テレモンピュール探偵事務所
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「なるほど、そういうことでしたか」私は平静を装って返事をした。
前書き
「なるほど、そういうことでしたか」私は平静を装って返事をした。
女が続けて発した言葉は私を戦慄させるのに十分な威力を秘めていたからである。
その日の夜遅く──正確には朝方だったが──家に帰るとそのままベッドに倒れこんだ。
雨宮美紗子だ!やはりあの女の仕業か!
「雨宮さんがどうかしたのですか?」
私は冷静さを装って言った。本当は今すぐにでも叫び出したい気分であった。だが、そんなことをすれば相手に怪しまれてしまうだろう。それだけは絶対に避けなくてはならない。もし、あの女に何か感づかれたら私の人生は終わりだと言っても過言ではないからだ。だから私は何としても冷静になろうと努力した。それが無駄なことだと知りつつも……。
しばらくして相手の返事が聞こえた。『あのですね、昨日こちらに来た時にこちらの電話番号を教えられましたので連絡しました』
「なるほど、そういうことでしたか」私は平静を装って返事をした。自分でもわかるくらい不自然だと思ったが仕方ないだろう。まさか彼女がここまで大胆な行動に出るとは予想していなかったのだ。完全に油断していたようだ。
『今どこにいるのでしょうか?』女は言った。『会社にはいないみたいですけど……』
私は唾を飲み込んだ。額から汗が流れるのがわかった。
なぜこの女はそんなことまで知っているのだろう?どこから情報を得ているのかはわからないが、とにかくまずい状況であることは確かだ。もしかしたら探偵事務所にまで尾行されているのかもしれない。だとしたら非常に危険な状態であるといえる。もしそうだとすれば一刻も早く手を打たなければ大変なことになるかもしれない。
「ええ、今日は有給休暇を取っておりまして」私はできるだけ自然に聞こえるように心がけながら言った。
女は沈黙したままだった。どうやら納得してくれたようだ。
「あの……」
しばらくすると再び女の声が聞こえてきた。まだ何かあるのだろうか?これ以上何も聞かれたくはなかった。しかし、そういうわけにもいかなかったようだ。女が続けて発した言葉は私を戦慄させるのに十分な威力を秘めていたからである。
『瑠璃さんの事件について詳しく聞かせていただけませんか?』女は言った。
その日の夜遅く──正確には朝方だったが──家に帰るとそのままベッドに倒れこんだ。着替えることもせずに横になったまま天井を眺めていた。何も考える気になれない。ただただぼんやりとしているだけだ。あれからどうやって家まで帰ってきたのかも覚えていない。それほどまでに精神的に追い詰められていたのだと思う。無理もないだろう。あんなことがあったのだから……。いや、それよりも気になることがあったのだ。それは雨宮美沙子が口にした言葉についてである。
彼女は確かにこう言ったはずだ。〝あなたの妹さんは何者かによって殺害されたのですよ〟と……。
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