テレモンピュール探偵事務所
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玄関を出ると、そこには雨宮瑠璃が立っていた。
前書き
玄関を出ると、そこには雨宮瑠璃が立っていた。
すると瑠璃はいきなり土下座をした。
おそらく、あの女は雨宮のことが許せなかったのだろう。
私はあまりのショックでその場に崩れ落ちた。そんな私を彼女は抱き締めて「ごめんなさい」と何度も謝った。私だって結婚したかった。でも結婚してしまえば彼女はきっと不幸になるだろうと思っていた。だがそんなことはなかったのだ。結局、彼女の思惑通りになってしまったのである。私は彼女の顔を見ることさえできずにいた。彼女は私の顔を覗き込むようにして語りかけた。「お願い、私の赤ちゃんに会って」泣きそうな声でそう言ってきた。だが、私はその願いに応えることができなかった。なぜなら彼女の腹の中にいる子供が憎くて仕方がなかったからだ。今すぐに殺してやりたい衝動に駆られたがなんとか堪えた。そんなことをしても何もならないと自分に言い聞かせて気持ちを抑えつけた。そんな私の様子に彼女はショックを受けたようだ。やがて諦めたのか、彼女はその場を離れていった。
私はしばらく放心状態に陥っていたがこのままではいけないと思って立ち上がった。とにかく外に出なければ、このままでは大変なことになる。私は彼女の制止を振り切って部屋を出た。玄関を出ると、そこには雨宮瑠璃が立っていた。私は彼女の姿を見ると逃げ出したくなったが、必死に踏みとどまった。彼女に会うためにここまで来たのではないか。逃げるわけにはいかない!そう決心して彼女の前に立った。すると瑠璃はいきなり土下座をした。これには驚かされた。
「すみませんでした!まさか先輩の旦那さんだったなんて……」
その言葉を聞いて私は悟った。そうか、そういうことだったのか……。おそらく、あの女は雨宮のことが許せなかったのだろう。だからあんな行動を取ったのだ。そして彼女はそれを実行した。その結果がこれだったのだ。
私は瑠璃の肩を掴むと立ち上がらせた。「いいんだ、君のせいじゃない」そう言うと彼女にキスをした。瑠璃は驚いていたが受け入れてくれたようで嬉しかった。唇を離すとお互いに見つめ合った。「愛してる」そう言って抱きしめると瑠璃は涙を流し始めた。どうやら嬉し涙のようだ。「……私もです」そう言って私の背中に手を伸ばすとぎゅっと抱きしめてきた。こうして私たちは夫婦になったのだ。
それからは幸せの日々が続いた。彼女は私のために働いてくれている。その分、私は彼女を労う必要があるだろう。それが妻として当然のことだと思う。だから私は彼女に精一杯の愛情を示した。
ある休日、二人で買い物に出かけた。彼女は妊娠しているため、無理はできない。私が代わりに買い物をすると言ったのだが、彼女は首を横に振って「一緒に行く」と言い張った。仕方なく二人で出かけることになったのだ。私は荷物を持ち、彼女の手を引いて歩いていた。途中で疲れた様子を見せると彼女は心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫?」「大丈夫だよ」
全然大丈夫じゃない。うつむき加減に歩くその足元に血が転々としている。
「大丈夫」
彼女は口元をぬぐうが明らかに喀血している。彼女は出産間近だ。無理をしているのがよくわかる。「もう少し休もうか?」「ううん、早く帰ってあげたいから」そう答えるが明らかに体調が悪いように見える。
家に着いてすぐ彼女はベッドに入った。
「今日は安静にしてて」私がそう言うと、スヤスヤという寝息が聞こえてきた。私は扉をそっと閉じた。
それが今生の別れになった。夜半に大鼾で起こされた。いくらなんでも音がデカすぎる。揺さぶって起こそうとしても騒々しいばかりでちっとも目覚めない。慌てて救急車を呼んだが到着した時には脳梗塞による死亡宣告がなされる状態だった。
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