないと言いました。


「ええ、ルキはああ見えて頑固そうですし簡単にはいかないでしょう。ですからまずは褒めていこうと思います」
「褒める……ですかぁ?」
「ああそうだ。そもそもルキがあそこまで自信が無かったのは褒められたことが無いからだろう、どんな凄いことを成してもそれを認めてもらえなければ意味は無いからな。まあメルクさんは褒めていたんだろうが聞こえないんじゃ意味ないからな……」


 ギャー君にそう答えるイッセー先輩は少し呆れた表情になっていました。まあ彼も悪気が無かったとはいえ原因には違いないでしょうしね……


「だからまずはルキを褒めて少しでも自分は凄いんじゃないかと思わせるんです。まずはそこからですね」
「でも何を褒めたらいいのでしょうか?」
「そりゃ勿論包丁作りさ。彼女に頼んで包丁作りを見せてもらおう、そしてそれを褒めるんだ」
「良いですね、それ!ルキさんのお仕事も見れて一石二鳥です!」


 ルキさんのお仕事が見れる、それを聞いた私はテンションを上げてしまいました。


「おいおい小猫ちゃん、目的を忘れないでくれよ?」


 イッセー先輩の言葉に全員がアハハと笑いました。恥ずかしいです……えへへ。


「よし、じゃあ美食連合のミッションとして『ルキの自信アップ!褒めまくり作戦!』の実行だ!」
『おお―――――っ!!』


 こうして私達はルキさんの自信をつける作戦を行う事になりました。



―――――――――

――――――

―――

side:ルキ


 皆が師匠を探しにヘビーホールに向かってから数日が過ぎた。あれからオレは今まで通りに包丁を研ぎながら皆の帰りを待っていた。


「皆、大丈夫かな……」


 イッセーの強さはこの目で見たがそれでもヘビーホールは危険な場所だ。もしかしたら彼らは……と不安になってしまう。


「いけない、作業に集中しないと……」


 オレは思考を切り替えて包丁を研いでいく。師匠なら絶対に包丁から目を逸らさない、やはりオレはまだまだ未熟だ。


「ルキ、帰ったぜ!」
「イッセー!皆!」


 その時だった、ヘビーホールに向かったイッセーと小猫ちゃん達が帰ってきたんだ。でもそこに師匠の姿はなかった。


「イッセー!師匠は!師匠は一緒じゃないのか!?」
「安心しろ、ルキ。メルクさんは生きていたよ」
「本当か!」


 オレは最悪の予想をしたがイッセーが師匠は生きていたと言ってくれたので心底安心した。良かった……


「何があったのかを話すよ」


 そしてオレは何が起きていたのかをイッセー達から聞いた。


「そうか、師匠は生きていたんだね。良かった……」


 オレは6年間師匠の無事を祈っていたが師匠は生きていてくれたと聞いて心から安堵した。思わず涙を流してしまったが小猫ちゃんが優しく背中をさすってくれた。


「ルキさん、大丈夫ですか?」
「ごめんね、小猫ちゃん。安心したら涙が出てしまって……」


 オレは涙をぬぐい心を落ち着かせた。


「しかし師匠はIGOの会長からの依頼を受けていたのか」
「ああ、美食神アカシアのフルコースを調理するための包丁を作っていたんだ」
「そんな凄い包丁なら師匠にしか作れないな。俺に何も言わないのも師匠らしいね」


 直に包丁作りに入ったからオレには何も言わなかったんだろうな。仕事になるとそれしか見えなくなる、師匠らしいよ。


「……」
「どうしたんだ、皆?なんだか苦い物を食べたような顔をしてるけど?」
「いや、なんでもねえよ……」
「そうか……」


 イッセー達は何か言いたそうだったがまあ大したことじゃないんだろう。オレにとって師匠が生きていたという事実の方が大事だ。


「ありがとう、イッセー。君たちのお蔭でオレも漸く安心できたよ。オレはこれからも師匠が戻ってくるまで彼の名を守り続けないとな」
「……なあルキ、メルクさんは暫く忙しそうだしいっそお前が二代目になってもいいんじゃないか?」
「イッセー、オレはそんな器じゃないよ。師匠の足元にも及ばない俺が二代目だなんて烏滸がましいにもほどがある。師匠に弟子入りしようと毎年何十人の人が来るから師匠が戻ってきたらきっと良い人材を見つけてその人が後を継ぐさ」
(お前以上の才能を持った人間なんて想像できないんだけどな……)


 オレはイッセーに二代目になればいいんじゃないかと言われたが無理だと話した。だってオレは師匠に認められていないしそもそも今やってる仕事だって師匠の許可なくやってるんだ。


 イッセーの話を聞いて師匠はもしかしたら休業するつもりだったのかもしれないと思ったよ。だからオレがやってることは唯の独りよがりかもしれない。


 師匠が何も言わないのはいつもの事だ。弟子であるオレが師匠の意図を読み取れなかったなんてオレは弟子失格だ……


(師匠はきっとそのつもりだったんだ。オレは師匠の許可もなく勝手に包丁を研いでいた、そしてそれをお客さんに売っていた……許されないことだ。最悪破門にされてもおかしくない)


 メルクだと偽り世間を騙してお金を取ってるんだ、オレは詐欺師でしかない。もし師匠が戻ってきたら俺は破門されるかもしれない。


 だが仕方ないよ、オレは偽物だから……最悪そうなったら警察に自首しよう。


「ルキ、どうしたんだ?」
「えっ?」
「いや急に黙り込んでしまったからどうしたのかなって……大丈夫か?」
「ああ、済まない。師匠が生きていたことが嬉しくてつい考えこんでしまったんだ」
「そうか、まあ大切な人が生きていたら嬉しいよな」


 イッセーや皆に心配をかけてしまったみたいだ。いけない、しっかりしないと……今はオレが出来る事をしよう。


「ルキ、メルクの星屑はゲットできたぜ」
「コレが……」


 オレはイッセーからメルクの星屑を受け取った。初めて見たソレはまるで星の輝きのような美しい石だった。


「約束通り小猫ちゃんの包丁を作らせてもらうよ」
「そのことなんだがルキ、それは一旦保留にしてもいいか?」
「えっ、どうしてだ?」
「実は小猫ちゃんがルキの仕事ぶりを見たいと言ってな、暫くここに滞在させてほしいんだ」
「それなら全然かまわないよ。いくらでも見ていってくれ」


 イッセーの頼みをオレは承諾した。仕事場には危険なものも多いがヘビーホールを制覇した彼らならまあ心配は無いだろう。それに師匠の無事を確認してきてくれた彼らにお礼がしたかったからこの程度は許可した。


「あっ、ポチコが帰ってきたみたいだ」
「ポチコ?それって前に話に出てたやつか」


 オレは何かが羽ばたく音が聞こえたので外に出る。するとヴァンパイアコングのポチコが大きな荷物を持って帰ってきていた。


「羽の生えたコウモリみたいなゴリラさんですぅ!」
「ヴァンパイアコング、捕獲レベル20の哺乳獣類、知能も高く実力もあるゴリラだ」
「この子がポチコ、師匠のペットだよ。ポチコ、お客さんだ。挨拶しな」
「プギィィィィィッ」


 オレはイッセー達にポチコを紹介する、ポチコはイッセー達に頭を下げると俺に荷物を渡して工房の近くにある巣である木に登って直立する。


「ポチコはいつもこうやって依頼された包丁を持ってきてくれるんだ。賢い子だよ」
「なるほど、こんな山奥で包丁の受け渡しをどうやってたのか疑問だったがコイツが運んでいたのか」
「そうだよ、オレと一緒に師匠を待ってる家族さ。いつも助けてくれるんだ」


 この6年間オレを支えてくれたのはポチコだ。この子がいなかったらオレは仕事を続けられなかったかもしれない。


「さあ仕事だ、今日も依頼がわんさかだよ!」


 オレはイッセーにも協力してもらい大量の包丁を仕事場に運んだ。


「わぁぁっ!凄い数の包丁ですね!」
「世界中の料理人たちが研ぎの依頼をしているからね。毎日これだけの数の包丁が来るんだ」


 小猫ちゃんは山積みになった沢山の包丁を見て目を輝かせていた。


「凄い数の包丁ね、これ何本あるのかしら……」
「大体100本くらいかな?日によってはもう少し多い時もあるよ」


 リアスさんの問いに俺は100本ほどと答える。


「これを一日に何本研ぐんですか?」
「ポチコが持ってきた包丁はその日に研いでしまうよ。じゃないと時間が足りないからね」
「えっ?じゃあルキさんは毎日最低100本の包丁を研いでいるんですか!?」
「うん、そうだよ。後は発注された包丁を作ったり材料を取りに行ったりしてるよ」
「凄いです!ルキさんはまさに職人の鏡ですね!そんな毎日、私なら途中で挫折してしまいますよ!」
「こんなの大したことないよ。師匠ならもっとスムーズにやっただろうしね」


 小猫ちゃんが凄いと言ってくれるがこの程度の事は普通の事、寧ろ師匠と比べたら遅いくらいだ。


「ただ高レベルの素材はオレじゃ捕獲できないんだ。幸い師匠が素材を溜めておいてくれたから今日まではなんとかなったけど流石にそろそろ無くなりそうなんだよね……このままだと包丁が作れなくなってしまうんだ」
「それなら俺に任せてくれよ。お前が捕獲できない猛獣を教えてくれ」
「えっ、でも……」
「いいからいいから。世話になるんだからさ」
「じゃ、じゃあお願いしようかな……」


 イッセーがオレでは捕獲できない猛獣の素材を買って来てくれると言ってくれたので俺は彼にお願いした。オレより年下なのに凄いな……


「じゃあ行こうぜ、テリー。皆はアレを頼むな」
「アン!」
「はい、了解です」


 イッセーはそう言ってテリーと一緒に外に出ていった。しかしあのテリーっていう狼の子、良い牙を持っていたな。抜け落ちたらくれないか交渉してみよう。


「所でイッセーの言っていたアレって?」
「えっと……そんなに大したことじゃないですよ」
「そう?」


 イッセーの言っていたアレが少し気になったけど今は仕事に集中しないと。


「わぁぁぁっ!!」
「ど、どうしたんだ!?」



 小猫ちゃんの悲鳴が聞こえたのでオレはそちらに振り向いた。まさか壁にかけていた刃が当たったんじゃ……!?


「この包丁、凄い輝きを放っています!間違いなく超一流の料理人が使ってる包丁ですよ!」


 違った、どうやら包丁を見て興奮してるだけのようだな。でもその気持ちは分かるよ、凄い包丁を見たらテンションが上がるよね。


「その包丁は『ガッツ』の『ルルブー』シェフが使ってる包丁だね」
「ガ……ガッツっ!?あの七ッ星の料亭『ガッツ』のオーナーシェフであるルルブーさんの包丁ですかっ!?わ、私如きが触れていいものではありませんね……はっ……はっ……!」
「ちょ、だいじょうぶ!?」


 グルメタワー最上層階312Fに店を構える料亭『ガッツ』のオーナーシェフであるルルブー氏の名前を言うと小猫ちゃんは過呼吸を起こしてしまった。


「大丈夫ですか、小猫ちゃん?」
「ありがとうございます、アーシアさん……」


 アーシアさんが何か光のような物を手から出して小猫ちゃんに当てると彼女の過呼吸が収まった。下界にはあんな力を持った人がいるんだな。


「なにやってんだよ、まったく……おっ、なんか変わった包丁があるな」
「それは『土竜』の『ゆうじ』氏の包丁だね」
「えぇっ!?あのグルメ横丁にある八ッ星のホルモン焼き『土竜』の店長である『ゆうじ』さんの包丁ですか!?アザゼル先生!何を雑に持ってるんですか!」
「いってぇ!?ケツを叩くな!」


 興奮した小猫ちゃんがアザゼルさんのお尻を叩いた。


「はぁ……はぁ……はぁ……ここは宝の山ですぅ……ちょっと調べたら直に名前が出てくるような超一流のシェフたちの包丁の山……死ぬならここで死にたい……」
「あはは、小猫ちゃんも包丁が好きそうで良かったよ」


 恍惚の表情を浮かべる小猫ちゃんにオレはちょっと引いた。


「でも僕達でも名前を知ってる有名な人達から依頼されるなんてルキさんは凄い信頼されているんだね」
「ルキさんの腕がみんなに認められている証拠ですぅ」
「誉めてくれて嬉しいけど実際は師匠の頃からのお客さんだよ。オレだと知ったら絶対に依頼なんてしないさ。凄いのは師匠だよ」


 祐斗君とギャスパー君がオレを褒めてくれるが彼らは師匠を信頼して依頼してくれているんだ。オレは彼らを騙しているだけに過ぎない。


「じゃあメルクさんはそういった有名な人達とも知り合いなの?」
「師匠は常に包丁とのみ向き合う人だったから使ってる料理人には興味はなかったと思うよ」


 ティナさんの質問にオレは師匠は包丁にしか興味が湧かないと答えた。


「でもオレは使ってる料理人に興味があるんだ、こんな凄い包丁を使う人は一体どんな料理人なんだろうって。初めて小猫ちゃんの折れた包丁を見た時もそれを使っていた君のお父さんや君自身にすごく興味が湧いたよ」
「な、なんだか照れちゃいます……」


 小猫ちゃんは恥ずかしそうに顔を赤くしていた。


「でも師匠は常に包丁のみに意識をむけていた。そんな師匠と比べたら集中できていないオレは半人前なんだろうな……」
「そんなことはないですよ、だって包丁は使う人によって癖が現れますから……人間と同じですよ」
「……」


 小猫ちゃんがそう言ってくれるがオレは全く師匠に追いつけていないと感じた。年下の女の子に気を遣わせてしまうとは情けない。


 オレは一本の包丁を手に取り観察する。


「何をしてるの?」
「欠けがないか包丁を見ているんだよ」
「欠け?見た感じ綺麗な包丁にしか見えないけど……」
「いや、欠けはあるよ」


 イリナさんは綺麗だと言うがこの包丁にはミリ単位の欠けがある。


「この包丁は名店『魚奇』の板前が使う刺身包丁だよ。デリケートな特殊調理食材を多く扱う店だ、たとえミリ単位の欠けでも調理に大きく影響する」
「俺には全く見えないな」
「オレも見えている訳じゃないよ、あくまで感覚さ。一流の板前は食材をさばく際の感触で傷があるかどうか感じるんだ」


 アザゼルさんは傷を見えないと言うがオレも実際見ている訳じゃない。


「研ぎ師もまた目ではなく音や触感で包丁を研ぐんだ……」


 オレは全神経を包丁に集中させる。そして包丁を研いだ。


「す、凄い速さだ……研いだ後に音が鳴った……!」
「……ふぅ」


 祐斗君は研いだ後に音が鳴った事に驚いていた。オレは全身から汗を拭きだしてうまく研げた事に安堵する。


「ルキさん、凄い汗ですね」
「ありがとう、アーシアさん」


 アーシアさんがハンカチで俺の顔を拭いてくれた。


「ルキさん、凄い集中力だったわね。まるで精神統一をしていたかのような……」
「私も難しい食材での調理を終えた後にあんな風に汗が一気に出てくることがありますが……ルキさんの真剣さがうかがえますね」
「まさに全身全霊……あれを一日に最低でも100回もこなすなんて……凄いですわ」


 リアスさん、小猫ちゃん、朱乃さんがオレを凄いと言ってくれるがそんなに大したことじゃないだろう。


「汗をかくのはオレが半人前の証さ。師匠なら涼しい顔で汗一つ流さないよ」
『……』


 オレがそう答えると三人は苦そうな表情をする。どうしたんだろうか?


「でもでも!やっぱり一流の研ぎ師の動きは凄かったですよ!だって私なんて何が起こったのか分からなかったんですから!」
「良かったら今度はもう少し速度を落として包丁を研ごうか?」
「いいんですか!?」
「うん、包丁によっては研ぐスピードを落とさないといけない時もあるしね。例えばこの包丁ならその条件に合ってるよ」
「是非見せてください!」
「うん、いくよ」
「ひゃ~っ!凄いすごーい!!」


 小猫ちゃんや皆はコロコロと表情を変えて驚いていた。騒がしいと気が散るんだけど不思議と悪い気はしなかった。


 それから暫くすると日が沈み始めてきた。


「あっ、いけない。そろそろ晩御飯の時間ですね」
「もうそんな時間か。なら直ぐに用意するよ」
「じゃあそれは私達に任せてください」

 
 小猫ちゃん達はそう言うと外に向かった。


「あのスカイカスが良いですね。祐斗先輩、ゼノヴィアさん、お願いできますか?」
「うん、任せてよ」
「承知した」


 祐斗君とゼノヴィアさんは剣を構えてスカイカスに向かっていった。


「獅子歌歌!」
「月牙天衝!」


 祐斗君は目にも映らない速度の居合でスカイカスの首を切り落とし、ゼノヴィアさんは巨大な斬撃でスカイカスを真っ二つにした。



「凄い、捕獲レベル39のスカイカスをああも簡単に……」
「さあ、今度は私の番ですね。ルキさん、普通の包丁をお借りしても良いですか?」
「えっ、うん。いいよ」


 小猫ちゃんはスカイカスを厨房に運ぶと手際よく調理を開始した。


 オレも料理はするけど見事な包丁さばきだ、もしかしたらオレが知らないだけで彼女も店を構えているのかもしれない。なにせあの美食屋イッセーのコンビだ、唯の少女ではないだろう。


「出来ました!スカイカスの蜂蜜をたっぷり使った照り焼きとテールスープです!」
「わぁぁ……!」


 オレは初めて見る美味しそうな料理を見て涎を飲んだ。オレも料理はするがこんなに凝った料理は出来ない。


「皆、帰ったぜ!」
「お帰りなさい、貴方♡」


 すると丁度イッセーが帰ってきて小猫ちゃんがまるで新婚夫婦のように出迎えた。


「ほらよ、捕獲レベル47の『ストライクカマキリ』の鎌だ」
「凄い、もう捕獲してきたのか?」
「ああ、結構苦戦したけど何とかなったぜ」


 オレはイッセーが持ってきた高レベルの素材を見て言葉が出なかった。オレでは絶対に捕獲できないな……


「おっ、丁度夕飯の時間だったか。もう腹ペコだぜ」
「それじゃみんな揃った事ですし温かいうちに食べちゃいましょう」


 オレ達はテーブルを囲んで箱に座って合掌する。


「この世の全ての食材に感謝を込めて頂きます!」
『頂きます!』


 オレはまずテールスープを頂いた……うん、美味しい!トロトロになるまで煮込まれたテールスープと色とりどりの野菜がスープに溶け込んで濃厚な味わいが口に広がった。


「その野菜はベジタブルスカイの野菜なんですよ」
「そうなんだ、こんな美味しい野菜は初めて食べたよ!」
「これもルフェイさんという頼もしい冷蔵庫があるからですね」
「えっへん……って冷蔵庫扱いは酷いですよ、小猫ちゃん!」
「えへへ、冗談ですよ」
「もう!もう!」


 怒ったルフェイさんがポコポコと可愛らしいパンチで小猫ちゃんを叩いていた。


「じゃあ今度は照り焼きを……うん、これも美味しい!スカイカスの肉厚な身が甘い蜂蜜で柔らかくなってる!噛めば噛むほど肉汁が溢れてきて美味しいよ!」
「小猫ちゃんの料理は最高だな!」


 オレは小猫ちゃんの料理に舌鼓を打った。イッセーも皆も美味しそうに料理を食べている。


 それしてもにこんな風に誰かと一緒に食事をしたのは6年ぶりだ。いつもは一人で食べていたけど誰かと一緒に食べるのってよりおいしく料理を食べられるんだな。


(こういうのも悪くないな……)


 オレは心の中に何か温かい物を感じつつ皆と食事を楽しむのだった。

 
 

 
後書き
 リアスよ。あれから暫くルキさんを褒めているんだけど全然効果が無いの。彼女にとってメルクさんが普通の基準になってるから自分が凄いなんて思えないのかもしれないわね。


 でもどうやら小猫が何かを思いついたらしいわ。その案を行うために彼女はある場所に向かったの。それは節乃さんのお店だったわ。


 次回第105話『小猫の修行!メルク包丁を使いこなせ!』で会いましょう。


 次回も美味しく頂きます。ふふっ♪ 
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